【魔術師世界の理】バーの店主

ツイッターで募集した「リプしてくれたフォロワーさんを自分の世界観でキャラ化する」の小説もどき化。
過去に書いた小説の世界にフォロワーさんに住んでもらいました。

バーの店主

この世界には魔術を扱うことができる魔術師と扱うことのできない無能者がいる。
その区別は生まれた時に決まり、魔術師が無能者になることや無能者が魔術師になる例はない。

かつて、魔術師が人口の8割を占めていた時代に
魔術師嫌いの王が魔術師を次々と滅ぼしていった。
「殺人鬼でも医者でもなんでも構わん! 魔術師はすべて殺せ!」
魔術師は次々と姿を消した。
王の命令が下されてから10年後、
生き残った魔術師が王政を廃止させる革命を起こした。
しかし、時すでに遅く、無能者にとって魔術師は恐ろしい存在となってしまっていた。
魔術師たちは身を隠すように暮らし始めた。

にんにんもその一人である。
国の中心部から離れた田舎のさらに奥の森にバーを作った。
綺麗な川が近くにあり、水を扱う魔術師であるにんにんにとっては好都合であった。
果実も多く実る森、近くに村は魔術師に友好的であることも幸いした。
今日もにんにんは村人や旅の魔術師に酒を振る舞う。
「邪魔するぞ」
「あら、いらっしゃい」
久しぶりににんにんのバーに訪れたのは蒼い髪の少女。
≪ブルーローズ≫の通り名を持つ伝説の魔術師。
この店の常連である。
「おめでとう、ササリー。呪いがとけたって聞いたよ」
ササリーはカウンターの席に座る。
見た目が12歳ぐらいの彼女には椅子が高く、足を揺らしている。
にんにんは深めのコップをササリーの前に置いた。
コップいっぱいの大きな氷を一つ入れ、淡い桃色の酒を注ぐ。
コップの上でにんにんは人差し指を回すと、氷が次第に解け、氷が薔薇の形となった。
「これはお祝いのサービスっ」
「…ありがとう」
ササリーは照れくさそうに笑った。
彼女は敵に『大きな魔法を使うと若返る呪い』をかけられた。
年齢でいえばにんにんよりもはるかに年上である。
勿論国で定められた飲酒可能年齢である28歳も超えている。
「ところで、外にいる男の子は入れないの?」
窓の外で一人の少年が中を覗き込んでいた。
ササリーはコップに口をつける。
ほんのり甘い味と果実の香りがする。
薔薇の花びらがバーの照明を反射し、まるで祝うように輝いている。
「あいつは飲酒可能年齢に達していないからな。美味い酒だ…」
「あー、うちにジュースはないからねー。氷かじってもらう?」
そう言ってにんにんは皿をだし、直方体の氷を出した。
指を鳴らすと、氷が解け、ある形をなった。
ササリーは眉間に皺をよせ、にんにんを白い目でみた。
「お前、これは…」
「えー?ただのビックフランク型だよー?ササリーちゃんったら何考えてるのー?」
にんにんは氷の魔術に長け、ササリーに振る舞ったように美しく氷を造形することができる。
しかし、時折誤解を招くものをつくるときもある。
悪戯っぽく笑うにんにんをよそにササリーは空中に文字を描き、魔術を発動させた。
にんにん曰くビックフランク型の氷はあっけなく粉砕された。
表でみていた少年が震えながら小さくなったのは別の話である。

今日も森の奥のバーでは楽しい笑い声が響く。
「いらっしゃい。村から来て疲れたでしょ。座って座って」
魔術師と無能者が再び平和に暮らせる日も近いのかもしれない。

元王の御膝元

かつて王の住む城があった国の中心部に位置する町。
国営図書館や規模最大の市場など立ち並ぶ活気あふれる町。
技術が発展し、最も無能者の多い町。
かつて魔術師嫌いの王が出した魔術師への恐怖心が一番根付く町ともいえる。
魔術師は白い目で見られ、この町では住むのは難しいだろう。

にんにんはその町に買い出しに来ていた。
バーを営むにあたり、おおよその素材は森の恵みを頂戴する。
生活には問題ないのだが、品種改良された果実があると風のうわさで聞いた。
瑞々しく糖度が高く、それでいてさっぱりとした味わいだという。
実を食べてもよし、皮を干してもよし、種を炒ってもよし。
この町でのみ取引がされているその果実を使った酒を造ってみたかった。
「ごめんね、付き合ってもらって」
「構わないわ。私もこの町に用があっただけ」
友人であり、第一級魔術師である≪ブルーローズ≫ことササリー・ローズとともに町にきた。
無能者であるがササリーの弟子であるアッシュ・ラルも同行している。
町には行きたかったが、ササリーと違い攻撃魔法を多く有していないにんにんが一人旅をすることは危険であった。
たまたま店にきていたササリーにそのことを話すと、同行してくれるというので甘えることにした。
町の傍まできて、そのあとはにんにんが先に町に入った。
ササリーとアッシュは別行動するという。
お目当ての果実はすぐに買えた。
魔術師ということがバレなければ何不自由のない町。
そう、魔術師とばれなければ。
(あ。ササリー)
大通りにでるとササリーたちがいた。
人々が道を開け、避けて通る。
ヒソヒソとササリーたちを見ながら冷たい眼差しを向けてくる。
ササリーは世界でも有名な魔術師であり、無能者でもその名と特徴を知っている。
石を投げる者がいる。罵倒する者がいる。怯える者がいる。
ササリーは怯むこともなく、歩き続ける。
アッシュはその後ろをついて歩く。
目の当たりにしたかつての王が残した爪痕。
(別行動しようと言ったのはこういうことなんだ…)
にんにんは町の外で約束した通り、一定の距離をあけて後を追うことにした。

ササリーたちは国営図書館に入って行った。
その大きさににんにんは思わず見上げてしまった。
恐る恐る中を入ると、受付にいるササリーたちを見つけた。
一人の女性に案内され、建物内のどこかに向かって行った。
(ササリーがきたかったのって図書館だったんだ。私も何か見ようかな)
にんにんは図書館の中を見て回ることにした。
歴史の本、技術の本、宗教の本、生活の本、様々な本が並んでいた。
さすがに魔術に関する本は一冊もなかった。
子供たちが一か所に集まり、遊ぶ場所もあるらしい。
その位置が窓際であるためか、光が差し込み輝いている。
絵本を見ながら楽しそうに会話している様子はいっそう楽しそうに見えた。
にんにんは生活に関わる本が並んでいるエリアにきた。
(何か美味しいものでもササリーたちに…)
魔術よりも技術が発展した町にある本はどれも刺激的だった。
食べ物の保存方法や加工の仕方は今度役に立ちそうな情報だった。
本に見入っていると、外から大きな音が聞こえてきた。
強烈な破裂音と閃光。
大きな音は次第に近づき、ついには図書館を揺らした。
人々の悲鳴と共にガラスが割れる音がした。
ハッとしたにんにんは子供たちがいた場所を見た。
大きな窓の上部が割れ、砕けた窓ガラスが子供たちに降り注ごうとしているのが見えた。
「だめっ!」
にんにんは考えるよりも早く駆けだし、手を伸ばした。
子供たちを守るように分厚い水と氷の壁を出現させ、砕けた窓ガラスをすべて受け止めた。
「はやく、もっと中に」
子供たちにそう告げたが、目を丸くして震えたままでいる。
大人達から悲鳴が上がる。
「魔術師だ!子供たちが襲われている!」
「誰か!誰かうちの子を助けて!魔術師に殺される!」
にんにんは困惑した。けれど納得した。
どんな状況であっても残された爪痕は深すぎた。
「ちがうもん!」
一人の子供が立ち上がり、他の子供たちに立つように促した。
「ししょさんが言ってたもん。まじゅつしは、こわい人もいるけど、それはあたしたちも同じだって。まじゅつが使える使えないには関係ないんだよ、って。このおねえさんはあたしたちを助けてくれたもん」
「いいからじっとしていなさい!今、この女を」
「おとなはこんなこともわからないの?」
大人たちは口をつぐんだ。
この子供を先頭に全員が窓際から離れる。
にんにんはガラスのかけらを一か所に集め、そのまま氷漬けにした。
子供たちの方へ振り返ると、どうやらけが人はいないらしい。
ほっと胸を撫で下ろしていると、さきほど叫んだ子供と目があった。
「ありがとう。あなたのおかげで助かったよ」
子供は満面の笑みを見せ、Vサインをにんにんに向けた。
にんにんはVサインを返すと、入り口に向かった。
(爪痕は少しずつ…少しずつ…いつかきっと)
またかつて魔術師と無能者が共存していたころのように。
そこには音を聞きつけてきたであろうササリーたちがいた。

その後、にんにんが町で起こる事件に巻き込まれたのはまた別のお話。

【魔術師世界の理】バーの店主

こんな感じの設定でした。
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魔術師のいる世界に住むバーの店主。
水を扱う魔術師。
本人はそこまで酒豪ではないが、作る酒は美味しい。
伝説の魔術師≪ブルーローズ≫も定期的に彼女の店にやってくる。
飲み物に入れる氷の形を可愛い物から卑猥な物まで客に合わせて変える。
儲けはあまりない様だ。

【魔術師世界の理】バーの店主

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-09-15

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Copyrighted
  1. バーの店主
  2. 元王の御膝元