兄と妹の夏季課題
続きです。6
カーテンの隙間から差し込む光はこの日、いつもより暗かった。外からはザーッと雨が地面を打ち鳴らす音が微かに聴こえる。田舎にきて、一発目の雨が7月24日今日だった。雨が降ったら外では遊べず、家でする遊びも無いので今日は課題を進める絶好の日になるだろう。翔はソファーに深く凭れこみ考えた。隣では、翔に凭れ掛かり気持ち良さそうに寝ている妹の姿がある。妹を起こさないよう、静かにポケットに入れておいた携帯を取り出す。ディスプレイにはam.6時27分と表示されていた。メールボックスを確認すると、おばあちゃんから2通メールが着ていた。
7月23日 pm.11時12分
件名 夕飯食べたかい?
今日は、忙しく帰れなくなってしまいました。明日の朝、早朝には帰り着くと思います。
7月24日 am.6時3分
件名 そっちは大丈夫?
今日は雨が強くてバスが出そうにありません。もしかしたら、明日まで帰れないかもしれません。ご飯の事はある程度、自分たちでできると思いますが、火の管理やらには気をつけてくださいね。
おばあちゃんのメールに翔は、大丈夫大丈夫。心配しないで。おばあちゃんも気を付けてね。と、返信を返し隣で寝る妹に目を向ける。茜とはここに来て、距離が縮まったよな。田舎の環境のせいなのか、それとも結衣のせいなのか、まぁどちらにしても嬉しい事だ。両親は仕事の関係でたまにしか家に帰らず、ずっと2人で生活をして来たようなものだった。仲良く暮らしている方だった、あの3年前までは。ーーあの日を以来に、お互いは、ちょうど良い距離を取るようになっていた。
茜は妹らしく、翔は兄らしく。マニュアルに記されているような兄妹をやっていた。それでも、上手くやっていけていたのだ。しかし、お互いは心の奥にモヤモヤを抱えたまま、今年の夏まで暮らしてた。でも、ここにきてからお互いは自分の想いを真っ直ぐに伝え、真っ正面から向き合いはじめていた。兄から妹への想い、妹から兄への想い。もう一度、ちゃんと向き合うことができる良い機会なのかもしれないーー
翔は、妹の頭を撫で結衣のことを考えた。結衣はいつもどこにいるんだろうか。なにをしているのだろうか。今日は雨、結衣と話す時間もあるだろう。時計を見ると、7時過ぎ。翔は、少し眠気に襲われ、再び目を閉じるのだった。
目が覚めたころには、隣に茜はいなかった。
お風呂からはシャワーの音が聞こえてくる。
「シャワー浴びてるのか、、」
翔は呟く、ソファーで寝たため身体中が痛い。肩を揉みほぐし、あくびをする。時計を見ると、あれから一時間寝ていたらしい。茜がお風呂から出たら、次入ろうと思い。翔は、自分の部屋へ向かった。部屋を開けると、結衣がベッドでスヤスヤと寝ている。俺の部屋にいたのか、翔は起こさないように着替えを準備し、部屋を出た。外では相変わらず、雨が大きな音を立てて降っている。廊下は雨の影響でジメジメとしていて、あまり良い気分ではない。ジメジメした廊下をすすみ、リビングへ入るとお風呂からでたでろう茜がタオル一枚で立っていた。
「お、茜。おはよう」
「おはよー、お兄ちゃん」
「シャワー浴びてたのか?」
「うん、お兄ちゃんも浴びてきなよ~」
「おう、そのつもりだ」
翔は、そう言うとお風呂へ向かう。いつみても贅沢だろと思ってしまう浴室で、翔はお湯で身体を流していた。冷えた身体を温め、浴室をでた、翔はタオルで身体を拭き、服を着替え、リビングへ向かう。部屋に入ると、朝食を作っている茜の姿があった。
「お兄ちゃん、早かったね~」
「おう、パッとはいったからな~」
朝ごはん食べるでしょー?という問いかけにうんと答え、ソファーに座る。今日が始まるというのに雨の日はやっぱり、やる気が出ない。翔は身体をソファーに預け、クーラーの効いたリビングでリラックスをしている。
「お兄ちゃーん、もうすぐ出来るから結衣姉ちゃんを呼んできてー」
茜の声で、ぼっーとしていた翔が我に返った。
「わかったよ~」
リビングを出て、結衣を起こしに部屋に向かう。廊下を進み、部屋に着くとドアを開ける。結衣はベッドで寝ている、翔は結衣に近づき優しく身体を揺さぶった。
「おーい、結衣、、。起きろ~」
んー、、、と明らかにまだ眠たそうな声を出す結衣。ある程度、揺さぶり声をかけたらやっと身体を起こした。
「お、結衣。起きたか」
「しょーちゃん、、。おはよ~」
結衣は目をこすりながら、翔に挨拶をする。おはようと返事をし、朝食が出来るから茜が呼んでいると告げると、結衣は顔を洗ってくると部屋を出て行った。一人、部屋にいる翔は、さっきまで結衣が寝ていたベッドに目を落とし、触れてみた。
「やっぱ、暖かいな、、」
幽霊にも、体温があるのかと疑問に思う翔だが、幽霊になったことがないので答えは分からないままだ。結衣の後を続くように翔もベッドを整え、部屋を出た。リビングへ向かうと、テーブルには朝食が並べられ、顔を洗って、目が覚めている結衣が座っている。茜が、飲み物をキッチンから持って出てきた。
「あ、お兄ちゃん。さあさあ座って、食べようよ」
「これ、茜が作ったのか?」
翔は、席に座り聞く。
「そうだよー。材料がちゃんと揃ってるから、苦労しないよ~」
日本の朝という題名がつきそうな、メニューになっている。美味しそうだな~。翔は言うと、早く食べようよーと結衣が言う。
「それじゃ、食べましょうかー。いただきまーす!」
いただきまーす。と茜の号令に2人は返事をし、ご飯を口へ運ぶ。
「おいしー!」
「ほんとだな、茜。料理上手くなったな」
結衣と翔の言葉に、照れながら茜は、まあねーとドヤ顔を向けている。
「あ、そうだ」
翔の言葉に、2人は箸を止める。
「どうしたのー?」
結衣が聞くと、翔は結衣の方を向き続けた。
「結衣、お前いない時があるよな?」
「いない時?」
「そうだよ、この前家中探してもいなかった事あったし、どこにいたんだ?」
「うーん、分かんない」
結衣は、首を傾げ答えた。
「分かんないってなんだよー」
「自分でも分からないの。分かってることは、ずっと姿を現しておくことが出来ないってことかな~」
「どうゆうことだ?」
「この世に、強く意識が無いと姿を表すことが出来ないの。だから、深い眠りについてる時は、姿を現してないの」
「なら、いない時は、深い眠りについているってことなのか?」
「そうゆうことだよ、、多分!」
「多分かよ、、。まぁいいや、お前がいない時は、熟睡中って事だなー」
翔は笑いながら結論を出し、食事を続ける。
「だから、しょーちゃん、あーちゃん。心配しないでね!」
「うん!私も結衣姉ちゃんどこに居るんだろ?って思ったことあったから、、。もう、心配しないよ!」
2人は、えへへと顔を見合わせ食事を続ける。 食事を済ませ、3人はリビングでゆったりとしている。時間はまだ午前10時だ。
「はぁ~、雨やまないな、、」
翔は、心配そうな表情で窓の外を眺める。外は相変わらず、雨が強く降っていた。
「おばあちゃん大丈夫かな、、」
茜も心配そうな表情で口を開く。
「大丈夫!明日にはすっかり晴れて、暑い1日が始まるよー!」
結衣は、雨のせいなのか少し暗い雰囲気の部屋を和ませるため、能天気に話を続けた。
「今日は雨だからお外へ遊びに行けないね~。しょーちゃんとあーちゃんはこうゆう日は課題を進めないとねー!」
課題と聞いて、思い出したかのように翔が口を開く。
「そうだ、課題を進めるんだったな」
「そうだよ、お兄ちゃん。課題を計画的に終わらせないと、、」
茜は翔が課題を夏休みが終わるまでに終わらせることができるのか疑問に思いながら言う。分かってるよ、と翔は茜に返事を返し、課題をしてくるよとリビングを出た。翔が部屋を出たことを確認した結衣は茜に口を開く。
「ねぇ〜、あーちゃん」
「ん?なに、結衣姉ちゃん?」
「あーちゃんって、、しょーちゃんの事好きでしょ?」
「え!?」
茜は結衣からの思いがけない質問にビクッと反応していた。
「そ、そんな事ないよ~!」
「その、感じだと図星かな~??」
「いや、それはお兄ちゃんは好きだよ!?兄妹だし、、」
「いや、あーちゃん。あーちゃんの好きは恋人同士になりたいの好きだよね~?」
「なっ、、!?」
結衣からの追い込みで茜の顔は、もうそのまま茜色に染まっている。
「あーちゃん、図星だね」
結衣の表情はニコニコしている。
「うん、、私、お兄ちゃんの事好き、、」
茜はもう、無理だと思い打ち明けた。そして、続ける。
「うちは、共働きでいつも家ではお兄ちゃんと二人きりだったの。家事はいつも私で、お兄ちゃんは少し、家事を手伝ってくれるぐらいだった。朝も起こしたりして、ほとんどお兄ちゃんの世話を私がしていたものなの。」
茜は、真剣な表情で続ける。
「私が、姉でお兄ちゃんが弟みたいな状態だった。それでも、楽しかったのお兄ちゃんとの暮らしはでも、そのころはお兄ちゃんの事好きなんて思ってもいなかった。けど、おばあちゃん家にきたら、なんだか感情が抑えられなくて、実のお兄ちゃんなのに、、」
結衣も真剣な表情で話を聞いている。
「好きになっちゃったの」
それを言った茜の表情はどこか切なそうだった。結衣は話を聞き終えて、一つ息を吐き、喋り出す。
「あーちゃん、実のお兄ちゃんでも好きになっちゃったのなら仕方ないよ。あーちゃんの感じだと本気そうだったし、周りからは正しくないかもしれないけどね、でもあーちゃんの気持ちを誰かが否定するのも正しくないと思うの」
茜は結衣を見つめる。
「結衣お姉ちゃん、、」
「だからね、あーちゃん、気にしないで!自分の気持ちに嘘はつかないでね」
結衣はニコっと微笑む。茜の目からは涙が溢れそうだった。
「ありがとう、、結衣お姉ちゃん」
茜は、結衣に抱きつく。よしよしと頭を撫でる結衣の表情は優しく寂しそうだった。
この日の雨は、日が落ちるにつれて弱くなっていき、夜になるころには星が綺麗に見えていた。夜になり、帰宅できた幸子は夕飯を作り、翔と茜と三人で食卓を囲み、食べ終わってからは各々と過ごし、あと十分程度で日付が変わる時刻だった。結衣は近くの大きな神社の鳥居をくぐり、一人ポツンと立っていた。なにするわけでもなく、ただ立っているだけだった。死んだ人間は最寄り神社に申請をし、天国か地獄かそこで振り分けられ成仏すると言うのが死んだ後の決まりなのだが、ここ最近はこの世に未練を残した人が決まりを守らず申請をせずに、留まるというのが後を絶たないのが現状であった。結衣もその一人である。
「成仏、、、しなくちゃ悪いよね、、」
結衣は、小さく呟き空を見上げた。星が夜空を綺麗に飾っていた。生きてる時、死んでいる時、この夜空だけは変わらないものだった。結衣は、茜との事を思い出す。なんとも言えない感情が結衣に込み上げてくる。初めての失恋というのを経験したのだ。兄妹が付き合うというのは世間的におかしな事かもしれないのだが、人間と幽霊が付き合う方のことがもっと世間的、科学的におかしい事になる。これは、翔と茜が両想いではなくても、最初から失恋ということになるのだ。
「もし、生きてたらしょーちゃんやあーちゃんに会えていたのかな、、」
結衣は、目を閉じ翔と茜の顔を思い浮かべる。この、兄妹の笑顔は結衣にとって、とても大切な物だった。
「よし、、 私は全力で応援しよう」
そう、呟き目を開け、再び夜空を見上げた。綺麗に見えていたはずの星たちがボヤけて見えていた。
兄と妹の夏季課題