歌が魔法になる世界2
人は割と利便性で集まる
この世界の神様は、歌がとても好きでした。
神様会議で新しく世界を創ることになったその神様は、音楽が溢れるような世界を創ろうと思いました。
そこで、色々な試行錯誤を重ね、歌に魔法のような力を与えることで、そこで暮らす生き物達の生活を豊かにする事に決めました。
そうして創られた世界では、今日も歌で溢れています。
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「新入りー!それとって、それー!」
「はぁい!投げますよ、せんぱぁい!」
とある国の、大きな城の一角に、とても美しい装飾の施された場所があります。
それは、この国のお抱えの歌姫達が暮らす、宿舎でした。
「おっけーありがとー!」
「いーえー!」
宿舎、といってもその豪華さたるや半端なものではなく、白を基調にした石造りの部屋達に、金の装飾が惜しげもなく使われ、更に設備も風呂に庭園、室内プール等々充実している。
そんなちょっとセレブな空間の一角で、それにそぐわない物…おおよそ大きな鉄の固まりで、いかにも大がかりな装置であることが伺えるそれをガチャガチャと組み立てている女性がいる。
その女性は金髪に黒いメッシュの入った、悪人面で、その鋭い目は明るい茶色だ。
いかにも活発でありそうな彼女はエレガントなロングスカートをあられもなくたくしあげて胡座をかいて地面に座っている。
「それにしても先輩何作ってるんですか?」
「うん?これか?」
彼女に話しかけるのは青い髪のつんつん頭の少女。
少女は紫色の瞳をまん丸くしてかがみ込む。
この子は可愛らしくレースをふんだんにあしらったミニスカートをはいているのでパンツぎりぎりだ。
そんな女の子に先輩、と呼ばれた女性はニカ、と白くてギザギザの歯を見せて良い笑顔で言う。
「よくぞ聞いてくれました!これぞ自動山芋摺り下ろし機!!
これで山芋で手が痒くなる等という忌々しい事は一切なくなるぜ!!」
ぐっと力強く拳を握った先輩に、後輩はなま暖かい目をした。
この人、頭はいいはずなのに、どうしてこう、発想が斜め上なのか。
「そうですね、なんていうか…そんな大がかりな装置なのに需要がピンポイントなあたりが素敵ですね。」
「素敵だろ?…でも、この宿舎、山芋ねぇんだよな…。どーすっかなぁ…。」
「訂正するわ、需要がなさ過ぎる!」
そんな微妙な空気の中、ピンと張りつめたような、しかし、透き通る声が鋭く割ってはいる。
「あら、素敵なそうちですわね、ルクス。
…うたこ、こちらにいたのね。」
前半と後半に深海と花畑位の温度差のある声色ではいってきたのは緑の長くてきれいな髪を低い位置で縛り、鋭い青い目が印象的な…悪人面の少女だった。
少女は頬に手をつき、ため息混じりに言う。
何かを憂うその表情は、いかにも怒っているようにしか見えない。
「そうそううたこ、わたくし、ちょっと困っていますの…。」
「なぁに?どうしたのえだまめ、またオランジュに無理難題でも言われたの?」
とたんに優しい声になるうたこに、ルクスは少しジト目で後輩を見る。
同じ、とはいかないが、えだまめと自分は身分が近いはずなのにこの態度の差は…いや、原因はわかっているので何もいわないが、これは酷い、とルクスは少し思う。
そんな彼女をほったらかして、えだまめは落ち込んだように言いながら、大がかりな装置を取り出して言う。
「自動納豆製造機という画期的な物を作ったのは良いのですが…肝心の大豆が見あたりませんの…。どうしましょう、これでは納豆が作れませんわ…。」
「えだまめ、それは作らんでよろしいわ。あんたはまたこの宿舎を納豆臭くするつもりですか。」
「うたこ!!納豆を馬鹿にする気ですの!?あなたも和の心をわからないと言うのですか!!?」
「いや…その地方の人でも好きずきだって兵士さんも言ってたよ。」
若干引き気味のうたこに、いままでおとなしかったルクスが噛みついた。
その目は爛々と輝き、いかにも楽しそうだ。
「おお!なんかスゲェもん作ったな!!おれは応援するぜ!」
「ありがとう、ルクス。やはり、このことに関してはあなたが一番わかって下さいますわね。…でも、大豆はあなたに頼むわけには…。」
「あぁ、そうだな…すまん、力になってやれなくて…。」
「そんな、そんな悲しい顔しないでください!力になれないのはわたくしとて同じですわ…。わたくしにやまいもを調達する力があれば…。」
暑く語る二人に、うたこはついていけない、とため息をついて地面に胡座をかいた。
パンツはぎりぎりを越えて、もろみえの域だがだれも気にする者など居ない。
ともあれ、彼女は深い深いため息をひとつついた。
『この天才型悪人面の馬鹿コンビどうにかならないかしら。』
そのため息は、磨かれた白い床に消えていった。
歌が魔法になる世界2
こんな感じのゆるい話です。