【科学と超能力の世界の理】浄化する者
ツイッターで募集した「リプしてくれたフォロワーさんを自分の世界観でキャラ化する」の小説もどき化。
過去に書いた小説の世界にフォロワーさんに住んでもらいました。
浄化する者
「ここか」
青年はビルの前に立っていた。
多くの会社が入っている7階建てのビル。
入り口には各階に入っている会社名が書かれたボードが貼られている。
3階に『超感覚的知覚者保護連盟(EPCL)』の名前があった。
青年はそれを確認するとビルの中に入って行った。
青年は人の悩みや相談によくのるタイプだった。
話を聞き、意見を述べ、次第に相談者の心が和らいでいき、相談が終わるころには相談者の顔は晴れやかだった。
青年はそれを普通のことだと思っていた。
人に話すことですっきりとしているのだと。
しかし、それが普通の事でないとわかった。
バイト先でいつも相談してくる一人の女性がいた。
家族のこと、彼氏のこと、悩みの尽きない女性であった。
いつものようにバイト終わりの帰り道で話を聞いていると、女性が青年の手を握った。
「私の悩みをわかってくれるのはあなただけ!ねえ、私の物になってよ!」
強引な女性の行動に少々苛立ちを覚えた瞬間、握られた手が熱を持った。
熱は青年の中から発せられ、それが手を伝って女性に浸透していくのが見えるような錯覚に陥った。
次の瞬間、女性は手を放した。
へらっと屈託なく笑い、ばいばーいと両手を振ってその場を去って行った。
その時は何も思わなかった。きっと恥ずかしくなって逃げたのだろうとしか思わなかった。
翌日から女性がバイト先に姿を現すことはなかった。
店長に話を聞いたところ、こっそりと青年に教えてくれた。
「まるで子供みたいになってしまってな…もう話が通じないらしい」と。
青年は背筋を凍らせた。
察しのいい青年は気づいてしまったのだ。
今まで行っていた悩みの解消方法が普通のことではないことに。
バイト終了後、青年は自転車にまたがり駆け出した。
遠い遠い誰もいないところに逃げ出したかった。
気が付けば隣町の河原まで来ていた。
日が沈み、もうすぐ夜が来る。河原には誰もいない。
草の生い茂る地面に座り、河原を見る。
穏やかに流れる水と虫の鳴き声。涼しい風。住宅地からも離れて薄暗い。
「隣、良いかな?」
振り返ると一人の少女が経っていた。高校生ぐらいだろうか。
小さな体にふっくらとした体。胸もあるが少し腹もある。ぽっちゃり体型というのが正しいだろう。
「いや、今は…」
「じゃあ、名刺だけ渡しておこう。自分の力が知りたければおいで。私が説明してあげよう」
そういって少女は青年に名刺を渡した。
名刺には『超感覚的知覚者保護連盟(EPCL) 会長 宮野亜弥(ミヤ)』と書かれていた。
顔を上げると、すでにそこには少女はいなかった。
「じゃあねー」
声のする方に視線を向けた。
暗がりの空に何か黒いものに乗った少女が手を振っていた。
「ミヤ!あぶねぇよ!」
「キスケはうっさいなあ。大丈夫だよ」
楽しげな声が響く。
それと同時に彼女たちが自分と同じ不思議な力を持っているのだと青年は理解した。
そして青年は今、『超感覚的知覚者保護連盟』の扉を開こうとしている。
ドアノブを回し、中に入ろうとした。
しかし、ドアは内側から開いた。
「あらあ、いらっしゃい。さあ、入って入って」
背の高い大人の女性が出迎えた。長い髪をバレッタでまとめている。
促されるまま青年は失礼しますと言った後、中に入った。
中央に置かれた黒いソファーにはミヤと呼ばれた少女が座っていた。
向かい側に座る。
「やあ、六角霖之助くん。やはり来てくれたんだね」
「俺の名前、言ったっけ?」
言った覚えはない。
ミヤはにこっと子供のように笑った。
しかし、その瞳は深く吸い込まれそうな色をしていた。
「六角霖之助。22歳。これから大学院に進むんだね。あー、高校はあの進学校かー。頭いいんだねー。親戚家族にはまだ能力のことは話していないんだ。バイト先の女性のことは残念だったけど、私たちにはありがちなことだ。安心してくれ、フォローには回っている。それにしても君の性癖どうかと思うよ。私、身の危険を感じちゃう、なんて…ね。それだったらせっちゃんの方が好みそうだな。あ、左に重心おいてるからかな、もうすぐ靴下に穴が」
「ちょ、ちょっと待ってくれ」
ミヤのマシンガントークに唖然としていたが、青年は手を伸ばし、静止の声をかけた。
ミヤの言っていることは全て正しく思わず青年は俯いた。
ミヤはにこにこ笑いながら、口をつぐんだ。
「どうしたんだい、りろ。まずは能力紹介から、と思ったんだけど」
口角をあげ、悪戯っぽく笑う表情はまるで子供。
お茶を持ってきた背の高い女性が二人の前にお茶を置く。
「あら、彼のあだ名、『りろ』にしたの?」
「ああ、ろっかくりんのすけ、だから頭をとって『ろり』にしようかと思ったが、さすがにな…。だから『りろ』だよ」
「そうなの。りろ君、よろしくね。私は美津子。ミッツーって呼んでね」
ミッツーはそう言い残すとすぐに別室へと去って行った。
部屋にはミヤとりろの二人。
「さて、私の能力は『真実の瞳』だ。全ての真実が文字として視える。人の年齢体重から黒歴史までお見通しだ」
再びミヤの瞳がりろをとらえる。
まるで吸い込まれるような錯覚は彼女が全てを読み解いているからなのだろう。
りろはミヤの目を両手で覆い隠した。
「わっと」
「これなら見えないだろ」
「はは、賢い賢い」
りろが手を放すと、ミヤは目をつぶっていた。
目をつぶったままでミヤは話し始めた。
「ちなみに君の能力は『浄化』だ。触れた者の溜まった穢れを浄化することが出来る。肉体的にも精神的にもだ」
りろはバイト先の女性のことを思い返した。
彼女の中に溜まっていた穢れをりろは浄化しきってしまった。
それにゆえに彼女は純真無垢な子供のようになってしまった。
りろの視線が再び下がった。
「私なら力の使い方を教えてやれる」
ミヤの声に顔を上げると、ミヤは柔らかく真剣な表情で目を開けていた。
「どうだ、うちに来るか。学業の合間をぬってくればいい。ここは利益など望んでいないし、好きに来ればいい」
『超感覚的知覚者保護連盟』
その名の通り、いわゆる超能力を持つ者を保護する団体。
りろは小さく頷いた。
ミヤはそれをみてにっこりと笑った。
「ようこそ、EPCLへ」
りろがミヤに振り回され、振り回し、非日常に巻き込まれていくのはまた別の話。
コントロール
日常の合間をみつけて、りろは非日常へと出かけて行った。
EPCLの事務所にはいつもミヤとミッツーがいた。
たまにキスケと呼ばれる男性がきている。
EPCLの事務所は複数の県にあり、会長であるミヤのいるこの事務所が本拠地である。
合間を見つけてきているが、2週間もいればおおよそのことがわかってきた。
ミッツーは心の声が聞こえる耳を持っている。
彼女の意思に関係なしに聞こえてきてしまうらしい。
能力的な相性もあるらしいが、ほとんどの人の心の声が聞こえてしまうのだという。
主に事務処理や来訪者へのお茶出しなどを行っている。
キスケは影を操る能力を持っている。
りろがミヤとあった日にミヤをあの場所に連れてきたのはキスケである。
たまに帰ってきてはミヤをからかうように話しかけている。
(おそらくミヤが好き…かな)
年齢差は多少あるものの大きくは違わない二人。
仲の良さをミヤに問えば、EPCLを立ち上げる際にそばにいた最初の一人だという。
「で、これからなにするんだ」
ミヤとりろはであった河原に来ていた。
事務所からの移動手段として影の獣を作り出したキスケもそばにいる。
夜のためかその他に人気はない。
ミヤはりろと同い年であることがわかった。
会長だからといって敬語はいらない、私は偉くもなんともないのだから、とミヤは言った。
ミヤは男女ともに好かれるタイプであり、姉御肌な部分がある。
けれどどこか寂しさを抱いているようにりろには見えた。
「まずは暴走を抑える訓練から始めようかなー、と思ってね」
ミヤはりろと距離を取り、りろに向かって何かを投げた。
りろが受け取ると、それは口紅だった。蓋を開けると中は赤い色。
ミヤも同じものを手に持っている。
「互いが互いの隙を見つけて、相手に書く。たくさん書いたほうが勝ち。いたってシンプルだよー」
「…ふむ…」
キスケは二人から少し離れた場所に座り、周りを気にした後寝ころんだ。
「キスケー。制限時間は15分でお願いねー。終わったら教えてー」
「おーう」
ミヤの声にキスケはやる気のない声で返事をした。
りろにミヤが向き合う。
口紅の蓋をはずし、ポケットにしまう。
ミヤも同様に準備を整えていた。
「さあ、おいで」
ミヤは両腕を広げ、挑発してきた。
開始の合図であった。
ミヤは小柄で体型はいささか丸い。とても素早い動きができるようには見えなかった。
対してりろはスポーツの経験があり、体力に自信があるわけではないが、女の子を相手にするのであれば話は違う。
「ウソだろ…」
しかし、15分後、服も肌も朱く染まったりろがいた。
ミヤには一切赤い印はついていない。
「うーん。結構のめりこむと熱くなるタイプだよねー」
ミヤは紙一重でりろの手をかわし、そのたびに逆にりろを染める。
確実に仕留めたと感じた一手さえも避けられる。
避けるたびにミヤは悪戯っぽく口角を上げる。
誘う様に挑発する。その表情に少し苛立ちを覚えた。
15分動き回り、さすがに疲れたりろはその場に座る。
傍に寄ってきたミヤがりろの頭を撫でる。
「かなり挑発したのに、りろがうっかり能力を暴走しそうになったのはたったの2回。偉い偉い」
「え…ああ…そうか」
りろは少し忘れていた、ミヤの能力を。
ミヤの持つ『真実の瞳』は全てを見透かすことができる。
行動すべてが彼女の視界の中。
次の一手など全て把握され、避けられる。
紙一重で避けたり、挑発してきたのは全てりろの暴走具合を測るためだったのだとりろは理解した。
「基本的に理性が働くタイプだから、カッとなった時を除けば力の制御はできてるんだよねー」
「そうなのか。でも、そのカッとなったときの制御が大事じゃないのか…」
りろは初めて暴走したときのことを忘れていない。
バイト先の女性が純真無垢な子供になってしまった。
ミヤはりろの前に手を差し出した。
「…なに?」
「やってみようか。どれぐらい力を放出するれば、どの程度浄化されるのか試してみよう」
りろは首を横に振った。
ミヤが無理矢理りろの手を握る。
その手は小さいが温かかった。
「安心しなって。仮に暴走して私が純真無垢な子供になってもキスケがどうにかする」
りろとミヤの視線がキスケにうつる。
さっきまで寝ころんでいた起き上がりキスケが不機嫌そうにこちらをみている。
「また俺かよ」
「キスケはりろとは対極の位置にある。さすがキスケだ」
「…まあな」
りろがミヤの顔を見ると、ミヤはニコッと笑った。
りろの手を握るミヤの力が強くなる。
バイト終わりの帰り道に女性に握られたあの時とは違う。
安心できるぬくもりだった。
「見ての通り、私の体には不要なものが溜まっている。少しずつ強めるように力を放出していってくれ」
りろの能力は浄化。
触れた者の体や心の澱みを消し去ることが出来る。
りろはミヤの手を握り返した。
「…その無駄な腹の肉、取ってあげるよ」
「言い方あるだろ、他に」
「…その胸と太ももはせっかくだから残そう」
「変態」
りろは気持ちを落ち着かせながら、少しずつ手に力を込めた。
自身の体から熱が広がっていくのがわかった。
その熱がミヤに浸透していくのが見えるような気がした。
そして、その熱をミヤがすべて受け入れてくれたように思えた。
力だけじゃない、自分自身も受け入れてもらえたような錯覚に陥った。
その感覚は心地よく、気が付けば目を閉じていた。
次第に手先がじりじりと熱くなった。
「おい!りろ!」
キスケの声にハッとして、目を開けると、そこにはミヤによく似た幼い子供がいた。
子供は首を傾げてりろを見ている。
りろは血の気が引く気がした。
慌てて手を放すと、キスケが子供を抱きしめた。
キスケの体から溢れた影が子供を包み込む。
数秒後、影が晴れ、中からいつものミヤが姿を現した。
「ミヤ!」
思わずりろはミヤに駆け寄った。
肩や腕に触れる。見覚えのあるミヤがそこにはいた。
「加減、わかったみたいだね」
ミヤの顔をみると、いつものように会長の表情をしていた。
ほっと胸を撫で下ろす。
りろは小さく頷いた。
(…この女にはかてねぇな…)
しかし、悪い気はしなかった。
「あああああああああああ!!」
当然、ミヤが声を上げた。
「せっかく!せっかく浄化してもらった不要な肉が!脂肪が!もとに戻ってるーーー!!!」
服の上からお腹を掴み、ミヤは泣きそうな表情をしていた。
すぐさまミヤはりろの手を握った。
必死の形相でりろに詰め寄った。
「もう一回!もう一回いい感じに!ほら、もう加減わかるでしょう!」
「ミヤ、諦めてちゃんと自分でダイエットしろよ。りろが困るだろう」
「キスケは黙ってろーーー!!第一テメェがやりすぎなんだよーーー!」
「あんだと、このクソガキ!」
「やんのか、陰湿野郎!」
二人が喧嘩をはじめたため、りろは少し離れてみていることにした。
(ミヤが勝つに1票)
二人の喧嘩は心配してやってきたミッツーの説教がはじまるまで続いた。
END
【科学と超能力の世界の理】浄化する者
こんな感じの設定でした。
=======
浄化する者。
科学が栄える中に特殊能力が混じる世界で、『超感覚的知覚者保護連盟』通称『EPCL』に所属。
触れた者の身体や心の澱みを消し去る能力。
能力が暴走すると、相手を純真無垢な子供にしてしまう。
EPCL会長に力のコントロール方法を教わる。
ドS。