星痕

”また一緒に来ようね、将人くん”

夢を見た。
そう、1年ほど前のことだ。
比奈がどうしてもペルセウス座流星群を見たいって言うから一緒に見に行ったんだ。
すごく綺麗で、涙のようだった。
比奈は花火みたいって言っていたけど。
また一緒に行こうって約束したんだった。

その約束が果たされることはないだろうけれど。

山中比奈。
大学生。
1つ下の元カノ。

俺。
普通の社会人。

大学では仲良くやっていた2人の関係も、俺が東京で就職したことによりあっさりと壊れてしまった。
会う時間が、電話が、LINEが、時間が経つにつれて減った。
そして気持ちも。

別れを切り出したのは比奈の方だった。
ついに愛想を尽かされたのだと思った。
当たり前に思った。
別れを待ち望んでいたかのように。

その時、比奈は泣いていた。
俺のせいで比奈を苦しめてしまったのだろう。
そう思った。

今となっては比奈が俺を好きだったのか。
俺は比奈を好きだったのかさえ分からなくなる。
付き合っていた頃の約2年ほどの月日の思い出は、こんなにも色濃く残っているというのに。
何故、なんだろう。

考えるのは時間の無駄だ。

気だるい体を起こす。
久々の休日。
用事も特にない。

さて、何をしようか。

ふと、玄関のポストに目がいった。
不動産や軽食店のチラシが何枚かある。
そして。
「……手紙?」
白い封筒がチラシの間から見えた。
埃をかぶっている。
いつからあったのだろうか。
気づいたらポストは確認していたつもりだったが、チラシの間に挟まっていたり、ポストの色と同化していたこともあって気付かなかったのかもしれない。

手紙を手に取り表裏を確認する。
表には丁寧な字で宛先と俺の名前が書かれている。
裏には送り主の住所と山中比奈、と名前が書かれていた。

比奈からの手紙。
何が書かれているのか全く予想がつかない。

綺麗に糊付けされた封筒を強引に開け、焦る心を落ち着かせ手紙を読んだ。

”将人くんへ


今日で私たちが付き合い初めて2年が経ちます。
残念なことに今日は会うことが出来ないので、手紙を書いてみました。

4月からは将人くんは東京へ行き、忙しくなって会う機会も減るかもしれません。
離れたら気持ちが薄れて無くなっちゃうかもしれないって考えることもあります。
寂しくなるけれど、将人くんが頑張っているのだからそんなこと言っていられません。
私も来年は東京を中心に就活したいと考えています。
少しでも将人くんのそばにいられるように。

大好きです。
誰よりも、何よりも、将人くんが好き。

今年のペルセウス座流星群見に行けるといいな。
もちろん、将人くんと一緒に。



比奈より”


紙に水滴が落ち、自分が涙を流していることに気がついた。

俺はちゃんと愛されていた。
しかし、俺は比奈を愛してあげられたのだろうか。

手紙の消印は4月6日。
現在より4ヶ月ほど前。
俺と比奈の記念日。

後悔の気持ちで胸が苦しくなる。

別れ際。
比奈が泣いた意味。
やっぱり、苦しめていたのは俺だったんだ。

もうどうしようもなかった。

謝りたい。
謝ることでこの罪悪感から逃れられたい。
戻りたい。
後悔のないようにやり直したい。

もう一度。



手紙を書いた。
送られてきた手紙の返事を。

”また、一緒に星をみにいこう。”

他に言葉はいらない。
あの流れる星を、比奈とみたいんだ。
そして謝るんだ。
好きだった気持ちを伝えるんだ。
せいいっぱいの気持ちを。



今はまだ待とう。
涙のようで花火のようなあの星が降る日を、待ち焦がれて。

星痕

星痕

  • 小説
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更新日
登録日
2014-08-26

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