小人のトニー②

前回の続きです。ここに書かれたぼくは私です。

ぼくは不運な男だ。トニーの言う通り、ツイてない男なのだ。
たとえば。
飲み会か何かで女性にぼくのツイてない身の上話しをする。そうすると大抵の女性はぼくに同情し、やさしくしてくれる。けれど大抵恋には発展しない。「そのうちいいことあるわよ」みたいな事を言ってぼくから去って行く。
ぼくはツイてないのだ。
まずジャンケンが弱い。滅多に勝たない。勝つ時は勝ってはいけない時だ。
「では勝った人がリーダーになってグループ討論の結果を発表してください」
こんな時、ぼくは勝つのだ。
なのでぼくはギャンブル運がない。宝くじも当たった事がない。三百円以外。パチンコなんて何が面白いのか。銀玉が一周して落ちていくだけだ。ぼくには「ビギナーズラック」はないのだ。
ついでに言うと懸賞もない。本当に当たっている人がいるのか、いつも疑っている。
付け加えておみくじはいつも「末吉」だ。いっそ大凶にしてくれ、と神様に変なお願いをする。
ぼくはツイてない。
ぼくはギリギリのタイミングだといつもアウトになる。セーフって記憶にない。
少年野球での二死満塁、トイレットペーパー、発車寸前の電車のドア、信号機、大事な授業、受験、試験、エレベーター。
するとアウトになったぼくになんらかのペナルティーが課せられる。ツラい。
アウトになったぼくはその場から退場を余儀なくされる。キツい。
そう、ぼくはセーフの快感を知らない。
数え上げればキリがないぼくの不運。社会人になった今も続いている。
二十三社面接を受けてやっと今の会社に就職できた。健康食品販売の営業職だ。
ぼくはやる気に満ちていた。やっと就職活動から解放された事もあるし、労働への意欲があったし、何よりお金が欲しかった。
社長は親分肌のエネルギッシュな人でそれに感化された事もある。ぼくの他に五人の同期がいて一様に輝いていた。
そんなぼくに暗雲がたれ込めたのは最初の社内研修だ。
それはプレハブ小屋にほぼ軟禁されて三日間行われた。ハッキリ言って新興宗教のセミナーのようだった。もはや洗脳である。
ぼくは何とか気を確かに持って研修をクリアした。やっと手にした働き口をふいにしたくなかった。もう面接ジプシーはコリゴリだった。
そしてぼくは今の営業所に配属され、いきなり月に十人の定期購入者のノルマを課せられたのだ。
「若さを実感したいあなたへ!南米の秘薬アガノミクスを配合した当社のクッキーを是非お試しください!」
商品名は「ヘルシークッキー」定価一箱二十個入りで一万円。
もう完璧なインチキ。詐欺。アガノミクス?なにそれ。中身ただのクッキーだし。
だけどぼくは「南米の秘薬」の効能と体験者の声の書かれた全部ウソのパンフレットを持って街をさまよった。
あろう事か飛び込み訪問。
賢い良識ある皆さんはぼくを白い目で見た。当然、誰も買いません。誰が買うか、こんなもん。
ぼくは靴底と神経を磨り減らし続けた。
ノルマが達成できないぼくにゴリラみたいな所長の容赦ない叱責が襲う。
「イワシの頭も信心からって言うだろ!このマヌケ! 」
毎日この調子で、ぼくはウンザリし、ゲンナリした。何故か毎日残業で午前様、休日出勤当たり前、結果食欲減退と睡眠不足でぼくは不健康になった。健康食品販売の営業なのに。
野球の完全試合さながらにぼくの営業成績はゼロが九つ見事に並んだ。
これがぼくの現在、入社九ヶ月目の現実だ。
ぼくが入社した会社は墨のように真っ黒のブラック企業だったのだ。しかも詐欺。違法。
どうしてこんな会社が企業活動を続けていられるのか、ぼくはこの国の法治国家の能力を大いに疑った。
早々に退職すべきである。こんな会社にはいずれ捜査が入ってぼくは後ろに手が回ってしまう。いや、その前にきっと自分は体調を崩して入院する。
でもぼくはやめていない。
次の働き口を決めてから辞めたいのだ。
ぼくは地図もなしにあてのない旅はできない男なのだから。
しかし今は就職活動どころか求人情報すら見る時間がない。
そしてもっとも悩ましいのは。
給料が高いのである。
破格に。べらぼうに。ビックリするくらい。不安になるくらい。
きっとどこぞの部長クラスの給料をぼくはもらっている。こんなぺーぺーの平社員に。
だからぼくは結構裕福だ。体はキツいけど金銭面の余裕はありがたい。遊びに行く時間もないから銀行残高は増えていく一方だ。
ぼくは毎夜残高を眺めては笑みを浮かべている。先月残高にゼロが六つ並んだ。
だったら辞めても当面は生活できるからいいじゃないかと思うがそうではない。
真夏のクーラーの涼しさを知ってクーラーなしでは生活できないように、お金が増える快感を知ったぼくは今の状態から抜け出せずにいる。
既得権益にしがみつく官僚の気持ちがよくわかる。
悩ましい。実に悩ましい。
苛酷な労働条件と違法な事業を高い報酬で甘受している。
幹部の思うツボだ。
わかっているんだけどな。
ぼくは何百回目かのため息をつく。
そんなツイてないぼくの前突然小人が現れた。
これはきっとツイてない出来事の前触れに違いない。だってぼくはツイてないのだから。
ぼくは警戒心をあらわに「ゲロッパ!」な小人に耳を傾けた。

つづく。

小人のトニー②

読んでくださりありがとうございました。
工夫が足りず、薄っぺらに見えます。自分で読んで。
でも懲りずに続きを書きます。
ご意見ご感想お待ちしております。

小人のトニー②

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-09-04

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