ぼくらの永遠
【花・美しくも儚い・叶うのなら】
永遠は、存在するのだろうか。
白い扉に手をかけるとき、一つ大きく深呼吸をする。唇の端に笑顔を貼り付けて、扉を開ける。彼女は今日も白い部屋の真ん中で、白いシーツに包まれていた。
「いらっしゃい。」
柔らかく笑う彼女の頬が、窓から差し込む日差しに白く溶ける。いつか彼女が、本当に白い光の中に溶けて消えてしまいそうで、ぼくの胸は不安に軋んだ。
白い空間にぽっかりと浮かんだ花のような彼女の黒髪が吹き込んだ風に揺れる。彼女が確かに、今ここに存在しているという実感。そして、いつか終わりがくるという実感。その美しくも儚い彼女の瞬間を一瞬でも長く目に焼き付けておこうと思う。
彼女の命には、期限がある。
命の期限を知らされても、彼女は少しも変わらない。いつも同じ笑顔で、同じようにぼくの名前を呼ぶ。
「怖くないの?」
自分がこの世からいなくなること、自分の時間が終わっていくこと。
ぼくが聞くと、不思議そうに小首を傾げた。
「怖くないと言ったら、嘘になる。」
そんな風に言う切なげな眼差しさえ、変わらない彼女。
「でも、みんな一緒だから。」
「一緒?」
「誰だってみんな、いつか死んでしまう。私の余命より早く、例えば今日、キミが事故か何かで死んでしまうかもしれないでしょう。だから、みんな一緒だよ。人はみんな、いつか死ぬのだから。でも、それを知らずに自分の命を永遠だと勘違いして、今日を悔いなく生きられない人は、百年生きたって悔いなく生きられない。」
そんな人に比べたら、ずっと幸せだよ。
彼女はそう言って笑った。
白い光に包まれた彼女は、そのままぼくの網膜に焼き付いた。
命に永遠はない。人はみんな、いつか終わりを迎える。
「それに、君は憶えていてくれるでしょう。私は、君の中で生き続けられるでしょう。」
彼女が優しくそう問うと、ぼくの瞳から涙が溢れた。
「そんなの、決まっている。君を忘れるなんてありえない。」
情けなくしゃくり上げながら言うぼくを、彼女は決して嘲笑わない。
「キミの命が終わるときが、私の永遠の終わりだよ。だからキミが生きている限り、私は永遠に生き続けられる。」
それって、素敵なことだと思わない?
涙の隙間に見えた彼女は確かにぼくの永遠だった。
叶うのなら、この永遠を焼き付ける一瞬を、永久よりも長く。
ぼくらの永遠