異世界御伽草子

エピローグ

時は二○三七年四月二八日、
城南区大森駅近くの山王台に二人の仲良しな夫婦と三人の男女の兄妹弟が住んでいた。
その家族は、大井家。
大井祐・大井みなみの二人とその間に産まれた(長男)大井祐次、
(長女)大井梢・(次男)大井正和の三人のことを示す。
このうち、二番目の女の子の大井梢は、
祖父母及び母親の大井みなみと同じで色違い、
かつ産まれた時に紫色の輝石・玉・勾玉の付いた首飾りを持っていた。
さて、
「お父さん・お母さん・まっくん、おはよう……」
大井梢は朝目覚めるなり、寝間着から部屋着に着替えて居間に向かい、
爽やかな様子を見せて両親の大井祐・大井みなみや弟の大井正和に朝の挨拶をした。
対して、
「梢、おはよう……」
両親である大井祐・大井みなみの二人、
「姉ちゃん、おはよう……」
また弟の大井正和がそれぞれ気前よさそうに大井梢へ言葉を返した。
大井梢は家族と言葉を交わし、
朝御飯を食べて二時間程勉強した後、或る所に向かった。
同時刻、場所は三重県亀山市の里山にある大字狛沢町。
ここに大井梢の叔母や叔父の並木沙織・並木杉弥、
また、二人の間に生まれた長男と双子の姉妹が住んでいた。
このうち、双子姉妹の妹・並木香織ことアンドロメダは、
一週間前に亀山まで開通したリニア新幹線に乗り、
東京・馬込の祖父母、並木喜一郎・並木理佳(共に六五才)宅に遊びに行くことになった。
そして、
「父ちゃん・母ちゃん、行って来ますねん……」
彼女はキャリーバッグを持ち、
威勢の良い声で父親の並木杉弥・母親の並木沙織に言葉を掛けた。
対して、
「香織、行ってらっしゃい……」
並木杉弥・並木沙織の二人も、三重訛りの言葉で娘の並木香織に答えた。
家を発った並木香織は、徒歩二○分の所にある狛沢橋バス停から亀山市行きバスに乗った。
その次に、
彼女はあらかじめインターネット予約していた海鉄・中央リニア新幹線の切符を、
窓口氏こときいろの窓口で受け取り、
朝九時一○分亀山市発品川行・差羽二○六号に乗車した。
亀山市を発ったリニア新幹線は、
途中名古屋・新多治見・伊那飯田(飯田)・甲府大門(市川大門)、
新相模原(橋本)の順に止まった。
一時間後の午前一一時一○分頃、リニア新幹線は終点の品川駅(地下)に到着した。
そこで下車した彼女は、手にキャリーバッグを引き、
東鉄・東北京浜線に乗り継いで急ぎ大森を目指した。
午前一一時二○分、大井梢は大森駅前の降車専用バス停にいた。
どうやら、彼女は誰かと待ち合わせているようであった。
この日、大森駅前の池上通りでは老朽化したガス管の取替作業が行なわれており、
池上方面の一車線を使っての交互通行がされていた。
まもなく、一〇分程遅れて荏ノ花からのバスが到着した。
車内から彼女の母方の叔父、
すなわち横浜市都筑区江田に住む千倉大輔が降りた。
その彼は、
「梢、久しぶり。
遅れてごめんね……」
明るい微笑みを浮かべて姪っ子の大井梢に言葉を掛けた。
対して、
「大輔叔父さん、お久しぶり。
元気だった……
大井梢も気前よく叔父・千倉大輔に答えた。
そうこの日は大井梢の誕生日、
千倉大輔は冬のボーナスを奮発し、
彼女に誕生日プレゼントを買ってあげることになっていた。
よって千倉大輔は、大井梢を引き連れてシンライ百貨店に向かった。
そこで、大井梢は色とりどりの衣服や水着を手に取った。
そして、
「大輔叔父さん。
私、可愛いかな……?」
彼女は薄紫色のブラウスを試着し、叔父の千倉大輔に見せた。
これに対し、
「梢、まるで中学生の頃の姉さんにそっくりだね……」
千倉大輔は自らの姉、また彼女の母親・大井みなみの中学生時代と重ね合わせ、
大井梢に答えていた。

エハラの世界で

五分後、大井梢とその叔父・千倉大輔は、
衣服などを購入して山王坂の洋食屋に向かおうとした。
また同時刻、
「まもなく、大森です。
お忘れ物ございませんよう、お気を付けください……」
並木香織の乗る東北京浜線は、目的地・大森駅に到着した。
さて、
「ここが大森、
めっちゃ息苦しゅうとこやね……」
並木香織はホームに降り立ち、
自らの住む自然豊かな三重の里山では見ない雑居ビル群に圧迫感を覚え、
改札氏・窓口氏・コンビニ氏・通行人などにパス停の場所を教えてもらい、
迷った末に馬込臼田経由・荏ノ花行バス停の前に着いた。
丁度彼女の三メートル先では、大井梢・千倉大輔の二人が、
横断歩道待ちをしていた。
そうしているなり、大きな地響きが起き、
地響きと共に池上通りの地面が一瞬のうちに破裂・爆発した。
これと共に、周囲は凄まじい熱風が吹き、
瓦礫が宙を舞った。
ガス爆発によって、並木香織及び千倉大輔・大井梢らは、気を失ってしまった。
場所は変わり、物質世界と対をなす第二物質世界の地球。
例のガス爆発に巻き込まれた千倉大輔・大井梢・並木香織の三人は、
どういう訳だか、その世界に迷い込んでしまった。
そして、
「あれ、梢ちゃん・大輔はん……!?」
並木香織は目を覚まし、周囲を見渡した後、
近くで気絶していた(自らの)従姉にあたる大井梢、
また母親である並木沙織の兄・千倉大輔としてそれぞれ認識し、
心配そうに言葉を掛けた。
「あれ、あなたは三重の香織ちゃん……!?」
千倉大輔・大井梢もこれに応ずるかのように、目を覚まして起き上がり、
驚いた表情で目の前にいた並木香織に言葉を返した。
また、
「大輔叔父さん・香織ちゃん、ここって日光の戦場ヶ原かな……?」
大井梢は辺りを見渡し、
自分たちのいる場所が栃木県日光市内ではないか千倉大輔や並木香織に問うた。
この問いに、
「梢ちゃん・大輔はん。
うち、小さい頃父ちゃんと戦場ヶ原行ったんねんけど、こないな風景やないで……」
まず並木香織は、幼少期に父親・並木杉弥といった日光・戦場ヶ原の風景、
目の前の風景を照らし合わせてその事実を否定した。
次いで、
「梢、ここが戦場ヶ原なら草紅葉があるはずだけど、
ここには葦しか生えていないよ……」
千倉大輔は職場のハイキングおたくの友人から耳にした情報、
また目の前の風景を照らし合わせて彼女に答えた。
そうしているなり、
「きゃあ、助けて……!!」
何処からともなく女の子の声が辺りに木霊した。
その為、
「大輔叔父さん・香織ちゃん、彼処から女の子の悲鳴が聞こえる。
行ってみよう……」
「梢、わかった……」
「梢ちゃん、助けに行こか……」
緊迫した雰囲気の中、三人は言葉を掛け合ってその悲鳴のする方向に向かった。
三人の向かった先には、
並木香織の双子の姉・並木四季似の姫君(出で立ちは弥生人)が、
古事記の八俣大蛇似の獣に追われる様子があった。
その為、
「大蛇よ、四季姉様をいじめるんやない……!!」
並木香織はいてもたってもいられず、
頭に青色の木櫛を挿し、たまたま持ち合わせていた和弓、
さらにSPS能力の念力を用い、獣に何本か矢を放った。
彼女の放った数本の矢は、自らの念力によって位置修正されながら獣の腹を貫通した。
だが、どうした訳だか例の獣はうろたえる様子も見せず、
さらに勢いを増して並木香織や千倉大輔・大井梢らに襲い掛かろうとしていた。
これには、
「こいつ、弓矢利かへんの……!?」
並木香織は驚いた表情を浮かべて、不満げに言葉を呟いた。
次いで、
「どうすれば良いの……?
このままでは、私たち蛇の獣に喰われてしまうわ……」
大井梢は千倉大輔・並木香織と後退りしつつ、
この危機的状況を打開するアイデアが無いか考えた。
そして、
「そうだ、これだ……!!」
「大輔叔父さん、ごめんなさい……」
大井梢は思い悩んだ末、叔父・千倉大輔の頭を申し訳なさそうに叩いた。
それと共に、
「吾が名は水亥彦・フオーマルハウト、か弱き女子をいじめる獣よ。
母様の宝剣で叩き切る……!!」
千倉大輔はオレンジ色の光に包まれた後で剣と弓矢を持つ勇者、
つまり水亥彦・フオーマルハウトに変身した。
続けて、
「梢ちゃん、うちに力を貸してや……」
「香織ちゃん、わかったわ……」
並木香織は何かアイデアらしきものを思いつき、従姉の大井梢を呼び寄せた。
また、
「獣よ、我が母様の聖剣を喰らえ……!!」
水亥彦はテレポーテーション能力を用い、
あちらこちらに現れては獣の身体に母親の剣で切り掛かった。
それと共に蛇の獣は、忽ち悲痛な唸り声をあげた。
これと共に、
「獣よ、私たちの弓矢の洗礼を受けよ……!!」
大井梢・並木香織は一本の弓矢を握り、獣に対して言葉を放った。
二人のうち大井梢は気力を集中させ、目を瞑って並木香織と呪いを唱え、
蛇の獣に矢を放った。
それを受けた蛇の獣は、矢から広がる炎や水に巻き込まれ、悲痛な唸り声を発して倒れた。
次に、
「ふっ、獣よ。
参ったか……」
水亥彦は蛇獣の心臓に止めをさして言葉を呟いた。
それと共に、水亥彦は気を失い、元の千倉大輔の姿に戻った。
なお、
「大輔叔父さん……」
「大輔はん……」
弓矢を持っていた並木香織・大井梢の従姉コンビは、元の姿に戻った彼に駆け寄った。
そして、
「あれ、梢・香織ちゃん。
僕は何をしていたのかな……」
千倉大輔は水亥彦になっていた時の記憶がないらしく、
不思議そうに大井梢・並木香織らに言葉を返していた。

エハラ国の姫 ポリマ・アルテミス

さて例の三人が話し合っていると、蛇の獣に追われていた姫君が彼らに近寄ってきた。
さっさく、
「何処の何方かわかりませんが、助けていただきありがとうございます……」
「私は、エハラ国の姫でありますポリマ・アルテミスと申します……」
並木四季似の姫君ことエハラ王国のポリマ・アルテミスは、
自らの紹介を兼ねて千倉大輔らに語り掛けてきた。
対して、
「アルテミスさん。
僕は千倉大輔、彼女は姪っ子の大井梢と遠い親戚の並木香織です……」
年長の千倉大輔が三人の代表として、アルテミスに自分たちの紹介をした。
すると、
「みなさん。
私は一か月前に獣人たちによって国を追われ、いつ彼らに粛清されるかわかりません。
どうか私の国を取り戻し、
また人質になっている母君・兄様・可愛い妹たちを助けてください……」
アルテミスは自らの国が何者かに乗っ取られて母・兄妹が捕まっていることを前置きし、力を貸せないか彼らに求めてきた。
その求めに、
「そういう事情なら、僕達も君に協力するよ……」
まず千倉大輔、
「よっしゃ、うちも力を貸したるわな……」
次いで並木香織、
「私もあなたに協力するわ……」
最後に大井梢が各々彼女の求めに応ずることにした。
それには、
「みなさま、ありがとうございます……」
ポリマ・アルテミスも嬉しそうな表情で彼らに言葉を返した。
続けて、
「あなた方との契約の印として、これを渡しておきます……」
ポリマ・アルテミスは契りの証しとして、身に付けていた水楢のブローチを並木香織。
また貝の指輪を大井梢、
最後に千倉大輔に木櫛をそれぞれ手渡していた。
かくして、エハラ国の姫君のポリマ・アルテミス。
そこに世界に迷い込み、彼女と契りを結んだ大井梢・千倉大輔・並木香織は、
獣人征伐及びエハラ国奪還作戦を開始した。
なおこれ以後、このパラレルワールドを出るまで、千倉大輔はフォーマルハウト。
大井梢はスピカ、最後に並木香織はアンドロメダという名前で呼び合うことにしていた。
同時刻、
「ふっふっふ、死んだはずが生きていたか。
ポリマ・アルテミス。
しかも余計な奴ら、
もといフォーマルハウト・スピカ・アンドロメダという奴を連れているぞ……」
元エハラ国の都・ヤクモことゾロアフターの神殿では、チンパンジー似の獣人が、
水晶玉の監視装置に映る彼らの姿を見て、悍ましく言葉を発した。
そして、
「ダイダラボッヂ、あいつらを粛清してこい……!!」
チンパンジー似の獣人は、
丁度傍らにいた一つ目の黒毛の大男であるダイダラボッヂに彼らを消すよう命じた。
それを受け、
「お社様、必ずやアルテミスらを生け贄として捧げて見せます……」
ダイダラボッヂは不気味な笑いを浮かべ、彼に答えていた。
まもなくダイダラボッヂは、
僕の大差羽(鳥)に乗ってアルテミス、
フォーマルハウトらのいるタイアチ川付近を目指した。

タイアチ川の戦い

場所は変わり、日光の戦場ヶ原と瓜二つのタバフ草原を出たアルテミス、
フオーマルハウト・スピカ・アンドロメダの四人は何か言葉を交わしつつ、
緑豊かなタイアチ川の川原を獣人の本拠地・ゾロアフターに向かっていた。
この中で、
「フオーマルハウト・スピカ・アルテミス。
どないすれば、うちら普通の世界に帰れるん……?」
アンドロメダは、遥か遠くに沈む太陽の光を見つめ、
地球に戻る方法をフオーマルハウト・スピカ及びアルテミスに求めた。
それに対し、
「アンドロメダ。
私も叔父さんも同じことを考えていたけど、未だに帰る術は無いわ……」
今先程まで彼と話していたスピカは、
例のパラレルワールドからの脱出方法が見当たらないことを、
従姉のアンドロメダに告げた。
すると、
「そういえば、あなた方はどのような世界から来たのでしょうか……?」
アルテミスは彼らの話を小耳にはさんでいたようで、
不思議そうに物質世界について尋ねてきた。
その尋ねに、
「うちらの住む所は、狭っ苦しゅうねんけど、人情の厚い所やで……」
アンドロメダは、身振り手振りを交えて自分たちの住む地球をアルテミスに紹介した。
それを耳にしたアルテミスは、
「私も、あなた方の世界に行ってみたいです……」
微笑み顔で彼らに言葉を返した。
そうしてアルテミスら一同は楽しそうに話し合い、
タイアチ川沿いに進んでいった。
すると、
「ふっふっふ、見つけたぞアルテミス奴もが……」
鳥の差羽に乗った大男のダイダラボッヂが現れ、
長い杖を振り回してアルテミスに襲い掛かろうとした。
この為、
「姫様をいじめる獣よ、俺が相手だ……!!」
千倉大輔は得意な柔道技が繰り出せるよう準備し、彼女の目の前に立ちはだかり、
ダイダラボッヂのアルミの杖を両手で止めた。
しかし、
「ふん、勇者ぶりやがって。
これでも喰らえ……!!」
ダイダラボッヂは彼を愚弄する言葉を放ちながら羽交い締めにし、川に突き落とした。
なお彼の突き落とされたタイアチ川は、表面に水草が茂り、
水深も四○メートルという深く暗い川であった。
スピカは、
「私は叔父さんを助けてくる。
アンドロメダ、お姫様を頼むわ……」
様子を見て自分と共にアルテミスの御前に立つアンドロメダに言葉を掛けた後、
川に流され今にも溺れそうになっているフォーマルハウトを助けに向かった。
そして、
「あんたがダイダラボッヂやろ。
うちとさしで勝負しようや……!!」
この場に残ったアンドロメダは、アルテミスを守るため、
徐にフラーレン製の雨傘を取り出し、一か八かの決闘を申し入れた。
その申し入れに、
「アンドロメダ、面白いことを買って出るな。
俺も受けてたとう……!!」
ダイダラボッヂはおぞましい語り口で彼女との決闘に打って出た。
まもなくアンドロメダとダイダラボッヂは、フラーレンの傘・アルミの杖を交え始めた。

異世界御伽草子

異世界御伽草子

主人公・大井梢は東京・大森に住む14才の中学三年生。クラスの誰からも羨まれる美しい女の子であった。梢は誕生日に叔父の千倉大輔と買い物に出掛けたところ、ガス爆発に巻き込まれ、その場に居合わせた遠縁の並木香織(14才・三重県亀山在住)と共に獣人が人間を牛耳る御伽話のような異世界・エハラに飛ばされてしまう。 行き着いた一同は、怪物に襲われていたポリマ・アルテミスを間一髪の所で助ける。 アルテミスは、三人にお礼としてそれぞれ人魚・天女・剣士になれる物を授け、獣人討伐の反乱軍を結成した。当作は獣人反乱軍が悪しき獣人との戦いを通し、成長してゆく異世界御伽草子ファンタジーストーリーである。

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 冒険
  • アクション
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-01-13

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted
  1. エピローグ
  2. エハラの世界で
  3. エハラ国の姫 ポリマ・アルテミス
  4. タイアチ川の戦い