流星の足

きた。ボールが。まるで僕の足に吸い付かれるように。さっきまで聞こえていた周りの声が聞こえない。自分が極限まで集中しているのが分かる。
これは、僕のボールだ…。

小野寺高校に入学して約1ヶ月。僕、三河 修斗はサッカー推薦でこの学校に入学した。自分でいうのも何だが、僕は天才というやつらしい。昨日の試合では1年生にしてレギュラー獲得、ハットトリックを決めた。
「おーい、今日は女子の試合 応援するぞー。」キャプテンが今日の指示を出す。
うちの学校には女子サッカー部もあって、どうやら今日はその応援らしい。

前半終了スコアは0-2。女子の試合を初めて見た。男子に比べたらん〜っと唸ってしまうような技術。しかし、みんなが必死にプレーしているのが分かる。
その中で、プレーはドのつく下手くそだか、ピッチ上22人の中で誰よりも走ってる姿が目についた。トラップミスは多いしボールはすぐ相手に奪われるが、誰よりも味方のカバーに走っている。
「かわいそうだな。」そう思った。あれだけ走れてもプレーがあれでは、レギュラーにいられるのも時間の問題だろう。
ピー、試合終了。結果は0-3。3年生にとっては最後の試合だったらしく、みんなが敗戦を受け止め泣いている。ただ1人を除いては…。

応援が終わって、僕たちはご飯を食べて帰ろうという話しになった。
「あ、部室に忘れ物した!先に行っててくれ!」
部室まで行く間に、ダウンを終えた女子サッカー部員たちと通りすぎる。その最後尾にさっきの走る下手くそがいた。荷物を運んでいる様子から1年生だと分かった。
「あ!私、足が汚いから洗ってから行くね!先に行ってて!」
笑ながらそう言うその子に、周りの仲間は笑顔で答える。

部室で忘れ物を取ってから、もと来た道を戻る。「ん?」蛇口のところに人影が見える。どうやら さっきの下手くそが足を洗っているようだ。近づいてみると、その子が泣いているのが分かった。
「大丈夫?」思わず声をかけてしまった。ビックリして僕をみつめているその子に、何と言って良いのが分からず、「今日、い、1番走ってたのアンタだと思うよ。お疲れ!」
「ありがとう」小さな、でもハッキリした声でその子が答えた。
「男子サッカー部の人ですか?」
「うん、そうだよ。1年B組の三河修斗。」「私はF組の青木夢都。」「むと⁉︎変わった名前だね。」「よく言われるんだ〜。でも私は結構気に入ってるんだ〜。」
話してみると青木は良く笑う明るい子で、気づくと涙も止まっているようだった。

流星の足

流星の足

  • 小説
  • 掌編
  • 青年向け
更新日
登録日
2014-09-09

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