小人のトニー ①

ツイてない男「ぼく」の前に現れた小人との不思議な物語。
実にベタです。
でも読んでね。お願い☆

ドアまでは案内する。開けるのはお前だ。

人生の選択肢はふたつだ。右か左。簡単だろ?あっけなくて拍子抜けするくらい単純だ。それでも迷うのかい?安心しろよ。俺がいるんだからな。俺が最高の人生を案内してやるよ。
そしてぼくは人生のドアの前に立つ。目の前にはふたつのドア。何の変哲もないごく普通のドアだ。
ドアはどちらか一つしか開けられない。一つを開けたらもう片方は開かない。
それがルールだ。彼が言う。
たまに施錠してあるドアがある。鍵がなければ開けられない。
こっちだ。彼が言う。
するとドアがふたつ現れる。鍵を見つける為のドアだ。
ドアまでは案内する。開けるのはお前だ。彼が言う。
どこかで聞いたセリフだ。ぼくは思った。
「マトリックスだよ、マトリックス。知らねえのかよ」彼がぼくの足元でぞんざいに言う。
彼は小さい。どのくらい小さいかというと、ぼくの靴にすっぽりと入るくらい小さい。
そう、彼は小人だ。信じられないがそうなのだ。だって彼は見た目は人間だから。言葉もちゃんとしゃべる。ぼくと同じだ。ただ、小さいだけで。
だから彼は小人だ。他に表現しようがない。彼も小人と言っているし。
いるわけないけど、いるものはしょうがない。受け入れるしかない。ファンタジーはフィクションではない。そう言う事なのだ。
彼の名前はトニー。彼と出会った時に名前を聞いたら「じゃあトニーでいいよ」とちょっとふてくされて言ったのだ。
じゃあって何なのだ。じゃあって。それって他にちゃんとした名前があるって事ではないか。
でもぼくは敢えてそんな指摘はしなかった。彼は小人なのだ。小人とはそんな人種なのだろう。自分の価値観を他人に押し付ける事は時に暴力に等しい行為になる。彼にとって名前を尋ねられる事は不愉快なのだ、たぶん。そう言う事にしておく。
彼、トニーは突然、唐突に、前触れなくぼくの前に現れた。
朝起きるといたのだ。そこに。
ぼくは驚いた。驚いて動けなくなった。人は未知なるものに遭遇した時、活動を停止してしまうものなのだ。その時初めて知った。
そんなぼくを見上げてトニーは言った。
「お前って本当、ツイてない人生送っているよな。可哀想だから来てやったよ。嬉しいだろ」
高飛車にトニーはこう言って不敵な笑みを浮かべた。
そう、その顔。ぼくが驚いたのはその小さな彼のその顔と容姿もインパクトがあったからだ。
彼はもうまさに「ゲロッパ!!」と歌った黒人ソウルシンガーそのものなのだ。そっくりなんてもんじゃないのだ。
紫のジャケット、しかもラメ入り。あの黒のパンツはひょっとしてパンタロンってやつでは?その緑のブーツ艶ありすぎ。何でジャケットの下に何も着てないの?金のブレスレットが目に痛い。せめてジャケットのボタンとめてヘソ毛は隠してよ。胸毛はいいから。
ぼくは内心指摘する。
本物のスターはステージでは大きく見えると言う。いやいや、いくらか何でもこんなに小さくはないだろう。「ゲロッパ!」の人はちゃんと人間のはずだ。
ぼくはまじまじと小人を見た。「ゲロッパ!」の人ではないにしてもどう見てもガイジンである。だって見た目「ゲロッパ!」だもの。ぼくは実に流暢な日本語を操るなあと場違いに少し感心したものだ。
するとトニーは「くだらねえ事に感心してんじゃねえよ」と吐き捨てた。何ともガラの悪い「ゲロッパ!」である。
ぼくはまたも驚いた。どうやらトニーはぼくの心が読めるようだ。
ぼくが内心怯えているとトニーは目を細め
「ふん。ちいせえ野郎だな。ビビんなよ。別にどうもしねえからよ」と小さい彼はぼくに意高に言った。ちっちゃいくせに。
ともかくぼくはトニーに疑問をぶつけた。彼はぼくにとってすべてが謎だから。
まず何者か?である。
「小人だよ。見りゃわかんだろ」またもトニーは吐き捨てた。ぼくはぐうの音もでない。どうも気の短い「ゲロッパ!」である。
次に何故ここに?と訊いた。そしてトニーは最初の選択肢のくだりをぼくに言ったのだ。
最高の人生?ぼくはそれを初めて聞いた単語のように彼に訊いた。「Wi‐Fi」の文字を初めて見た時を思い出した。てっきり新しいゲーム機かと思ったのに。全然違った。なんかそれに似た感覚がした。
「そうだよ。最高の人生だよ。なりたいだろ?したいだろ?そんな人生によ。一回こっきりの人生だもんな。楽しくいたいだろ?」
トニーは魚がエサに食いついた時の釣り人のような動きを連想させる口調で言った。
それはそうだ。ぼくは楽しく平和に暮らしたい。
「だろ?そうだよな。だけど今のお前には足りないものがあって、そうならないんだよ」
トニーは眉を八の字にして残念そうに言った。
足りないものだらけのぼくは首をかしげた。
「運だよ。運。お前ってトコトンツイてなかっただろ?今まで。なんか、すげえラッキー!って思った事あった?ないだろ?現在は過去に起因し、未来は現在の姿を写す。つまりさ、ツイてない人生だったお前はこの先もツイてないって事なのよ。お前には運が足りない。じゃあ足せばいい。だから俺が来たんだよ」
そうなのだ。
ぼくは本当にツイてない人生だったのだ。

小人のトニー ①

読んでくださり、ありがとうございました。
物語の大筋は決まっているのですが書いている内、ちょっと長くなりそうな気配を感じたので区切ります。
ご意見、ご感想などお待ちしております。
次も読んでね♪

小人のトニー ①

小人はメルヘンではない。ほら、そこにいる。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-09-03

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