釘~kugi~
第一話 釘の男
ガッコンガッコン・・・機械の音が鳴り響く。ここは囚人達の労働する工場である。そこにディーノはいた。
ディーノ「・・・・。」
ディーノはただひたすら無言で作業をしていた。よけいなことはしゃべらない、それがディーノの性格である。
ディーノの全身にはいたるところに釘が打ち込まれていた。その数約300個。それだけの数の釘を身体に打ち込まれても死なない。それがディーノの特殊能力であった。
不死身。というわけではない。ただ身体が人より何倍も強靭であるため、外部からの衝撃や痛みに対しても抵抗力が強いのである。
痛みを感じないわけではなかった。常にいくらかの痛みがディーノを襲っていた。ディーノが無口なのはその痛みに常に耐えているためなのかもしれない。
仕事をおえると、食堂で囚人用の粗末な飯を食い、そして硬いベッドで眠る。それがディーノ達囚人の送っている日々であった。
ときおり兵士がやってきては、ディーノの身体に釘を打ち込んだ。ディーノの強靭な身体に釘を立て、ハンマーで強く叩く。少しずつだがディーノの身体に釘が めりこんでいく。それを周りの兵士達は楽しそうにゲラゲラ笑いながら見ているのであった。そうしてディーノの身体には現在300を超える釘が打ち込まれている。
この牢獄に収容されている特殊能力者はディーノだけではなかった。そしてそのほとんどがなにも罪を犯していない人間達である。 政府は超人的な能力を持ちながら政府に従わないものたちを警戒し、牢獄にいれることにしたのである。その背景には反政府組織の存在があった。 超人的な力をもつものが反政府組織に属することになればやっかいである。そのため、政府に従わない能力者は、たとえ罪を犯していなくとも、 そして反政府組織に属していなくとも、未来に反政府側に回ることを恐れ、牢獄にいれられるのである。
ウイーンウイーン・・ブザー音が鳴り響く。
ディーノ「またか・・・。」
脱走者である。
ボブ「オラオラどけよ!」
ボブもまた、能力者であった。その能力は肉体強化。肉体を超強化することによって百獣の王ライオンの10倍もの力を得る。
兵士「うわあ」
並みの兵士ではひとたまりもなかった。
兵士「やめろ、戦うな。グランダ様が来るのを待て。」
ボブ「!!やべえ、あいつとは戦いたくねえ。早く脱出路を。」
あと一歩。ボブが脱出路を見つけ、階段を上る。ドアをぶち破ると、日差しがさしていた。
ボブ「やった!出口だ!脱出したぜ。さあ、あとはあの車を奪って脱出だ。」
そう、あと一歩だった。もうひとあし早ければ脱出できていた。ボブはかつて誰もなしえなかったこの牢獄脱出という快挙をなしとげるまであと一歩だったのだ。
ボブ「!!しまった、見つかっちまった。ヤツだ。」
グランダ「ふう、危なかったな、あいつら満足に足止めもできないのか。」
まるで機械のようなしゃべり方をする男、この牢獄最強の男、グランダだ。
グランダ「だが、間に合った。さあ、戻ってもらおうか。大丈夫、殺しはしない。そう命令されているからな。」
ボブ「こうなりゃ戦うしかねえか、ほんの少し逃げるスキを作るだけでいいんだ、やってやるさ。」
ボブの強烈なタックルがグランダを襲う。グランダは右手を前に差し出し、ボブのタックルをとめた。
ボブ「なに!」
ボブのタックルは戦車さえも吹き飛ばす。だがグランダは1ミリも後ろに下がることなくタックルをとめた。なにかの能力者なのだろう。だがグランダの能力はだれも 解明したものはいなかった。
グランダ「さあ、ねんねの時間だ。」
グランダはボブの首の後ろをポンッと叩いた。
ボブ「ぁ・・・。」
ガクッ。ボブは一瞬で気絶した。
翌日。
ディーノはいつものように工場で作業をしていた。昨日の脱出劇の話しが話題になっていた。ボブは元気に働きながら、昨日のことを話していたのだ。 少しでも情報を分け合ってみんなと脱出したい。そうボブは考えていた。
ジャッカル「ボブの怪力を片手でとめるなんて、物理的にありえねえぜ。おそらくなんらかの特殊能力者だな。重力を操るとか時を止めるとかさ。」
ジェーン「おいおいマンガの読みすぎだろ、俺達の能力は肉体を強化するものだ。その強化具合とか強化される箇所とかが個人で違ってくるってだけで、 そこは統一されてるはずだぜ。魔法じゃねえんだからさ。」
ジャッカル「じゃあなにか、グランダはボブの肉体強化をはるかに超えるほどの肉体強化を行えるってことなのかよ、ボブのタックルに1ミリも動かずだぜ? ありえねえって、どんな強力な力の持ち主でも力と力がぶつかれば少しは後ろに動くはずだ。」
ディーノ「そうでもないさ。」
ジェーン「ん?めずらしいな、あんたがしゃべるなんてよ。で、なに、あんたなにか心当たりがあるっての?ヤツの能力について」
ディーノ「いや、俺はやつと戦ったことはないが、今の話を聞いていてふと思ったんだ。1ミリも動かなかったわけじゃなく、1ミリも動いていないように感じさせた んじゃないかってな。達人との戦いではよくあるんだ。自分になにが起きているのかわからなくなることがな。ボブは力はあるがそこらへん鈍感だからな。 ジャッカルの言うとおり、純粋な力だけでボブのタックルをたやすくとめたわけじゃないと思う。そんなバカげた力の持ち主が政府側にわんさかいるってなら、俺達を恐れて牢獄にいれる必要もないだろ。」
ジェーン「うーん、たしかにディーノの言う通りね。政府はあたしたちの力を恐れているんだものね。ってことはなにかからくりがありそうね。 問題はそのからくりだけど、ボブの話だけじゃ、さっぱり、お手上げだわ。ディーノ、あんた頭がキレそうだから、グランダと一戦交えてみなさいよ、 どうせ殺しやしないんだからさ、たくさん戦っておいたほうがいずれやつと決着をつけるときに有利だわ。」
ディーノ「悪いが俺は脱出など無駄なことをするつもりはない。」
ジェーン「はあ?なんでよ?こんなところで一生終えていいってわけ?あたしらなんも悪いことしてないのよ?」
ディーノ「グランダの上にはまだ強いやつがいる。そんなやつらと戦えるか?無駄死にするだけだ。」
ジェーン「はぁん、あんた知らないのね、政府の対抗勢力、反政府組織のことを。そこにはすっごく強い能力者がいるって話よ。政府も手をやいていて未だ戦力は拮抗している らしいのよ。そこにあたいら牢獄組みが加われば、一気に形勢逆転ってわけよ。」
ディーノ「そううまくいくかな。だいたい戦力が拮抗しているとは限らないだろ、ただ隠れるのがうまいだけかもしれない。」
ジェーン「ああもうウジウジした男ね、あんたと話してると暗くなるよまったく。こんな状況だからこそ希望をもつことが大事なのよ。」
ジャッカル「ジェーンの言うとおりだぜ、最初から諦めてちゃなにも成し遂げられねえよ。男ならドンとぶつかってみろってな。それで死んじまったならそんときゃそのときさ。」
ボブ「コクッ。」
ボブはコクッとうなずいた。
俺が間違っていたのか?ディーノはみんながジェーンのほうに同意したことに、ベッドの中でそう考えていた。冷静で着実な判断力というならディーノだろう。だが ジェーン達の前向きな考え方のほうが時には多くの人の共感を得、人を動かす原動力となるのである。自分は間違っていないはずなのに・・・ディーノは納得できずにいた。
それから数日のときが過ぎた。ディーノはただ毎日の日課をこなすだけでなにもしようとはしなかった。ジェーンの戦ってみろという声がときたま頭をよぎったが、 ディーノが行動に移すことはなかった。
ジャッカル「おい、ディーノ、ちょっと話しがあるんだ。こいよ。」
ディーノ「ん?」
ディーノは黙ってついていくと、そこにはジェーン、ボブ、その他大勢の能力者が狭い部屋に集まっていた。
ディーノ「おい、こんな風に能力者ばかりが集まったら、警戒されるぞ。」
ジェーン「いいんだよ、もうおしまいにするんだからさ。」
ディーノ「なんだって?まさか、」
ジャッカル「ああ、今日でおしまいにするのさ。全勢力をあげてここを脱出する。先日ボブが1人であと一歩までいけたんだ。犠牲者が出るのを厭わなければ何人かは脱出できる はずだ。」
ディーノ「バカな、ここにいれば暮らしは厳しくともみんなで生きていられるんだぞ。それに何人が死ぬか。下手すりゃ全員死ぬかもしれない。」
ジェーン「バカいいなさんな、全滅?そんなことあるわけがあるかい。ボブ1人でもいいとこまでいったんだ。外に出られたんだよ。 あと1人強いのがいればどっちがは脱出できてた状況さ。全員でかかれば確実に半分以上は生き残れる。」
ディーノ「だが。」
ジェーン「あーもうイライラするねこの子は、ウジウジして。嫌ならアンタ1人残りなよ。1人だけ安全な場所で隠れていつまでもこんな暮らし続けりゃいいよ。」
ジャッカル「おいまてよ、こいつもそれなりに強いんだ。必要な戦力だぜ。ここは時間をかけてでも説得すべきだ。」
ジェーン「その時間が惜しいってんだよ、いつ勘付かれるかわかんないんだよ。」
ディーノ「いや、その必要はない。ジェーンの言うとおりになったとしても、半分近くが死ぬ。そのことには賛成できない。だがみんなに覚悟があるのなら 俺はその覚悟も否定しない。もとより俺は自分の命など惜しくはない。こんな身体でもあるしな。」
全身いたるところに釘が打ち込まれたの自分の身体を見るディーノ。
ジェーン「へん、上等だよ。悪かったね、ちょっとあんたを舐めてた。」
ジャッカル「よし、これで問題はない。予定通りいけるぞ。」
そして行動に移す能力者達。作戦は簡単だ。ボブが通った抜け道をみんなで抜ける。グランダと出くわしても倒すことは考えずただひたすら突っ切る。 犠牲者がでても振り向かない。ただひたすらに1人でも多く脱出するために突き抜ける。
だが、予想外の敵がそこには待ち受けていた。
謎の三人「ジャッジャーン。われ等牢獄の三人衆。サジ、クロ、メイ。君達が力を合わせて脱出するこのときを待ってたのさー」
ジェーン「な!くっ、あわてるな、グランダはいない。倒すよ。グランダがでてきたときに挟み撃ちにされちゃマズいからね。」
ジャッカル「アイサー。」
ディーノ「ふん、やってやるさ。」
ディーノはサジにむかっていく。
サジ「うっひゃっひゃ、全身釘だらけだねえ、見てるこっちが痛いよ。」
ディーノは自分の身体から釘を一本抜くと、指先でピンッとはじいた。
サジ「ほっほー。釘を武器にするのかい?聞いた話だと兵士達が面白半分で釘を打ち込んだらしいじゃないの。鍛え上げた武器でなくたまたま身体にささってた 釘を武器にするなんて逆に自殺行為だよ。はじき返してやる」
釘は徐々に回転を増していく。サジの身体にふれようとした瞬間・・・
サジ「くっ、マズい。」
ドピュッ。高速回転した釘はサジの片腕をいともたやすく切断して、そのまま速度を衰えることなく牢獄の鉄の壁に深く突き刺さった。
サジ「なんて威力!こんなことができるなんて聞いてないよ!」
ディーノ「くっ、逃げる気か。」
サジを追うディーノ。そして同時に出口のほうへも向かっていた。サジの動きとは関係なく、あくまで脱出という作戦に従うディーノであった。
ジェーン「くっ、何人かやられたねえ。でもまだ3分の2以上は残っている。グランダがでてきても作戦通りいけるよ。」
ジャッカル「ディーノの能力、なんだありゃ。ありゃただの兵士の嫌がらせで打ち込まれた釘じゃなかったのか。」
ジェーン「おそらくディーノの能力は指先のバネだろうねえ。もしかしたら全身が強力なバネのように強くしなやかなのかも。」
ジャッカル「そいつは頼もしいな。3人衆の1人を1人で片腕までしやがった。だいぶ助かるねえ。」
ボブ「おしゃべりしてる暇はねえぜ。そろそろ出口だ。やつがいるぜ、間違いなくな。」
出口にたどりついた能力者の囚人達。そこには予想通りグランダがいた。そして片腕のサジが横にならぶ。
グランダ「あと2人はどうした?やられたのか?」
サジ「いや、おそらくまだ中で戦ってるはずだ。やつら仲間を犠牲にしてでも脱出することを優先してる。2人じゃヤバいですぜ。負けることはないでしょうが 何人かには逃げられます。」
グランダ「その心配はねえ。」
そう吐いてグランダは囚人達の中につっこむ。
ジェーン「くるよ、わかってるね?あんたたち!」
分散する囚人達。だが・・・・。
1人、また1人と1撃のもとに倒れていく。即死だった。
サジ「おやぶん、できるだけ殺さないようにとの命令ですぜ。」
グランダ「この状況ではしかたない、殺さなきゃ逃げられる。」
サジ「へい、そうですね、では私も遠慮なく殺しますよ。右腕の仇といきますかね。」
ディーノ「・・・・・。」
ディーノは冷静に状況を分析する。状況は最悪だ。グランダは分散した仲間達をとんでもない速度で一人ずつ狩っている。この速度は予想外すぎる。 グランダはパワータイプか技タイプだと思っていたが、速度までもが反則級だったとは。これでは1人も逃げられない。そう考えつつ、向かってくる サジへ自分の身体から釘を一本抜いてはじいた。
サジ「またそれですか。」
さすがに2度目ともなると、大きくかわしてくる。だが距離をとるには十分だ。あくまで逃げに徹するディーノ。だが、グランダがディーノに向かってくる。 次のターゲットはディーノにしたようだ。サジは信用されていないのか、自分の力の前にはだれもが塵と同じに見ているのか。
ディーノ「まずい、一旦中へ。」
ディーノは外へ逃げるのは無理だと判断し、牢獄の中へ戻る。そうすることで、グランダが追ってくれば、自分を犠牲にして他のみんなを逃がせる。 ディーノはあくまで冷静だった。だが、グランダは追ってこない。
ディーノ「くっ、あくまで1人も逃がさないつもりか。やつも冷静だな。やむをえない。ここはサジだけでも。」
中に入り、サジを迎え撃つディーノ。そこへ、クロ、メイが現れた。
クロ「うっひっひゃー、まだいたねー、中のやつらは全員殺したよお。」
メイ「でも結構痛手を負ったじゃんよお。クロもメイも結構消耗してるよお。」
サジ「ばあか、言わなきゃわかんねーっつの、それとこいつは俺がしとめるから。止めをさすのは俺だ、わかったな?」
クロ、メイ「あいよー。」
ディーノ「隙だらけだ。」
クロとメイにむかってディーノは釘をはじく。
サジ「おい、よけろ、バカ。」
ズシャッ。ディーノのはじいた釘はクロとメイの肉を深く抉り取った。
クロ、メイ「なんだーこれは。」
サジ「だから言ったじゃんよお。そいつの釘はそうなってんだって。」
クロ、メイ「先に言えよー。」
サジ「へっだが一撃で決められなかったのは痛いねえ。これでそっちの攻撃はもう通らないよ。距離をとってれば怖くない。それにこの狭い場所で3対1だ。」
サジが言葉を言い終わる前に、ディーノは勢いよく飛び上がった。ズボッズボズボ。鉄で出来た天井にめり込んでいくディーノ。ズボズボズボ。天井をつきぬけ、 最上部へと上がった。そこはビルの屋上のようだった。
ディーノ「地下牢獄の上は普通の建物か。ハァハァ。あの電柱を伝っていけば・・・。逃げられるか?」
電気を供給するための電線と電線をつなぐ電柱。それが等間隔にならんでいて、建物の屋上から飛び移れる距離にあった。ディーノは電柱を飛び移りながら、逃げる。 後ろには3人衆が追ってきていた。
ディーノ「くっ、俺も消耗しているが、やつら1人1人の消耗ほどではない。1人ずつなら・・ヤれる!」
電柱と電柱の間を飛び移っているため、1人ずつ追ってくる形になっていた。
ディーノは逃げることに専念しているフリをして突然前触れもなく途中のとある電柱で止まり後ろを振り返った。
クロ「!!」
追いかけることに夢中だったクロはディーノの投げた釘に反応することができない。1人仕留めた。
ディーノ「よし、次だ。」
再び電柱を飛び移り逃げるディーノ。
サジ「くそっクロがやられた。」
メイ「おい、やつが消えたぞ。」
突然姿を消したディーノ。気づけば地形が変わり、岩場であった。隠れる場所はどこにでもありそうだ。
サジ「くそ、しまった。逃げられたか。ん?後ろだ!メイ。」
グサッ。至近距離からメイの急所をディーノの腕が貫いた。
ディーノ「これで、一対一だ。」
サジ「へ、調子にのるなよ。」
ディーノは身体から一本釘を抜き、指ではじいた。
サジ「またそれかよ!へ?」
ズシャッ。それまでの2倍ほどの速度の釘に反応できず、サジは死んだ。
ディーノ「みんなは・・・・。」
作戦通りにするなら、このまま逃げ延びて反政府組織に合流すべきだろう。だが、ディーノはみんなのことが気がかりで、道を引き返した。
空中要塞ガンマ。牢獄から荒野の道をしばらく進んだところにある空中要塞で、最後の決戦が行われようとしていた。
ディーノが作ったわずかなスキを利用し、 囚人達は一気に分散して逃げた。グランダは1人も逃がすまいと、遠くへ逃げたものから追って殺した。 そのため、通常の道を進んだジェーン達は一時的にだがグランダを撒くことができたのである。 空中要塞ガンマにたどり着いたジェーン達は、要塞内に隠れた。ガンマは広く、それでいて内部構造が入り組んだ空中要塞だ。隠れる場所はいくらでもある。 ここならそうそう見つかることはない。広く入り組んだ構造をしているこの要塞ガンマのすべての場所をくまなく探すことなど、ましてや動いて移動している人間を 見つけることなど、ほとんど不可能に近い
ジェーン「ふう、やったね。人数は当初の予定よりだいぶん減っちまったが。」
ジャッカル「なあに、気にするな、ジェーン。みんなで決めたことさ。それにあのグランダの素早さは予想外だった。」
ボブ「これで、反政府組織に合流できるな。やっとわれわれの戦いが始まるのだ。」
ジェーン「ディーノ、あいつ、牢獄の中へ戻っていってたけど、大丈夫かな。」
ジャッカル「グランダはこっちを追ってきているんだ。あのサジってやつならディーノなら倒せるさ。大丈夫、生きてるよ、あいつは。」
ボブ「うむ、そうじゃな。」
ジェーン「さてと、あとは目と鼻の先にある都市部へ逃げ込むことだね。都市部に逃げこんじまえばもうそこはやつの管轄外だ。追ってはこれないよ。」
ジェーン「注意すべきは、都市へ逃げ込むその瞬間だ。その瞬間だけは要塞から私達の生身がさらされる。外から目視できてしまうってことだ。 もしヤツがその瞬間を狙って待ち構えていたら、危ないよ。っていうかその確率のほうが高い。このだだっ広い要塞をくまなく探しているとは考えにくいからね。」
ジェーン達は都市へ近い位置まで移動する。
ボブ「待って、この先は危険だよ。俺この要塞で働いていたことがあるから詳しいんだ。この先は都市への接合部。逆にグランダが待ち構えている可能性が高い。」
別のルートを進むジェーン達。すると、
ジャッカル「いた、ヤツだ。あぶなかったな。さっきの道をあのまま進んでいたら鉢合わせていたぜ。」
ボブ「でも、あそこで待ち構えられていたら、やつに見つからずに都市へいくのは無理だよ。どうする?ここで待機してヤツが諦めるのを待つ?」
ジェーン「いや、どのみち援軍を呼ばれてるさ。時間はない。未知の敵と戦うよりヤツ1人と決戦するほうが生き残る可能性は高い。」
ジャッカル「覚悟を決めるか。」
ジェーン「いいかい?間接攻撃の出来る者はやつへ攻撃、それ以外はひたすら振り返らずに都市を目指す。無理だとわかったら仲間のために命をかけて 時間を稼ぐ。いいね?GO!」
命をかけた特攻だった。次々と仲間がやられていく。ジェーン、ジャッカルの2人を通すため、ボブが命がけの特攻をした。
ボブ「ディーノの話しでは、力ではない技で俺のタックルを止めた。なら、こっちも。」
ボブはフェイントをかけた。
ボブが瞬殺される。
グランダ「!知恵をもったか。」
ボブのタックルを受け止めたグランダが後ろに下がる。タイミングをはずされたためだ。
ボブ「今だ!グフッ。」
グランダ「少し遅れをとったか。2人のどちらかには逃げられるな。ならば・・」
ジェーン「!!」
ジェーンの前に姿を現すグランダ。逃げることに集中していたジャッカルも反応する。
グランダ「やつがお前を助けに来ることにかけるとしよう。」
ジェーン「くっ、私はいい、逃げろジャッカル。」
ジャッカル「うおぉぉおぉぉおおお。」
グランダに後ろから殴りかかるジャッカル。そこへ、意外な助っ人が現れた。
グランダ「む。」
ジャッカルの攻撃をまともに受けるグランダ。その手には釘が握られ、わずかに血がついていた。
ジャッカル「ディーノ!」
ディーノ「今だ、逃げろ!2人とも。」
続けて釘を放つディーノ。それをすべて受け止めるグランダ。
ディーノ「くっ、俺の釘を受け止めるなんて。」
グランダ「不思議な技だ。まともに受ければ危ないな。」
ディーノの高速回転する釘を、グランダは見切り、受ける瞬間回転の速度を超えた速度で指を動かし、受け止めていたのだ。
ディーノ「くっ、やはりやつのほうが格上か。へっこんなことならジェーンのアドバイスを聞いておくんだったな。」
ディーノは死を覚悟した。その代わり2人は命を賭してでも逃がそう。ディーノはそう決意した。
ジェーンとジャッカルはディーノの気持ちを無駄にしないために、都市へ全速力で向かった。だが・・
グランダ「2人仲良くくっついて逃げてくれたおかげで手間がはぶけたよ。」
シュババッ。グランダは受け止めたディーノの釘をすべて2人に向けて放った。2人の身体が無残に引き裂かれ、分断した。
ディーノ「そ・・んな・・・。俺の釘で・・・・・。」
これで生き残っているのはディーノ1人だ。
ディーノは一旦要塞ガンマへと逃げた。1人でグランダを突破することは不可能、それに今は冷静さを欠いている。こんな状態では戦えない。
グランダ「ふははははは、残り1人だ。援軍を待つまでもないな。仕留めるとしよう。」
グランダはディーノを追った。
ディーノが追いつかれるのにそれほど時間はかからなかった。ディーノは高速移動で逃げながら自分の身体にささった釘を素早く抜いていた。
ディーノ「一か八かだ。」
ディーノは振り返り、グランダに特攻する。グランダはディーノの両手に50本ほどの釘が握られているのを確認した。
グランダ「あれを至近距離で放たれたら・・・。」
グランダはディーノと距離をとる。ディーノはグランダが距離をとるため横にそれたが、かまわずそのまままっすぐ加速し、都市へ向かった。
グランダ「しまった、フェイクだったか。あれほどの数の釘をすべて同じ威力で放つなど無理なはず。くっハメられた。だが、まだ間に合う。」
ディーノ「いまだ!」
自分に向けて超加速してくるグランダに、すべての釘を放つ。
ディーノ「たしかに50本を同時に撃てば、1本1本の威力は弱まる。だが、おまえも超加速していたらどうかな?」
グランダ「グハァアアアア。」
ディーノの釘をまともに受けるグランダ。その隙にディーノは都市へ逃げ延びた。
グランダ「クッフッフッフ。この借りは必ず返すよ。ディーノ君。」
ディーノ「くっ。みんな・・・・。」
結局、生き残ったのはディーノ1人だった。それもほとんどがヤツ一人に。復讐。その念を抱き、ディーノは1人反政府組織のあるグレータウンへの旅路を進む。
牢獄脱出編 完
釘~kugi~