アゲハ

アゲハ

大きな事故や災害のニュースも、
1年も経てばみんな忘れてしまう。
ニュースは今日も色々なことを伝えてくれるけど、
それが自分に関係すること以外は、
たいてい左から右へ流れるように消えていく。

こんな毎日が嫌だ。

ただだらだらと時間が過ぎていくこんな毎日が。
食べては出し、また食べては出す。
学んでは頭に入れて覚え、忘れ、また頭に入れる。
こんなことを繰り返して、一体なんになるというのだ。

友達と会っていても最近全然楽しくない。
ついこの間までは好きな人がどうしたとか
アイドルのだれだれが熱愛だとか、
そんなくだらないことで盛り上がっていたのに。

「莉乃、推薦受かったらしいよ」

いち早く受験地獄から抜け出した友達は、
なんだかとってもゆったりと生きている気がするのはなんでだろう。
そしてそんな友達を見て内心イラついている自分が情けない。

こんなことを考えていても、なにがどうなるわけでもないのに
くだらないことを考える頭が止まる気配がない。

時計の針は午前2時半をさしている。
開けていたノートや参考書をぱたんぱたんと閉じる。
ママが作ってくれた夜食のおにぎりとお味噌汁がぽつんと
所在無げに机の片隅でこちらを見ている。
そえられたメモには「がんばって」の文字。
頑張るよ。頑張るけどさ。
ちょっとは私の身にもなってほしい。
じゃあなにをしてほしいのって言われたら別になにもないけど。
ただ私の気持ちも考えてほしいだけで。

おにぎりを一口食べる。
この時間に食べるってことはデブ直結コースだけど
お腹が減っていて眠れないのはもっと困る。
夕飯の残りのお味噌汁も飲む。
「ママ応援しかできないけど、頑張ろうね」
なぜだか泣きたい気持ちになる。

私はいつだってママの期待に応えたくて頑張ってきたけど、
今回の敵は強すぎる。
ママから失望されたらどうしよう。
ママには私しかいないのと同じように、
私にもママしかいないのに。
こんなことを考えている間にも全国のライバル達は
必死に勉強しているのだろうか。

負けたくない。

こんな日々を打ち破りたい気持ちと、
ママに嫌ってほしくないという気持ちが、
私をもう一度机へと向かせる。

負けたくない。

負けたくない。

だってみんなで笑って女子大生したいじゃないか。
ママにいっぱいいっぱい笑ってほしいじゃないか。
パパや友秋にもやったね!って笑ってほしいじゃないか。

時計の針がかちこちうるさい。
だけど私は参考書を開き、ノートを開く。
負けたくない気持ちだけで、
別に大学でなにを学びたいとか特にないんだけど、
そんなものは受かってから考えればいい。
とにかくこんな日々を早く抜け出したい。

こんな毎日を、キラキラしたものに、変えたい。


アゲハ

アゲハ

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-09-09

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