狂気の部屋
君の事が好きだ。
誰よりも愛している。
それなのに、何故、君は俺の事を見てはくれない・・・。
そして、気が付いたら君は他の人の隣にいて・・・。
君は、その人の隣で笑っていた。
とっても眩しく美しい笑顔で――・・・・・・。
しかし、そんなの絶対に許さない。
君が見て良いのは俺だけだ。
他の奴なんかに渡すものか。
だから、君を閉じ込めてしまおう。
真っ暗な檻の中に閉じ込めて、
これ以上無い位の快感と恐怖を与えて調教する。
もう、二度と、俺以外を見ない様に―――・・・・。
「っは・・・・・あ、飛鳥・・・っ」
「クスッ・・・気持ち良いのかい?・・・なら、もっと良くしてあげるよ」
薄暗い部屋の中、夕鶴の吐息と厭らしい水音だけが響き渡る。
コンクリート壁のこの殺風景な部屋の扉には外から鍵が掛けられ、窓も無い。
唯一、この部屋の鍵を持つ者は飛鳥ただ一人。
事の始まりは、ある日の飛鳥の一言から始まった。
「君は此処で一生暮らすんだよ」
薬を嗅がされ、目を醒ました時にはこの部屋に連れてこられていた。
訳が解らず情況が理解出来ないまま飛鳥にそう言われた。
ギラギラとしたむき出しの独占欲。
彼を纏う真っ黒い欲望と言う名の狂気。
最初はそんな事を言い出した飛鳥に恐怖し、
彼から逃げ出そうと何度も考えた。
しかし、自分に繋げられた足枷がそれを許す事などなかった。
そして、逃げ出そうと験す度に飛鳥に捕まり、
彼に組み敷かれる日々が続いた。
「愛してる」その言葉を何度も囁かれながら――・・・・・・。
そう、まるで呪文のように何度も――・・・・・・。
そして、何時からだろうか・・・・
夕鶴は飛鳥から逃げ出そうとなど考えなくなった。
永い時間を得て、続いたこの狂気じみた関係故だろうか。
寧ろ、享楽に身を委ね、飛鳥の思いのままになった。
しかし、時に夕鶴は思う。
「飛鳥は本当に自分を愛しているのだろうか」と――・・・。
だから、時に夕鶴は飛鳥から逃げ出す振りをして試す。
彼の執着が本物か、彼の愛が本物かどうかを――・・・・・。
「んっ・・・ふぅ・・・っ」
喉奥まで犯され、生理的な涙を浮かべる。
しかし、飛鳥は夕鶴の頭を確りと押さえつける。
「ほら・・・頂きたいんだろ?なら確りと舐めてよね」
クスクスと喉の奥で笑いながら蜜壷を指で掻き混ぜる。
それだけで夕鶴の身体が快感に揺れる。
「ふっ・・・んぅ・・・・あっ・・・っ」
「っ・・・良いよ、夕鶴」
飛鳥が息を詰めた瞬間だった。
口内に白濁を放たれ、飲み込めなかった物が夕鶴の口から零れ落ちる。
そんな夕鶴の姿を飛鳥は満足そうに見つめる。
「フフ・・・本当に厭らしいね・・・凄く良いよ」
そう耳元で囁かれ、口付けられる。
その口付けは酷く甘くて優しいもの。
舌で口内を犯され、夕鶴が身体を振るわせる。
「っ・・・はぁ・・・飛鳥・・もう・・・頂かせて・・・」
そうねだる夕鶴の声は酷く淫らで甘い声。
それだけで飛鳥の欲は更に大きくなる。
「なら、約束しなよ。もう二度と逃げ出そうとしないと・・・」
「まぁ、逃げようとした所で、逃がしはしないけどね・・・」そう、
口端だけ吊り上げ、狂気的な笑みで言う。
彼女を縛り付けるなど簡単な事だ。
そう、自分が仕込んだのだから――・・・・・・。
無理矢理組み敷き、快感に溺れさせ、もう自分でしか満足出来ない様に・・・・・・。
もしも、又、夕鶴が自分から逃げ出そうとするのならば、
自分を否定するのならば、力ずくで奪えば良い。
それこそ、自分から離れない様に調教すれば良い。
どす黒い感情が飛鳥を支配する。
「約束・・・する・・・約束するからぁ・・・っ」
涙を浮かべ、己の胸に縋りより必死でそう言う夕鶴に飛鳥は満足そうに微笑む。
「良いよ。頂かせてあげる・・・君の望みのままに・・・」
そう言うと、彼は寝そべり、夕鶴を自分の上に跨らせる。
そんな飛鳥に夕鶴は唖然とし目を見張る。
「ほら、頂きたいんでしょ?なら自分でして見せてよ」
「そ・・・・そんな・・・っ」
「出来るでしょ?」そう言いニヤッと笑う飛鳥にこれ以上何もしてくれないと悟り、
観念したのか、夕鶴は彼の腹に手を置き、そのままの体制で腰を下ろす。
「・・・ぁ・・・くぅっ」
入ってくる異物感に乱れた声が漏れる。
成るべく声が出ないように耐えながらも、自ら腰を動かす夕鶴の姿に、
飛鳥も抑えきれない興奮を覚え、彼女の腰を掴むと激しく揺さぶった。
「あっ・・・いやぁ・・あぁぁ・・」
中を確かめる様に掻き混ぜられ、甲高い声が耐えなく漏れ続ける。
「嗚呼、良い・・・最高だよ・・夕鶴」
欲情を含んだ飛鳥の声。
「アッ・・・ンンッ・・・・あす・・飛鳥・・・
私、おかしく・・・・なっちゃ・・・っ」
艶を増した喘ぎが心地良く感じる。
そんな夕鶴に飛鳥は口端をあげる。
「フフ・・・ならばおかしくなれば良い。
そのまま狂ってしまえば良い・・・俺の夕鶴・・・」
この体も、その心も俺だけのモノ――・・・・・・。
俺だけの大切な存在――・・・・・・。
溢れ出した愛しさが止まらない。
「っふ・・・ねぇ・・・飛鳥・・・・・」
「なに?」
熱を帯びた声で問いかけられる。
「飛鳥は・・・私の事、愛してる?愛してくれる?」
顔を赤らめ、吐息交じりの声での問いかけは、
これ以上ないぐらいに飛鳥を魅了する。
「うん、勿論だとも・・・君を愛しているよ・・・」
優しくそう囁く飛鳥の声がこだまする。
その飛鳥の返事に夕鶴は安心したか、柔らかく微笑んだ。
「だから」
ボスッと、音を立て飛鳥がそのままの体制で夕鶴を押し倒す。
「もう俺は君の事を離さない・・・逃がしもしない」
凄まじい独占欲――・・・・・・。
どす黒い欲情――・・・・・・。
そして何よりも、狂気的な愛情――・・・・・・。
それら全てを含んだ言葉が夕鶴の耳元で囁く。
「俺だけを見て・・・他は何も見ないで・・・」
「・・・あっ・・・飛鳥・・・っ・・・飛鳥っ」
飛鳥の背中に腕を回す。
そんな夕鶴に答える様に飛鳥は口付けの雨を降らせる。
大切なものを扱うかの様な優しい口付けを――・・・。
「愛しているよ、夕鶴・・・・誰よりも・・・ずっと・・・」
何度も何度も囁いた愛の言葉。
何度も呪文の様に繰り返した。
それでもきっと、夕鶴は又逃げ出そうとするだろう。
自分の愛を確かめる為に――・・・・・・。
自分の執着を確かめる為に――・・・・・・。
ならば、その度に教えてやれば良いと、飛鳥は思った。
自分がどれ程、夕鶴を愛しているのかを・・・。
自分がどれ程、夕鶴に執着心を抱いているのかを・・・。
「だから、夕鶴も俺から離れないで・・・・俺の傍に居て・・・」
「っ・・・飛鳥っ・・・飛鳥ぁ・・・・」
夕鶴の瞳から止まる事無く涙が零れ落ちる。
飛鳥はただ、夕鶴の目尻から涙を拭ってやった。
■□■□
あれからどの位時間が経っただろうか。
あの後も散々と夕鶴を享楽の海に溺れさせ、泣かせた。
そして、今は疲れ切って意識を手放している夕鶴の髪を飛鳥は優しく撫でる。
「本当に馬鹿だな・・・馬鹿で愚か者だ・・・」
ポツリと呟いた言葉――・・・・・・。
それは誰に対しての言葉なのだろうか・・・・?
「だけど、解ってくれ・・・・俺には君が必要なんだ・・・」
だから、彼女をこの薄暗い狂気に塗れた檻に閉じ込めた。
無理矢理組み敷いて、自分の思うように調教した。
独占欲と狂気に塗れた檻の中に閉じ込めて、
狂おしい程の想いを彼女の身体と心に叩き込む・・・・。
もしも、夕鶴が自分を否定する事が・・・・・・。
もしも、彼女が自分から逃れようとするのならば・・・・・。
その羽をへし折って飛べなくし、逃げられなくする。
これらは全て、彼の・・・、
飛鳥の持つ愛情故なのかもしれない――・・・・・・。
狂気に満ちた歪んだ愛情――・・・・・・・。
本当は、他にも愛し方は幾らでも在ったかもしれない。
しかし、彼は、飛鳥はこの方法しか愛し方を知らない――・・・・。
だけど、今、夕鶴は自分の隣に居てくれる。
こんな歪な愛し方しか知らない自分の隣に居てくれる。
無論、その関係は飛鳥により調教され、
作り上げられた偽りの物である事は飛鳥自身も承知している。
しかし、そでも良い・・・そう、飛鳥は思った。
ただ、夕鶴が自分の傍に居てくれればそれだけで良いと思った――・・・・・・。
浅かで、愚かな願い――・・・・・・。
「だから、俺は君の事を何があっても手放す気は無い。
君は俺のモノ・・・・・君は俺だけを見ていれば良い・・・」
「例外なんて認めない・・・・絶対に・・・っ!」
そう、意識の無い夕鶴に言い聞かせるように言った。
しかし、この言葉は今の夕鶴には届いていないだろう。
それは、飛鳥も承知していた。
それでもただ――・・・・・・・。
愛しそうに夕鶴の髪を優しく撫でると、彼女の唇に優しく口付けた。
そして、そっと、彼女を抱くと消えそうな声で独り言の様に口を開いた。
「愛しているよ、夕鶴・・・」っと――・・・・・・。
君の事が本当に好きだから・・・・・・
心から愛しているから・・・・・・
だから、君を他の人間に渡したくなかった・・・・・・。
他の人間に君を取られたくなかった・・・・・・・。
君が僕以外の人間を選ぶのなら、
君を傷つけて、君の羽根を折って飛べなくする・・・・・・。
そういう愛し方しか僕は知らないんだ・・・・・・。
それでも、もう僕は君の事を手放したくはない。
手放せない――・・・・・・。
だから、これからも君に愛を囁こう。
狂気じみたこの部屋で、何度でも君に愛を注ごう。
一方的な愛だと言われようが構わない――・・・・・・。
蝶の羽を針で止めるように、
もう二度と離しはしないのだから――・・・・・・。
<END>
狂気の部屋