小人のトニー③

トニーはぼくに未来を垣間見せる。

そう、確かにぼくは運が足りない。だが足せばいいとはどういう事か?
小人が不可思議な存在だから不可思議のついでに不可思議な術か何かを使えるのであろうか。
トニーは腕を組んで鼻をプクッと膨らませた。洞穴みたいな鼻の穴である。
そして意気揚々としゃべり出した。どうやら他人に教える事に快感を覚えるタイプと見た。だって目が生き生きしてる。
「選択肢はふたつだって言ったよな?て事は言い変えると当たりと外れなんだよ。どっちかが当たりのくじ引きみたいなもんだ。お前、ずっと外れくじ引いてたんだよ」
ぼくはうなずく。
「でさ、ずっと外れくじ引き続けてるとさ、何て言うかな、当たりくじが小さくなって行くんだよ。大きな当たりが逃げて行く。わかる?」
ぼくはまたうなずく。
「そうだろな。お前、不運のキングだからな。お前みたいに外れ引き続けるヤツ、滅多にいないからな」
ハハッとトニーは乾いた笑いをした。
ぼくは少しムカッとした。正論は反発を呼ぶのだ。
トニーはぼくのベットから身軽にひょいと降りた。ぼくはベットに腰掛けた。フローリングが素足に冷たい。
トニーはぼくの足元の周囲を歩きながら続ける。
「人生はくじ引きだ。当たりか外れかは引いてみなくちゃわからない。そうだろ?でも引く前にわかっていたらどうだ?」
トニーは眉毛を上下にクイクイッと動かし、いたずらな眼差しをぼくに向けた。
「最高だろ?ずっと当たりの人生さ。ハッピー間違いなし。で、俺にはそれがわかるんだな、これが」
ぼくはこれでもか、というくらい疑いの視線をトニーに突き刺した。
トニーはものともしない。
「疑ってる?信じない?さすがインチキ商売の社員さんだよ。でも残念。ブッブー。また外れ。俺にはハッキリクッキリお前の未来が見えてるの」
トニーは自信満々といった風に胸を反らせて剛毛の胸毛をぼくに見せた。
ぼくは更に冷やかな視線を送った。
「まあそうだよな。これで信じたら頭のネジがトンでるヤツだ。お前がそうじゃなくて安心したよ。だからちゃんと証拠見せてやるからよ」
トニーはビシッと人指し指を立てた。
「お前小人がいるって思ってた?思ってないだろ?CGじゃなくて実物の俺がいるからお前は今小人がいるって認識してる。今度はお前の未来をひとつ俺が教えてやるよ。そうすりゃ信じるよな?言っとくけどタネも仕掛けもないから悪しからず」
ぼくはゴクンとツバを飲んだ。本当に言い当てるつもりなのか。
トニーは懐から黒の手帳を取り出した。ぼくから見ればコメ粒ほどの大きさだ。
更にトニーは眼鏡を取り出しかけた。ちょっぴり老け込んだトニーの顔にぼくは思わずぷっと吹き出した。
「笑うなよ。この野郎」とトニーは少し照れた感じで言った。トニー、ぼくは褒めてないよ。
トニーは手帳をめくって言った。
「ひとつだけ質問だ。お前今日会社に行くよな?」
今日は週の中日。ぼくはうなずいた。
「まあそうだろうな。それしかねえもんな」
トニーはページを一枚めくった。
「行かなくていいぞ。今日は休んでいいみたいだから」
ぼくはまたぷっと吹き出した。何を言っているのだこのゲロッパは。
あの悪徳会社がそんな事言うわけない。休みの日に出て来いと言うならまだしもその逆なんてありえない。休むなら金払えと平気で言うヤツなのだ、あのゴリラは。
トニーはぼくの嘲笑を鼻であしらった。
「信じられねえだろ?でもホント。ウソだと思うんならゴリラに聞いてみな。ケー番知ってるだろ?今日は休みって絶対言うから」
ぼくはトニーを見つめた。
トニーもぼくを見つめ返す。
トニーは両手の手のひらを上に向け肩をすくめた。外人がよくやるポーズだ。トニーは見た目ゲロッパだからよく似合っている。
「いいぜ、別にしなくたって。俺はちっとも困らない。でもな、よく考えろよ。今日は休みってもう決まっているんだよ。それならわざわざ会社に行く事ないだろ?電話して確認すれば済む話しだ。急いで仕度をしなくていいし、急いで出社しなくていい。その時間を他の事に使えるじゃないか。時間の有効利用。それが未来を知る事のメリットのひとつだよ。お前は俺から未来を聞いておきながらそれでも時間を無駄に使うのか?お前の時間は限りがあるんだ、有意義に使えよ」
トニーは余裕たっぷりに言った。
ぼくは迷った。いや、ためらった。電話をする事をためらった。
ゴリラが怖いんじゃない。トニーの言っている事がきっと正しいからためらった。
ぼくは何となくわかる。トニーが本当の事を言っていると。
その人が本当の事を言っているかどうかは顔を見ればわかるものだ。トニーの小さな顔でもぼくに伝わる。
それに小人が言っているんだ。こんな説得力の強さと信憑性の高さは早々ない。
恐い。そう、ぼくは恐れている。
未来は未知だと言う定義が崩れる事を恐れている。
世界が一変する事を恐れている。
ぼくはやっぱりツイてないな。
ぼくはこうして自分の弱さを言い訳にする。
ぼくは電話を手にした。
トニーはニヤリと笑った。

つづく

小人のトニー③

読んでくださりありがとうございました。
これからすこしずつ物語は展開していきます。
また読んでください。お願い♪

小人のトニー③

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-09-05

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