陥没旅歩

木枯らしが吹き荒び、茶色く萎れた葉っぱが地表を転がり、空を舞う。砂利道沿いに並ぶ木々はその幹枝を露わにし、音を立てて軋んでいる。辺り一面に広がる枯れ麦畑は、その上辺が海のようにさざ波立っている。空を覆う灰色の暗雲は、今にも雨の涙を降らしそうである。
コートがばたばたはためき、その裾や隙間から寒気が吹き込んでくる。道を歩む皮のブーツは砂利を踏み鳴らし、乾いた擦音を間断なく響かせる。しばらくそんな足の操業を見下ろしていたが、やがて飽きて、私は連なる道の彼方を睨み上げた。延々地平を覆い尽くす枯れ麦の中を突っ切る砂利道と枯れ木の列は、ただ地平線へと凝縮され、吸い込まれていくばかりである。
思わず漏れたため息は、微かに白く濁って霧散した。何時まで歩けばいいのだ。目的地は、依然として見えてこない。そろそろ私は疲れてきた。
私の行く末に待ち受けているだろうものは、大きく賑やかな街で、石畳で舗装された道路に靴音を響かせ、馬車や人々が和気藹々と行き交い、すれ違えば皆私に朗らかな笑顔で挨拶をしてくる、そんな考えるだけでも胸躍るような、居心地の良い夢空間である。しかし、もう足の筋肉はくたくたで、一歩を前に差し出すだけでも結滞である。ああもう、乗り合い馬車でも通りがかってくれないものだろうか。私は早く街へ行きたいのだ。
砂利道に足を引き摺り、投げ遣りな心持ちで行進を続けていると、ふと見上げた地平線に、街と思しき影が見えた。私は忽ち色めき立った。しかしよく見ると、あれは街ではない。遠目にもみすぼらしい小さな家々が、こじんまりと集まっているだけの集落だ。私はややかじかんだ両手を摺り合わせて、はっと白い息を吐きかけたが、その薄ら生温かい温度が却って虚しかった。あんな取るにも足らないちっぽけな寂しい村で旅が終わってたまるか。真っ正面から北風が、麦穂を撫でて枯れ葉を巻き上げ、まともに私へ吹き付けた。コートの前身頃をかきあわせると、握り締めた両拳を懐に突っ込み、竦めた肩に首を縮めて歩み続けた。
行けども行けども、行く手に現れるのは集落ばかり。過ぎれば過ぎるほど、次に現れる村の様相は、段々にみすぼらしくなってゆく一方である。風は益々強く、寒く吹き荒び、両の足もまた、鉛のように重くなる。それでも、私はいつか、夢の街へたどり着けると、信じて疑わなかった...
その男の背後、彼方に遠ざかる黒い影は、どうやら大きな街のように見えた。しかしその賑わいの声や笑いは、最早遠すぎて聞こえない。

陥没旅歩

陥没旅歩

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-09-08

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