SS28 殺人無罪
私は髪が床に着くほど頭を下げた。
「本当にすいませんでした」私は髪が床に着くほど頭を下げた。
「俺に謝られてもねぇ。謝るならご遺族に謝りなさいよ」
「そう思ったんですけど、どうしても見付からなくて……」
「まあ、こんな時勢じゃあ仕方ないか」あくまで投げやりな警察官は、下手をすると私を追い帰しそうなやる気のなさだ。
「人殺しちゃったんですから、すぐに逮捕して下さいよ。じゃないと私……」
「けどさぁ、あなたが殺したっていう証拠がないしね」
「こんなに返り血浴びてるじゃないですか! 凶器だって、ほら! 果物ナイフ。ここにちゃんと持ってますし」
「それ本物? ケチャップで色着けただけじゃないの?」彼は素手でナイフを受け取ると、目の前に翳して訊いてきた。
「分かりました。じゃ、現場に行きましょ。まだ遺体、そのままになってるはずですから」
「面倒臭い人だな。俺の言いたいこと、どうして察してくれないの」
「だって罪を償わないと救われないじゃないですか!」
「じゃあ、こうしよう。君は殺人罪で死刑。但し在宅起訴だ。死刑執行は十日後ってことでさ。その辺で手を打とうよ」
「逮捕も取り調べもなしでいきなり? それも釈然としないなぁ。こっちだって襲われて仕方なく反撃したんですよ。少しは話しを聞いてくださいよ」
「やかましい! もう帰ってくれよ!」
ふて腐れたように怒鳴った彼は、くるりと椅子を回して背を向けた。
「なんでわざわざ警察に出頭してくるのさ? どうせ十日後には地球は滅亡するのにさ」
SS28 殺人無罪