鬱くしく咲き誇れ

鬱くしく咲き誇れ

…もう随分、遠い昔のことにございます。
私は裕福な家庭に生まれ育ちました。
母上が亡くなった翌年からでしょうか。父上が私に悪戯をするになったのです。
それは年々酷くなって参りましたが、使用人達も父上には力及ばず、目を瞑る次第にございました。
私は母上とよく似ておりました。ええ、とても。とてもそっくりだったのです。
性器は違えど、私と母上は姉妹のように美しかったのでした。
この顔で良かったと思ったことは一度もございません。
父上からは毎日のように犯されますし、周りの男児には「神崎、男なのにそのような顔立ちなの、気持ち悪い」などと言われる始末にございます。
私は毎日後処理が終わり父上が頬に口付けを落とし、甘ったるい愛を囁いて部屋を出て行った後においおいと泣くのでした。


そんなある日。(その頃は高校生でした。)私のクラスに、女子生徒が喜びそうな顔立ちをした男子生徒が編入して参りました。
その男子生徒は先生とこそこそ話をし始め先生が私の方へと指を指すのです。そうして、何かをその男子生徒とこそこそと話をしておりました。
私の元へとその男子生徒がやってくると、隣の席へと座るのです。
「初めまして、俺"篠宮 鶴太(しのみや つるた)"っていうんだ。宜しくね?」
いや、さっき黒板の前で自己紹介をしていたじゃないかと思ったのを喉の奥に押し込んだ。
「初めまして、篠宮くん。僕は"神崎 雪(かんざき せつ)"」
ああ、と篠宮くんは言うのです。
「鶴太でいいよ、雪。仲良くしよう?」
妖艶に笑う鶴太に私は恍惚としました。それが鶴太と私の出会いでした。


毎晩、毎晩。日に日に酷くなる父上の性交渉の仕方が私にはとても耐えられなくなりました。家を逃げ出したいとも思いました。
けれども、出来ませんでした。丁度、鶴太と出会ったときくらいでしょうか。その頃、一度だけ逃げ出したことがあるのです。
ですが、失敗に終わりました。使用人達に見つかってしまい、挙げ句の果てに父上に暴力を振るわれながら、強く抱かれてしまったのです。これ程の耐え難いものがあったでしょうか。いいえ、ございません。

学校へはそれ以降休みがちになりました。鶴太とは数回話した程度でしたが、私の唯一の友人となっておりました。
窓の外をぼーっと眺める日々が続く中、「おーい」声が聞こえました。ふとそちらの方を見やると、鶴太が此方に向かって手を振っていました。
私は何故だか、とても陽気な気持ちになりました。
「雪、どうした?何があったんだ?何で会いに来てくれない?」
真っ直ぐな瞳で此方を見やる鶴太に私は目を伏せました。何だか恥ずかしかったのです。
「おい、雪…?」
ゆっくりと鶴太に目線をずらしました。
「ごめん、ごめんね。」
私はおいおいと鶴太の胸で泣くのでした。
「落ち着いたか?」
こくり、私は頷きました。
鶴太は、ふぅと息を吐き、「移動しよう」そう私に告げ、私の手を引き、歩き始めました。門を出て外へと飛び出し、もっともっと深い山の奥の方へと手を引かれるまま。私は歩くのでした。


どのくらい歩いたのでしょうか。鶴太は、ぴたりと立ち止まりそして此方へ振り向くのでした。
「噂で耳にしたんだけど、雪、お前…親父に毎晩、犯されてるんだって?」
「っ…!」
動揺を隠せませんでした。私の心の中にはこれしかありませんでした。『どうしよう』
「その様子じゃ本気(まじ)みたいだな…何で俺に言わなかったんだ?」
何で幾日か前に会った鶴太に話さなきゃいけないんだ?何で?誰が鶴太に告げたんだ?などと私の頭はぐるぐる、ぐるぐる。同じことを過ぎりました。
「…雪っ」
私は一瞬何が起きたか分かりませんでした。私は抱き締められていたのです。
「鶴太?」
「気付いてやれなくてごめん。俺、俺。お前の友達なのに…辛かったろ?ごめんな。」
何で鶴太が謝るんだ?悪いのは僕の方じゃないか。何で?
「今日から俺と一緒に居ろよ。俺お前が心配なんだよ。」
「でも、知ってるだろ?僕の父上から逃れることなんて出来ないんだよ…」
涙目ながら訴える。それでも鶴太は、「俺が守るから」その一点張りでした。
その言葉を信じて、私は鶴太の家へ邪魔することになりました。
鶴太の両親は鶴太が小さな頃に亡くなっており、鶴太は一人暮らしをしていたのでした。
初めての友人。初めての他人の部屋。胸の高鳴りが抑えられないでいました。
それから幾日もの間、鶴太の家で緩やかな日々を暮らしておりましたが、とうとう父上に身元がバレてしまいまして、そこで私達は逃げることに致しました。
何処まで逃げられるのかという、私達にとってはゲーム感覚でした。
遠くの方まで逃げて。逃げて、逃げて。それでも、父上は見つけ出すのです。
私達は疲れ果ててしまいまして、鶴太と話し合った結果、心中することに決心致しました。
海の方へと鶴太と手を繋ぎ歩いて入水していきました。その足を鶴太がぴたり、止めたのです。
「何か思い残したことはないか?」
「鶴太と口付けを交わしたい。」
私はずっと心の中に秘めていたことを告げました。私は鶴太を愛してしまっていたのです。鶴太は少しの間、目を大きく開かせた後に私にあの妖艶な笑みを見せ、言うのです。
「俺も雪と口付けを交わしたいと思っていた。」
私の方が目を丸くさせていました。間も無く、鶴太の端整な顔立ちが迫って来ました。最初は触れるだけ。触れるだけを繰り返し、今度はぬるりとした感触が私を興奮させました。何度も。何度も。口付けを交わしました。
途端に鶴太が私の着物を開(はだ)くのです。暗がりなのであまり鶴太の表情は見えません。私の一物を咥え始めました。
「な…にしてるの?」
咥えながら話すもんのだから何を話しているのか分かりませんし、その初めての感覚にびくびくさせるばかりでした。
「鶴太、もう、いい…」
息途切れ途切れになりながら私は告げましたが、口を離す様子はありません。私は小さく喘ぎ果てました。ごくん、鶴太の喉が鳴ります。
「さ、行こうか。」
何事もなかったかのようにそう言う鶴太を見てると何故だか哀しくなりました。
顔だけ浮いた状態になりました。そこで最後の言葉を言い合うことにしました。
「雪、愛してる。誰よりも。俺はお前を愛してる。」
「鶴太、僕も鶴太を愛してるよ。来世で会おうね?」
そう言いながら私達はあの世へ旅立ちました。


私と鶴太はその後、同姓の双子の兄弟として生まれ変わっていましたが、鶴太は私のことを覚えてはいませんでした。
私だけが、そっと。あの日の思い出を胸に生きています。

鶴太、私はあの日の出来事を忘れません。
父上からの呪縛を解いてくれたのも貴方でした。愛してる。これからも、ずっと。見守り続ける。

鬱くしく咲き誇れ

夜中眠れずに三時間かけて書いた作品です。
書きながら考えて作ったのですが、結構長くなってしまいました。
男同士の恋愛、近親相姦。詰め込みました。

鬱くしく咲き誇れ

父親との関係。そしてそれから主人公の前世と来世のお話です。

  • 小説
  • 掌編
  • 恋愛
  • 成人向け
  • 強い性的表現
  • 強い言語・思想的表現
更新日
登録日
2014-09-16

Copyrighted
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