首の痕

 首の中央に1センチメートルほどの赤紫色の痣ができている。

鏡に映る仏頂面。これはキスマークだとかいうロマンチックなものではない。
自らつねったのだ。親指と人差し指の間に挟んで執拗に。
思い通りにはいかない現実が苦しいものだから。

身をつねることによって自分を傷つけようとしたわけではない。安心を得ようとした。
痛覚を感じることで自分の存在を確認できる。
今ここに生きているという証拠を残すことができる。

私には目立たない仏さまの表層につけた痕は血の色をしている。
いつか会えるだろうか、仏さまに憧れながら、今を生きる。

首の痕

首の痕

首に残る小さい痕のはなし

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-09-07

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