ハードボイルド

ハードボイルド

この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません

しゃちほこの上に乗った男を知ってるか?

 私は喫茶店である友人とコーヒーを飲んでいた。その友人とは10年以上も会っていなく、久しぶりの友人との話に話題が尽きることはなかった。

私はコーヒーを持ち上げて一口飲むと友人に新しい話を切り出した。「しゃちほこに乗ったことある?」友人は驚いた顔で首を横に振った。

「実はな」という話し出しからこの話は始まったのである。

 その男の名はザキという、生まれと育ちは東北で、生まれたときの彼は目がクリクリとしていてただ一点を覗いてはとても可愛らしい赤ちゃんだったそうな。そのただ一点というものは顔の真ん中に位置する突起物そう 鼻 だ。 その鼻が常人を凌いで高かったのである。

ザキは小学校入学まですくすく育った。頭も身長も腕も足も顔もそして、その高くそびえる鼻も。

 ザキは人と親しみやすい性格をしており、「ザキくん、あそぼ~」といつもクラスメイトから人気があった。

 ある日の昼休みのことである。給食の時間が終わり、ザキの周りにはたくさんの友達が集まっていた。ある子はサッカーボールを片腕に持って「ザキ、サッカーしようぜ」と誘う、ある子は「何言ってんだよ、ザキは野球するんだよな~」とバットを持っている子が誘う。そのとき、1人の子が急にザキに近づきこう言ってきたのだ 「鼻高ザキくん、トランプしよう」とその瞬間にそれを聞いていたクラスメイトがどっと笑い出したのだ。ザキはそのときに気づいてしまったのだ周りの人よりも高い自分の鼻の存在に・・・・。

 このことでザキは落ち込んだり、周囲からいじめられるようなことはなかったが、心なしか自分の中で鼻が高いことと、周りから鼻高ザキくんと呼ばれることが少し気になるようになったのである。

 中学校に入学したザキは相変わらず、鼻は高かった。しかし、小学生のときにはバカにされ続けた高い鼻だったが、中学校ではこの鼻が思いもよらない方向に働くことをザキはまだ知るよしもなかったのである。

 入学して三ヶ月経ち、中学校生活にも慣れてきたある日のことである。学校の授業も終わり、ペッタンコに潰した学生カバンを下げて校門から帰ろうとしたザキにある女の子が話しかけたのだった。「ザキくん、一緒に帰ろう」とその子は同じクラスの女の子でザキの鼻がとても魅力的に感じていたのだそうな。

 ザキはその女の子とコンクリートで出来た道路の端を歩きながら下校している途中に女の子に聞きました。「そんなに俺の鼻好きか?」すると女の子は目をキラキラ輝かせながら「うん!! すっごい素敵だと思う!!」と答え、それを聞いたザキはなんだか嬉しくなり頬をりんごのように赤く染めながら「ありがとな」と一言女の子に言いました。

 それから、その女の子といつも一緒に下校するようになり、遊ぶようになっていき。次第に二人の距離は縮まっていきました。

 何時しかザキは女の子のことが好きになっており、ザキは意を決して、日曜日に女の子をデートに誘うことに決めたのです。

 金曜日の放課後になり、女の子にザキは声をかけました「おつかれ!! 一緒に帰ろう」と女の子も「うん、いいよ一緒に帰ろう」と答えてくれました。校門を出て、道路の端を歩きながら帰っていきます。しかし、ザキはなかなか日曜にデートに誘う話を切り出すことが出来ずにいました。
女の子との別れる場所も近くなっていき「早く言わなきゃ!!」という焦りの気持ちがザキの中にありながらも、ついに言うことができずに別れる場所の公園まで辿りついてしまったのです。 

 「くそ、誘えなかった~」とザキは心の中で悔しがっていると、「あ! 猫ちゃんだ!」と女の子の声がしたのです。俯いて悔しがっていたザキはその声に反応して顔を上げると、そこには三毛猫を嬉しそうに撫でている女の子の姿があったのです。それを見たザキは女の子のことがとても愛おしく感じて今まで言えなかったことが嘘のように「明日の日曜日暇? よかったらデートしないか?」と女の子をデートに誘う言葉が出てきたのです。

 こうして、日曜日のデートの約束にこじつけたザキは土曜日になけなしの500円玉貯金箱の蓋を開けて、服と靴を買い、理髪店で髪を切ってもらいました。

 運命の日曜日になると、ビシっと決めた格好で待ち合わせ場所の公園(ザキがデートの誘う勇気をくれた三毛猫の居た公園)に行きました。

公園に着くとそこには女の子の姿がありました。「ごめ~ん、待った~」とザキは女の子に話しかけました。「うんうん、今来たとこ」と女の子が答えます。

女の子はとても綺麗な薄いオレンジ色のワンピースを着ていました。自分とのデートにおめかしをしてきてくれたことにザキはとても嬉しく思いました。

「じゃあ、さっそく行こうか」とザキは女の子の手を引いて公園を後にしました。そのとき、公園の草むらにあのときの三毛猫がひょいっと顔を出して、二人を見送っていたことは二人は知るよしもないでしょう。

 ザキのデートプランは動物園に行って、映画を見て、食事をして帰ると単純なプランでした。しかし、女の子はとても楽しんでくれたのです。動物園ではキリンやゴリラ特に鼻の高いテングザルのところでは「ザキくんに似てる~」と言ってとても楽しそうにしていました。
 
映画館では美女と野獣を見ました。ザキは映画を見ながら「俺とだったら、鼻高人間と美女だな~」とくだらないことを考えながら映画を見ていました。 

 そして最後にレストランでザキはミートスパゲッティ、女の子はカルボナーラを頼み一緒に食べながら、動物園のことや映画のことで会話に花を咲かせていたのです。

 食事が終わり、女の子がフォークをテーブルの上に置き口を拭くと、ザキに言いました「今日、この後家に来ない?」とザキは一瞬戸惑いましたが、女の子から今日は両親が家に居ないことを知り、公衆電話で自分の親に友達の家に泊まると詳しい内容は告げずに連絡をして了承を貰い女の子の家に泊まることにしたのです。

 女の子の家に行くのは、ザキにとってこれが初めての経験でした。女の子の家に着くと女の子が「どうぞ、上がって、上がって~」と気を使って言います。ザキは初めての女の子の家に緊張しながら靴を脱ぎ、小さな歩幅で家の奥へと進んでいきました。

 一階のリビングに案内されたザキは置いてあったソファーにそのまま腰掛けたのです。「なにか飲み物持って来るね」と女の子は言うとリビングからカウンターを挟んだ向こう側にある台所に飲み物を取りに立ち上がったのです。

 「おまたせ~」と女の子が二人分の麦茶を持って戻ってきました。「はい、ザキくんの分」と言いながらザキの前に麦茶の入ったコップを置きました。

 ザキはふっと思いました。「これは告白のチャンスだ」と本当は食事のときに告白するはずだったのだが、女の子が急に家に誘うものだからビックリして言いそびれたけれど、今なら誰の邪魔もはいらないから今がアタックチャンスだと!!

 ザキはゆっくりと口を開いて女の子に思いを告げました。「あの・・・。俺と付き合ってくれないか。君のことが好きなんだ」すると女の子は顔を赤くしながら嬉しそうに「うん、いいよ・・。」と言ってくれました。「私、嬉しいザキくんやっと言ってくれた」と女の子いやこれからは彼女になるか。彼女は嬉しさが抑えられずにザキに抱きつきました。そしてそのまま・・・・。 これがザキの初めての夜になったのです。

 高校に入学したザキは男友達と原付の二人乗りをしたり、自動販売機の商品引き出し口に手を突っ込んで商品を引き出したりなかなかのやんちゃ坊主になっていました。学校にもあまり通わずに、無免許でバッファローハンドルのバイク(両手をハの字に伸ばさないと握れないハンドル)に友達と乗り「俺の暴走止めてみろ!!!」と言いながら出発わずか5分で警察に捕まった伝説は学校中の話題になっていたのです。

 高校2年生の修学旅行のとき、ザキは伝説になりました。ザキが通う高校の修学旅行の行き先は名古屋でした。昼には名古屋の味噌カツを食べたりして、男友達との班行動をザキ達は楽しく過ごしていました。このあとにザキが伝説の男に成ることも知らずに・・・。

 きっかけは、ある友達が「名古屋城に行こうぜ!!」と言ったことから始まりました。全員その意見に同意してザキ達の班は名古屋城へと軽い足取りで向かったのです。

 ザキ達は名古屋城に入る前にしゃちほこの模型が置いてあることに気がつきました。「お~こんな近くでしゃちほこ見るの初めてだな」と1人がそれを見ながら言いました。しゃちほこの前には「上に乗らないで下さい」と看板が立ててありました。するとしゃちほこを見ていた1人が周囲に人が居ないのを確認するとザキに「ザキ、せっかくだから上に乗ってみろよ」と悪ふざけで言ったのです。するとザキは「お、おう」と言いながらおもむろに模型のしゃちほこの上に乗ってピースをしたのです。「ははは、本当に乗りやがった」と腹を抱えて言い出した奴が笑います。「お、おいカメラ、カメラ」と他の男友達も笑いながら使い捨てのカメラを準備して、一斉にその光景を撮りだしました。

 その光景を名古屋に住んでいるある見栄っ張りの男が見ていました。「なんだ、あいつあんなに目立ちやがって!」心の中でそう思って頭が真っ白になった男は急に走り出しものすごいスピードで名古屋城に向かいました。

 しばらく、ザキがしゃちほこに乗っている姿を写真に撮っていた男友達も「や~面白かった、ザキそろそろ名古屋城行こうぜ」と言ってザキにしゃちほこから降りるように言いました。するとどこか遠くから声が聞こえました「お~い、俺の方が凄いぞ。こっちを見ろ~!!」とザキ達は声のするほうに振り向くとそこには見ず知らずの誰かが名古屋城の上にある本物のしゃちほこの上に乗って居たのです。

 「なんだ、あいつすげぇ~」と男友達はその光景にあっけに撮られていました。そのときザキの心が妙にざわつき次の瞬間にはザキは名古屋城に向かって猛スピードで走りだしていました。「お、おい。ザキどこ行くんだ」と男友達の呼び止めも無視して、ザキは名古屋城の中を駆け上がり天守閣に着くと窓から飛び出して見栄っ張りの男のところまで登って「お~い、俺だってやりゃ~できるんだぞ~」と男友達に手を振っていました。

 見栄っ張りの男もそれに負けずに身を乗り出しながら手を振り続けました。すると次の瞬間、見栄っ張りの男が足を滑らせてしゃちほこの上から落ちそうになったのです。ザキはとっさに手を伸ばして助けようと手をつかみましたが体重を支えきれずに一緒にしゃちほこからすべり落ちて地面に真っ逆さまに落ちていったのです。

 「ザキーーー!!」と男友達は落ちるザキの姿を見てザキの名を大声で叫び、名古屋城へダッシュで向かいました。向かった先には、ザキと見栄っ張りの男が倒れていました。「ザキ、おいしっかりしろよ」と男友達は泣いて叫びますがザキからの返事はありません。「おい、救急車だ救急車!!」と1人の友達が叫びます。その瞬間に「う、ううん」とザキが気がつきました。「おおい、ザキ大丈夫か?」とザキを抱えている男が言います。「ああ、なんともないみたいだ」とザキは答えました。「よく、あの高さから落ちて無事だったな~」ともう1人の男友達が言います。するとザキは「たぶん、アレのおかげだ」少し先の米俵を指差しました。「なんで、あんなところにあるかわ知らないがアレのおかげで助かったんだ」と淡々とザキは話しました。

 この後警察には怒られるわ、先生に怒られるわで大変なことになったのは言うまでもありませんが、このときのザキの行動でザキはしゃちほこの上に乗った男と言う伝説を作りあげたのです。これは学校中の話題になり、またニュースでも取り上げられた事件にもなりました。

 今、そんなハードボイルドな男は34歳の誕生日を迎えてネット配信をしながら自分のエロトークに磨きを掛けています。ネット上で「変態」と言われてもザキは陽気にこう返すのです。「変態だよ、だが認知はしない!!!」と私にはこの人の言ってる意味がよくわからないことがありますが、まぁそれがハードボイルドな男の境地という奴なんでしょう。「あぁ~今日の彼の鼻もなんと高いことか」

ハードボイルド

この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません

ハードボイルド

この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません

  • 小説
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-09-03

Public Domain
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