ラッキーセブンの攻撃

さあ、攻撃だ


その男の名はトミー。
私の妻の父親です。私の義理の父にあたります。
と言ってもトミーは外人ではありません。れっきとした新潟生まれの純日本人です。
名前に「とみ」が入っているので私と妻の間では彼をトミーと呼んでいるのです。
トミーは加山雄三と大した誤差のない年齢ですがこれといった病気もなく毎日元気に暮らしています。
トミーは上背はありませんが和服の良く似合うずんぐりむっくりの体型で背筋は伸びてますし足腰も実に達者で短い足を有効に効果的に動かしてスタスタ歩きます。
髪だって今でこそ多少白いものが混じっていますが年齢のわりにふさふさでいつもオールバックにキメています。
居間のサイドボードにはトミーの還暦祝いの時の写真が飾られています。家族集合写真ですがトミーだけが当時と今と変わっていません。
年月を感じさせない男、それがトミーなのです。
そう、トミーは「若い」のです。
トミーは四十年勤めあげた会社を定年退職した後、それまで十五年乗ってきた「カローラ」に別れを告げ、憧れだった「クラウン・ロイヤルサルーン」を購入しました。
「いつかはクラウン」はトミーにとってその時が「今でしょ」だったのです。
こうしてトミーの愛車は新興国のIT企業株の如く急成長を成し遂げたのです。
しかし急過ぎました。
あちこちぶつけ、擦り、数回JAFのお世話になり、数年後トミーはヴィッツを購入していました。
クラウンは長男に譲りました。
ちなみにトミーは二男一女に恵まれ、末娘が縁があって私のところに嫁いできました。
長男、次男はそれぞれ独立していますが独身です。
トミーは六十代の最後に一大プロジェクトを実行しました。自宅の建て替えです。
特に長男の慶事が控えているわけでもなく、単に老朽化がその主な理由でした。
トミーは思いきりが良いのです。
数ヶ月後、無事完成したトミー宅に私は目を見張りました。
総二階で延床面積七十坪だったのです。ちょっとしたマンション二軒分です。ちょっとした御屋敷です。ここに夫婦二人で住むのです。
長男が結婚した時のために二世帯住宅になってはいますがその長男の生活の拠点は県外で帰ってくるのは盆と正月だけです。仕事の都合上ここに居を構えるのはずっとずっと先になるでしょう。
それでもトミーは家を建てました。きっと親として、男としてのあるべき決断だったんでしょうね。
当然住宅ローンを組んでいます。長男名義で長男が借り入れ、長男がローンを支払っているそうです。
さすがトミー。抜け目がありません。
そしてトミーは七十代になり念願の夢が叶いました。
初孫の誕生です。
つまり私達夫婦の子供です。
私達夫婦はずいぶん長い間子供を授かる事が出来ませんでした。幾つかの病院で治療やアドバイスを受けましたが叶わず、諦めかけていた時に自然に宿りました。
母子ともに無事で出産した我が子を見て私達は感動し喜び合いました。
それ以上にトミーも喜びました。
孫を写真に写し、パソコンを巧みに操り保存、印刷し、アルバムにおさめます。
ミルクを作り、オムツを換え、手を変え品を変えあやします。トミーのいかつい顔でのいないいないバーは妙な迫力があります。
仕事一筋で育児に参加してこなかったトミーはそれを取り戻すように甲斐甲斐しく立ち回ります。
その様子に妻はとても驚いていました。
そんなトミーの今も昔も変わらぬ楽しみが野球観戦です。
ご贔屓チームは阪神タイガース。猛虎会に入会していないのが不思議なくらいの大ファンです。
シーズン中にトミーの家に行くと決まって阪神戦をテレビで観ています。
そんな時はいくらかわいい孫でも早く帰るように私達を促します。集中したいんですね。
新潟生まれの彼が何のいきさつで阪神ファンのなったのかはわかりません。だって本人がよくわかっていないんですもの。
トミーの年代だと王、長嶋の全盛期をリアルタイムで見ていたはずですからどちらかと言えば巨人ファンになりそうですけど。
まあ、トミーらしさが出てますね。
野球で言えばエースピッチャートミーは今七回の裏、ラッキーセブンの攻撃です。ファンファーレが鳴り、ロケット風船が空を舞います。
勝っているんでしょうかね、それとも逆転を期しているのでしょうか。点差が気になります。
でもトミーには後八回、九回が待っています。どこにドラマがあるかわかりません。
ひょっとして延長戦になるかも。あり得ます。
トミーはマウンドに立ち続けてきました。そして幾多のピンチをしのいできました。チャンスをものにしてきました。
だけどいつかは試合が終わります。トミーがマウンドから降りる時が来るのです。
九回まで投げて延長戦も投げられるでしょうか。それとも八回途中で降板するでしょうか。
わかりませんが私達にできる事はその後マウンドに立つトミーの三人の子供、あるいは私がキチンと肩を作り、彼の作った試合を壊さぬようにゲームセットにする事です。
私はそう思います。
ですけどトミー、絶対完投してくださいね。絶対ですよ。
さて、 「若い」トミーは後期高齢者にして去年新車を購入しました。びっくりです。
トミーはこれまで乗ったヴィッツを買い換えました。
ヴィッツに。
ただの色違いです。何の意味があるんでしょうか。
そんなにヴィッツが気に入ったんですかね。
これもまたトミーっぽいですけど。

おわり

ラッキーセブンの攻撃

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ラッキーセブンの攻撃

私が日々の暮らしで感じた事、思った事、思い出した事を書いています。 気軽に読んでくれたら嬉しいです。 今回は義父のおはなしです。

  • 随筆・エッセイ
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-09-12

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