月の夜、飛び込み台から

市民プールの飛び込み台の上で夜の景色を見渡す

市民プールの飛び込み台の上で夜の景色を見渡す。この町ではここが一番見晴らしがいい。
中間試験の点数があまり良くなかったハルは、気晴らしに夜の散歩に出ていた。将来は宇宙飛行士になることが夢なのだが、こんな成績では志望校へ進むこともできない。
宇宙飛行士なんて無理な夢かもしれないな。そんな不安がやってくるたびにハルは月に会いにくることにしていた。飛び込み台の上、ここにくれば月までひとっ飛びだ。
大きく息を吸い込むと呼吸を止める。ハルの身体が重力の支配を離れて自由になる。息を止めている間だけの無重力。つま先で静かに床を蹴ると、夜の空中に飛び出していく。
ゆっくり確実に月へと近づく。まるで宇宙飛行士のように。クルクルと回りながらハルは目的地へ向かう。あと数メートル。うまく、月の手前で静止する。そっと手を伸ばして月に触れる。
うっかり、やった、と声を漏らしたハルの身体を重力が捕まえる。息を止めている間の約束が終わり、目の前の水面へ落っこちた。
水面にはバラバラに飛び散った月の光が踊っていた。

宇宙飛行士になれたら、本物の月にもタッチできるのだろうか。プールの中から飛び込み台を見上げて夢を見る。くしゃみが出た。その前に、とりあえずはまた、びしょ濡れで家に帰らないといけない。


++超能力者++
星野 ハル(ほしの・はる)
ESP:呼吸を止めている間、無重力になる

月の夜、飛び込み台から

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月の夜、飛び込み台から

1分で読めます。「話の中に必ず超能力者がひとりは出てくる」というしばりで掌編の連作を執筆中。 超能力者の名前と能力が必ず最後に記載されてますので、答え合わせ感覚で読んでいただければ幸いです。

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-09-02

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