機械と人
人の世に紛れて生きる。それが僕の仕事であり、生きる意味だ。
誰かの代わりに書類を整理し、家事をする。僕の時が止まるまで永遠とそれらを繰り返すだけだ。
疲れを知らぬ機械の身体のせいか、人より仕事の効率が良すぎて、同じ仕事場で働く人が昨日でリストラになったそうだ。
帰り道、薄暗い舗道の端を歩いていると、僕のせいでリストラになった人が僕の頭を殴打した。
傷は大したことはなかったけれど、リストラになった人が逮捕されてしまった。僕は恨み言を口にしながら睨んでくるその目をどうしてか見ていられなかった。
こんなこと、初めてだ。
その日以来、見るものすべてが変わった。
僕は故障してしまったのか、人の目が気になるようになった。
僕とはどのような存在なのか。
僕は人間にとってどのような存在なのか。
さらには特に気になる人ができた。
僕を殴って逮捕された人の娘さんだ。
彼女はいつもと変わらずに美しい黒髪をなびかせて歩いていく。いままではその姿を見てもどうも思わなかったのに、彼女と話したい衝動に駆られた。
理由はわからない。
話をして、同じ時間を共有したいだけ、なのかな。
問いかければいったい何が僕に起きているのか、答えが返ってくるかも知れない。
僕は日傘を持つ彼女に背後から声をかけた。
機械と人