馴染んだ指

疲れた男の秘められた欲求の解消方法。

人には相性がある。
世代、性別、職種、地位、出身校など、表面的なもの。
思想、嗜好などの内面的なもの。
匂い、仕草、声などのパーソナルなものまで、様々だ。

男と女の相性で言えば、肌合いが一番。

程々にしなければ、と思いつつ、俺は今日も彼女の元に足を運んでしまった。

「‐‐‐おひさしぶりです‐‐‐」
少し、うつむき加減に微笑む彼女。
「‐‐‐いつもと同じ?‐‐‐」
上目使いの問いに、無言で頷く。
「‐‐‐服を脱いで下さい‐‐‐」

彼女の名前はS。
年の頃は22~23歳位だろうか?
女性にしては長身で、165センチ位。
肩先までのストレートのショートヘアが良く似合う。

俺はそれ以上、彼女を知らない。
でも、この半年で10回以上、彼女の元に通っている。
恋愛に近いかもしれない。

「‐‐‐また、カチカチになってますね?」
彼女の指が、俺の身体をなぞる。
「‐‐‐辛いんだ‐‐‐」
俺が呟く。
「‐‐‐楽にしてあげますね‐‐‐」
彼女の指に力がこもる。
俺の全身を快感が包み込む。
「‐‐‐むっ!‐‐‐はぁ~‐‐‐」
思わず、声が漏れる。
「‐‐‐どうですか?」
彼女が耳元で囁く。
「‐‐‐もう少し‐‐‐強く‐‐‐‐」
やっとの思いで、俺が応える。
彼女の指先に、更に力がこもり、リズミカルに俺の身体で動き出した。

頭がぼ~っとする。
恍惚、というのはこういうことを言うのだろう。
俺の身体と、彼女の指。
まさに、出会うべくして出会った、片割れ同士なのだろう。

ポタッ。
俺の首筋に、彼女の汗が落ちる。
「‐‐‐ごめんなさい‐‐‐気持ち良いですか?‐‐‐」
顔中汗ばんだ彼女が問う。
「‐‐‐最高だ‐‐‐夢の中にいるみたいだ‐‐‐」
半分正気を失った、俺が呟く。


「‐‐‐お疲れ様でした‐‐‐」
彼女の指が俺の肩を、軽く叩く。
どうやら、快感のあまり眠ってしまった様だ。
「‐‐‐ありがとう‐‐‐寝ちゃったみたいだね?‐‐‐」
ゆっくりと起き上がる俺。
「無理しないで下さいね。肩も、腰も、足も凝り過ぎてますよ。ちゃんと寝て下さいね。」
「わかったよ。でも、また来るからね。」
「お待ちしています。いつもご指名ありがとうございます。」

こうして、俺の至福の時、60分ボディマッサージは終わった。

馴染んだ指

馴染んだ指

  • 小説
  • 掌編
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-01-07

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