友情 緋色
初めまして、月詠柊羽です。
今回初めて投稿させて頂きました。
ホラーと言っても人間の心理についての怖さを書かせていただきました。
友情 序幕
人と人の仲が良くなれば友達。
友達になれば信頼が高まり友情が生まれる。
友情が深まれば親友になる。
老若男女お構いなく、『友達とはなんだと思いますか』と質問をしたら大半の人は言う。
『かけがえのないもの』
『大切なもの』
友達はかけがえのないもので、大切なもので、いつも支えあい助け合うもの。
本来はそうなのだろう。
本当の友達はそうなのだろう。
しかし、今自分が友達だと思っている友達は、本当の友達だろうか。
偽りの友達ではないだろうか。
『ずっと友達』
『大好き』
『親友だもんね!』
友達が発したそれは偽りのない言葉だろうか。
では語るとしよう。
友達の大切さを。
嘘ばかりの言葉を。
裏切りの絶望を。
偽りの友情が緋色に染まる物語を。
友情 夕陽
茜色に染まる教室。ほのかに暖かい。
話は変わるけれど秋の夕陽は特別に思う。
肌寒くなる秋という季節に私は真っ先に夕陽を思い浮かべるのだ。
いや、赤く実る柿だと思う人も。アクリル絵の具で塗ったような真っ赤な紅葉だと思う人も、勿論いるだろう。
それらを合わせても、私は夕陽を思う。
理由としては柿の橙色も、紅葉の赤色も夕陽が染めたように思ったからだ。
空が茜に染まり、夕陽が眩しく照らすため赤くなったのではと考えたことがあったからだ。
そんな訳ないけどね。
人が日焼けするのと同じことなんじゃないかと思っちゃったのだ。
そんなわけで秋と言えば夕陽になったわけだ。個人的には夕陽じゃなくて夕火な気分。
頬杖をつきながら茜空を眺めた。
空が燃えているようだと素直に思う。
このまま世界が燃えてしまうようなSFチックな物語が始まりそうな。
「はあ。遅いなあ……」
誰もいない教室で夕陽を浴びつつ、虚しく頬杖をつく私がいるのは、友達を待っているからだ。
委員会があるとかで待っていてと言われて待っている。
委員会が始まる時間は16時。終わる時間は未定。そして現在は16時30分。
30分間ぼーっと過ごしていたことになる。そう考えると30分間何か出来たのではないかと思うが、いざ考えると特に何もない。
時間を無駄にした気分だ。
数学の課題は授業中に提出したし、国語のワークも昼休みに終わらせた。理科のプリントもノート貼ったし、先生に職員室に運んでおいてと言われたクラス全員分の英語のノートも運んだ。
やることがない。
何かないかと、教室をグルーと見渡す。
あ!
ふと目についたのは本棚。
そうだ。本を読めばいいではないか。
席を立ち、教室の一番奥へ足を運ぶ。
なぜ気づかなかったのだろうか。普段、家で読んでいるのに。
私の身長は150cm。中学2年生にしては低いけれど、その内伸びる。と信じたい。
対して本棚は165cm。15cm差で負けた。15cmものさしを私の頭に付ければ同じ高さだ。
わかってるよ!
ものさしを頭につけてどうすんだってことくらいわかってるよ!
目先は変わらないし!
本棚相手に自分の呟いた発言に頭を抱える私は一言で「虚しい」とだけで片づけられる人になっていた。
いやいやいやいや。
私は本を読もうとしていたのだった。
本棚が私より高いから殺意が沸いて忘れていた。
思えば16時40分。
10分も私は本棚とにらめっこしていたらしい。(一方的に)
うーん。純文学しかないのね。
私が読む本って、漫画、ライトノベル、ノベライズだからなあ。
学校はその手の本を置いてはくれない。
置いている学校もあるらしいけれど、私の通う公立桜山中学校では置いていない。
前に漫画をこっそり持ってきていた男の子がいたけれど、結局バレて怒られていたっけ。
その時の先生の説教を聞いていたのだけど、嫌な言い方だった。
確かこんなこと言っていたっけ。
「漫画なんて持ってきてどうする。漫画を読むと馬鹿になる。得るものなどない。活字の本を読むからこそ、想像力が働いてよいのだ」
校則で持ってきてはいけないものを持ってきたことはいけないことだ。だが、漫画を読んで得るものなどないなんて……腹が立った。
私の勝手な意見であるが、漫画を読むというのはセリフを読むというのと絵を読みとるという意味だと思う。
キャラクターの表情から気持ちを読む。
場所を具体的に表してくれているから、今こういうことをしているんだ。
そうやって理解出来る。
漫画だって立派な本だ。私はそう思っている。
漫画……置いてくれないかなぁ…。
「ん……?」
なんだこれ。
ついさっきまで漫画について語っていた私にある一つの本が目に留まる。
2cmほどの厚さの15cmほどの高さの本。
「嫌いな友達と縁を切る方法……、な、南雲莉央……」
…………。
なんて本を置いてるの……!!
誰だよ、こんなの置いた人は!
縁切りの神社にでも行って来いよ!
ああ……なんか嫌な本見つけちゃったなあ。
縁起悪いよ。
あ、縁切りだから縁も何もないのか。
じゃなくて!
多分、生徒が勝手に置いた本なんだろう。
というか、教師が置いたとなればもっと問題だよ……。
学級文庫の管理は図書委員の役割のため、担任は確認しない。
私のクラスの図書委員は優等生だし、こんな本があれば真っ先に撤去する筈だ。
あまり見ない本に興味が沸いてしまって、好奇心がそそられて。
取りあえず、1ページ捲ってみる。
ぺらり。
軽い音と共に私は沈黙する。
……。
書いてあった内容は口にはしなかった。
ただ目を通しただけだ。
読みあげてしまったらいけない気がして。何かが終ってしまう気がして。
書いてあった内容はこうだ。
『あなたの友達のどんなところが嫌いですか?
容姿、性格、癖、色々あるでしょう。
そんな友達とのストレスを、縁を切ることで解消しましょう。
合わない人といたって、時間のムダです。あなたの長所を活かせない。
次のページから縁切りの方法が書かれています。
準備はいいですか?
さあ、友達を呪い、縁を切りましょう』
準備出来ておりません!
パタン。
ギュッと目を閉じて勢いよく本を閉じた。
私は恐ろしい本を見つけてしまったようだ。
縁切るのに呪うんですか。呪うことで切り離すってことなの?
こわいっ!
もういいよ……本を読むのは諦めたよ。
その恐ろしい本をもとあったところではなく、本棚の後ろに隠しておいた。
作者の南雲莉央さんには申し訳ないという罪悪感が込み上げたが、このまま学級文庫として教室にあれば、学級崩壊が起きるのも時間の問題であろうと思ったからだ。
しかし、本当にクラスを思うなら筆箱に入っているハサミで本を切って捨てるべきだったろう。
それが出来なかったのはきっと呪われるかも知れないという勝手な恐怖心。
ただの——偽善にすぎない。
そんなことを心のどこかでは分かっていたけれど……、紛らわすためかな。再び自分の席へと戻る。
それにしても、恐ろしい本だった。あれを持ってきた人はとんでもない人だろう。
学級文庫にあったということは同じクラスの人が持ってきた可能性が高い。
あれはなかったことにしよう。
そう決めたものの、そう簡単に忘れることは出来る筈もなく、現実逃避に失敗した。
あんな印象強いもの早々忘れられるものではない……。
なんとなく周りを見渡してみると、黒板が目に入った。これだけの大きさをしていたら嫌でも目に入るけれど。
黒板の上に飾ってある時計を見ると16時50分。
遅いなあ。
委員会、引いてるのかな……。
私は委員会に入っていないので何の話をするのか全く知らない。
確か今日は、図書委員と体育委員と美化委員が委員会があった筈だ。
図書委員は本の整理とか?
どこクラスが一番多く本を借りているの集計しているとか?
体育委員は石拾いをやっていることは知っている。
教室の窓からグラウンドが見えるため、屈みながら石を拾っている人を見つけたのだ。
燃え上がるような夕日の下で石を拾うというのは大変だろうな。
今日は教室で待たなきゃいけないし……今度手伝いにいこうかな。
友達の菜々花もいるし手伝いやすそう。
そんなことをほのかに思いつつ、一つの委員会に疑問を抱いた。
あれ……。
美化委員は何するの?
私、美化委員の活動内容全く知らないや……。
まず、美化委員が活動しているところを見たことがないのである。
図書委員は休み時間に本の貸し出しをしているし、体育委員は体育祭や球技大会をまとめてくれている。が、美化委員は一体何をしているのだろうか。
ゴミ捨ては日直がやっているし、掃除は当番制だから委員会は関係ない。
誰に聞こう。それが早そうだ。
「まぶしっ…」
忘れかけていた夕陽がチカッと目に入る。
気味が悪いくらい美しい夕陽も気になるけれど。
美化委員の仕事も気になるけれど。
やはり、1番気になるのはあの本だ。
嫌いな友達と縁を切る方法……ね。
別のことを無理矢理考えてもやっぱり頭を横切るのはあの本……。
ガラガラドッカーッン!
!?
激しい物音に身を震わせ、音のした方へバッと顔を向ける。
勢い良くドアが開いた音のようだ。
ドアが跳ね返っている。
そこに立っているのは待っていた友達。
「ごめん!待たせてっ!」
水崎美紀だ。
友情 濫觴
「ごめんねー、待たせちゃって。委員会長引いちゃってさ」
「ううん。お疲れさま」
美紀は私の座っている席の後ろの席に座る。机から教科書を出して鞄に入れてるところから、委員会の前に用意を済ませてはいなかったらしい。
あ、そうだ。美紀に聞きたいことがあったんだった。
「ねえ、美紀」
「んー?」
教科書を詰めつつ返事をする美紀に尋ねた。
「美化委員って何する委員会なの?」
すると美紀の手が止まった。
こちらを見て目を丸くしている。
「知らないの?」
「うん」
「ホントに?」
「うん」
そんな確認するほど変な質問だっただろうか。
美紀は未だに目を丸くしている。
「ぷっ。ハハッ。そんな質問されると思わなかったよ、ふふ」
ツボに入ったのかすごい笑ってる……。
美化委員の仕事知らなかったのが笑うほど変なの!?
知らない人だって少なくはないと思うよ!?
謝れ!知らない人に謝れ!
「ごめん、ごめん。まさか美化委員の仕事知らないなんて思ってなくて」
必然的に謝ってくれた……。
美化委員の仕事を知らなかったのが、笑うほど変だったらしい。
うん、そんなに笑うことないんじゃないかな。
美紀は鞄から黄色のファイルを取り出して、それを眺めながらいった。
黄色のファイルの中にはわら半紙が挟まれており、美化委員で配られたプリントであろう。
「掃除ロッカーのほうきや雑巾の補充。ワックスかけの手伝いとかかな。すごく面倒くさい」
うん、面倒くさそう。
今まで美化委員はそんなことをしていたのね。
「今日は何してたの?」
「えーっと」
美紀は再び教科書を鞄につめ始めた。
「自分のクラスは真面目に掃除に取り組んでいますかーとか。そんなのを報告するみたいな」
「うわぁ…もしかして、山口君のこと報告した?」
「もちろんするよー」
山口誠。
私のクラスのサボリ魔。掃除は勿論のこと(もちろんじゃだめなんだけどね)授業にも殆ど出席しない。が、人当たりのいい男子だ。
女子が重たい荷物を持っていたら、何も言わずにサラッと持って行ってしまうイケメンぶりが有名である。
その為、先生方もいい子なのにサボリ魔ということで職員会議沙汰になったことがある。
ちなみに、美紀はそんな山口君に思いを寄せている。
「委員会の途中で誠君が廊下を通りかかってね、先生に捕まって職員室に連れていかれてたよ」
そう話す美紀の顔は夕陽の赤ではなく、紛れもなく嬉しさから赤く頬そめていた。
「よかったね!山口君に会えて」
笑って言うと、美紀は恥ずかしそうに笑って「うん」と頷いた。
これが恋する乙女なんだねー、と心で関心した。
取りあえず、美化委員を薄らと分かった私は0.01ミリほどは成長した……のかな。
結局オチが見えないまま、美紀は支度を終えて話題を振ってきた。
「ナンバー0141って知ってる??」
■■■
ナンバー0141。
電話番号だ。
子機電話でも、ガラケーでもスマートフォンでもアイフォンでも、公衆電話でも構わない。電話を掛けると真っ暗な部屋へ飛ばされて、そこにいる人からの質問や問題に答えていく、というものだった。質問や問題は全てで20問。全て正解すると何でも1つ願いを叶えてくれる。ただし、間違えたり、嘘をついたりすると体の一部を持っていかれるという。
これは3組と5組では流行っている、一種の遊びらしい。
美紀の友達で5組の子がいるらしく教えてもらったらしい。
そんな恐ろしい類のものが遊びというのは、少し障る。
「やってみない!?」
えっ?
今、なんて?
「私と香菜なら全部正解できると思うの!!漢字とか数学だとかの問題は私が答えるから!!雑学答えてくれればいいから!そういうの得意でしょ?」
そのような遊びを美紀が進んでやろうと言い出したことは理解した。
正解すればなんでも1つ願いを叶えてくれるという胡散臭い話を信じているの……?
「み、美紀。分かってる?」
「何が?」
言ってキョトンとして、首を傾げる。
「願いを叶えてくれるという胡散臭い話を本気で信じてるの?間違えたら体の一部を持っていかれる、この意味分かる?向こうの世界に飛ばされて戻ってこれ――」
「もう!!!」
バンッ。
話の途中で美紀は机を思いっきり叩いた。
「ご、ごめんね。質問しすぎた……」
疑心暗鬼。
私の短所。
美紀は、イライラした様子で私に話かける。
「ねえ。いいじゃん。やってみる価値はあるでしょ?」
「……美紀。帰ってこれなかったらどうするつもりなの……?」
「大丈夫だってっ!!私を信じてくれないの!?」
……ッ!
「私たち友達でしょ!?親友でしょ!?友達の頼みを聴いてくれないんだ!?」
美紀のことは好きだ。
大切な友達だ。
信頼している親友だ。
だからこそ、こんな曖昧な情報しかない胡散臭い遊びに美紀を巻き込むわけにはいかない。
『私を信じてくれないの!?』
「美紀……。やろう」
微笑んだ。
私はちゃんと笑えていただろうか。
不安のあまり、泣いていないだろうか。
悲しさのあまり、泣いていないだろうか。
自分の弱さに、泣いていないだろうか。
「ホント!?よかったっ!!」
美紀の喜び具合から、ちゃんと笑えているようだ。
「あ、あのね!その代わり……明日にしよう?」
断れるだろうか。
また、怒らせてしまっただろうか。
「うん!わかった!明日ね!明日の放課後絶対ね!」
「……うん」
その時の美紀の笑顔は今日一番だった。
友情 瓦解
美紀ととんでもない約束をしてしまった。
断るべきだったんだろう。
例え美紀に嫌われても。
例え美紀に絶交すると言われても。
例え——例え——。
——友達という関係が終わっても。
私は断るべきだった。止めるべきだった。
本当の友達なら、友達が間違った方向へ曲がらないようにするべきだったんだ。
曖昧で願い事が叶うなんていう胡散臭い話を、回答を間違えると体の一部を持っていかれるという恐ろしい話を遊びでやろうとしている生徒が沢山いる。その中の一人に美紀が入ってしまうじゃないか。
ベッドにうつ伏せになって頭を抱えながら、親友の美紀のことを考えていた。
私はなんて最低なんだろう。
結局、自分が嫌われたくないからって断れなかった。
それで親友だなんておこがましい。
自分の弱さを、自分の過ちを右の拳に乗せて思いっきり自分の頭を殴った。
じんじんと頭が痛む。
ギスギスと心が痛む。
「私は……最低だ……」
寝返りをうって仰向けになる。
部屋の電気が眩しくて今しがた頭を殴った手で目を隠した。
明日ちゃんと断ろう。
真っ暗な視界の中で真っ暗な今の現状を、白く光るものに変えるために。
そんな暗い希望を掲げた私に、軽い声がかかる。
「香菜ー!ごはんよー!」
軽く明るい、微笑みながら言っているのがわかる声。色で表すならオレンジ。
「はーい」
返事して、階段を駆け下りた。
誰かに会えば、少しは切り替わる気がして。
■■■
「「いただきます」」
今日の晩御飯は、ボロネーゼのパスタ。
お母さん特製のソースは、ひき肉がゴロゴロと入っていてトマトが甘くておいしい。
おふくろの味と言えば、このボロネーゼのパスタだと真っ先に答えるだろう。
ソースの甘さに、お母さんのおいしそうに食べる笑顔に安らぐ。癒される。
美紀にちゃんと言えると――思うんだ。
『ニュースです。東京都、新宿にある中学校の女子生徒3名が、おとといから行方不明になっています』
「あら怖い……」
テレビから聞こえる良くないニュース。
お母さんは少し眉間にしわを寄せながら、テレビを見ている。
行方不明……か……。
胸が騒めく。もしかしたら——もしかしたら——。
嫌な予感がする——。
冷や汗が出始めた時、耳から入ってきたのは今、一番聞きたくない言葉だった。
『中学生の間で【ナンバー0141】が流行っているそうです』
頭に巡るのは美紀の笑顔。
ねえ――美紀――。
これはやってはいけないよ。
だって……だって……。
顔面蒼白。絶望の色を濃厚にさせた。
『それに参加した3名の女子生徒が今日、18時頃【遺体】で見つかりました』
■■■
「おっはよう!香菜っ!」
「おはよう、美紀」
いつもより上機嫌の美紀は、鼻歌交じりに私の横を歩く。
理由は分かっている。
ナンバー0141を今日の放課後にやるからだ。
「美紀……あのっ……さ……」
「ん?」
不安交じりに緊張交じりに……恐怖を覚えながらも言葉を紡ぐ。
「昨日のニュース、観た……?」
ナンバー0141に参加した人が死んだという……事件。
「うん。……死んじゃったんでしょ。ナンバー0141で“遊んで”」
遊ぶ……?
もうここから、美紀とナンバー0141の認識が違うんだ。
彼女は‟遊び”と。
そう、思っている。
どうしたら美紀にナンバー0141は遊びではないことを。死ぬかもしれないということ伝えられるか。
真剣に深刻に考えていると美紀は言った。
「大丈夫だよっ!」
明るい声。
何度もその声に励まされてきた。
けれど今は違う。
「あの人たちはゲームに負けたんだよ。勝てばいいだけの話でしょ。私、今日のために沢山勉強したんだから、大丈夫」
その声は私にとって毒だ。
それでも美紀は続ける。
口から出る声に毒を乗せながら。
「雑学は香菜。勉学は私。そうやって、クイズ全国大会で3位っていう成績を残したでしょ?私たちなら大丈夫だよっ!」
3位を取って大喜びした。
それぞれ好きな色のリボンをトロフィーにくくって、【友情の証】だと笑った。
幸せ。
その言葉がぴったりと重なる。
けれど、その美しくも微笑ましい思い出と今回は違う。
あのクイズ大会は命を奪われることなんてない。間違えればリタイア。確かにその点では、回答者としての生命を失うかもしれない。
このナンバー0141は本当に失われるんだ。
左胸で一定のリズムを奏でる、誰の胸にも一つ存在するそれが……消える。
「親友の私たちならできる。努力は必ず報われるッ!」
親友……。
美紀に親友だと信頼されてるんだ。
頼られているんだ。
……親友として私が美紀を守ればいいんだ。
お互いに助け合い支えあうのが友達なら、お互いを信頼し守りあうのが親友なのではないのだろうか。
その時、不安や恐怖、マイナスになるような感情がなくなった。
鎖から解放されたようにスーーっと楽になったんだ。
同時に、前向きな気持ちも生まれた。
私たちなら出来るという——なんの根拠もない気持ちが。
友情 遊戯
放課後。
今日の夕陽は一段と美しかった。
昨日の夕陽も綺麗だと見とれてはいたけれど、今日の夕陽は別格だ。
私は恍惚の眼差しで夕陽を眩しく輝く夕陽を見ながら思った。
この夕陽——まるで私たちのナンバー0141を迎えているかのようだと。
普段の私ならこんなこと考えないんだろうなー。
今の私は何か違う。不安も恐怖も何もなくなった。
教室には2人だけ。
私と美紀の2人だけ。
2人は寄り添って、お揃いのストラップがついた携帯電話を片手に持って。
「そろそろやろっか、香菜」
「そうだね。やろう、美紀」
番号を打つ。
01……え?
どうして……?
どうして……?
どうして……、私の手はこんなにも震えているの?
カタカタと震える指は私の意志と反している。
指が動かない……、なんで……?
この期に及んで、まさか私は怖がっているの……?
何もかも吹っ切れた筈でしょ……?
不安も恐怖もない、あるのは美紀と一緒なら大丈夫だって言う気持ちだけでしょ……?
なのになのに……どうして私の手は、指は動かないの……?
「……どうしたの?香菜。早く打ちなよ。たった4文字だけだじゃん」
「ぁ……ご、ごめん。すぐに打つね、まだ携帯慣れなくて……」
「香菜はパソコン以外の機械、ろくに使えないもんね」。
携帯が慣れないという嘘をついて……心の整理をする。
なんで私は震えている……?
怖いから?不安だから?
違う。ちがっ——……!。
——『それに参加した3名の女子生徒が今日、18時頃【遺体】で見つかりました』
そうだ……これを、ナンバー0141をやった人が死んだんだ……。
でも、美紀が私を、私が美紀を守るって約束したじゃない。
死ぬことなんてない……。
あぁ……そうか私は……——1人になるのが怖くて。
美紀がいないのが怖いんだ……。
「美紀……、がんばって帰ってこようね……!」
絞り出した声。
美紀に届いているだろうか。
「もっちろんっ!」
元気よく微笑むその笑顔に、震えはまだ止まっていないけれど残りの4、1を打ち終えた。
「よしっ、せーので押すからね」
緊張が走る教室。
あたりは静寂に包まれている。
「せーのっ!」
pi
後戻りのできないボタンをついに押してしまった。
purrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrr
purrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrr
purrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrr
なり続ける発信音に不安が込み上げてくる。
美紀は口を緩めながら携帯を耳に当てている。
どうして笑えるのか。どうして嬉しそうなのか。
疑問を唱えるように発信音は響き続ける。
あれ……?
段々視界がぼやけてきた。
瞼が重たい……。
耳が遠くなって発信音が薄く聞こえる。
purrrrrrrrrrrrrrrrrrrrr
purrrrrrrrrrrrrrrrrrrrr
美紀は大丈夫……?
そう聞こうとしたけれど声が出ない。
限界がきたのか、何も聞こえなくなって……。
グラリと揺れる視界の中……意識を手放した。
まるで発信音が子守歌のように……。
■■■
真っ暗。
目を覚ますとそこは何も見えないくらいに真っ暗だった。
場所……というにも無限に広がっているのかと思わせるくらいに暗い。
今、私は仰向けに寝ているみたいだ。
地面は冷たく硬い。
起き上がって、三角に座る。
何も見えない。
ここはどこなの…?
美紀は……?
「み、美紀ーー!!」
立ち上がって探すのもいいけれど、結局見えないんじゃ探せない。
暗い中歩くことも危ない。
そのため、美紀を呼んでみることにした。
「美紀ーーー!!居るなら返事してーー!」
同じセリフを何回も何回も何回も叫んだ。
それでも美紀の返事はない。
もしかして別々の場所に飛ばされた……?
そんな不安がよぎる。
「香菜ーー!!」
!!
「美紀ー!?美紀なの!?」
遠くから響く声に乗せられた私の名前。
美紀だ。
この声は美紀だ。
「香菜!今どこにいるの!?暗くて見えないんだけど……!」
突然のことで冷静さを失っている……。
「私も暗くて見えないのー!落ち着いて!今、近くにはいないけど、ここにちゃんといるから!」
精一杯に。
一生懸命に。
少しでも安心させたくて。
普段出さないような大声を出した。
「わ!わかったっ!!」
いつもの明るい声……とは言えないけれど、先ほどの焦りはなくなっている。
ほっとして、胸を撫で下ろす。
「ようこそっ!」
!?
バッと明るくなる視界。
目の前には女の人が立っていた。
「最近は多いね。ふふ」
頬を緩める、黒のセーラー服を纏った、恐らく女子高校生。
「香菜ッ!」
目の前の女の人に気を取られていると、遠くから親友の声が聞こえてきた。
「美紀ッ!」
「あ、2人なんだね」
女の人は美紀を人差し指でさし、スライドさせるように私を指した。
すると、急に美紀の体が浮いて、人差し指で引かれた線の上を美紀が通っている。
「えっ!?ちょっ!?なに!?」
突然体が浮いたら誰だって驚くだろう。
驚いて声が出ない私とは反対に流暢に話す女の人。
「驚く必要ないよー?あ、SF世界に迷い込んだとでも思って」
そのまま美紀の体は私の隣にそっと降ろされた。
「香菜!?大丈夫!?」
「うん、大丈夫。ありがと!美紀は大丈夫?」
「大丈夫!というか、あの……」
美紀は私から視線を外して、3mくらい先にいるセーラー服の女の人に目を向けた。
「えっと……どちらさま、ですか……?」
その質問に若干微笑んだように、彼女は口を開いた。
「私はリオ。君たちの問題出題者だよ」
この人が……?
「私は、春川——」
「香菜ちゃんだね」
!?
私の名前……。
リオと言う名に心あたりはない。
この人とは初対面のはずだ。
「んで、君は水崎美紀ちゃん。2人の名はよ~く知ってるよ」
わざとらしく演説風味に話し出すリオさん。
「君たちの知っているナンバー0141の開催場所は真っ暗な部屋らしいね。けれど大ハズレ。ちゃんと明かりをつけて行うからねー。最初に暗くしてたのは私が眠かったから寝てただけね?」
フレンドリーに私たちの言葉なんて聞かず話す。
いや、私たちが言葉を入れる隙間なんて与えない。
「まさか夕陽が出てる時にやられるとは思わなかったよー。みんな月が夜道を照らす時刻にやるのにさ」
リオさんは大げさに首を振ってやれやれと言っているようだ。
「まあ昼にやられるよりマシだよ。少し愚痴をこぼしてしまったね、ごめんごめん。」
なんて顔の前で両手をあわせる。
「いいから!」
!!
リオさんが手をあわせて間ができたその隙間に、美紀は怒鳴った。
怒鳴ったというよりは恐怖を掻き消すために大声をあげたという印象をうける。
「ゲームをはじめなさいよ……!」
怒りを震える声に乗せて睨みつける美紀を見て、リオさんはニコリと笑った。
どうして……笑うの。
この人は不思議な人だ。
直感で根拠など全くないけれど、私は思った。
この人は、リオは——狂っていると。
友情 緋色
ナンバー0141。
ゲームマスターであるリオが出題する問題、及び質問に私たちは答えていくゲーム。
ここまでの話だとクイズ番組となんら変わりない。
けれどここからが普通と違う。
「このゲームはね、問題が出るから勿論のこと知識が必要だけれど精神力だって必要なんだよ~」
この人はへらへらとしていて何を考えているのかわからない。
警戒しないと……。
美紀を守るために。
こう考えている間もリオの口は止まらない。
「全部で20問。問題に間違えたり、質問に対して嘘をついたりしたら……」
口元緩めて。
悪戯をする子供のように。
「体の一部をいただくねぇ」
笑っていった。
「さぁて第1問!この漢字の部首は?」
私たちの目の前、空中に猫という漢字が浮かびあがった。
不思議なこの場所に驚かされてばかりだ。
でも今は驚いている場合じゃない、美紀を守らなきゃいけない。
「け、獣編」
震えた不安そうな声で回答する美紀の手を握った。
「あ…香菜……」
「大丈夫、美紀ならどんな問題も解けるよ」
根拠はない。
けれど賢い美紀なら。いつも私を支えてくれた美紀なら大丈夫だって思う。
「はぁいせーかい!じゃぁどんどんいっくよ~?」
私に出来るのは勉強以外の普段使わない知識。
ネットで好きで調べていた。
知らないことを知るのがただ好きで。
「第2問~。日本人の胃で消化できない食べ物は?」
そんなこと知ってなくとも問題ない。
でもそんなことを頭の片隅に。
「トウモロコシ」
役にたつときがくる。
「正解!よくしってんね。まだ中学生だろぉに」
「年齢は関係ありませんから」
一言そえるとリオはニヤリと笑った。
「やっぱり君は面白い。第3問!7×8は?」
そんなそんな簡単な問題がずっと続いた。
これは20問なんて楽々だって思えるような小学生の問題ばかりだった。
美紀にも活気が戻ってきてたまに笑顔見せるようになっていた。
不安も恐怖もとれてきて。
いける。
私たちなら。
例えどんな問題だろうとも。
■■■
「第17問~美紀ちゃんに出題するわ、香菜ちゃんのことどう思ってる?」
は……?
「ど、どう思うってどうゆう……」
美紀も困惑してる。
だって今までこんな問題でてこなかったのにどうして……。
「質問、問題だよ?答えないないの?」
「え…そ、そんなの親友だよ一番の友達に決まってるじゃん…!」
美紀はそういって私のほうを見て微笑んでくれた。
「美紀――」
ブシュッ。
紅の生暖かい液体が私の頬を伝って。
目の前で笑顔を浮かべていたものは一瞬にしてどこかへ飛んでいって。
床に転がっていた……。
「ひぃやぁぁぁあああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」
悲鳴が悲鳴が響く。
もう何が起きたのかを認めたくなくて。
どうしてこうなったのか薄々わかっているのを消したくて。
「なんで!!!なんでこんなこと!!!!!」
「わかってるくせに。美紀ちゃんの回答は不正解だったってことよ」
「何言ってるの……私と美紀は一番の――」
「美紀ちゃんは香菜ちゃんのこと親友だって思ってなかったってことよ」
そんなはずない……!
え……。
どうしてどうして声に出ないの……。
「わかってるでしょ?声に出ない理由も。美紀ちゃんはね――」
「やめて……!」
「美紀ちゃんは――」
嫌ぁ……聞きたくない……。
「香菜ちゃんのこと大嫌いなんだよ」
零れ落ちる涙と美紀の血。
混ざり合うのが気持ち悪い。
ぐしゃぐしゃになってく。
心も何もかも。
「香菜ちゃんはあの時ちゃんとあの本を読んでおくべきだったわね」
「え……?」
あの時の本?
「私の名前に覚えないの?リオ。ナグモリオ」
!!
教室にあった嫌いな友達と縁を切る方法……。
「あれ私が学生時代に描いた本なのよ。結構売れたの」
懐かしく思うようなでも悲しそうにリオは言う。
「その本さえ読んでいたら美紀ちゃんの言葉一つ一つで嘘か否かわかっただろうにね」
「……」
「香菜ちゃん私もね昔このゲームをしてここに来たのよ」
リオも……?
「私も偽りの友情に気づけなかっただからその本を書いたのよ」
そして申し訳なさそうに私に言った。
「ごめんね……あなたみたいな子を救いたかったの……」
そう言って私をぎゅっと抱きしめた。
暖かくてふんわりと。
少しの安らぎに。
安心して身を任せた瞬間に。
首筋に鋭い痛みが走って――何かが引きちぎられて――……。
……さよなら。
友情 終幕
こんばんは。
もうすっかり夜ね。
夕陽の照らす歪な友情ごっこいかがだったかしら?
美紀ちゃんの願い事は香菜ちゃんが死んで自分と山口君が結ばれること。
香菜ちゃんの願い事は美紀ちゃんと山口君が結ばれること。
ちなみに山口君は香菜ちゃんが好き。
そのことを美紀ちゃんは知っていた。
香菜ちゃんはそんなことも知らずに美紀ちゃんを友達だと思って。
美紀ちゃんは香菜ちゃんを殺して自分が幸せになるため。
ね?
哀れでしょ?
こうやって本音を隠しつつ口に出す偽りに騙されていくこの世界で本当の関係っていくつあるのかしらね。
勿論全ての友情が偽りというつもりはないわ。
この二人の関係は偽りだった。他にもこんな友情もどきはいくらでもある。
けれどね、本当の本当にお互いを心から信頼して真実の友情を築いている関係って……どれくらいあるのかしら。
なんて考えても仕方ないわね。
あ、お腹空いちゃったわ。
さっき食べてたの残ってたしそれを食べましょう。
何を食べるかって?
んーはっきりとは言えないけれど。
やわらかくて少し臭みがあるお肉でね、食べれば食べるほど中から濃厚なお汁が出てくる絶品なの。
いただきます。
友情 緋色
改めまして、月詠柊羽です。
最後まで読んでくださってありがとうございます。
香菜と美紀の友情ごっこ。
皆さんの友達は本当の友達ですか?
不安にさせるつもりはありません。けれどこれを読んでくださった皆さん裏切る裏切られるの関係を築いていませんか?
改めて考えてみてください。
最後まで読んでくださってありがとうございました。
では、またどこかで。