微睡み

眠れない私から、あなたへ。
静かな静かな、夜のおはなし。

ーーーまた、だ。

世間が"喧騒"という言葉を体現している時間を怠惰に過ごしていれば、当たり前といえば当たり前なのだが。やっぱり目は冴え渡って。私を微睡みの中に落としてくれない。

家族はとうに寝床に入り、緩やかに、安らかに、今日もひとつ空想の物語を紡ぎにいったというのに。私だけいつも、暗闇に残されるのだ。寂しいわけではない。まったくだ。強がりでもない。ただ、ただ私にも一般的と思われるこの時間の休養は必要であろう。好き好んで太陽から逃れ怠惰に過ごしているわけでもない。

うつら、うつらとしたときもあった。しかしそれだけなのだ。意識を手放そうとすると厄介な奴らが騒ぎ出すのだ。"もったいない"と。知ったことか。君たちが騒ぐおかげで何度目を閉じても、何度体を転がしてみても、何度軽く温かい布を手繰り寄せても私は微睡めないのだ。ほら、時計だって針を進めた。5分や10分でない。もう何周したのか。無機質な画面から垂れ流される何が面白いのかもわからないような笑い声も今は黒い画面に変わり、よりいっそう静かに佇んでいる。賑やかだった酒を煽った者たちの声もいつしか消えた。それどころではない。明るかった立ち並ぶ店の照明も気付いたらもう少ない。ただ、時たま近くの道路を忙しなく音をたてながらトラックが走って行く。それだけだ。

1日だけならまだいい。しかしそうではないのだ。こうして眠りゆく街を"景色"として、それ以上でもそれ以下でもなく眺めている。それも何日も。

相変わらず冴えきった目と冴えているというのになにも考えられないこの使えない頭とともにひらすら時間を流してゆく。するとどうだ。黒い小さな影は今日も精一杯鳴き出し、澄んだ声で幾らかの人々を起こすのだろう。水滴を垂らすようにじわりと東の空が青白く色づく。少し埃っぽい玄関にある靴に足を突っ掛け、白くなった世界に出てみる。空気が冷たい。この時間が一番すきだ。肺を動かせば、まだ誰も吸っていない今日の匂いを身体中に染み渡らせることができる。こんなことで、私は生きていることを感じられる。今日も、しあわせだ。

そんなことをしていると些か視界が溶けてゆくのだ。嗚呼、今日も、ここまで。そうぼんやりと考えながら自室の寝床に身を預けると、そこには素敵な招待状が。"さあ、あなたも。"そう書かれたカードを持って、少し抵抗をしてみる。の、だが。勝てそうにない。勝つ気がないとも言えるであろう。そうして今日も私は待ちに待った微睡みへ飛び込んでゆく。これから聞こえてくる喧騒になど、耳も傾けずに。

微睡み

未熟で拙い文章ながら最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
どうかあなたが、よく眠れますように。

微睡み

眠れないときに、どうぞ。

  • 随筆・エッセイ
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-09-09

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