意地悪

余裕な表情を見るとちょっかいを出したくなるのは人情だ。多少子どもじみた感情だろうが、それでもいたずら心を抑えられない。まして、狼狽えることなぞ滅多に無い男相手ならなおさらだろう。さらに思いがけず弱点を見つけてしまった時なら我慢などしようがない。

                           ※

「……ん、は……閣下」

彼の右耳の縁をそっと舐める。上から耳朶へ。それだけで彼の頬が赤く染まる。後ろから抱きしめる体勢では横顔しか見えないが、それでも十分だ。こんなに初々しい反応の彼なぞ見たことがない。

「ヨーゼフ……耳が弱いのか?」
「ち、ちがっ……あっ、や……」

耳朶を唇で包み、しゃぶる。あまり音を立てないように。騒音の不快感が快感を上回っては意味がない。うまくいっているようだ。現に彼は否定の言葉さえ言えていない。こんなにも彼は敏感だったのか。きっかけは些細なことだ。仕事が長引き、約束の時間に彼の寝室へ行けなかった。機嫌が悪い彼は顔すら見たくないと背を向けた。仕方ないのでベッドに座る彼を背中から抱きしめ、耳元に接吻した。彼の反応は上々だった。機嫌ではなく、体の方だが。

「違わないだろ……こんなにはしたない声を上げて」

ふ、と耳介の中へ息を吹きかける。抱きしめた腕の中で彼の体が跳ねる。

「こんなに反応しているくせに」

耳介の溝に沿って舌を這わせる。彼は答えず、両足を擦り合わせた。ズボンの上からでも分かるくらいに、それは存在を現していた。

「閣下……も、お願い……」

蚊の泣くような声だ。可哀想に。でも、それ以上にかわいい。もう一度、耳朶を舐めてみる。唇も使って刺激を与える。濃厚な水飴を舐めとるように。彼は首を動かし、逃げようとした。

「動かないで……楽しんでいろ」
「は、やぁ……ほ、しい……も、無理……」

無意識か、意識的な行為か、彼はベルトに手をかける。させまいと後ろから拘束する腕に力を込め、両腕を押さえる。こんなにあられもない彼なんか滅多に見られるものではない。いつも表情を覆う鉄仮面が崩れている。もっと追い詰めて、性愛に狂うヨーゼフを見たいと思う私は、病気だろうか?

「手を使わずに、私を感じろ」
「そんな……閣下、あぁ!!」

柔らかな耳朶から唇を離し、上の固い部分を甘く噛む。痛みと快楽は地続きの感覚だ。境界を見極めながら、力を加減する。うめき声を上げ、体を捩る彼は本当に辛そうだ。自ら果てることも禁じられ、限界を間近に感じながら達することもできず、微弱な刺激に嬲られるばかりだ。力加減と位置を変える度に、彼の腰が浮き上がる。ズボンの形を変えるほどに張り詰めたそれは、きっと痛みさえ感じさせることだろう。

「閣下!!……早く……くれ、ないと……!!」

堪えきれない、というような彼の声。こんなに必死な声も聞いたことはない。無論、無視する。もっと苦しめて、もっと乱して、もっと辛そうな彼を見たい――その欲望を抑えられなかった。返事の代わりに耳裏をぞろり、と舐め上げる。

「あぅっ!!……おかしくなる!! 閣下、やめ……!!」

表情は見えないが、きっと瞳を固く閉じ快感に耐えていることだろう。どれほど、敏感でも耳を舐めるだけで気をやるとは思えない。……それができるならやってみたいが。

「わかったよ……ヨーゼフ、出していいぞ」

このままでは気をやると同時に彼が壊れるだろう。それは本意ではない。ズボンの前を開け、張り詰めたものを解放してやる。固く、熱く、脈打つそれは数度上下に掻いただけであっけなく精を放った。


                           ※

「全く、大した変態だよ」
「そう怒るな」

なんだかんだ言って気持ち良かったのはお前だけだぞ、という本音は仕舞っておくほうが得策だろう。彼の機嫌が最初より悪くなった今では。

果てた後、彼はすぐに立ち直り私を変態と詰りだした。予測はしていたが、こうもはっきり言われるとさすがに傷つく。

「で、覚悟はできているんでしょうね?」
「覚悟?」

ずい、と圧し掛かってくる彼……あぁ、そういう……

「閣下の一番敏感なところはどこでしょうねぇ? 私みたいになりそうな場所」

にやにやと粘つくような笑顔で体を撫でられる。直視するのが厭な表情だ。この表情をした彼を止める術はない、と経験から知っている。諦めよう、そうしよう。そして、彼に仕返しされよう。私は溜息を一つ吐いて、教えてやった。

「背中、だよ……」

意地悪

意地悪

  • 小説
  • 掌編
  • 成人向け
  • 強い性的表現
更新日
登録日
2014-08-22

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