シヴァの目
鳳凰が翼を広げたような形をした雲が、絶妙な角度で太陽の光が射して虹色に輝き、今にも羽ばたきそうな夕方の五時。
僕は上司の事でイライラしていた。それもとびっきりにだ。
ここ最近僕は癇癪持ちのようになってしまった。枕を引きちぎり、飛び出た羽毛をバーナーでチリチリに燃やしたい気分だ!それがドストエフスキーのせいなのか、その上司のせいなのか、まったく皆目つかない。
そんな気持ちで観るその雲は、僕の心の汚れを何一つ洗ってはくれなかった。
赤信号の数秒間それをじっと観て、仕方なく僕は近所の弁当屋で惣菜を買い、コンビニでビールを買う。
「結局結局結局さ、僕は人生で色んな人を見るときに、その相手が他人の中傷や悪口をしないか注意深く見てきたけれど、それを一言も言わない仏様みたいな人は一人も居なかったね。
あれは伝染病みたいなもんだ!みんな誰かに言って、相手は迎合して、悪口の蜜を啜り合うのさ。それで徒党を組んだ気でいやがる。
だってそうだろ⁉︎誰かが止めなきゃならんのに、誰だって自分が可愛いからそんな損な役買わないんだよ。
そこでここ最近癇癪玉の僕は一発それを上司に食らわせたのさ。僕は言葉ってもんを知らないからオブラートに包むなんて技巧はできないから、そりゃあとんでもなく酷い言い草だった訳だけれど。
自分は人生で人を見るときに一番注意深く見ているところは中傷や悪口ですが、あなたは僕と出会って開口一番にここの現場の悪口を言っていたよな。ふんふん、そうなんですかと僕は請け負った。そりゃあ初めて来た現場の事だから、そうなんですか。としか応えようがあるまい。
それから今の今まで口を開けばほとんどそれだ!気が狂ってしまう!実際にあんたと密にコンタクトを取り合う立ち位置の人が、たった一ヶ月の間に三人も辞めてしまったじゃないか!あんたは間違って地獄の釜から這い上がって来たらしい。もう一度もとの場所へ戻らせて、地獄の蓋をジェル状のもので、蚊一匹たりとも入り込む余地の無いように密閉しよう!それから毎日、給料ははずむから、点検員を派遣しよう!」
そこまで一呼吸でついた僕の癇癪を面と食らって、静かに聞いていた上司の癇癪心にも火がついてしまったが、もはや何を言っているのか聞き取れなかった。それは頭に血が昇って興奮していたからなのか、相手が東北訛りが酷かったからなのか、皆目つかない。
家に帰ってビールの蓋を開け、そのことを振り返り、出し巻き卵を突つく。そんな日。
シヴァの目