当たらない男
今にも降り出しそうな夜空。雲に隠れて月も見えない。
今にも降り出しそうな夜空。雲に隠れて月も見えない。
イイジマは疲れていた。とにかく疲れていた。
どれくらい疲れていたかというと、仕事帰りに辻占いに立ち寄るくらいに疲れていた。
もちろん、占いなど信じていない。誰でも心当たりがあるようなことを並べて、なんとなく当たってるように思わせる、どうせそんなものだろう。
どうせなら、どんどんと問い詰めて占い師を困らせてやろう。それだけでも幾分か気が晴れる。そういうつもりだった。それに、真っ直ぐ家に帰ることもしたくなかった。
ドジョウヒゲの占い師はイイジマの顔をジロリと見ると、こう言った。
「あなた、家族が病気をしていますね」
…なんということだ。全く当たっていない。おまけにこんなにピンポイントな占いをしてくるなんて。イイジマは呆れて全く見当違いだと伝えた。そうですか、おかしいなぁ、と言いながら占い師は続けた。
「では、あなた、お金に困っていますね? 借金をしている」
残念ながら、借金はない。裕福というわけではないが、お金に困っているというほどでもない。もういいよ、早くこれから先の事を。未来を占ってくれ、とイイジマは苛立ちながら言った。せっかく占い師を問い詰めて遊んでやるつもりが、はじめからこんなに見当違いなのでは勝手が違う。早いところ切り上げてもう家に帰ろう。俺はどうしてこんな寄り道をしていたのだっけ。
「あなたの未来…暗雲が立ちこめています。近い未来、自殺をすることになりますよ」
なんてやつだ。いくらなんでも断言しすぎだ。この野郎。てめえが先にくたばっちまえ。イイジマはあらん限りの罵詈雑言を投げつけ、占い師のもとを離れた。金なんか払うものか。
顔を真っ赤にして、怒り狂い、去っていく男の後ろ姿を見送りながら占い師は帰り支度をはじめていた。あそこまで言われてしまったら、今日はもうお客もこないだろう。
連日同じことの繰り返しで、そろそろこの街ではもう占いは無理かもしれないな。次の街へ行かなくては。それでもいいだろう。どうせ食べることに困ることはないのだから。
占い師はそうつぶやきそうになって、慌てて言葉を飲み込んだ。本当のことを言ってしまうところだった。
そして、その代わりに月の無い空に向かって「今日は天気が悪い」と一言だけつぶやいた。夜空には明るく月が浮かんでいる。
++超能力者++
占い師
ESP:本当のことを言うと嘘になる
当たらない男
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