兄と妹の夏季課題
続き
「遊びいってくるよー!!」
元気な兄妹の声に怪我はしないようにねと、心配する背中が若干丸くなりはじめているおばあちゃんの声。照りつける眩しい日差しの中を兄妹は走っていた。友達に会いに。その友達はこの猛暑にもかかわらず 真っ白な美しい肌、スラリとした体型に優しい瞳。夏とは無縁そうな女の子だった。兄妹は女の子と毎日のように遊びまわっていた。山では探検、川では泳ぎ、夜には花火をして遊んでいた。ある日、いつも通りに日差しの照りつける中仲良く三人で遊んでいたら、女の子がいきなり変なことを言い出した。
「私がいなくなったら寂しい?」
兄妹は顔を見合わせて言った。
「寂しいに決まってるだろ」
「変なこと言わないでよ」
女の子は嬉しそうにどこか寂しそうに
「そっか、、ありがとう」
兄妹をみて微笑んだ。
「おかしなやつだな、さぁ次はどこへいこうか」
「川で遊びたーい」
兄妹は次は川で遊ぶといい、女の子はやれやれ付き合ってやろうじゃないか、そう言いながらも張り切っていた。
「はぁ、日が暮れてきたな」
「本当だね」
兄妹は上をみやげ、オレンジに染まっていく空に顔を赤く染めてる。女の子は兄妹をみて、微笑ましい、羨ましいそんな感情が募っていった。
「そろそろ夏休みも終わるな」
「帰りたくないよ」
兄妹が徐々に近づいてくる、楽しい日々とのお別れ、夏休みとのお別れ、女の子とのお別れ、空が暗くなってきたからなのか、兄妹の表情は少し暗くみえた。
「俺らが帰るその日、見送りにきてくれよ」
「そうだよ!絶対に見送りにきてね!」
兄妹ともに似たような表情になり、女の子にいう。
「うん!見送るよ!」
女の子は精一杯の笑顔で兄妹にの手を取りいった。
空には星がさみしそうに光っていた。
お互いに何億光年と離れて存在するものもあるからだ。しかし、見方を変えるとどうだろう。こちらからは、みんな集まってキラキラと輝いている。そう、気づかないだけで一人じゃない。見方を変えれば自分は変われるんじゃないかないのか。それに気づいた女の子の頬には流れ星のよう涙が静かに流れていた。
別れの日、女の子の姿は無かった。見送りに来てくれると言っていたのに女の子の姿は最後の最後まで見ることが出来なかった。
「なんでなんだよ、結衣、、」
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「、、ちゃん、、お兄ちゃん お兄ちゃん!」
翔は茜の呼ぶ声で目が覚めた。
「やべ、寝てしまってたか、、」
翔は時計を確認した。茜がお風呂へ入るといって部屋を出て行った時間より30分も過ぎている。
「30分寝ていたのか、、とても長い夢をみていたような、」
「何寝ぼけてるの、次お兄ちゃん入って来なよ、すごく広くて気持ちいいよ~。温泉みたいだった!」
茜は濡れた髪をタオルで拭きながら翔に勧めた。
「そうだな、んじゃお風呂へいってくるよ」
「うん!お風呂で寝ちゃダメだよ?」
茜は翔をバカにするような口調でいった。
からかったのだ。翔は着替えを手に持ちお風呂へ、茜は翔の部屋から出て隣の自分の部屋に入ろうとしたとき、お風呂へ向かっている翔が振り向き茜を呼び止めた。
「そうだ、茜」
「何よ、お兄ちゃん。怖いからお風呂まで着いて来てとか言うんじゃないでしょうね」
「違うよ、、。お前、髪結んでる時よりも、髪を下ろしてる方が可愛いな」
茜は突然の事にびっくりして、火照って赤くなっていた頬をさらに赤くした。
「な、なにいってるのよ!!」
そう言って、茜は自分の部屋に勢いよく入っていった。翔はニヤッと笑い、さっきからかったお返しだと小さく呟き、お風呂へ向かった。
長い廊下を進み突き当たりを右に行き進むと風呂と書かれたのれんが目についた。
「旅館かよ、」
翔は声をこぼし、ガラガラと音をたて風呂の戸をあけた。洗面所で服を脱ぎ、自分の白い肌をみて、男らしくないなと実感するのだった。外は暑くて家からあまりでてないからななどと自分一人の空間で言い訳をし、お風呂へ入る。広いなと声を浴室に響かせ、体にシャワーを流し浴槽に浸かった。身体的精神的な疲れを水で流してくれるような、気持ちが良いお湯だった。
「はぁ、最高じゃん」
翔はそう言い、鼻歌を歌い出した。翔が鼻歌を歌うのはとても機嫌が良い時だ。今はリラックス状態で、気持ちが良いんだろう。
ある程度浸かり、頭を洗おうと流しに移動し、プラスチックで出来た腰掛けに座り、シャンプーをしていた。翔はシャンプーする時には背後が気になる系の男子だったので、いつも目をあけてシャンプーをしているだった。今回も目をあけてしていると、痛恨のミスだ。シャンプーが目に入ってしまったのだ。あまりの激痛に目を閉じてまう。余計に痛い。翔は焦りながらもシャワーを手に取り、頭ごと目も洗い流した。
「ふ~」
翔は一件落着かのように肩を落とした。
しかし、次は背後になにか気配を感じた。なんなんだこの、後ろに誰かいるような感じはと怯えながら恐る恐る首を180度回転させな
自分の背後を見てみる。
「!?」
翔は今、自分がみているものが信じられなかった。目を向けた先には大きな浴槽に浸かりとてもリラックスした表情をしている女の人がそこにはいた。あり得ないあり得ないそんな事は絶対にあり得ない。俺は1人で風呂に入ったんだから。翔は真剣に自分が間違っていないと思いたく、この状況を飲み込めないでいた。この人、どこかでみたことが、、、
気づいた時には声が出ていた。
「俺の部屋で寝てた人だろ!?」
俺の声が浴室に響いた。なぜだろう、時間がゆっくり流れているよなそんな気がした。
浴槽に浸かっている女の人は目をあけ、翔と目を合わせた。翔は目があった時にこの世には不思議なこともあるものだと強く見せつけられた。こんな優しい瞳の女の人はあいつしかいない。
「しょーちゃん。ひ、さ、し、ぶ、り」
女の人は優しい瞳のまま翔に向かって微笑んだ。翔はあまりの出来事に頭が混乱してしまっていた。なぜ、1人で入ったはずの風呂に女の人がいるのだろう。なぜ、女の人は優しい瞳をしているだろう。なぜ、女の人は微笑んだのだろう。頭の中をいろんなことがぐるぐるとまわってる。翔は理解出来ないまま質問をした。
「お前は、、結衣なのか、、?」
女の人は大きく首を縦に振った。翔はなおさら理解できなかった。さらに質問をする。
「なんで、成長してるんだ?」
「しょーちゃんだって大きくなってるじゃない?」
質問をするが答えが答えとして帰ってきていなかった。頭がクラクラしてくるのが分かった。翔はのぼせたのか、混乱しているのか、理解出来ない状況に挙句には、お風呂で倒れてしまった。
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茜は時計を眺め、不安になった。
「お兄ちゃん、お風呂長いな」
兄の入浴タイムはとても短いというので認知していた。身体とかちゃんと洗ってるの?という質問を何度かしたことがあるぐらいだ。
不安になった茜は、部屋を出てお風呂場へ向かった。長い廊下を進み、突き当たりを右にいくと、電気がついているお風呂場が見えた。静かなお風呂場にはシャーというシャワーの音だけが響いていた。茜は身体洗っているのかと思い、声をかけた。
「お兄ちゃーん!聴こえる?身体洗っているのー?」
翔からの返事はなく、シャワーの音だけがしている。
「ちょっと!お兄ちゃん!」
返事は無い。茜の表情は強張る。心配になった茜はすかさず、浴室の戸をあけた。湯気が立っている浴室に影が二つみえた。湯気が洗面所に抜けていくにつれて、影の正体がわかってくる。茜は動揺を隠せない様子で口を開いた。
「だ、だれなの!?」
そこに見えているのは倒れている翔を抱きかかえようとしている裸の女の人の姿だった。
女の人は心配した表情で茜を見て、助けを求めるように言った。
「翔ちゃんが、倒れちゃったの 部屋まで運ばないと」
茜は状況が理解できなかったが、翔が目の前で倒れているのは見てわかる。茜は急いで駆け寄り、女の人と一緒に翔を洗面所に運んだ。男子高校生の体は思った以上に重かった。洗面所まで運んだところで、一息をつき、茜は翔にタオルを被せ、女の人にタオルを巻くように指示し女二人、男子高校生を少し距離のある部屋に運んだ。部屋をあけ、ベッドに翔を寝かせ、とりあえずは安心だと茜は、はぁ~と息をはいた。隣では謎の女の人が、重たかった~と腰を叩きながら言っている。茜は息を整え、女の人を睨んだ。
「あの、、ありがとございました。それと、、あなたは、誰なんですか?」
「いや、1人じゃ運べなかったと思うし、こちらこそありがとうね。」
女の人は茜に一礼をし続けた。
「わたしか~、、。あーちゃん、私のこと覚えてない?」
女の人は茜に優しく微笑み言った。
あーちゃん。その呼ばれ方には覚えがあった。茜の事をあーちゃんと呼ぶのは今までで1人しかいなった。
「結衣、、姉ちゃん、?」
茜は無意識に口に出していた。
「そうだよ。あーちゃん大きくなったね~。それに可愛いくなっちゃってさ」
結衣は茜の成長ぶりに驚いているようだ。
「え、でも、そうだったら、結衣姉ちゃん今の私と同い年ぐらいなはずだよね?なんで、成長してるの?」
茜は疑い深く質問した。
「しょーちゃんと同んなじ事を聞くんだね。やっぱり兄妹似てるね」
結衣はフフッの笑い、羨ましそうに兄妹をみて、続けた。
「私だって、生きてるんだから成長するよ~。ここ以外はね」
そう言って、茜と自分を交互に見比べ凹凸が目立たない胸をみてため息を吐いた。
「あーちゃんが羨ましいよ~」
結衣はげんなりとしている。茜は自分の胸を手で隠すようにして、言った。
「生きてるって、、。だって、結衣姉ちゃんは、、」
死んでるよ。結衣は茜が喋るのを遮るかのように言った。
「死んでるよ。私。でもね、生きてるのこうやってちゃんと、誰にも気付かれずに静かに生きてるの」
結衣は優しい瞳で茜を見つめた。茜は声が出ない。
「しょーちゃんとあーちゃんだけが、私の存在に気付いてくれたよね。あの日も今も」
茜は3年前の思い出が脳裏を遮った。
「本当に、結衣姉ちゃんなの?」
茜は自分に向いている優しい瞳に問いかけた。
「そうだよ、本当に結衣だよ。また、会えて嬉しいよ」
結衣は茜を抱きしめた。茜も結衣を強く抱きしめ返した。
「あーちゃんほんと大きくなったね。もう少しで背を越されちゃうよ」
「うん、大きくなったよ。大きく、、」
茜の頬には涙か流れていた。理由は分かっている。あの日の温もりが、忘れようとしていた温もりがそこにあったからだ。夏の日、走り回ったあの日、凛とたたずむ白い肌の女の人、茜にとってのお姉ちゃん、そして目標だった。
「あーちゃん、どうしたの??」
結衣は心配するように茜の顔を覗き込む。
「ううん、なんでもない!ほんと嬉しんだよ、結衣姉ちゃんに会えたのが。せっかくだから、いっぱい、お話ししようよ!」
茜は涙をぬぐい、笑顔をみせ言った。
「しょーちゃんはまだ寝てるし、そうだね! いっぱいお話ししようか!」
茜の笑顔に笑顔で返した。その前に服をしてこないと風邪引いちゃうよ?という茜の指摘に結衣はまだ、タオル一枚だったことを思い出した。
「なら、先に服をきてくるねー。もう、死んじゃってるから風邪はひかないけどね?」
結衣は笑顔で笑えないジョークを一発かまし、部屋を出て行った。結衣姉ちゃん笑えないよ、と茜はおもいながベッドに寝ている翔を見つめ言った。
「お兄ちゃん、結衣姉ちゃん変わってないね」
服を着て戻ってきた結衣は茜と翔の部屋で、
女二人、今まで体験してきた面白い事、辛かった事、悩み事、好きな男の子のタイプ、翔の話、年頃の女の子が好きな事ばっかり。修学旅行のような夜を過ごしていた。時間を忘れるような楽しい時間だった。
「はぁ~、いろんなこと話したね~」
大きなあくびをしながら茜は言った。
「あーちゃん、眠たいんじゃないの?」
結衣も茜に負けないような大きなあくびをし、もう夜も遅いし寝ようかと女子会はお開きになった。
「んじゃ、結衣姉ちゃん、私部屋に戻るね~。私、隣の部屋だからー」
茜は結衣におやすみなさーいと目をこすりながら翔の部屋から出た。廊下に出た茜は、ジメッとする嫌な肌触りに触れた。
「夜でも暑いんだ、、」
茜は小さく呟いた。翔の部屋では暑さで不快を感じなかったのだ。結衣姉ちゃんがいたからかな?と思った茜はまた、大きなあくびをした。
「ねよ、、」
そう、呟いた茜は自分の部屋に入っていった。話し疲れた茜はすぐにベッドに入りこみ
眠りについた。
色々な話をした。すぐに、あの日みたいに仲良くなれた。楽しかった。しかし、茜は聞けなかった、なぜ、結衣は死んだのか。なぜ、最後の日、見送りにきてくなかったのか。
これを聞くと、結衣姉ちゃんが消えるような気がして。
明るく照らしていた月明かりは雲に隠れ、辺りは闇に包まれた。
兄と妹の夏季課題