8.7階の女 (仮)

2つの出逢い

そう、たしかあれは
マンションの最上階、9階の非常階段でタバコを吸っていた時だった。隣のマンションの室内がまる見えになっている。距離は10メートルぐらいだろうか

見えるのはキッチンなのだろうか、カーテンはフルオープンで冷蔵庫が見切れている。なるほど、9階の角部屋は空室になっている為に誰からも見られないと思い開けているのか

!!
突然、下着姿のスレンダーな女が登場した!
風呂あがりなのか上半身キャミソールに、Tバックじゃないか!
しかもかなりの美人で美尻の上玉ときている!!

初Tバックにふさわしい女だと思った。

周囲は薄暗くなってきていて、あと30分もすれば街は闇に包まれようとしていた。さっき時間を確認した時は午後6時30分だったのを思いだし、付近が繁華街だったので、これから水商売に出掛けるのかと勝手に妄想を膨らませた。
咄嗟に見付からないようにタバコの先を手で覆い隠した。

冷蔵庫の中から何かを取ろうと前屈みになると、艶々の美尻の輝きが更に増して光輝く。何かの缶を開けて口を付けながら歩くたびに美尻はプリプリと揺れる。

食い込んでいるのか食い込ませているのか、けしからん姿が行ったり来たりと歩いている

高まる鼓動と衝動、そして盛り上がる股間。偶然目にしてしまった光景に性犯罪者の気持ちが少し分かった様な気がした。

この角部屋に引っ越したい!でも先月このマンションから別のアパートに引っ越したばかりじゃないか。
いつもそうだ、昔住んでいたアパートにも飽きて引っ越しをしていると美人な女が入居の引っ越しをしているのと入れ違いになったじゃないか、このマンションもそうだ見晴らしのいい9階を選んでいれば今頃毎日拝めていたかもしれない。

あぁ、これをストーカーと言うのだな
少しストーカーの気持ちが分かった様な気がした。

もう少し眺めていたい!
あの美尻に触れてみたい!

高まる興奮、そして溢れるアドレナリンと欲望に支配されないように、そして女に見付からないようにゆっくりとその場を立ち去る。

もう一度このマンションからの景色を見たくてたまたま訪れた非常階段で別なもう一度見たいものに出逢うとは。
エレベーターに乗り込み一階に降りた。アパートに帰るため隣のマンションの前を通り過ぎようとした時に悪魔が囁いた

あの女と知り合いになれ と

数日後、再びそのマンションに来てみた。

女神の登場を願ってまたあの非常階段に行ってみる事にした。あの日の光景が網膜に焼き付いて離れない。思い起こすたびに初恋のドキドキにも似た、どす黒い欲望が胸を支配する。

今日は部屋に居ないのか。
居ないことが分かると別の考えが頭に浮かんだ。そうだ、何号室なんだろう、帰りにそれだけでも確認してみる事にした。

もし女が帰って来たら教えてあげた方が良いのだろうか、それが元で付き合えるかもしれない。親切に爽やかに忠告すれば良いのだろうか。

そんなことを考えながら隣のマンションの入口に来ると、見た目のグレードが低い割には監視カメラがあった。監視カメラは郵便ポストには向いておらずエレベーターの方向を向いている。よくみると監視カメラの死角に上階への階段があるではないか。
監視対象がエレベーターだけとはグレードが低いだけあるなと思ったが、自分には好都合だった。

白い塗装がされた壁にはどころどころ細めのマジックや鉛筆で落書きが書いてある。二階…三階…四階…五階…各階の廊下は開放的な作りで景色が見え自分が確実に上階に進んでいる事が分かった。六階…七階…八階

目的の階に到着した。
あとは左に曲がり廊下を進めばあの部屋だ、部屋番号だけ確認したら帰ろうと思ったが、よく考えてみれば名前も分かるじゃないか。どんな名前なんだろう、欲求がエスカレートしていくのが分かった。

実際に来てみて分かったが、非常階段のあるマンションは9階建てだが、女が住むマンションは土地の高低差があって最上階の8階でも最初のマンションの8.7階の高さになっていた。
非常階段のあるマンションの9階からはちょうどいい感じで見下ろせる感じになっていたのか

801号室か

階段を降りている途中に聞こえた足音をやり過ごし、階段を降りて来なくて良かったと安心すると一階に到着した。目の前には郵便ポストの集合ボックスがある

素早く8階の801号室に目線をくばり名前を確認しようとしたが名前は書いてなかった。だがポストの中の郵便物に名前が書いてあった

東京 華子 はなこか…。

さてどうやって、あの女と知り合いになろうか。近くの美術館に行き噴水を眺めながら考えてみる

近くの繁華街にあるチキンケバブの屋台でケバブを購入し、作戦を考える為に再び美術館に戻った。さっき迄明るかった美術館の照明は落とされ裏口らしいドアからは従業員なのだろう、コジャレた服装の男女が出てきている所だった。

「お疲れ様~」
「はなちゃん、今夜飲みに行かない?」
「昨日は休みだったから寂しかったよ」
そんなやり取りをしている

はな…華…華子?
薄暗いがよく見ると細身でスレンダーな姿は801の華子に似ている
ケバブを食いながら横目で二人を追っていると二人は楽しそうに会話しながら真横を通り過ぎた。

スカートからスラッと伸びるあの艶かしい脚と揺れる美尻には間違いなく見覚えがあった。あのスカートの下をあの男は知っているのだろうか、あの二人の関係は何なんだろうか。

華子のスカートから伸びる美脚と美尻を見て、甦った胸のどす黒いドキドキが一気に冷たい塊になり胸を突き刺した

この痛みの元はあの男だ
この痛みを取り除くには、あの男をなんとかしなければ
もうそれしか考えられなかった。

8.7階の女 (仮)

8.7階の女 (仮)

  • 小説
  • 掌編
  • 青年向け
更新日
登録日
2014-09-19

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