世界征服~もはや、自分の声しか聞こえていない。~
霧雨です。
最初の作品投稿になるのですが、ボカロPのNeruさんが作った楽曲を小説にさせてもらいました。
タイトルはNeruさんの大ヒットアルバム『世界征服』から取らせて頂きました。
矛盾点や低文才力なので文才ボロボロですが、それでも暖かい目で読んでいただけると嬉しいです。
東京テディベアⅠ
父さん母さん...
今までごめんね。
ポツリと声が響くと僕は段ボールの中で膝を抱えて震えていた。
何故こんなに震える。
こうなることは最初から解っていただろ?
何処かで声が聞こえた。
誰だ?
誰の声だ?
僕は寒さに震えているのか恐怖に震えているのか解らなくなっていた。
「違うな...」
この声は紛れもなく僕の声だ。
大嫌いで誰も愛してくれない僕自身の声だ。
誰かにすがって、誰かの愛をずっと必要としていたそんな僕の憎しみの籠った声が僕の中でトラウマのように反響する。
腕に抱えたテディベアが何故か憎らしく見えてしまい、僕はそいつを素手で殴る。
テディベアはあの日の僕のように浮かない、冴えない顔をしていた。
まるで僕の分身のように。
*
別に愛されてなかった訳じゃない。
居場所がなかった訳じゃないんだ。
ただ、そこでの自分の存在感が薄かっただけなのだ。
「京間。明日からお父さんとお母さん、旅行に行くから京子と京谷と家で大人しくしているんだぞ?」
その日、父さんと母さんは二人きりで旅行に行ってしまった。
別に寂しいとかは思わなかった。
いや、嘘だ。
ほんとは行ってほしくなかった。僕も連れてってもらいたかった。でも、二人に迷惑をかけたくなかったのだ。
いつだってほんとのことなんて隠して生きてきたから、嫌でもほんとのことなんて言えなかった。
兄さんや姉さんは優しくてかっこよくて可愛かった。でも、それでさえ僕にはただの劣等感にしか過ぎない。
誰かが言う。
『だからお前は愛されないんだ』
その声は僕のものでもあって誰のものでもなかった。
夜、兄さんは友達の家に泊まりに行ってしまい、姉さんはバイトのため夜中まで帰ってこなかった。
「あー。結局独りか」
ポツリと呟くけれど、この広い部屋では響くこともなく沈黙に掻き消される。
「なんだよ。こっち見んなよ」
テディベアが僕を嘲笑うようにこちらを向いている。返事するわけでもないのに普段のストレスを吐き出すようにテディベアにぶつけた。
でも結局なにも変わらない。そんなことは解っていたから我慢もしない。諦めたと言ったら簡単だろう。
愛してもらまで待つんじゃなく、愛してもらうために人との距離を縮める。そんなこと誰かが言ってたな。
「そんな勇気があればやってるのに...」
一層感情なんかなければいいのにと思う。脳みそ以外なにも要らない。人間そうやって吹っ切れて感情を捨てられたらどれだけ楽なのだろうか。僕は最近そんな下らないことを考えるようになっていた。
その日は結局誰も帰ってこず、翌日そのまま学校へ向かった。
「よっ、京間!朝から元気ないな?」
僕にだって学校に行けば話しかけてくれる友達はいた。何も家でも学校でもひとりぼっちということではない。でも、こんなのも、どうせ上っ面だけのものなのだろうと結局諦めるのだ。
「京間、今日家行っていいかな?」
「僕の家?別にいいけど」
どうせ親はまだ帰ってこないだろうし、兄さんや姉さんは家にはいないだろう。
「やった。じゃあ帰ったらすぐ行くな」
僕もあいつみたいに気楽になれたらな。
『違うだろ?あいつは愛されてるから気楽なんだよ。お前は愛されてないんだから』
またこの声だ。どこから聞こえるのだろうとカバンを開けてみればあのテディベアが顔を見せていた。
「またお前かよ」
僕の呟きに気づいた女子がテディベアの存在にも気づいてしまい可愛い可愛いと大はしゃぎしている。そのうちクラスの女子達の手に渡り、その日テディベアが僕の元に戻ってきたのは放課後だった。
いつももてはやされるこいつはほんとに幸福者だ。いつも誰かに愛されてて、こんな僕とは大違いじゃないか。なんで僕の回りの奴等はあんなに愛されてるのに僕は愛されないのだ。
「京間ー、帰ったらすぐお前の家に行くから待っててなー!」
友人と別れ道で別れたあと、僕は黙々と帰路についていた。
もともと友人と帰っていても話すことなどあまりなく僕自身は黙っているのだがそれでも相づちを打ったりと反応は示せている。
だが、一人になるとほんとに歩くだけの動作になるのだ。ただ前を向いて足を動かす。その姿だけで気味悪がられるのだが片手にテディベアを抱いているためかもっと気持ち悪がられるのだ。
「一体僕が何をしたって言うんだ」
家に帰ると僕はベッドに寝転がった。そんな僕をテディベアはまたしても嘲笑っているかのように見えた。
「なんだよ。ここは僕の部屋だ。邪魔するなよ」
しゃべるはずもないテディベアに悪態を吐けばその沈黙を壊すかようにインターホンが鳴り響いた。
「いらっしゃい。入って...」
友人を家にいれるとテディベアが部屋においてあることに気づきすぐに押し入れに仕舞い込む。こいつが見つかればまたちやほやされるのだろう。それはなんか癪だった。
「京間の家来るの久しぶりだなー...」
「そ、そうだね」
前は目の前の友人も良く家に遊びに来ていたのだ。しかしそれは僕の親が甘かったころだ。最近では家に人をいれたことがバレれば夜ご飯抜きや一晩中外に閉め出されることもある。兄さんも姉さんも人を家に入れているのを見るが特にバレてどうのこうのとはないのだ。しかし、僕は、僕だけが家でそういう仕打ちに逢う。なんでとかは考えなくても解る。僕が愛されてないからだ。
「で、なにするの?」
「んー。俺はなにしても良いけどなー」
「決めずに来たの?」
「うーん。まあそうだなぁ」
僕と友人は結局何もせず駄弁ったり愚痴ったりして数時間部屋でそんなことを繰り返していた。
ふと外を見ると大分暗くなっていて時間も19時を過ぎていた。
「もうこんな時間か...早いな」
「そうだね。まあ、大分長く話してたしいいんじゃないかな?」
「だな。じゃ、俺、そろそろ帰るな」
友人が立ち上がると一階の玄関のドアが開く音がして親のただいまという声が家中に響き渡った。
*
あのあと、当然僕は親に怒られ夜ご飯も抜きにされた。別に、ご飯なんて一日食べない程度じゃ死にはしない。しかし、何も食べないのは流石に辛いのか目眩と吐き気で夜中は目が覚めてしまった。
トイレに向かおうと部屋から出てリビングに明かりが付いているのに気づくと父さんと母さんの話し声が聞こえてきた。
『明日は京谷の誕生日だもんな。この熊、旅行先で買ってしまったよ』
『それ、熊じゃなくてテディベアって言うのよ?それに京谷ももうぬいぐるみなんて欲しがらないでしょ?』
そっか。
明日は兄さんの誕生日だ。
僕の誕生日なんてあまり祝ってもらえないのに兄さんと姉さんの誕生日はいつも盛大に行われる。別に寂しくなんてない。
『京間もこれくらい可愛い気があればな...』
『そうね。なんであんな風に育ってしまったのかしら』
また、あいつか。
僕の口からはテディベアを貶す言葉が発せられた。それもいつもならそこまで浮かばないような悪口を次から次へと発した。
あいつのせいだ。あいつさえいなければ。
*
気づくと自室のベッドで横になっていた。タンスの上を見てみると相も変わらず僕を嘲笑うかのようにテディベアが座っている。僕は吐き気を覚えながらハサミを手にもちテディベアが乗っているタンスに近づく。
テディベアの首元をガシと手のひらで掴むとハサミでテディベアの顔を切り裂く。じょきじょきと部屋に君の悪い音が響く。僕の足元には顔がボロボロに引き裂かれたテディベアの中から抜け落ちた棉が散乱している。
ざまぁ見ろ...
世界征服~もはや、自分の声しか聞こえていない。~