泣き虫マフラー
マフラーのお話。
ベタなお話になってしまいました……。
先に一言。
ごめんなさい。
君は。
私は泣いてばかりだから、「弱い」ってみんなが言った。
悲しくなったら、泣いて。
言葉は話せるよ?
でもね、言葉の前に涙が溢れてくるんだ。
弱い、弱い。
わかってる、自分のことだから。
でも、1人だけ、こんなことを言う人がいた。
『今はたくさん、泣いていいと思う。だから、今度はたくさん笑ってね』
彼は行動力のある人だ。そして、優しいんだ。心が。
1人でなんでも、できちゃうから、逆にみんなが寄り付かなくなっちゃった。
でも、彼はかっこいい。
そんな彼が好き。
でも、なんでもできる、ドラえもんみたいな人には私みたいな弱い人、いらないと思う。
1人でだって、生きていけるんだもの。
彼は冬になったら、暖かそうなダッフルコートを着てくる。でもね、彼の首はいつも寒そうだ。マフラーがあれば、いいと思う。
彼は秋の放課後。
雨が降っている中、捨て猫を拾っていた。きっと、彼はそのまま、家に連れて行ったのだろう。彼は優しいから、ネコと一緒にマフラーをかけて笑う姿が想像できた。私が隣にいる画は、想像できないけど。
彼の誕生日は2月の後半。たぶん、魚座だ。
私はその日に間に合うように、マフラーを毎日、コツコツと編んだ。丁寧に、丁寧に。細かい作業だけど、毎日、少しずつ。喜んでくれると、いいなぁ。
誰かが、彼に告白したんだって。
やっぱり、モテるんだよね。そのあと、どうなったか、わからないけど。
私は泣きながら、編んでいた。
やっぱり、彼は私みたいな、弱い子より、いつも太陽みたいに明るい女の子が好きなのかな。
・・・明るくなりたいな。
あなたの隣で笑いたいな。
彼の誕生日の日。
マフラーは、ギリギリで完成した。
2月の後半でも、やはり寒い。4月になれば、クラス替えがある。
同じクラスになれればいいのに。
その日の放課後、私は勇気を振り絞って、彼に声をかけた。
相変わらず、彼は1人だった。
「あのね、私・・・」
そう言って、私はプレゼントを渡した。
「お誕生日・・・、おめでとう」
あ、言えた・・・。嬉しいなぁ・・・。
泣きそうになったから、涙目がバれないように目を細めて笑った。
彼も笑ってくれた。
もう、このまま帰りたいけど、泣きながら、帰りたくないから、誰もいない教室に行こうかな。
「あ、忘れ物・・・しちゃったから、戻らなきゃ。・・・バイバイ」
雪が窓の外から覗いていた。きっと、寒いだろう。彼はプレゼントの中身を開けて、また笑っていた。
「ありがとう」
私は頷いて、教室へと戻るために、階段を駆け上がった。
リュックを背負ってたんだ。
忘れ物なんて、してないのになぁ・・・。
教室に電気をつけた。
誰もいなかった。だから、自分の席で声を出さずにポロポロと涙を流した。
悲しいわけじゃないよ?
嬉しいから、泣いているんだよ。
すると・・・。
誰かが、私の頭を優しく撫でてくれた。
「せっかく、笑ってくれたのに、また、泣いてるの?」
この声の主は、きっと彼だ。
なんで、戻ってきたんだろう。
「帰ら・・・ないの?」
「帰れるけどさ・・・」
続きがありそうだ。きっと、彼の恋人は部活をしているのだろう。だから、待っているのかな。・・・プレゼント、あげなきゃ、よかったかな。
また、悲しくなったよ。
また、寂しくなったよ。
また、涙が溢れてきたよ。
君のせいだ。
「忘れ物は・・・置いて行こう」
「え?」
つい、その言葉の意味が知りたくて、顔を上げてしまった。クラスメイトはきっと、私の泣き顔なんて、見慣れたものだろう。
きっと、彼も。
「やっぱり、泣いてたんだね」
「・・・いつものこと」
「・・・知ってる。だから、そんなものは置いて行ったって、誰も困らないでしょ?」
彼は私があげたマフラーを広げた。
彼が温かくなるように。
マフラーを暖色の毛糸を使ったんだ。
「これ、1人で巻きたくないんだ」
そう言って彼は私の首に、マフラーを巻きつけてくれた。
「・・・一緒に、帰ろ?」
「彼女・・・さんは?」
彼は私が尋ねると、変な顔をした。
「俺は、彼女なんていないけど? さ、帰ろ?」
彼は屈託のない笑顔を見せてくれた。
また、泣きそうだ。
二人で、一つのマフラーを巻いて、歩く。
外は寒いけど、全然、気にならなくて。
逆に、彼といて、緊張しすぎて、熱くなっていた。
初めて、男の子と、一緒に帰るなぁ・・・。
「これからも、一緒に帰らない?」
「・・・私は泣き虫で、弱くて、明るくないよ」
「だから、どうした? 別にそんなの関係ないじゃん」
彼は私の顔をまっすぐ見つめていた。
顔がりんごになりそうだ。・・・かっこよすぎる。
「・・・私ね、燈君が、好きだよ」
「・・・知ってる」
「なんで、知ってるの?」
「だって、顔が真っ赤だもの」
君はずるいよ。なんでも知ってて。私はいつも、君に驚かされてばかりだ。
「燈君は、ずるいよ」
「なんで?」
「だって、何でも知ってて・・・。ずるい」
言ってから気づく。随分と酷いことを言ってしまったのではないかと。
すると、彼はこう言った。
「じゃあ、ユキもずるいよ」
「なんで? 泣いてるから?」
「泣くことがずるい訳じゃないよ。・・・俺はユキのせいで、ユキのこと、好きになっちゃったじゃん」
「ゆきってどっち?」
「お前だよ」
そう言って、顔をそらす燈君。
両思いだったんだ。
なんだか、嬉しくて、微笑んだ。
自分で作ったマフラーに、顔をうずめた。
・・・暖かいなぁ。
君はずるいよ。
でも、君が好きだよ。
おわり。
泣き虫マフラー
読んでくださって、ありがとうございました!
中編の小説を書き上げた後の、掌編。
いいですね♡
もう9月になります。
私の住んでいるところは、夜になると、肌寒くなります。
この作品を読んで、心で暖まってもらえたら、幸いです。