百本のろうそく 第三本

あの日(金曜)、
明日から、学校の創立記念日と祝日が重なって3連休というサイコーの日。
高2の俺は親友のアズマと、居残りで掃除をさせられていた。
グレていた俺は毎日掃除をサボっていて、それをクラスメートのイトウ トモコと言う女子にチクられたのだった。
が、サボっていたのは理由があった。
まあ、アズマはサボっていた訳ではなく、居残り掃除を一人で命じられた俺を手伝ってくれているだけだったが。
「ちくしょー!イトウのヤツ!!」
  バンッ!!
八つ当たりで、拭いていた窓をたたく。
ついさっきまで、センコーが見張っていたのも理由の一つだ。
「まあまあ。」
アズマが俺をなだめる。
そういえば、アズマはイトウが好きなんだった。
「あいつがセンコーにチクリやがったから俺は今こんなこと(窓掃除)やらされてんだ!!例えお前の好きな人でも、俺は言うぞ!!」
  バンッ!!
また、窓をたたく。
「そもそも、掃除毎日サボってたおまえが悪いんだろ?」
イラついた俺の声に対し、イトウをかばうようなアズマの声は、穏やかだった。
「そうだけどよぉ・・・」
アズマの声を聞いていると、少し心が落ち着く。
ずっと昔からそうだった。が、今日は少し違う。
「ばあちゃんの見舞い行けねえじゃねえか!!」
またイライラがこみ上げてくる。
「・・・。おまえ、お婆ちゃん子だもんな。そりゃ、心配だろうけど・・・」

そう、俺が掃除をサボっていたわけとは、5ヶ月前入院したばあちゃんの見舞いに行く為だった。
原因不明の病で、おまけに老体で体力も無いため、いつ亡くなってもおかしくないという。
大のお婆ちゃんっ子の俺は、心配で心配で、
もしかしたら俺が居たら元気になってくれるんじゃないかというアホな淡い期待をもって、毎日見舞に行っていたのだ。

一人で、うちのクラスが担当している掃除場所を全て任された俺を哀れに思って、アズマが手伝ってくれている。
時計はもう7時を回っていて、今から病院に行ったとしてももう面会時間に間に合わない。
会おうと思ったら会えるのだが(危ない状態のため)、「夜遅くに会いに行ってもばあちゃんの体に負担をかけるだけだ」と母に止められている。
「クソっ!!」
またバンッっと窓をたたく。
「イトウがいなけりゃいんだ!!このやろー!!イトウの前で割れて怪我させちまえ!!」
アズマが複雑そうな顔をする。
「あぁ~もうくそっ!!」
今日何回目かの窓をたたいたとき、教室に担任が入ってきた。
「もう今日は遅いから帰れ。ただし、今日終わらなかった分は来週も残ってやってもらうからな!あー来週は掃除が楽だなぁ~」
そうわざとらしく言うと、教室から出て行った。
ああいうのもイラつくが、俺が2年生になれたのはあの先生のおかげなので目をつぶる。
(他のヤツは先生じゃなく、センコー、だからな!!!)

【何で進級できたかは、言うのをやめておこう。恐ろしいことがおこった・・・。】

こうして俺達は帰ることができたのだが、
事件はこれからおきた。

ばあちゃんが、    死んだ。
何も考えられなかった。俺がガラス拭いてた頃に、「孫に会いたい」って言いながら息をひきとったって母が言っていた。
ばあちゃん ばあちゃん ごめん。居残りで掃除なんか、サボればよかったんだ。
お通夜があった。 葬式があった。ばあちゃんは、もういないんだ。
葬式には、アズマも来てくれた。

火曜の朝、学校に来ると校舎裏に進入禁止とかかれた黄色いテープが貼ってあり、警察がたくさん来ていた。何があるのか分からないので上から見ようと階段を登ると、俺が何度もたたいた窓の所に人だかりが出来ていた。(ここからが校舎裏が一番良く見える。)
「アズマ!!」
アズマを見つけ、2人で窓の方に寄ると、ガラスが割れていて残った部分の外側に 血のようなもので手形がついていた。
この階は3階で、外から手形をつけるのは無理だ。
「アズマ、これって俺達が金曜に拭いた窓だったよな?」
意味もなく聞いてみる。
「うん。そのときは割れてなかったよね。・・・こんな、手形もなかった。」
無表情でアズマが答える。
まさか、人が飛び降りたのか?
恐る恐る下を覗き込む。が、校舎裏は青いビニールシートで作られたテントのようなものでおおわれていた。


「悲しいお知らせがあります。」
HRで先生がゆっくりいった。普段からは考えられないくらい丁寧なことばで。
イトウが、まだ来ていない。もしかして・・・。
俺の頬に、冷たい汗が流れる。
「イトウさんが、亡くなりました。」
「うぅ・・・トモコォ・・・」
クラスの女子たちが わっ と泣き始める。
「屋上から飛び降りたそうです。が、・・・遺書はありませんでした。それに・・・」
先生がすこし、間を空けて涙をぬぐう。
「それに、・・・遺体に硝子がたくさん刺さっていました。・・・皆が知ってると思いますが、あの手形のついた、割れた窓の硝子です。」
なんだって!??
遺体に、ガラス・・・?
俺とアズマは、顔を見合わせる。俺が言った事と殆ど同じじゃねーか!!
イトウの前で割れて、怪我させちまえ ってやつと。
「普通に考えて、・・・飛び降りる途中に、ガラスが刺さるということは・・・考えられません。」
先生が言った。「何か・・・知ってる人はいませんか・・・・・・?」
その時、アズマは信じられないくらい怖い顔で、俺に向かって微笑んだ。
なんだ・・・・?何をするつもりなんだ・・・?
その、一度も見たことの無い笑顔のまま、アズマは手を挙げて言った。
「先生、僕知ってます。」
・・・?


「僕が殺しました。人を殺すのって、楽しいですね。」

全身が、ゾッとした。
待てよ、アズマ!冗談だろ?お前、イトウの事好きだったんだろ??
お前何言ってんだよ!!??
声にならなかった。
先生も、口を開けたままぽかんとしている。
「あイつがイケないんデす。チクッたから、僕のシンゆうハお婆ちャんの最期に会いにイけナカった」
だんだん、アズマの声が聞き取れなくなっていく。
心が落ち着くはずの声が。
あのアズマが。
俺の為に、人を 
殺した・・・・???
あいつ、普通だったよな?今日も、お葬式のときも?
「ドう?オマエノ望みドウりニしたンだ。ガラすをイッパイさシて、殺して、屋上から落とシたンダ。」
笑顔のまま、アズマが俺の方を見て言う。
何も、いえない。
「きゃあぁぁぁぁぁあぁぁっ!!」
アズマの席の近くに座っていた女子の一人が、悲鳴を上げて廊下に走っていった。

アズマが捕まり、俺は親友を失った。
アズマの席は空席のまま、新しい学期にはいった。
そしていつの間にか新しくはり替えられたガラスの向こうに、俺は、イトウと、死んだはずの無いアズマが見えるようになった。

「・・・アズマ?」
放課後、窓に近寄ると、あの赤い手形があった。
「!?」
ガラスに映った俺の後ろに、笑みを浮かべたアズマが立っている。
振り向くと、幽霊じゃない本物のアズマがいた。
一瞬、恐怖が俺の体を駆け巡る。
「何で・・・学校にいるんだ!?捕まってるはずだろ!?」
俺の疑問を無視し、アズマが口を開く。
「お前がいヶなインでス。僕に好キな人を殺さセタかラ・・・」
「な、何言ってんだよ!!お前が勝手にやったんだろ!?」
「お前が、、・・・おまえが・・・」
アズマがゆくっり伸ばした手が、俺の喉元をつかんだ。
「おい!!やめろって!!俺が何したって・・・・」
意識が、だんだん遠くなっていく・・・。


 パリンッ

最期に、ガラスが割れた音が聞こえた。

百本のろうそく 第三本

百本のろうそく 第三本

怖そうで怖くなくてチョット怖いかも・・・・? 第三段。 ちょっと長いです。

  • 小説
  • 掌編
  • ホラー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-01-15

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