処刑倶楽部

引きこもった部屋の中でもキーボード一つで繋がることの出来るWEB世界。
でもそこは………
本当に“この世界”だけと繋がっているのだろうか?

闇サイトで見つけた“処刑倶楽部”。後戻りの出来ない遊びに、俺はアクセスしてしまった。

「あぁ〜つまんねぇー。」

引きこもりを始めてすでに3年が経とうとしていた俺にとってパソコンは唯一の息抜き。
だが…
アイドル・スポーツ・芸能・ツイート・ブログ・UFO・怪奇現象・アダルトets………
もう全て見飽きた。
さすがに毎日十何時間も向かい合ってきた画面の中に新鮮さは無かった。
当然のように行き着いた“闇サイト”でさえ
「面白そうなのは無いです…ってか!………ん………“処刑倶楽部”?!」
その言葉の響きに久しぶりに興味を持ち開いてみると…。

「はぁーん。架空の処刑サイトね。」
そこは現実の世界での“気に入らないヤツ”をNETの世界で処刑するという趣向らしい。
「なんだよ、単なる“不満解消サイト”かよ」
と思ったものの、このサイトが闇サイトとして扱われる理由は他にあったようだ。
「へぇー、すげ〜」
どうやらココはただ単に気に入らないヤツを妄想で処刑するだけでなく
その処刑の様子を再現して見せてくれるサイトのようだ。
しかも、その映像が凄かった‼︎
まるで本当に処刑しているのを実況しているのでは…と思える程のリアル感。
破裂する身体…
飛び散る臓器…
流血の模様…
許しをこう処刑者の悲惨な表情…
今まで覗いたどの闇サイトでも見られなかった背筋を凍らせる映像。
「すっげーーー」

おそらく映像関係の勉強をしている人達が将来の夢をつかむキッカケとして
その腕を競って作っているのではなかろうか。
それ程見事な映像が、俺の退屈な日々からの救いの手のように思え
夢中になって見入ってしまった。
その中でも俺はある3人の投稿者と意気投合し、処刑についての意見を言い合っていた。

一人は通称『顔ナシ』
高校時代のイジメを受けた同級生を上空3000mから突き落とした様子は
必死になって謝る同級生の突き落とされる瞬間の泣き顔と
落ちる途中で気を失う瞬間、
そして地面に頭から突き刺さるように落ちた彼の顔が破裂する様は
身体中の血が逆流する興奮を覚えたものだった。

もう一人は《流し目》
中学の臨時講師として赴任した憧れの女教師に渡したラブレターを
こともあろうか“帰りの会”に教室で読み上げた怨み。
2度と手紙を読めないようにその女教師の目をナイフでえぐり去っていく。
飛び散る鮮血と対象にゆっくりと流れるように落ちていく眼球は
人の怨みの深さを思い知らされた。

そして最後は[ポキポキ]
心弾んで入学した大学で待ち受けていたものは…新体操クラブでの壮絶なシゴキ!
柔軟体操との名のもと、痛くて叫んでも無理やり押し込んできた先輩。
意識はあるものの薬で自由がきかない先輩の関節を一つずつ
ポキ、ポキ、と折っては高笑いをする彼。
関節が折れるたびに絶望の色を増していく顔は
目の当たりにするのをためらわれたほど現実味に満ちていた。

どうやら彼らのハンドルネームはその処刑方法からきているらしかった。
彼らとの会話をする度に
「俺の処刑方法はどんな凄い映像になってくるんだろう?」
そんな期待に駆られた俺は
思い付くままに色んな“処刑”を書き込んでいった。

「なんだ、またダメかよ!」
ここ最近昼夜を問わず、食事も程々に“処刑方法”を書き込んでいった俺だったが
元来の才能の無さなのか、一度も採用される事もなく、
ただただ時間だけが過ぎっていった。
さすがに少し飽きてきた俺は…
「ま、いいか。ここら辺が引き際かもな」

久しぶりにパソコンの電源を落とし
「暫く振りに“爆睡”でもしますかね」と、
机の上の“ウオッカ”を口にした…
…その時…

“ウヲン…”

「な、何だ?」

落としたハズのパソコンの電源が勝手に入った。
カタ、カタカタ、、カタ、、

「ど、どうしたんだ…一体…???」

触ってもいないキーボードがそのメッセージを打ち出してきた。

“カッテニ、ヤメテハ、コマルンデスヨ”

「ハァ?どうなってんだ?何なんだよ、一体?」

“ワタシタチハ、アナタヲ、トモトシテ、ムカエルコトニ…”
『したのですから…』

ハッ!「誰だ!」
最後の7文字は…
打ち出された文字ではない!
それはハッキリと聞こえた。
俺の背後から…
言葉として…ハッキリと…
「誰だ‼︎」

振り返った俺の目の中に映ったもの、それは………

脚を上にして…逆立ちしているような人…
しかも…
床に面しているのは肩から下…顔は…無い………『顔ナシ』…

《そうよ。ここまで来て“ハイ、さよならは通らないわよね》

えッ!
“顔ナシ”の隣に現れたのは…
血だらけの顔から今にも両目が落ちそうに垂れ下がっている……《流し目》…

[さぁ、俺たちと一緒に…行こうか…あっちの世界にね]

不意に肩を叩いたそいつは…
不自然なほどに折れ曲がった身体から苦痛の表情をにじませた……[ポキポキ]…

こいつら………
こいつら、処刑する方じゃ無かったんんだ。処刑された方だったんんだ。
「やめろ!俺はお前らと一緒じゃないんだ。俺は関係ないんだ‼︎」

必死に叫ぶ俺をあざ笑う彼らを何とか消そうとキーボードを操作してパソコンの電源を落とそうとしていた矢先…

ボッ………

蛸足配線をしていたコンセントから突然“炎”が上がったのが見えた。

『そうそう、あなたのハンドルネームが決まりましたよ。
ハンドルネーム…“黒焦げ”…ヒャハハ、ピッタリですね。アハハハ』

「やめろ!やめてくれ‼︎」

『顔ナシ』の最後の言葉に必死に抵抗するように俺は
燃え上がる炎を消そうと
コンセントに向かい手を伸ばしたその時………

……カタ……

何かが指先に触れ
その不吉な音の向こうに
それは見えていた。

ゆっくりと、ゆっくりと、
まるでスローモーションのように………

さっき口を開けたばかりの“ウオッカ”が………

炎の方に向かい
倒れて行く
その
すべを………

処刑倶楽部

パソコンという便利な“箱”に
自分自身を縛り付けてしまう今。
キーボードから打ち出された文字は
幻想と現実のどちらに向かっていくのか?

処刑倶楽部

NETの闇サイトで見つけた“処刑倶楽部”! そこで人の死を弄ぶことに夢中になった俺は 後戻りの出来ない言葉遊びにアクセスしてしまった。

  • 小説
  • 掌編
  • ホラー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-08-27

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted