奴隷から始まる理不尽異世界での成り上がり
ある、月も昇らぬ静寂な夜のこと。
都心の中大きくそびえ立ち、少し近寄り難い雰囲気の建物とその内に数多のようにあった人気が一瞬のうちに音もなく消え失せた。
少しの間があって、先ほどまで大きく建物がそびえ立っていた場所からゆらりと体を揺らして、まるで何事もなかったかのように立ち上がりその場を去っていこうとする青年の姿があった。
青年の服装は一般的なものでTシャツとジャンパー、Gパンを履いて、凶器と呼ばれる類のものも持っていないのにもかかわらず、一つ一つの動きから普通の人間とは一際違う雰囲気をかもし出していた。
そして青年の口からはこの場にふさわしくない言葉が発せられる。
「明日も学校か...」
青年はそう去り際に呟いた。
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17歳、高校に通っている人が多い年頃であり、また受験も来年に控えとても大事な時期でもある。もちろんそんな大事な時期の学校は勉強でつらい、大半の者が学校へ行くのを拒むだろう。
が、昨夜、人と建物を消滅させたこの青年
"相澤輝也" は例とは少し違う理由で学校を嫌っていた。
輝也はすこし嫌々ながらいつものように学校の門をくぐり、4階まで上がって教室のドアを静かにあける。
すると教室にいた面々から軽蔑の目線、嫌悪する目線、いくつの舌打ちと盛大にお出向かいを受け、それに対しわずかに笑みを浮かべ自分の席に着いた。
また席に着いた後も、まだ始業すら始まっていないのにわざわざ消しカスを作り輝也に向けて投げつけてくる輩もいる、輝也はそれを受け止め、また床から拾い、わざわざありがとう、とひとつ頭を下げ、消しカスを一つに固めひと回り大きな消しカスを作った。
今度は周りが陰口のような素振りをさりげなく輝也に見えるように行うが、輝也は陰口をする人達に向かってにこやかに笑って手を振った。
このように輝也は軽くスルーしているが軽く周りからいじめ受けている。理由はそのポジティブすぎる性格、空気が読めないなどさまざまあるが最も大きな理由が輝也が"異能の力"を持っていると噂されているからだ。
そのため、周りには輝也に対して決して彼に直接暴力は振るう者はおらず、言葉や陰湿な差別でしか行われない。
事実、輝也は"変化を操る"という異能の力を有している。そのような力は地球上に本当にいるかどうか怪しいと言われ、存在自体都市伝説にまでなるほどだが彼は実際に昨夜ヤクザの仮の本部をその力で潰してきたところだ。
そんな輝也は昨夜のことの後始末や結果などをこれから考えようとした時だった。
「おいどけ、それとキモいからこっち見るな」
と机を蹴り脅しながらやってくる、男性陣で特に輝也に強く当たるいじめの張本人がいた。
"郷田 健吾"という男、髪型はスポーツ刈りでかなりごつい体つきをしている。眉毛は太く、顔もでかい、一言で言えばゴリラのような野球部のキャプテンだ。
そして女子の集団からも一人の声が聞こえた。
「さすが郷田くんね〜、こんなやつにアドバイスをしてあげるなんて。そんな存在しなくてもいいやつなんて無視しないところ、すてきだわ。」
と、ゴリラへ餌をチラすかせて褒める飼い主のような女、そして遠まわしに輝也をのけ者にするような言動をする女性陣で輝也をいじめ始めた元凶もいた。
"須藤 冥"という長髪の黒髪と整った顔の女性陣のボスだ。須藤は運動も勉強もできて美形、性格以外完璧という悪女で郷田をそそのかし操っている裏番長だ。
この二人を筆頭に、またその周りにはクラスの奴らが取り巻いている。
しかし彼らは次の輝也の返答で驚愕した。
「そうだったのか、やっぱり郷田くんは優しいんだね、ありがとう。」
と、輝也は須藤の遠まわしの暴言に対して郷田が自分に優しくしてくれてると勘違いしまったらしく、見当はずれな答えをし、郷田と須藤の攻撃を完全に防いだからだ。
そんな返答が返ってくるなど予想もしてなかった郷田は舌打ちをして自分の席へ戻っていき、須藤は「つまんね」と一言つぶやいて他の女子たちとしゃべり始めた。
それから数分たつと授業の予鈴が教室中に鳴り響く。まだ用を済ましていなかった輝也は急いでトイレヘ行くため教室を出た。
その瞬間だった。
カッ、と一瞬教室から光があふれ、輝也は本能的に危険だと判断しその場から飛び退いた。
光によりすこし視界を塞がれた輝也だったがすぐに光が発せられた教室の中を見る。
そこには先ほどまで30名ほどいたはずの人が誰一人としていなかった。そしてさっき輝也が立っていた場所には人がすっぽりと落ちてしまうほどの底なしの穴が空いていた。
背中に冷や汗が流れ、頭が危険信号を鳴らし始めた時には輝也はもう一度窓へ向かって飛び退いた、そして底なしの穴から真っ黒な触手が出現し輝也を襲ったのは同時だった。
ガラスが割れる音が耳に響き、別の棟のほかの生徒や教師が騒ぎ始めるがそんなことはまともに気にしてはいられなかった。
飛び出したのは4階からだ、まともに落ちたら少なくとも動けなくなるほどの大怪我をする。その為急いで空中で体勢を立て直し、" 変化を操る能力"を発動して着地の準備をした。
が、それは触手を初歩で撒いたという前提で現実はそんなに甘くない。輝也が足に違和感を覚え、そこへ目を落とすと自分の足に触手が巻き付いていた。
咄嗟に着地のことから触手へ思考を切り替え、" 変化を操る能力" を発動、すると触手は塵へと変化し虚空へ消えていった。
ふっ、と息を吐き、気を緩めようとした瞬間、目の前の空間に亀裂が入りまたも底なしの穴が現れた。しかし今度その中から出現したのは触手ではなく人型をした" 何か" だった。
地面に衝突するまであと少しと迫るがこの" 何か"をどうにかしないといけないと瞬間的に思った輝也はその人型の"何か"の顔と思われる箇所を掴み、先の触手のように塵へと変えようと"変化を操る能力"を発動した。
しかし"何か"は塵へと変わるどころか逆に輝也の首をつかみこうつぶやいた。
「力を抜け」
その言葉を発せられた瞬間、輝也の意識は一欠片残さず刈り取られた。
奴隷から始まる理不尽異世界での成り上がり