憧れの男

 用があって、体格のいい職員が訪ねてきた。話し終わってから彼はこんなことを言った。
「本館が改築になるんで、その間、こちらの滝山図書館にお世話になるかも知れません」
 浅井恭子はわけもなく危機感を覚えた。ナマズが小さな振動に敏感なように。時期は今年の四月頃である。二つの館に配属され、新設で職員数が少ない滝山が大半になるらしい。
「小山という人も?」
「ええ、予定に入っています」
 恭子は今度は拒否反応の表情を示した。S図書館で面接したとき、館長室に案内してくれたのは小山悦郎である。彼は大嫌いな中学時代の教師に似ていた。恭子の様子を見て取った職員は小山を知っているのかと聞いた。一度、顔を合わせていると答えた。本館の館長が正規も派遣も差別するようなことはないから、しっかりやってくださいと励ましてくれた。その言葉には信頼感を抱いた。館長は近くにいた小山に道順を教えるように指示した。小山の言動は特に変わった様子はないが、嫌な奴という思いは拭い切れない。
「小山さんって、苦手だわ」
「理由でもあるのですか」
 人の良さそうな職員は興味深げに聞いた。恭子は愛想笑いを浮かべただけだった。
「誰にでも好き嫌いはあります」
「どんな人なんですか」
「S区立図書館では、ナンバーワンの人で、人望もあります」
「尊敬に値する方みたいね」
「ええ、ぼくなんか、表向き合わせているだけですがね」
「お好きじゃないのね」
「いや、そういうわけでも……」
 彼は本音を言いたくないのか、曖昧にした。初対面にしてはフレンドリーにものを言うので打ち解けた。
「私の知っている人が、彼とそっくりなの」
「その方に好ましくない感情を持っているとか」
「そうなの、人を排除するようなところがあるの」
「その感じ、なんとなく分かります」
 恭子は職員に親しみを覚えた。垣根を払って対応するからだろう。確か彼のことを皆は佐野ちゃんと呼んでいた。
 七時までの勤務を終えて、帰りの京浜東北線に乗った。座席の端に座っていると、一見得体の知れない客が目についた。扉の横に立っていて、黒いソフトに黒のコート、黒の蝶ネクタイ――黒づくめである。その姿は江戸川乱歩の小説に出てきそうな探偵とかサーカス団の団長、手品師をイメージさせた。小学生の頃、乱歩の子供向けの作品を読んでいて、犯人を当てたことがある。
「私、探偵になれるかもしれない」
 思わず父に話したら、
「恭子は頭がいいね」
 心ここにあらずという顔つきで褒めてくれた。父は放浪癖があり、何を考えているのか分からない人だった。軽蔑すべきところもあったが、おおむね好意を抱いていた。
 恭子は我に反って、あいつと一緒に仕事をするのはイヤだなと改めて思った。小山は理科の大林先生のようにのっぺりした、凡庸な顔立ちをしている。既成概念から一歩も出ておらず、異分子の臭いがする者は受け付けないというたぐいだ。大林先生の授業は参考書から丸々黒板に書き写し、平板な口調で話すので退屈でならなかった。それだけならいいが、前から疎んじられていた。きっと相性が悪いのだろう。恭子は反抗的になって、授業中に文庫本を読んだり、イラストを描いたりした。それらを知っていながら一度も注意しなかった。その代わりシカトで報復した。
 ある日、教科書を順番に読まされて、先生はその度に生徒の名前を呼んだ。恭子だけは何故か口にしなかった。思考がフリーズした。どうしたらいいのか戸惑っていると、後ろの席の美佐が背中をつついた。恭子は立ち上がって朗読した。屈辱感が体中をゆさぶった。授業の後、美佐にこぼした。
「あのセンコー、頭に来る」
「先生は名前を忘れただけだから、気にしないほうがいいよ」
「意地悪しているんだから」
「でも、泣いちゃだめ」
「うん、平気」
 今まで以上に大林を憎むようになった。大林太一という名前だけでも嫌悪感を覚えた。復讐してやりたいが戦う手立てを知らなかった。せめてもと木に縛りつけて、毒性のスプレーを鼻や口や目に吹きかけてやる妄想をした。
《お前のことは、ずっと忘れないからな》
 呪詛の言葉を吐いた。
 別の日、母が不要になった女性週刊誌の記事を、理科の教科書にはさんで読んだ。そこには、セックスのことが書かれてあった。男性から恥ずかしいところを見られたり触られたりしながら、「カワイイ」とか、「――ちゃん」とか、「ステキだよ」と優しく言われると、女は燃えて濡れてくる――などとある。恭子は早く大人になってデートしたいと思った。ふと同じような女が近所にいることを最近知った。マンションの歩廊に紙片が落ちていて拾って読んだ。
《西山専務に愛されたい、抱かれたい》
 そう書いてあった。たぶん同じフロアの女だろう。彼女しか見当たらない。高校を卒業したばかりの社会人だが挨拶もしない。顔はブサイクで、異様に太っていて、モテとは無縁だ――突然、大林のヒステリックな声がした。あらかじめ配布していた資料を美佐が読まされていた。
「ちょっと待て」
 大林がストップをかけたのだ。
「発音がなっていないぞ、ラリルレロのラ行だ」
 美佐のラ行の発音はわずかに不明瞭である。といって聞き取りにくいわけではない。
「鼻にかからないように言ってごらん」
「はい。ラリルレロ」
「もう一度」
「ラリルレロ」
 萎縮しているのか、もっと濁った声になった。
「そうじゃない、ゆっくり言ってみて」
「ラ・リ・ル・レ・ロ」
「繰り返して」
 こんな風に何度も言わされた。いくらやっても直るものではない。美佐が悪いのではなく、大林がストレスを吐き出しているのだ。つまらない権力者の振る舞いに恭子はカッとなった。帰るとき、美佐にアドバイスをしてやった。
「あいつの顔に催涙スプレーをかけてやる空想をしてみな。憂さ晴らしができるよ」
「それって、いいね。帰ったらやってみる」
 美佐はやっと笑った。
「バイバイ。恭子、また家に遊びに来て」
「うん、いく」
 笑顔で手を振った。美佐は二人兄弟で、年の離れた兄は高校を出て、自動車整備工場で働いている。ヤンキー風なおしゃれが好きで以前に遊びに行ったとき、極彩色の刺繍をしたジャンバーを着ていた。優しい話し方をし、チョコレートをくれた。
 恭子の田舎は静岡で、めったに雪は降らないが珍しく積もった。快晴になっても容易に溶けず至る所に塊があった。徐々に消えたが、一つだけ廃屋の日陰に残っているのがあった。それは巨人が寝そべっているように見えた。その日、恭子がまだ巨人がいるのかどうか確かめに行くと、途中の公園で男同士が争っていた。男たちは大林先生と美佐の兄だった。恭子は林に囲まれたベンチに座って見守った。兄が一方的にガナリ声を放って、キックボククシングの格好で威嚇し、そのうち本当に殴り出した。先生はふらつき気味になり、色白の顔から鮮血がほとばしった。恭子は戦慄を覚えながら、美佐のお兄さんやるじゃんと感動した。二人は間もなくいなくなった。それから巨人が少し形を留めているのを見届けてから帰路についた。ついでに数学の先生も図画の先生も血まみれになったら、どんなに痛快だろうか、悪い奴は報復されて当然だ――恭子は興奮してのぼせていた。
 テレビでプロレスやK―1を好んで観るようになった。流血騒ぎになると熱狂して、悪人面をしたレスラーに、
「がんばれ!」
 声援を送った。高校生になると父の書棚から様々な本を漁るようになった。アメリカの殺人者の心理学書があり、食い入るように読んだ。その中に刑に服している凶悪犯にファンレターを出したり、結婚を申し込んだりするという記述があった。分かる、分かる、ああいう男は隠れたセクシャルな要素を秘めているものだ。または極度に疎外者意識を持っているとか――上京して短大に入ると、ボーイフレンドができた。どれも物足りなかった。マナーや礼儀作法を心得、都会的なデリカシーに富み、見た目にはいいけれど、およそ燃えるものがない。そう言いながら恭子自身も自分が何者か分かっていなくて、しばらく迷走した。何とかしなければと自分を知るための努力をした。その一つとして発信する当てのないツイッターを書いた。ヒマがあると毎日パソコンに向かった。
 短大を卒業すると製薬会社に勤めた。四年後に倒産し、最初の挫折を味わった。自分のせいではないから仕方がない。いくつかのアルバイトや派遣の仕事を渡り歩いた。やがて司書の資格を取得し、S区立図書館に勤めるようになった。本が好きだから向いているかもしれない。ただ、彼女はアウトサイダー的な資質を持っているので不安でもあった。

 寒さのピークの頃、小山悦郎から電話がかかってきた。
「女性職員が一人入りました。これから挨拶にいかせます。二人で相談しながらやってください」
 形式的に伝えた。
「はい、分かりました。」
 恭子は少し緊張しながらおもねる話し方をしないようにした。新入りを待っている間、閲覧者の書いた購入希望のノートを開いて、目を通した。その中に朝日新聞から引用した次のような文章があった。
《今の作品群に共通するのは世界の危機ではない(略)。気がついたら日常の生活は壊れていたという感覚である。職を失い、将来がなかった。誰が負け組になってもおかしくない》――漫画評である。賛同しながらそのマンガを図書館に置くわけにはいかなかった。二十分ほどして眼鏡をかけた女が来た。見たことがあり、彼女は森島亜矢と名乗った。
「お目にかかっているわね」
「あなたのこと、よく覚えているわ」
 恭子は苦笑に似た笑みを浮かべた。
「私、未経験者だから、色々と教えて下さい」
「私も大して知らないの。お互い様よ」
 二十分近く話してから、閲覧室や視聴覚資料室、新聞や雑誌のコーナーを見物して帰った。受付のカウンターに座ると、見栄えのしない風貌が思い浮かんだ。森島亜矢とは某大学の図書館公開講座で同期だった。極端に小柄でずんぐりしている。いつも真っ赤なブルゾン姿で小講堂に現れた。どういうわけだか、長年療養所で過ごしていた人のように思えた。決まって最前列に座るので嫌味だった。どういうわけか刺々しい感じがした。
 ある日、中学校の女性職員がアルバイトの募集に来た。後ろのほうで十人近くの受講生が説明を聞いた。その中に森島亜矢もいた。見ていたら彼女が不意に前に進み出た。
「私は中学で英語の教員をしていました。生徒の扱いには慣れていますので、ぜひ図書係を希望します」
 キョウインという言い方には独特のアクセントがあった。職員は困惑して、個別の相談は後にしてほしいと断った。森島はむくれたような素振りをした。何とかして食い込んでやろうという厚かましさ。相当気の強い性格のようだ――そこへ用務主事の笠井勇一が来た。
「新しい人とよく話し合ってやらなきゃ駄目だよ」
 その差し出がましい口調にカッとなった。
「用務主事さんは、私の上司じゃないのよ。ダメだなんて否定形で言われる筋合いはないわ」
「おっしゃいますなあ」
「だって、失礼でしょう」
「さっきの人、仕事ができるらしいね」
「そんなこと、関係ないわ」
 恭子は赤ら顔にパンチを浴びせてやりたいくらいだった。用務主事は五十代の独身で酒を飲むことが楽しみらしい。地元の有力な代議士の紹介でS区役所に採用された。上に媚びへつらい、下に横柄に出る典型的な下級役人タイプだ。抑制している恭子を、おとなしいと舐めている。途中、閲覧者の対応をはさんでから、
「今後、二度と干渉がましいことを言わないで下さい」
 念を押しておいた。
「ああ、言わない、言わない」
 単細胞で自意識の乏しい笠井はヘラヘラ笑ってごまかした。

 朝、仕事が始まる前、森島亜矢がネット通販で何が一番買われているかと聞いた。恭子はアマゾンの本でしょうと答えた。
「当たり」
「私も利用しているわ」
「便利だものね。これじゃ本屋さんが潰れるのも無理ないわね」
 古本屋巡りをするのが好きだったが、この頃ではほとんどしなくなった。二人で書店が日に日に無くなっていくのを嘆きながら机に向かった。目下の仕事は購入する本の選別である。蔵書が少ないので相当数注文しなければならない。委託業者の提示した書類を亜矢とジャンル別に分担してチェックしている。
 コーヒーブレークにはお喋りをした。亜矢はやけに前向きになっていて、シャンソンを習い、アメリカの作家にかぶれ、ブログに書いていた。生命力が旺盛なのか、勢いがあって、それが鬱陶しかった。それはいいけれど話すとき、針で刺すような言葉を時々口にするので気分が悪かった。
 四月に入ると、間もなくやってくる本館の職員たちのことも話題になった。亜矢は男や恋愛に関心があるようだ。
「どんな人たちが来るかしら」
「大した男はいないみたい」
「別に男性を当てにしているわけじゃないのよ」
 亜矢は苦笑した。よく笑う女だが、とても空虚に聞こえた。
「でも、恋人募集中でしょう」
「そりゃ、お付き合いをしたいわ」
「私は嫌な職員が来なければいいと思っている」
「皆、普通にまともじゃないの」
 そうとは言えない。恭子は小山悦郎に引っかかっている。用務主事によると、次席の石山清一と小山らは確実に来るという。後は大半が派遣職員のようである。亜矢がずばり尋ねた。
「浅井さんは愛している男性いるの」
「いないことにしておくわ」
 はぐらかした。私生活など誰にも話したくない。彼女はキリッとした顔立ちをしていて笑顔がいいと言われ、オスを引き付ける魅力をもっている。
「かーっとなるような男性に出会いたいわね」と亜矢。
「いればいいけどね」
「そういう男性とキスしてみたいなあ」
「フフフ」
「浅井さん、経験あるでしょう」
「当たり前でしょう、二十八よ」
 亜矢は気の毒にも三十を過ぎて未経験らしい。概念的な女史風の顔立ちが男にウケるわけがない――

 恭子はとりあえず、やらなければならないことがある。同居している明夫と別れることだ。彼とは大宮のアパートで三年間一緒に過ごした。賞味期限が切れており、潮時だろう。アニメ製作会社に勤めていて、劇画漫画家を志している。生活能力に乏しく、過保護で育ったマザコンである。金や生活費で揉めると、
「経済力のない男なんて、男じゃないわ」
 いつもそう言って噛みついた。
「でも、いつか売れるようになって、大金持ちになるよ」
「実現しなかったら、どうなるの。社会の底辺に埋没しそうね」
「そうはならない。俺は郷里を背負っているから。抑圧された土地の潜在的なパワーを秘めているからな」
 何度も聞かされた。明夫によると、創作は何らかの形で郷土と深い関係にあると言うのだ。彼の田舎は徳川幕府に抑圧されてきた。人口の少ない閉鎖的な町でよく陰口を言いたがる。明夫も肉親や親戚を通して聞かされた。子供の頃からこんなド田舎に誰が住むものかと憎悪していた。郷土に関しては知ったかぶりでものを言う。あの辺一帯は関ヶ原合戦の際、反徳川勢に着いたため、戦後の処理が苛酷を極めた。分割統治、細分地という政治形態をとらされてほんらい土地の持っている力を根絶やしにされ、全体的に自己卑下的な体質を受け継いでいる。
「あんたも、そういう性格じゃないの」
「違う、俺は戦っている。親父によく言われた。無抵抗はいかん。やられたらやり返せ。どんな汚い手を使ってでも反撃しろとね」
 狭量な土地の血筋を断ち切れと明夫は力説する。今は地方なんて見る陰もないが、諦めてはいない。水脈は脈々と続いている。反逆だって復讐だってやるぞと勇んでいる。明夫のマンガは甘美でアブノーマルでドラスチックなところがあった。恭子の印象に残っているのでこういうのがある。
 主人公は怜悧な顔立ちをした年上の女と同棲していて、夜ごとセックスを楽しんでいる。時には道路工事の作業員のコスプレをして女を襲い、逆に弄ばされる。
「こうしてやる」
 ブーツの底で顔を踏みつけにされたり、侮蔑的な言葉を浴びせられたり……また、不良グループのリーダーに恋人をレイプされて、怒り狂って仕返しをする。男を車に乗せ、山間の橋の上に連れていく。鉄パイプで痛めつけ、蹴り上げて倒し、衣類を全部剥いで川に捨ててしまう。全裸の男は寒空の下でガタガタ震えながら、
「許してくれ、許してくれ」
 哀願する。サンダルだけ恵んでやり、
「ここを人が通りかかったら、助けてもらえ」
 言い捨てて走り去る。同人雑誌に載った作品である。裸に剥かれた男は会社の上司に酷似しているが、よほど憎んでいるのだろう。才能はあるのか、将来性はどうなのかは不明だ。どうあれ、恭子は日に日に倦むばかりだった。
「煎餅のカスをボロボロこぼさないで」
「何で、そんなに早飯食いなの。下品ねえ」
「あんたと歩くの恥ずかしいわ。女ばかり見ているんだもの」
 ことごとく小言を言わずにいられなかった。すべてが嫌悪の対象だった。明夫はなかなか別れようとはしない。愛情があるからではなく孤独になるのが寂しいからで、誰でもいいから一緒にいたいだけだ。恭子は絶対にアパートを出ることにしている。

 ゴールデンウィーク明けの頃、本館の職員が移ってきた。数人しかいなかったのが急に賑々しくなった。用務主事は活気づき、有力者の間を行き来し、顔を売った。すでに党派があり、三十四歳の小山が仕切っていた。誰よりも重きを置かれ、次席の石山までが追従していた。恭子の小山への見方は変わることはない。粒の小さい、小利口な性格で、どこか威張ったところがあって、大抵の職員は小山に従順だった。
「こういう空気には乗れないわ」
 亜矢にこぼした。
「私はどっちとも言えないけど」
 佐野ちゃんにも、
「やっぱり、小山という人は、好きになれないわね」
「でも、表向きは敬意の念を払っておいたほうがいいですよ」
「そうよねえ。それは大事ね」
「ぼくは、道化役をやっています」
「それも処世術かな」
 佐野ちゃんは善人なのか、ノーテンキなのか、珍しいタイプといっていい。自らパシリを引き受けて、買物役をやっている。恭子は私用を頼む小山達を軽蔑した。二十七になる佐野ちゃんもよほどおバカさんだ。
 昼休み、図書館の前にあるF庭園に森島亜矢と休みにいった。風が気持ちよくて光もやわらかい。旧財閥の寄付した施設で、よく手入れされた木々や花々が咲いていた。花壇の一角にニコール・キッドマンと名づけられた薔薇もあった。コンドルの設計した建物を見てからベンチに座った。二人ともボトルの紅茶を味わって飲んだ。
「中谷さんなんか、真面目でいいわね」
 亜矢が微笑を浮かべる。
「中谷さんねえ……」
 恭子はほとんど買っていない。あえて話に乗った。
「彼は案外、あなたみたいなタイプ、好きなんじゃないかな」
「私もそう思う」
「いけるかもしれない」
「浅井さんが保証してくれるなんて、心強いわ」
「ゲットできるかもね」
 亜矢に恋人やボーイフレンドがいた試しはない。むろん抱かれたこともキスしたことも。そういう女が一人の男に注目している。中谷は三十一で背は高くルックスは整っている。だがどこかぎこちなくて内面の豊かさがないし、性衝動があるのかないのか。肉親と縁のない育ち方をして愛情が不足しているように見える。亜矢はこの程度にも相手にされないだろう――
「恭子さん、リー・マービンみたいな男性は見つかりそうなの」
「そのうち、見つけるわ」
「あなたのお奨めの映画、見たけど好きじゃない」
 ロバート・アルドリッチ監督の映画の話をしたら、念のために観たらしい。恭子は高校時代からリー・マービンに熱を上げていて、セクシーな男だと思っている。一九五五年生まれの父がファンでその影響を受けた。
「今時、ああいうタイプは、マンガチックだわ」
「草食的で軟弱な男はお断わりよ」
「でも、人を殴るなんて、犯罪じゃないの」
「いいじゃないの、私はグッとくるな」
「ある意味歪んでいるわね。刑務所なら一杯いる」
「いざとなったら、死刑囚と結婚する手もあるかな」
「ウヒャー」
 亜矢は嫌味たっぷりな口調で奇声を発した。それだったら絶滅したと言われているニホンオオカミを捜す旅に出たほうがいいと言う。
「奥秩父辺りにいるという話だけど」
「鋭い精悍な顔立ちは悪くないわね」
 恭子は少し同感した。生存は確認されていないけれど、亜矢はいつか発見されるのを夢見ている。オオカミの話をしてから図書館に戻った。

 毎日、平穏に過ぎていった。本館の連中とはできるだけ親しくするように心がけている。そのうちちょっとした異変が起きた。恭子はウィルス性胃炎を患って四日間休んだ。出勤するとどことなく雰囲気がおかしい。事務室に顔を出したら、
「浅井さん、彼氏いるんだねえ」小山がからかった。
「美人だからなあ」次席の石山がニヤリ笑った。
「いいえ、いませんよ」
「知っているぞ」
「本当にいないですよ」
 恭子は必死だった。十日後には今の住まいを出ることになっているから、わざわざ知らせる必要はない。でも何故そんなことを言い出したのだろう。
 後になって分かった。病気で休んでいる間に小山から電話があり、具合を聞いてきた。その際、電話に出た明夫が、
「恭子にかかってきたぞ、早く出ろよ」
 大きな声を立てたので知られた。小山がバラしたのだ。用務主事の笠井もさっそくいい人がいるんだねと薄笑いを浮かべた。
「糞ったれのオジンめ!」
 恭子はむかついてならない。
 まだ暑さの残っている日、ようやく東十條に引っ越した。ビルを改築した建物の二DKで、割安の低家賃である。マンションよりもアパートに近い造りが気に入った。ヒマを見て梱包を解いたり部屋のレイアウトを考えたりした。
 同僚には男と別れたことをそれとなく伝え、火消しに努めた。そんなに向きになることはなく関心は薄らいでいった。しかし人間関係は気が抜けない。小山の支配している職場から微妙にずれているので上辺は適度の会話を交わして、無用な衝突を避けているが。
 出勤の途中、ずっと前を歩いていた佐野ちゃんの近くにドシャッと水が降ってきた。マンションの窓からバケツで水をぶちまけた中一くらいの女子の姿を認めた。そのとたん佐野ちゃんは上を見あげて、
「バッカヤロー」
 大声で怒鳴った。恭子はびっくりしながら共感した。あんなガキは許せない、大人のようなませた顔をして性格もひねていそうだ。
 二、三日した頃、帰りがけに佐野ちゃんを誘った。値段の手頃なおいしいパスタの店を見つけたからだ。
「食べていかない? 奢るわ」
「えっ、また珍しいね」
 佐野ちゃんは不思議そうな顔をした。実家からお小遣いを送ってきたからである。図書館から離れているのでまず職員達がくるようなことはない。ボリュームがあるのでもってこい。
「一人暮らしは落ち着いたの」
「どうにかね」
「男共は浅井さんを知的なセクシーな女性に見立てているよ。俺も素敵だと思っているけど」
「じゃあ、アタックしたら」
「俺でいいっすか」
「物足りないけど」
「最初から決めつけないでよ」
 笑い声を立てた。横太りの無骨な体型だが笑うと目が細くなり、案外と可愛い。北海道の農家の出だとかで働きながら通信制の大学を出た。哲学を専攻したというがそうは見えない。頭の善し悪しはともかく恐ろしく要領が悪い。
「俺、この間、小山さんに担がれてね、頭にきたよ」
 区役所の職員の女が彼に会いたいというから、出かけたら嘘だった。前にも騙されたことがあった。
「ひどいわね。怒ったほうがいいわ」
「でも、ここの中心人物だから」
 下手に出ているからだわ、人の買物なんかしなくてもいいのよと注意したら、皆が喜んでくれるから納得しているという。そんな考え方はおかしいと恭子はなじった。ところで佐野ちゃんは中谷さんとは親しいなら亜矢のことは知っているかと聞いた。館内では噂になりつつあるが、どの程度進展しているのか。中谷は亜矢のことをほとんど好いていなくて仕方なく相手にしているだけだという。
「分かるわ。まったく羨ましくない話ね」
「恭子さんは森島さんを、どう見ているの」
「適当に付き合っているけど、嫌いよ。話していて刺があるもの。何故、刺々しいのかしら」
 子供の頃、病気をし、それが原因のようである。難しい病名で長期入院した。第一印象は間違いではなかった。それに彼女の話し方はへんに論理的で空虚である。背伸びばかりして優しさや柔軟性が感じられない。それでいて自信たっぷりで強気ときている。コンプレックスの裏返しといっていい。きっとそれが刺の多い会話になるのだろう。
「とにかく、トゲトゲはいや!」
「そのうち、彼女、いなくなりますよ」
 亜矢は他の図書館に移りたがっている。通うのが遠いからである。話はあちこちに飛んで盛り上がった。佐野ちゃんには共感するものが多く話せば話すほどイノセントな性格を発揮した。

 連日猛暑が続いている。図書館の窓から民家の庭が見え、サルスベリが太陽に向かって、次々とピンクの花を咲かせているのが頼もしい。
 森島亜矢が稲城市の女子大の図書館に転職して二週間が過ぎた。亜矢がいなくなると見たくない顔が消えてよかったという者が何人もいた。その一方職場では中谷の恋愛ネタが持ち上がった。皆は何かで騒ぎたくてエモノを狙っている。彼女は自分の評判も知らず、古巣の滝山に訪ねてくる。グレードアップした自分を誇示するためと中谷との逢瀬だった。亜矢は図書館ばかりかアパートにも訪ねてきて、しかも加速度を増していた。女らしい含羞もなく男の部屋に遊びに行き、そのたびにウイスキーやビールを持参した。酔ってダンスを申し込み、チークを踊った。いくら体をピッタリ密着させても、中谷は立たないというのだ。その頃、スマホで亜矢に、
「感触はどうなの」と聞くと、
「彼ったら、自分の気持をあまり表現しないの。だから、笠井さんにも話してもらうことにしたの」
「えッ、どうして笠井なのよォ。何を血迷っているの。あんな奴婢みたいな男が親身になってくれると思っているの」
「私は応援がほしかったの」
「笠井なんて、どうしようもないわ」
「いいのよ。アブノーマルな人は黙ってて」
 アブノーマルだって、バカ。恭子がとやかく言うこともないので、それ以上は口をつぐんだ。とにかく彼と婚約したら郷里に連れていき、親に会わせたい、きっと素敵といってくれるだろうと嬉々としている。冷静になって自分を相対化しようともしない。二人の関係は日を待たずに拡がり、同僚達の知るところとなった。その日、小山悦郎が中谷に声をかけた。
「よォ、結婚するんだってね」
「いや、しませんよ。事実無根です」
 そこへ次席の石山もきて、
「森島さんはいい奥さんになるよ、スバラシー。ねえ、悦ちゃん」
「お似合いです」
「ほら、悦ちゃんが言うんだから、間違いない」
「森島さんは立派な女性です。文科省推薦にしてもいいくらいです」
 笠井が口を挟んだが、こういう言い方が如何に人を愚弄しているか知らないでいる。二三の男女が賛辞を呈し、祝福した。温厚な中谷の辛抱もそこまでだった。憤怒が用務主事に向かった。
「そんなに言うなら、笠井さんが妻にすればいいよ。ついでにご忠告しますが、プロポーズする前に爪を切って、髪をよく洗ったほうがいいよ」
「俺、そんなに汚いかね」
 回りにいた連中が後ろめたそうな笑い声を立てた。集団の中の情報がいびつに伝播し、まるでお祭り騒ぎだった。中谷も中谷だ。自分が亜矢から大事にされているから節度なく付き合い、相手に錯覚を与えてしまった。ニセのラブラブは罪作りである。その上に同僚にお節介を焼かせた。恭子は他人事ながら苛立って声をかけた。
「中谷さん、亜矢さんを好きじゃないんだから、はっきり断るべきよ」
「ああ、今日にでも電話をするよ」
「それがいいわ」
「ひとを弄ばないでください」
 中谷の強い抗議の口調に職員達は狼狽して散っていった。それにしてもこの濃密な空気は何だと言うんだ。普段は抑制して他人の領域にはめったに侵入しないのに、それが雪崩を打ったようになった。冴えない男とブスの取り合わせが面白かったのか。これだったら羨望も嫉妬もしなくてすむ。
 一週間ほどして亜矢から断念したという電話があった。強気の彼女もパセティックになっていた。

 午後九時まで残業をして、ロッカーで着替えをしながら、
「天草に行ってみたい」
 恭子はふと閃いた。天草・島原の乱のとき、農民が籠城した城中から天草四郎がこう矢文にしたためた。《天地万物の根源は同じくして平等であり、この世に身分の尊い、卑しいの例はありません》天草では今もそういう考えが受け継がれ、旅人を優しく受け入れてくれる。平等の土地は夢の国のような気がした。ロッカー室を出ると物音がして、いつの間にか小山が姿を見せた。何の用があるのかウロウロしている。声をかけられた。
「浅井さん、帰るのかい」
「ええ」
「ちょっと話していかないかね」
「でも、遅いから」
「どうせ、一人暮らしだろう。たまにぼくと付き合ってよ」
 小山は恭子の肩に手を置いた。どうするかと見守っていた。
「ぼくと仲良くすると、トクするぜ」
 トクって何だろう、安っぽく見ている。こんな男でも図書館では大物視されている。他の女子職員も同じ手口でやられているだろうか。それとも自分だけなのか段々と頭に血が上ってきた。かなり触らせてやってから、
「セクハラは許されないよ」
 手を払いのけた。
「大して悪いことをしているわけじゃない」
「ひどいことをしているわ。訴えてやる」
 恭子は小山を尻目に離れていく。図書館を出た。乗車駅に向かいながら先日メデアで報じられた事件が甦った。男子学生がある公共機関に勤める職員に電車の中で十分間触られた。その間体をよけるとか、睨みつけるとか、言葉を発するとかできたはずだが、無抵抗だった。もしかしたら逮捕させるためだったかもしれない。恭子も半ば意図的である。小山を窮地に落とし入れてやりたかった。
 翌日、別室で次席に痴漢行為を報告した。
「指導者として許せません」
「善処します」
「それに不公平です」
 日頃の不満も口にした。
「厳重に注意します」
 石山は形通りに対応し、心のこもっていない常套句を並べた。同じ派閥の上司に話してそれほど効果があるのか疑問だった。さらにこんなことまでつけ加えた。
「この件は、内聞にしていただきたい。外に漏れると、図書館全体に関わってきますから」
「見逃せというんですか」
「小山くんにも未来があります」
「警察沙汰にしてもいいですよ」
「それはご容赦ください」
 そんなつもりはない。ただ小山が憎いんだけだ。小山とつるんでいる次席もどうかしている。石山は次男が名門の中学を合格したときは毎日のように自慢して、上司の値打ちを下げた。ゲジゲジ眉が下がり放しで醜かった。二、三日しても状況が変わることはなかった。次席が如何なる措置をとったのか。小山は何事もなさそうな顔をして詫びるわけでもなかった。どんな反応も示さなかった。

 図書館は館内整理日に入った。陽気も秋らしくなり、風が気持よかった。職員達は閲覧者がいないせいか、リラックスしている。昼休み、食事をしてから雑談していると小山が佐野ちゃんに買物を頼んだ。意外な答えが返ってきた。
「俺、買物にはいかないことにしたんです」
「いいじゃないか、行ってこいよ」
「でも、決めたから」
「なんでだよ、あんたの存在意義がなくなるぞ」
 佐野ちゃんは、じゃあ次からにしますと立ち上がった。何人かの者がお使いを頼んだ。そんな中途半端なやり方はダメよ、恭子はイライラした。十分ほどして佐野ちゃんが戻ってきて皆に配った。食べている職員達が卑しげに見えた。
「あれ、変だな」
 小山が調子はずれの声を立てた。
「俺、こんなもの頼んだ覚えはないぜ。それに釣銭が間違っている」
「お金はいくら足りないの」
「八十円だ、ちゃんと計算したのかい」
「もちろんだ、俺、数字に強いから」
「だけど、違っているぜ」
「小山さん、よく見て。少々のことで文句言わないでよ」
 佐野ちゃんの声は高ぶっていて、いつもの彼ではない。恭子は目を見張った。小山はますます高飛車に出て言いがりをつけた。
「子供のお使いじゃないからな」
「俺、小山さんの使用人じゃないぜ」
「生意気言うな。買い直してこい」
 小山が菓子をポイと投げた。それが顔に当たり、佐野ちゃんは見たこともない形相をした。次の瞬間には何をしやがると猛然と小山に突進していった。
「乱暴しないでくれ」
 小山は驚愕しながら手で制した。
「人の顔に物を投げる奴があるか」
「偶然だよ」
「何が偶然だ。意図的だろう、おい、こっちへこい」
 佐野ちゃんは座っていた小山の胸倉をつかんで立ち上がらせた。椅子が倒れて騒々しい音を立てた。次席が二人の間に入ってとめようとした。佐野ちゃんの勢いは止まらず、巨体に躍動感が出てきた。中肉の小山を廊下に引きずっていくと突っ立っていた男とぶつかり、両足を広げて無様に倒れた。
「ひでえ、逮捕しろ」
 彼は泣きそうな声で叫んだ。皆は廊下に出て恐れ戦きながら眺めていた。佐野ちゃんは小山の顔面に腹部に容赦なくパンチを打ち込んだ。見守っていた恭子の子宮が激しく蠕動した。
「佐野ちゃん、やれやれ。負けるな」
 恭子は黄色い声を放った。
「止さないか」
 次席が青ざめた顔で怒鳴った。用務主事の笠井もきた。
「小山さんがいけないわ」
「話せばわかる」
「部下を小間使い扱いにするなんて最低よ」
 恭子は向きになっていた。小山は床に膝を着くようにして倒れた。皆は茫然としながらもショーを見るようにかすかに喜悦の色を浮かべていた。石山も一発くらい、笠井も二、三度平手打ちされた。
恭子はぐったりした小山に近づいていくと、しゃがんで声をかけた。
「小山さん、意識はあるわね」
「ああ、あるよ」
 小山は苦しそうに頷いた。恭子はただちにスマホを取り出して救急車を呼んだ。次に給湯室にいって、湿ったタオルを手にして戻ってきた。佐野ちゃんを拭いてやった。返り血を浴びた顔や衣服を何度もこすった。
「さあ、警察に行こう」
 恭子は皆に聞こえるように言った。
「警察?」
「自首するのよ。分かっているでしょう。早く、早く」
 恭子は佐野ちゃんを急かした。職員達は恭子の行動を訝しげに見ていた。二階から降りて建物の外に出た。道路脇に立ち、タクシーを待った。
「俺、殺意はないよ」
「何言っているの。小山は死んじゃいないから、気にするな」
 さっきの自分の言動は同僚に対するポーズということを分からせた。
「佐野ちゃんを見直したよ」
「俺、小学校に上がる前、友達に騙されてさ、手に噛みついてやったことがある。血だらけにしたけど、あれ以来だね」
 そのとき、小型のプリウスが横付けになり、二人で乗り込んだ。恭子は東十條の目印になる建物を告げた。
「今日の佐野ちゃんはライオンね。小山はライオンにやられたのよ」
「おかげで心の奥にあるものを開放してスッとしたよ」
「でも、図書館はクビよ」
「クビか、仕方ないな」
「あんたは犯罪者だからね」
 運転手は二人の会話に度肝を抜かれたようにカーステレオをつけた。ラテン系の軽快な音楽が流れた。ごちゃごちゃした狭い道を曲がりくねって走った。大きな商店街で降りると佐野ちゃんは回りを見回しながら尋ねた。
「どこへ行くの」
「私の家よ」
 とりあえず一休みしてその後警察に行くことにしている。路地を入ったところに進むと四階建ての建物があり、サニーハイツとプレートに出ていた。恭子の家は三階にあって室内は整理整頓されていた。ドレッサーの横に本棚があり、沢山並んでいた。佐野ちゃんは細い目で子細に背文字を追った。ダイニングテーブルに座らせ、ボルドー産のワインを二つのグラスについだ。二人は静かに飲んだ。
「俺のやったこと、容認してくれているの」
「もちろんよ」
「嬉しいよ。抱いていいかい」
「好きなようにして。あんたは私を抱く権利がある」
 佐野ちゃんはがむしゃらに恭子の唇をふさいで長いキスをした。せっかちに衣服を脱がせると乳房や太股を音を立てて吸った。
「あそこ、ドロドロだね」
「佐野ちゃんも凄いよ。鉄の棒みたい」
 恭子は喘ぎ、佐野ちゃんは荒い息を吐いた。双方はまたたく間に頂点に達した。恭子の性器から精液がこぼれ落ちた。一定の時間を経て彼は再び挑んできた。終わると二人は身なりを整えて、コーヒーを飲んでから家を出た。
「出頭したら、どうなるんだろう」
 佐野ちゃんは不安そうである。そんなことは向こうに任せればいい、罪はそんなに重くないはずだと話してやった。
「それならいいけど」
「刑期を終えたら、私の家にきて」
「ああ、楽しみにしている」
 佐野ちゃんはいい表情をした。自分もS区立図書館に勤められないかもしれない。まあいい、なるようになれ。途中、佐野ちゃんは土埃の被った地蔵の前で立ち止まり、合掌して頭を下げた。
「先のことを祈っているの」
「いや、見捨てられたような存在が好きなんだ。いつもやっているよ」
「いい趣味ね」
 恭子はほほえんだ。

憧れの男

憧れの男

蔑まれたり無視されたりすることへの怒りがテーマですが、暴力の場面も出てきて、女性から敬遠されそうです。私も好きではありませんが、今回はご勘弁ください。

  • 小説
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-09-09

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted