パラレルカズヒコ

相当やばいことをしていたので、カズヒコは明日にでも殺されてしまうかもしれないひとだった

相当やばいことをしていたので、カズヒコは明日にでも殺されてしまうかもしれないひとだった。自分の居どころもそろそろ突き止められてしまうかもしれない。絶望的な気分で、洗面所に歯を磨きに来た。
鏡の中の自分に語りかける。おい、深刻なツラしてるな。いや、鏡の中の自分に語りかけられたのかな? どっちだっていいや、と思ったところで鏡の中からカズヒコが抜け出してきた。
あれ、俺だ。勝手に鏡の中から抜け出してきやがって。
「よう、悪いんだけどお前俺の身代わりにあっちの世界に行ってくれないか」
実は鏡の向こうの俺は、鏡をすり抜けて自由に行き来することができたのか。カズヒコは驚いた。そして言った。
「いいけど、俺、やばいよ。もうすぐ殺されちゃうかもしんない」
「えっ、お前なにやったんだよ」「いろいろ、やばいことやってたんだよ」
「そうか、俺も向こうでやばいことやって、殺されるかもしれないんだよ。だから身代わりになって欲しかったんだけど」
「身代わりになっても、あんたこっちで殺されちゃうよ」
「なにやってんだよ」
「お前だってなにやってんだよ」
鏡の向こうのカズヒコは、鏡抜けという特殊な能力は持っているが、やっぱり根本はカズヒコだった。おたがい、明日にも殺されるかもしれない身だった。
「お前、どこか、かくまってくれるようなところないのかよ」
「ないよ、もうやばいんだよ」
「じゃあ、俺と一緒だな」
「そりゃ、一緒だよ」
「俺の仲間は俺だけか」
あっ、と、カズヒコはどちらともなく声をあげた。あるよ、いいところ。

その後、その筋の恐いひとが、カズヒコを殺害せしめてコンクリート詰めにしてやるつもりで部屋に乗り込んできたとき、カズヒコはいなかった。
ただ、洗面所には合わせ鏡が用意されていた。無限に映り込む自分の顔を見て、なんとなく不気味な予感がした彼は足早に部屋を後にした。

そのころ鏡の向こうの並行世界で、無限のカズヒコたちが一同に集結して復讐の準備をしている。



++超能力者++
進藤和彦(しんどう・かずひこ)
ESP:鏡を通して、並行世界を行き来できる

パラレルカズヒコ

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パラレルカズヒコ

1分で読めます。「話の中に必ず超能力者がひとりは出てくる」というしばりで掌編の連作を執筆中。 超能力者の名前と能力が必ず最後に記載されてますので、答え合わせ感覚で読んでいただければ幸いです。

  • 小説
  • 掌編
  • サスペンス
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-09-01

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