兄と妹の夏季課題

続きです。3

目を開けたら、薄暗い天井が見えた。この天井には見覚えがあるぞと木目が人の顔のように見えるこの天井。ここは俺の部屋だ。そう思い、また目を閉じ考える。なぜ、おれは寝ている。お風呂に入っていたはず、、そうだ。お風呂で倒れたんだ、そしてお風呂にもう1人誰かいたような、、あぁ結衣がいたんだ。いない人が見えてるって、俺、疲れてんだな。茜が俺の部屋まで運んでくれたのか、ありがたい。翔は目を閉じたまま、もう一度眠りにつこうと、寝返りをとろうとした。ん?なんだ、こんなにベッドは狭かったっけ?寝返りがうてない。翔は目を開けた。目の前には女の人が、この整った顔立ち、結衣だった。翔は仰け反り返った。

「お、おい!結衣!起きろ!」

翔は気持ちよさそうに寝ている、結衣を揺さぶり起こす。

「う~ん、まだ起きる時間じゃない、、」

結衣はそう、呟き起きようとしない。諦めずに翔は結衣に呼びかける。

「あ、しょーちゃん。起きたの~?」

結衣はやっと目を開け、まだ寝ぼけているような様子で、翔に反応した。

「起きたの~?じゃないよ!なんで、俺の部屋で俺のベッドで、俺の横で寝てるんだ!」

翔は動揺を隠せないでいる。

「えぇ~、だってもともとは私が使ってた部屋だし~」

結衣は目をこすりながら答えた。

「えぇ!?そうなの?んじゃ、ちょっと茜と部屋を交代してもらうよ」

そういって、翔は布団を剥ごうとした。半分まで剥いだところで、すぐさま深く羽織った。

「おれ、全裸じゃん、、」

ぎりぎり、茜がかぶせたタオル一枚が大事なところを隠してるだけだった。

「そうだよ~。しょーちゃんがいきなり倒れたから、あーちゃんと一緒にここまで連れてきて、ベッドに寝かせたんだよ~」

「茜と話したのか!?」

「うん、いっーぱいお話ししたよ~。しょーちゃんが、高1時、いけない本を隠してるのをお母さんにばれて、気まずい空気になった話しとか~」

「なに、茜話してんだよ、、。つか、茜は驚かなかったのか?お前をみて」

「びっくりしてたよ~。本当に、結衣姉ちゃん?って。でも、信じてくれて。私に会えて嬉しいって泣いてた。私もほんと嬉しかった」

「そうか、、」

翔はびっくりしていた。結衣の存在が勘違いだと強く思っていたはずの茜が、結衣に会えて嬉し泣きするなんて。本当はずっと忘れられなかったのかもしれない。だから無理やりにでも忘れようとしていたのか。そう、思い翔はまた、目を閉じいった。

「結衣、俺寝るわ。今日はいろいろあって疲れたからさ。隣で寝かせてもらって悪いな」

「ううん、いいよ。私はしょーちゃんの隣で寝れて嬉しいよ」

「変なことを言う奴だな」

「変なことじゃないも~ん。しょーちゃん。」

「ん?どうした」

「私にまた、会えてしょーちゃんは嬉しい、、?」

結衣に背中を向けるように寝返りをとり、
恥ずかしそうにいった。

「当たり前だろ、、。俺は寝るぞー、おやすみな」

「うん、おやすみ、、しょーちゃん」

結衣は大きくなった翔の背中をみて、静かに涙を流していた。

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この日も朝から強い日差しが照っていた。
おばあちゃんが作り置きしていた、健康的な朝食を翔と茜は黙々と食べていた。テーブルの上には作り置きしていた朝食と、ご近所さんの所の畑仕事を手伝いにいってます。夕飯前には帰るとおもうから、お昼は自分達で何か作って食べておきなさいね。という書き置きがあった。まだ、朝食は少し温かかった。おばあちゃんが家を出てそんなに経ってないのだろう。会話がない朝食で、先に翔が食べ終わった。からになった器をキッチンに運び、まだ朝食を食べている茜に言った。

「茜、ごはんたべ終わったら、縁側にきてくれ。結衣の事だ」

茜はご飯を食べながらコクリと頷いた。翔は縁側につくと、あぐらをかいて座った。

「夏って感じだな、、」

縁側から見える広い庭の風景を眺めながらうっすら匂う水々しい葉の香りを感じていた。

「お兄ちゃん」

軽く意識が飛んでいた翔はいきなり声をかけられ体がビクってなっていた。

「おぉ、茜か、、」

「茜か、、じゃないよ。自分から呼んでおいて。んで、結衣姉ちゃんの事でなんかあるの?」

「まぁそこに座れよ」

翔は自分の横に座らせるように茜に指示し、座ったのを確認し続けた。

「お前、結衣と話したらしいな」

「うん、いっぱいお話ししたよ」

「いっぱいお話ししたことも知ってるし、俺の恥ずかしいエピソードを喋ったことも知ってる」

茜はごめんごめんと謝り、軽い謝罪を受けた翔は話を続けた。

「楽しいお喋りをしたのはいんだか、お前、本当は結衣の事今までずっと忘れたことないだろ?」

「えっ?どうゆうこと、お兄ちゃ」

「お前、本当は結衣にずっと会いたかったんだろ」

茜は真剣な眼差しの兄に弱い。全てを覗かれるような感じがして。茜は目をそらし、うつむいた。

「あの日、結衣と過ごした楽しい思い出。しかし、その最後は悲しかったよな、俺は裏切られたような気分になって、泣いたぐらいだ。でも、茜は泣かなかったよな。それどころか慰めてくれてさ、俺は茜は強いなって思ったよ」

茜は下を向いたまま、翔の話を聞いている。

「帰ってもずっと落ち込んでた俺をみて茜は、結衣と電話をさせる為に、おばあちゃんに電話までかけてくれてな。その時だよな結衣が俺らにしか見えていなかった事が分かったのはさ。」

茜は小さく頷いた。

「茜から言い出したよな。結衣は俺らの勘違いだって。俺らは理解できなかったことを、勘違いで忘れようとした。あの時、茜は強いなって思ったんだよ。俺なんか泣いてたのにお前は泣かないでさ、俺の心配までして、だから俺は、ここまでしてくれた茜にもう、心配をかけさせないように結衣の事を勘違いで記憶にしまったんだ。」

翔は下を向いている茜を自分に抱き寄せ頭を優しく撫でながら言った。

「昨日、結衣からきいて分かったんだ。今までずっと我慢してたんだなって。茜を強くさせたのは俺だったんだなって。俺を支えてくれてたんだよな茜は。会いたかったんだよなお前も結衣に」

ごめんな茜。と囁きながら強く抱きしめた。
茜は大泣きしていた。やはり、いろいろと我慢していたのだろう。自分が結衣を思う気持ち、泣く兄に対して思う気持ち、結衣が翔に対する特別な気持ち。いろんなものを自分一人で抱えていた茜は、兄の大きな胸のなかで
涙と共にゆっくりと流されていくのであった。

「わがまま妹だと思ってたけど、自分の事よりも俺の事を考えてくれて、俺、そんな妹に対してなにもできてないよな」

翔は自分の胸で泣く、茜の息が落ち着いてきているのを確認して言った。

「うん、できてない。だからお願いきいて」

茜は真っ赤にした目を翔にむけ言った。

「どんなお願いだ?」

「今日、お兄ちゃんと一緒に寝たい」

「ん、、?俺と?おう、わかった。んじゃ今日は茜の部屋に俺の布団をもっていって、」

「そうじゃない」

え?どうゆうことか理解できない翔は、違うの?と質問した。

「お兄ちゃんの横で寝たいの」

「お、俺の横でか!? え、どうしたんだよ?」

「あの日、帰っても泣いていたお兄ちゃんの横でその日寝てあげたよね? だから今度はお兄ちゃんが私の横で寝てよ」

翔を見つめている茜の真っ直ぐな視線はからかっているようには見えない。

「わ、分かったよ。俺、寝相わるいぞ?」

うん、知ってる。という茜は泣いてしまったからまた、顔を洗ってくると立ち上がり。お風呂場へ向かった。翔は茜のお願いを少し戸惑ったが、あの目で見つめられたら断わりきれない。茜の泣き顔が頭から離れなかった。日頃、目にすることない茜の弱いところ。強い茜と弱い茜、どっちが本音なんだろうか。
翔は茜の涙で濡れたTシャツの胸元に手を当て、同時に背後から声が聞こえた。

「しょーちゃん、ダメでしょ。あーちゃんなかせたら」

「なんだ、結衣か」

結衣は子供を叱るように翔に言った。

「ほっとけ、つか、今朝起きたらもう部屋にはいなかったけど、どこいってたんだ?」

「あー、ちょっと用事がね?あってさ」

結衣は言葉が少し詰まった。

「ん?そうなのか。幽霊でも、用事とかあるんだな~」

「うん、幽霊でも幽霊なみに忙しいんだよー」

そういって結衣はクスクスと笑った。翔も結衣につられて笑顔を見せた。
縁側からみえる風景はとても綺麗なもので、とても心が落ち着くというか、洗われるというか。一人の心の悩みを優しく包み込んで、風と一緒に運んでくれるようなところ都会では、なかなか無いのだろう。
翔にここに来て、妹との測れない距離が縮まったような気がした。

兄と妹の夏季課題

兄と妹の夏季課題

続きです。3

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更新日
登録日
2014-09-11

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