愛しの都市伝説(6)
.六 伝説で街おこしを
「伝説で街おこしだって!」
素っ頓狂な声を出したのは、T町商店街の役員たちだった。会長の沢野は腕組したまま、にこにこしながら聞いていた。
「そうです。伝説で町おこしです」
言い切ったのは、街おこしプロデューサーの中上だった。
「そんな、こんな町に伝説なんてないよ」
「あったら、こんなに寂れていないよ」
「昔、賑やかだったってことが、伝説になっているよ」
「それ、皮肉?」
「いや、現実」と、役員たちは、人の話は聞かずに、自分の意見だけを垂れ流す。
「伝説でなくてもいいですよ。とにかく、このままでは、この商店街は本当に死んでしまいます。今こそ、力を合わせて、この街を盛り上きましょう。そのためにも、街おこしのアイデアが必要です」
中上が叫ぶ。その横で、沢野は腕組をしてうなずく。
「何がある?」
「何もないぞ」
「もし、あったとしても、どうやってやるんだ」
「金はないぞ」
「誰かが支援してくれるのか」
「市や県に頼もう」
「よし。そうだ、これから担当課に押し掛けよう」
「いいえ。自分たちでやるんです。他人任せはだめです」
中上が釘を差す。頭を垂れる役員たち。
「知恵を絞りましょう。みんなで意見を出しましょう」
中上がみんなに語り掛ける。みんなは頭を掻いたり、口をへの字にしたり、メガネをはずしてみたり、貧乏ゆすりをしたり、顔を洗ったり、様々なことをして、無い知恵を絞りだそうとしている。
「そうだ」
一人の役員が立ち上がった。
「さっき、中上さんから伝説の話が出たけど、この商店街にも、いくつか伝説があったはずだ。それを売りに出したらいいんだ」
「そんな、伝説ありましたかね」
「思い当たらないなあ」
「あったような気もする」
「なかったら、作るか」
「それは人を騙すことになるよ」
「どうせ、伝説自体が人を騙しているようなもんじゃないか」
役員たちは答えのない会話を繰り返す。
「そうです。みなさん、この商店街に関係した伝説を探しましょう。今は消えてなくなったり、消えそうな伝説が、きっとこの街にもあるはずです。その伝説にお願いして、この街を活性化させましょう」
中上が繰り返す。今まで、黙っていた沢野会長の口が開いた。
「伝説を探そう。この街にしかない伝説を!」
役員たちは早速、商店街の各会員の家を訪ね、伝説を探した。
愛しの都市伝説(6)