嗚呼モッツァレラチーズ

瀬谷 翡

とある高校の、馬鹿な放課後の話。

嗚呼モッツァレラチーズ

ある放課後、ある部室。今日もダラダラ過ごす三人の高校生に、それは突然やってきたのだった。
「なあ、モッツァレラチーズゲームって知ってるか?」
口を開いたのは悠斗。彼女いない歴16年。いわゆる普通男子である。
「モッツァレラチーズゲーム…って?」
興味を示したのは史織。 正直何故この場にいるのかわからない女子である。なぜなら彼女は多くの男子から顔面偏差値75との評価を受ける美少女であり、つい先日40人目の玉砕者を出した青春キラーだからだ。
「モッツァレラチーズゲーム…聞いたことがあるな。確か輪になって順番にモッツァレラチーズと叫ぶゲームだろ?」
こちらのクールなナイスガイは大翔。高身長、高成績、早い話がチート君である。
「そーそー。前の人よりテンション高くな。」
ここでモッツァレラチーズゲームについて説明をしよう。今しがた悠斗が言ったように、モッツァレラチーズゲームとはいわゆる飲み会ゲームというやつで、複数人で、時計回りに順番に「モッツァレラチーズ」と言っていくだけのゲームである。ただし、前の人よりもテンションを上げなくてはならない。 ルールは単純だが、テンションの高さをどう表現するか、非常に複雑なゲームである。
「で、そのモッツァレラチーズゲームがどうしたの?」
「暇だしここの三人でやってみねぇ?」
「異議なし」
「え、やだよそんな恥しかかかないようなゲーム。」
「1対2、よし行くぞー。モッツァレラチーズ。」
普通男子による普通テンションのモッツァレラチーズ。普通だ。とことん普通だ。
「次は俺だな。モッツァレラチーズっ。」
少しテンションが上がった大翔のモッツァレラチーズ。この無意味なかっこよさは何なのか。
「え、わ、私?…も、モッツァレラチーズ…!」
恥ずかしそうに史織が続く。
「うし、上げてくぞー。モッツァレラチーズ!」
やはり特筆すべき点もなく、悠斗がテンションを上げる。
「俺か。…モッツァレラチーズッッ!!」
次に控える史織のことも考えず、大翔が大幅にテンションを上げた。
「え、えぇっ⁈、、、も、もっつぁれらちーっずっ!!!」
言った途端に史織が赤面する。
「は、はずかしいっ…」
「ははは、先が思いやられるな史織!次俺な!…モッッツァレラチィィーズっ!」
テンションが早くも最高潮を迎える。
「ゼェ…ゼェ…。どうだ大翔、超えられるか?」
もはやここまでくると普通と呼べなくなってくる。悠斗のアイデンティティが何処かに消え去った気すらする。
「…ふっ。悠斗、何も声を張り上げるばかりがテンションではない。いくぞ。」
次の瞬間、大翔の表情が変化する。満足げに、まるでパーティで出会った女性に、お美しいですねと声をかけるが如く柔らかく、しかし強い喜びを込めた声が漏れた。
「モッツァレラチーズ……」
マドモワゼル。そう聞こえた気すらする。深い余韻が部屋を支配した。
「…え、私これを超えなきゃいけないの…?」
「お?どーした史織、降参か?」
「…私だってやればできるからっ!」
そう言うと、史織の表情が急に明るくなる。そう、その表情はまるで、、床に落ちた消しゴムを拾ってくれた異性に対する感謝の表情。下手をすれば、一発で恋に落ちるような、純粋無垢な笑顔。首を少し傾げ、スタッカートを効かせた声が、鈴の声のように響く。
「モッツァレラチーズっ♪」
ぐはぁっ。悠斗が床に倒れこむ。
「ど、どうした悠斗っ!」
悠斗は駆け寄ってきた大翔に向かって手を伸ばし、幸せそうに、そして辛そうに、言った。
「モッツァレラ…チーズっっ…」
萌え死んだ。大翔にはそう聞こえた。
「最高の…最高のモッツァレラチーズだった…」
大翔は力を失った悠斗を軽く持ち上げ壁際に寄せる。
「史織、決着を付けるぞ。」
刹那、部屋の中が明るくなる。もちろん、物理的に明るくなった訳ではない。一人の男から発せられる喜びのオーラが、部屋を、空間を支配する。低く響く大翔の声が、部屋を震わせ、心を震わせる。それはそう、まるで極上のワインを飲み干した支配者の高らかな叫び。甘美なる賞賛。悦び。総てを集約した魂の響き。
「モッッッツァレラチィィぃぃぃぃズッッッッッっ!!!!!」
脳内で、管弦楽の奏でる壮大な和音が幾重にも重なり合う。
「なんて…なんてモッツァレラチーズなのっ…。でも私は…私は負けないっ!」
史織は今、理解している。自らの強みを。史織は今、把握している。自らの能力を。史織は今、利用しようとしている。自らの総てを。母から賜った容姿、父から賜った処世術。その全てを総動員し、より効果的に、活かす。今まで意識したことのなかった自らの強み、能力。それが今、限界すら感じないほどに高まっていく。その声は全ての感覚を支配する。耳に入るだけで、くすぐられたような感覚が体に走る。その姿は、目に入るだけで心を奪う。椅子に座ったまま、上目遣いに見つめ、弱々しさを、女性らしさを、最大まで強調する。もしも、大翔が今この時を、モッツァレラチーズゲームとして意識していなければ、間違いなく秒速6回程度のペースで恋に落ちてしまっていたような、そんな破壊力。二人だけになっちゃったね。そんなセリフが相応しいのだろう。声が、、紡がれた。
「…モッツァレラチーズ。」
もはやゲームの趣旨が変わっているのかもしれない。しかし史織には関係ない。それはこの行動が紛れもなく、彼女にとっての最高のテンション…最高の緊張によって放たれた切り札だったからだ。大翔の顔が、本能的に赤くなる。右手で顔を隠した大翔の姿に、史織は勝利を確信する。
しかし、ゲームはまだ、終わらなかった。
この世に存在する中で最も高いテンションを誇る者。それは…男子高校生。いつの間にか復活していた悠斗が、シャツを脱ぎ捨てる。これこそが、正しいテンションの形。
輝かしい、男子高校生のスーパーハイテンション。声の大きさではない。秘められた歓喜でもない。もちろん…萌えを狙っているわけでもない。純粋な、純粋なハイテンション。Fの後にoが200個くらい繋がりそうな、異常な若い力。お年寄りが見たら気絶するかもしれない。口から出た言葉は、イタリア南西部、カンパニア州原産のあの名前。
「モッツァレラチーズうううううううぅぅぅぅぅぅぅぅっっ!」
ゲームは、終わった。

かのように思われた。一介の男子高校生が、どうしてチート君に勝てるはずがあろうか。
カラァァァン。教会の鐘の音が脳内に鳴り響く。大翔の復活である。
彷彿とさせるのは、心からの渇望。その達成。直立する大翔の背中に、翼が見える。その姿は、神の、創造主の祝福を享受する天使。シラーはこう著した。
”der Cherub steht vor Gott”
智天使は、神の前に立つ。
最高の悦びを、大翔の低音が紡ぎ出す…
「モッツァ
がしゃん!!
勢いよく扉が開く。
「「「先生っ⁉︎」」」
「あのさぁ君たち、うるさいよ。静かにして。」
こうして、放課後のモッツァレラチーズゲームは幕を閉じた。

嗚呼モッツァレラチーズ

正直自分で書いてて意味わからなかったです。ノリって怖い。

嗚呼モッツァレラチーズ

モッツァレラチーズゲームって知ってる?

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • コメディ
  • 全年齢対象
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