靴屋さん





誰か、





男性が苦手な私は、手持無沙汰な目の前の店員さんから、まるで、そこにその人はいないかのように目をそらし、女性の店員さんの接客を見つめる


早く、終わらないかなぁ



心で祈ると、空気が読めすぎる目の前の店員さんが、声をかけてくる


「そのヒール、すごくかわいいですよねー。よろしかったらご試着なさいますか?ベージュとピンクもあるんですよー。」



どうしよう


「・・・えと・・・ちょっと・・・あのー、女性の・・」


「ああ、これ、女性らしくていいですよねー!今日もOLの方が買っていかれたんですけど、可愛いしシンプルでいいって、喜んでらっしゃってー、」


色々な感情がこみあげてきて

唇を、噛む




「お客様、よろしければ、サイズみましょうか。
今、彼女は接客中でして、我々男性しか応対できないんですよ、すみません。」


え・・・




奥から出てきた、店長らしきその人は、白い手袋をはめながら淡々と説明した



私が苦手なのを、分かってくれてる


空気の読めすぎる店員さんは、新たなターゲットを見つけて、
笑顔でこの場を離れていった


肩の力がふっと抜けて、その場で椅子に座り込んだ私の靴を、
手際よく脱がす


手袋のおかげか、
ヒールを掴むときに、足の親指の先端ににその人の手が一瞬触れたのに
寒気がすることなく、するりと抜けていく感触だけで済んだ


「ちょっと失礼しますね」


「ど、どうぞ・・・。」

「あー、足のサイズは23あるんですけど、細いから、隙間ができてずれるんですよ。厚みのある靴底入れてみましょうか。ヒールの色はこの色がお似合いですね。靴底だけちょっと持ってきます。」


あまりにもスムーズな流れで、
しかも、時間はゆっくりと流れた



私はほぼ言葉を発することなく、
ぴったりなヒールを買えた


こんなことって、あるんだ






それから、毎日の通勤がとても快適になる


「また歩いていて違和感があれば、連絡ください」って渡された名刺には、
店の電話番号が書かれている


ヒールは完璧なのに、あの時の接客が忘れられず、
ずっともやもやしたままだ



心には違和感



でも、またヒールが壊れるまで、お店には行けない



そう思うと理性が抑えられず、
指が勝手に電話番号を入力してしまう


あー、だめ


と切るボタンを押したつもりが、


かけてしまった



「はい、○○靴○○店です。」


「・・・・。」


「ん、もしもし?」



なんか言わなきゃ



「あ、、、えっと、この前薄水色のヒールを買ったものなんですけれど、ちょっと踵のほうに違和感があって、その、、、」


「この前の方ですね、覚えていますよ。踵ですか、、、おかしいな。そんなはずはー、、、。わかりました。そしたら、僕が見ますから、今日の20時にお店に来てもらえますか?今日は遅番なんです。」



「あ、はい、、、行きます!そ、それでは!」



早めに切って、そのままうつぶせになる



嘘ついちゃった

私、最低だ



しばらく反省して、ふと名刺に目をやる



『営業時間 10時~19時』



あぁ、そうか

私の嘘も、気持ちも、伝わっている。

靴屋さん

靴屋さん

  • 小説
  • 掌編
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-09-10

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