制服のスカートと汗

グランドを走る彼を、ぼーっとしながら見る
風がカーテンを揺らして、一瞬、頬に擦れる時のふんわりした感触

その二つが重なったとき


何ともいえない感覚に、鳥肌が立つ



心地いい


生徒はほとんど下校して、学校には、自主練に励む彼と、私だけ

二人だけの空間


私は夏の暑さにようやく負けて、髪を短く切った
短めの黒髪ボブはまだなにか落ち着かず、耳の上をピンでとめて恥ずかしさを隠す

妙に白く、筋肉もほとんどない私の腕は、ただ病弱で
そんな私は、見た目通り運動部にも文化部にも属さず、
今日も本を片手に教室に一人残る


だから、彼を見つめる


彼は、毎日、部活の練習が終わってからも、一人走り続ける
夕暮れの日差しが彼の姿に重なった時、
汗がキラキラと反射するのが2階の窓からもしっかりと見える

クラスで、部活で、友達と笑いながら話す明るい表情とは何か違う
その時の表情や姿はきっと、誰にも見せないようにしている

かっこよく、綺麗なだけではないあの表情

日差しにできる影に似た表情


それを、見つけてしまった


毎日の練習の成果でほどよく筋肉がついているはずの彼の腕は、わりと細い
そのほうがいい、とてもいい



だんだん薄暗くなって、日差しで本が焼けないように気を配らなくてよくなってくる

肉眼でなんとか自分の手が確認できるくらいになると、
今日も一日が無事終わったと、満足する

窓を閉めて、鍵をして、ロックまできちんとかけて、



それは、
いつも通りだった


いつも通りだったのに、


彼が急にこっちを見た



あまりに、驚いて、私、は、動けず、ただ、ずっと、小刻みに、体だけが、震えて、ただ、、、
とにかく、逃げ、な、きゃ!!!!!



教室の机に体を何度もぶつけながら、走った

足がもつれながらも、階段を1つとばし、2つとばしで全速力で駆け降りる

9月の蒸し暑さと、冷や汗と、スカートが色んな汗を吸ってそれが太ももに張り付いて、擦れて、皮膚が赤くなる



終わったな、私の高校生活は終わった

そう思いながら下駄箱につくと、目の前に彼がたっている



ああ、くらくらする、、、



急いで後ろを振り向いて逆走した、
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいって心で叫びながら


何か用?ずっと見てるよね、って冷めた表情で言われるのが怖い?

違う

嫌われるのが怖いとかではなく、

たとえそれが、素敵な展開だとしても、それをきっかけに逆告白があったとしても、

違う

ただ、毎日見てるだけでよかった、それだけでよかった、

それだけが、よかったんだ


全速力も虚しく、数秒で追いつかれて、
ぐっと腕をつかまれる


ああ、もう終わっ・・・

「明日から、朝練するから、朝7時からいる」



・・・すっと私の腕から彼の熱い手が離れる
まるでカーテンが風でゆれて余韻もなく戻るように、すんなりと私の腕から離れて、
妙に落ち着いた足音が遠ざかっていく
シーンとした廊下に、私の息の粗さだけが目立つ



どれくらい時間がたっただろう
熱い熱い空間が、冷たくなってきて


スカートが、すごく重いな、、、


停止していた思考が少しずつ動きを取り戻す



そうだ・・・

私は振り向くこともないまま、いや、振り向くことも求められなかった


何も聞かれなかった、何も求められなかった

ただ、教えてくれた


私の心地い空間ではなかったんだ
彼もそれはきっと一緒で、二人で守っていたんだ、今まで

そして、明日からも



嬉しさのあまり、走って彼の後を追って、
今度は私が彼の腕をつかむ、冷たく冷えた手で

いや、違う
それじゃ、今日のことは何の意味も興奮もなくなってしまう


今日は違う道で帰ろう
途中でコンビニに寄って、お茶を買って帰ろうかな、
ものすごく汗をかいたから



明日からは早起きしなきゃね
朝の日差しに反射する汗はたぶん、今日とはちょっと違う

制服のスカートと汗

制服のスカートと汗

  • 小説
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  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-09-08

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