空を見たんだ。
『持て余した男の子のお話』
キミは今何を考えてるんだろう。
頬杖をついたまま、頭の何処かが呟いた。
こうやってボクがキミのことをどれだけ考えても、キミはボクのことを一抹の時でさえ考えない。
自嘲気味に唇が歪んで、
ボクは、空を見たんだ。
ボクは、空を見た。
多分、見た。
その行動が自分でも信じられなくなってしまった。
ボクが見たのは、本当に空だろうか。
そこには、何故か真っ暗な雲があって。
雲かも分からないような真っ暗な暗闇があって。
まるで見ている世界の端から、じわじわとその中に吸い込まれていくような。
何かすごく嫌な予感がして、すぐに大袈裟なくらい首根っこから視界の方向転換をした。
誰も、気付いていないようだ。
ボクは、空を見たんだ。
ボクとキミは、多分付き合っていた。
多分じゃなくても、付き合っていた。
でも、ボクから終わりにしようと言って、関係は切れた。
ボクはキミのことがすごく好きだった。
すごく、すごく、好きだった。
将来を一緒に過ごしたいとも思っていた。
その温かい想像と、キミの温もりが、ボクの生きていく価値だった。
ボクが生きていてもいい証だった。
ボクはキミのことがすごく好きだったんだ。
だから、今、すごく後悔しているんだ。
こんなことを言ったら、キミは怒るだろうか。
呆れるだろうか。
それとも、嗤うだろうか。
失ったものは、もう二度と。
ぼくは、空を見た。
心が、ねじ曲がって、
血を失って、
どんどん自分がおかしくなっていくのがよく解った。
この世界が真っ白で、このぼくが真っ黒に思えてくる。
そんなことを言っている時点で、ぼくのおつむはかなり逝っているんだろう。
どれだけ祈っても、
どれだけ願っても、
どれだけ
どれだけ
どれだけ
キミはもうぼくを好きになってくれやしない。
そして僕は空を見たんだ。
ボクは、
ぼくは、
僕は、
キミを傷付けることしか出来ないんだ。
出来ないんだ。
出来ないんだ。
出来ない出来ない出来ない出来ない出来ない出来ない。
呪文を幾度となく唱えて、心という気持ちを真っ黒に染めて、
僕は、空を見たんだ。
電線が景観を邪魔する。
でも、暗闇と電線の黒が同化して、それはそれで気持ちのいいものだ。
瞬間、目の前の景色が異常を来した。
脳内にペンキをぶちまけたように。
暗闇の中に鮮やかなその色色。
その色は網膜に衝撃を与えて、すっ、と消えていった。
酔ってしまうくらいの原色の混じり合い。
熱の籠った溜め息が開いた唇の隙間から洩れる。
その頃から、キミを見る度に、僕は大臼歯を噛み締める癖がついた。
キミはちらりとこちらを黒髪の隙間から覗き見て、自然を装って目線を逸らす。
その度に僕は、横目に空を見ては噛み締めた。
ぎりぎりと鳴る不快音を体の内側から奏でるそれは、
舌をやるといつだって鉄の味がした。
「ねぇ。
ああ神様。
これは夢だろうか。
恥じらったように黒髪に素肌を隠したキミ。
隠しきれなくてほんのり赤い頬がちらつく。
風が冷たさを運んでくる。
その度にキミは片目を軽く閉じて髪を耳に掛ける仕草。
『どうしたの?
また風が吹いて、キミの髪を揺らす。
「あのね。
「キミは私のこと…
「今どう思ってる?
好きだ。
好きに決まっている。
愛している。
底から溢れて溢れて。
どうやったらこの想いが届くだろう。
『キミは、
『どう思ってる?
質問に質問で返すだなんて、卑怯だ。
自分で自分を責める。
でも、助かる確率が0のまま地獄に飛び込めるほど僕は強くなっていない。
「私は…
「私は、分からないよ
眉根の寄ったその顔を見てしまうと、
もう僕は何も言えなくなった。
結局僕は、キミを傷付けることしか出来ないんだ。
フェンスが悲鳴を小さなあげる。
僕は空を見た。
暗闇は未だ僕を深淵から見つめている。
だから僕は嗤うんだ。
僕自身をそこから突き落として。
「あぁ。僕はキミが大嫌いだ。」
空を見たんだ。