BIRTH

 何一つ不自由のない満ち足りた世界に僕はいた。馥郁たる香気のビロードのベッドの上で、穏やかなドラムの音を聞きながらじっと来たるべき時を待っている。今ここに僕がいる、僕にとってそれが全てだ。

 薄暗い産科待合室に行くと夫を伴って来ている人が多いのが目につく。寄り添って座るカップルに目を合わさないように下を向いて歩き、隅っこの席に座った。今日で妊娠五カ月かあ、やっと安定期になってちょっと一安心、私はそっとお腹をなでた。
待ちに待った妊娠、どれだけ嬉しかったことだろう。夫のマサオさんももっと喜んでくれると思ったのにな。男の人って、あんまり実感わかないのかな。今日も検診に一緒に来てって頼んだのに、仲間と会うとかで遊びに行っちゃって。付き合いはさ、そりゃ大事だろうけどさ。
 物憂げな視線を壁に張り付いたテレビに向けると、育児に熱心な男性についての特集をやっていた。どこか遠い世界の話のようにぼんやりとそれを見ているうちに私の名前が呼ばれた。
 今日の先生は……うげ、まじかよ、毛深くて太ったおじさんじゃん。産婦人科の先生は女性に統一してほしいよお。早く検診を済ませて帰ろう。そそくさと診察台に横たわり、スカートを降ろした。絶対この先生スケベな目的のために産科のお医者さんになったんだろうなあ、ああ、恥かしいよ。
 今日はエコーもやるそうだ、お腹にジェルを塗って装置をあてがうと、ディスプレイにお腹の中のべビちゃんが映るんだ。いよいよ、ずっと楽しみにしていたべビちゃんとの初対面、さあ画面に注目だあ。
――ううう、よく分かんない。白黒画面には、なんだかエイリアンみたいなのが映っている。先生が装置を動かして全体像を見て、それを頭の中で想像してやっとべビちゃんだって分かるみたい。印刷してもらえたから持って帰ってマサオさんに見せなきゃ。

 今日もマサオさん帰ってくるの遅いな。好物のグラタンを作っておいたのになあ。もう十時過ぎたじゃん。暇だし寂しいし、ちょっと飲んじゃおうかな。先生には飲酒はダメ! って言われているけど、ちょっとぐらいならいいよね。冷蔵庫から缶ビールを取出して、一人で乾杯「べビちゃんにかんぱーい!」


 俄かに気分が悪くなってきた。はてさてこれはいかなる責め苦であろうか? もしや飲酒しておるのか、我が母は? よもや飲酒が僕の成長を阻害するのを知らぬでもあるまいに。我慢ならん、抗議のケリを以て我が意思を伝えよう。いつまでも大人しくしていると思ったら大間違いだ。


 あ! お腹が動いた。これって胎動だ。やったあ、ついに胎動を感じた。私の乾杯にべビちゃんが応えたんだね。私は胎動で揺れるお腹に缶ビールを押しつけた、きゃっ、冷たい、あはははは。そりゃ冷たいわよね。一人で盛り上がっていたらマサオさんが帰ってきた。
「あ、お帰り、ねえ聞いて聞いて。今ね、べビちゃんが動いたんだよ」
「あ、そう、とりあえず風呂入ってくるわ」
 いつものようにマサオさんは私を見ることもなく生返事をして風呂に入っていく。一人残された私はつい缶ビールをもう一本開けてしまい、酔っぱらいながらグラタンを温め始めた。そうだ、写真も見せなきゃね。私達の待望のべビちゃんだもんね。グラタンが温まったころ、丁度いいタイミングでマサオさんが風呂からあがってきた。
「ねえ、聞いて聞いて、べビちゃんが動いているんだよ。ほら、胎動だよ」
「へえ、凄いね。もう動くんだね」
「これ見て、べビちゃんの写真だよ、初対面だよ」
 我ながらイマイチよく分からない写真を見せた。マサオさん、わかるかな?
「なんだこりゃ、ちっとも分からんな。それよりさ、もう安定期なんだろ。そろそろやっても平気なんだろ」
 マサオさんは写真を一瞥すると脇に押しやって私の胸を触ってきた。不意に全身に悪寒が走り、その手を払ってしまった。
「いや! 触らないで」
「なんだよ、また拒否かよ、それでも夫婦かよ」
 苛立ったマサオさんはそっぽを向いてタバコに火を点けた。タバコかあ、先生がよくないって言っていたんだけど、言うとマサオさん怒るからなあ。
 なんだか憂鬱だな、でもこれからママになるんだから私が頑張らなきゃいけないよね。もう私一人じゃないんだから。あ、また胎動だあ、べビちゃんが私を励ましているんだね。
 マサオさんには悪いけど、妊娠してからエッチする気分になれないんだよね。だからつい拒否っちゃうんだ。気分乗らないんだからしょうがないじゃん。そうするといつも不貞腐れちゃうから困っちゃうな。今はべビちゃんが一番大事だもんね。
「もう寝る」マサオさんはぼそっと呟いた。
「あれ、ご飯は食べないの? 折角グラタン作ったのに」
「食ってきたんだよ」
 吐き捨てるようにマサオさんは言い放つと、一人で寝室に行ってしまった。
 残された私は、もう一本缶ビールを冷蔵庫から取り出して食卓にあるもの全てを一人で食べつくした。お腹にべビちゃんいるんだから二人分食べたっていいんだもんね。あ、また胎動だあ、べビちゃんもグラタン食べて美味しいのかな? 食べてんの私だけどね。


 今度はなんだ? この息苦しさはいったいなんなんだ? まさかタバコの煙なのか? 僕にできることは、抗議のキックをすることだけだ。やめろ、やめてくれ、苦しいんだ。僕の渾身の抗議のキック、届いているのだろうか。
 異常に血糖値が高まってきたようだが、母は食べ過ぎているんじゃないだろうな。妊娠高血圧になったらどうするというのだ。どうにも認識が甘いようだ。
 僕に出来ることといえば、こうして抗議のキックをすることだけだ。


 ちくしょう、赤ん坊の事ばっかり考えて俺の事はほったらかしかよ。俺が毎日仕事頑張っているから食っていけてるってのによ。俺に感謝して当然なのに、家事を手伝えとかなめた事言ってんじゃないよ。仕事の帰り道、俺は満ち足りない思いのままパチンコで時間を潰しては馴染みのスナックに通うのだった。
 不機嫌なままいつものカウンター席に陣取り、冷たいおしぼりで顔を拭く。
「あらマサオさん、最近よく来てくれるわね。奥さんおめでたなんでしょ。妊娠がわかった時とても喜んでいたじゃない」
 艶めかしくも退廃的な雰囲気のママの優しい眼差しが、俺の心を穏やかにしてくれた。
「そうだけどさ、なんか最近俺のことほったらかしにするから面白くないんだよな」
「奥さん大事にしなきゃね。妊婦はなにかと大変なのよ」ふと、眼差しに寂しさを宿してママは言う。
「俺だって大変だよ」
 俺は乾いた心を潤すべく水割りを飲みほしてテーブルに頬杖をついてまどろんだ。
 
「パパやめてよ、お母さんをいじめないで」
「うるさい、誰のお陰で生活できていると思っているんだ!」
 僕はいつもほったらかしにされていた。パパはいつもママをいじめていた。ママの泣く声が耳に焼き付いて消えない。悲しい気持ちも寂しい気持ちも消えない。パパ、僕を見てよ。ママをいじめないで。
――夢か? 幼い頃の夢を見ていた。仕事人間だった親父はいつも怒鳴ってばかりだったし、おふくろはいつも泣かされていたっけな。あんな男にはなっちゃいけないって思っていたな。


 ついに妊娠十カ月、いよいよ臨月、もうすぐべビちゃんに会えるんだあ。今月からは毎週検診に行くんだ。マサオさんにも一緒に来てほしいんだけどな、きっと来ないから一人で行こう。いつものように薄暗い産科待合室に行くと、今日も夫婦寄り添って来ているのが目についた。乱雑に置いてある雑誌を一つ掴んで、そそくさと隅っこの席に座った。雑誌を広げたら頑張る夫の特集が見えた。妊娠中の奥さんの為に家事を手伝ったり、安定期になって一緒に旅行に行ったり、そんなページを見ていると、不意に雑誌に水滴が落ちてきたのが見えて驚いた。あれ、雨漏りかな? 
――違う、私……泣いているんだ。でも、でも私、頑張らなきゃ、ママになるんだから。あ、胎動だ。ほらまた、べビちゃんが私を励ましてくれている。生まれ出てきたら、きっとマサオさんもいいパパになってくれるはずよね。思い耽っていたら不意に私の名前が呼ばれてびっくり、服の袖で涙を拭って雑誌をぽいっと置いて、私は大きくなったお腹をかばうように抱いて診察室に向かった。
 今日の先生は……うげ、またあのゴリラじゃんか。ま、これ秘密なんだけどさ、毛むくじゃらの先生の事私の中じゃゴリラって名前付けたんだよね、あはは。今日もエコーでべビちゃんに会える、楽しみだな。診察台に乗ってお腹を出してゴリラにジェルを塗られる。冷たくてちょっと嫌なんだけどもう慣れたな。装置を押し当てたら、さあディスプレイに注目だあ。
――あ、こっち見てる、私を見てる。きっとべビちゃんも早く私に会いたいんだ。じわーっと涙が出てきた。
 感動していたらゴリラがなんか言ってきた。
「あのさ、ちょっと体重増えすぎだよ。血糖値も高いし、ちょっと食べ過ぎなんじゃない? まさかお酒飲んでないよね。ちょっとなら平気とかって思ってない? ちょっとでもダメだよ」
 ううう、確かにちょっと食べ過ぎかも。でも食べるのだけが私の楽しみだもん。
「それでも、まあ、赤ちゃんは順調に育っているよ。でもちょっとは食事に気をつけなさいよ」
 このゴリラってちょっと煩くてうざい。毎度の事だし、適当に聞き流して診察室を後にした。バスと電車を乗り継いで一時間かけて帰宅。マサオさんの車で送ってほしいんだけどな。
 ああ、今日もマサオさん帰ってくるの遅いんだろうな。お風呂洗うのはお腹がつかえてきついし、洗濯物たたむのもしゃがむのが苦しいし、狭いキッチンに立つとお腹がひっかかって動きにくいし、腰が痛いし、疲れたよ。あ、また胎動だ、べビちゃんが頑張れって言ってくれているのね。私はそっとお腹を抱いた。


 母は泣いているのか? 悲しみが伝わってくる、いつからだろうか? 母の悲しみを理解できるようになったのは。寂しいなら寂しいと、父に言えばいいのに意地張りおってからに。それにしても父の無関心ぶりには遺憾の念を禁じ得ない。まったく、母をほったらかしにしておいて如何なる所存なのか。頑張ってくれ、我が母よ、早く生まれ出て僕が守るからね。今、僕に出来るのは激励のキックだけだ。
 

 仕事の帰り道、俺はいつものように満ち足りない思いと乾いた心を抱えて馴染みのスナックに行った。いつもの場所に陣取り、ママが持って来てくれたグラスを飲み干す。ママの優しい眼差しの中、俺は頬杖をついてうとうとした。
「お父さん、ママをいじめないで」子供が泣いている。子供が母親をかばって泣いている。その子供は……俺じゃないか。子供が段々小さくなっていく、母親の胎内に入って行く、その母親は、俺の母親でもあり、ヒロミ、俺の妻でもあった。
 なんで俺はいつも満ち足りないんだろう、愛されることに餓えているんだろう。ヒロミに優しくできないんだろう。素直になれないんだろう。
 忘れていた。あの時、おふくろの涙を見て誓ったはずだ。いつか、いつの日か、欲しかった父親になってなりたかった自分をつくろうと。
――俺はまた寝ていたのか? 頬を流れる一筋の涙を拭った俺は、早く帰ってヒロミに逢いたくなった。一緒にいると、つい冷たくしてしまいそうだが。
「私ね、子供ができた時に旦那がさ、女作って出て行っちゃったんだ。子供は自分の分身なのにね、自分を愛するように大事にしなきゃいけないのにね。もうすぐ生まれるんじゃないの? 奥さんの傍にいてやりなよ」ママの優しい眼差しに、俺は帰りたくなった。
「俺、今日はもう帰るわ」俺は席を立ち扉に向かう。
「さっき飲んだのただのお水だからね、女房が臨月の時は旦那は酒飲んでちゃだめよ」ママの言葉に背中を押されて家路を急ぐのだった。


 予定日まであと二週間、すっかり大きくなったお腹。台所に立てばお腹がつかえて料理も食器洗いもやりにくいし、風呂掃除はしゃがむのが無理だから大変、腰が痛いし、膀胱が押されているからオシッコが近いのも大変。ああもうやんなっちゃう、早く出てくりゃいいのになあ。
 今日も一人マサオさんの帰りを待っている。毎日仕事が残業で忙しいらしい、付き合いもあるみたいだし。
 ずっと思っていたこと言おうかな。立会出産に来てほしいんだよね。やっぱり一人だと心細いし寂しいよ。あと、一度でいいから検診にも付き合ってほしいんだ。予定日は二週間後だから、結局後一回なんだけどね。やっぱり夫婦一緒に行きたいよう。これから二人で育児頑張っていかなきゃいけないんだしさ。ずっと、ずうっと言いたかったんだけど、なんか言いにくくて言えなかったんだ。だってすぐ不貞腐れるんだもん。でも、一人で頑張るのも疲れたよ。あ、玄関で音がした。帰ってきたみたい。
 マサオさんは勢いよく扉を閉めて部屋に入ってきた。
「今日も飲んできたの? もうすぐ予定日なんだし早く帰ってきてほしいんだけどな」
 溜まっていた気持ちもあって、ついきつく言ってしまった。
「うるさいな、男には付き合いってもんがあんだよ」
 マサオさんはまたそっぽを向いて言い返してきた。もう、何も言わない方がいいかな。そうよね、どうせ言ったって不貞腐れるだけだもんね。諦めかけたその時、お腹が激しく動いた。もの凄い胎動、べビちゃんが私に何か訴えてきているのかな。そうだ、きっとしっかり言えって言っているんだ。ここで負けちゃだめだ。私は意を決してマサオさんに向き合った。
「ねえ、あなた聞いて」
 いつになく思いつめた私の声に、マサオさんは驚いた顔してこっちを向いた「なんだよ」
「どうしていつも自分の事ばっかり優先するの? 私はママになろうとして頑張っているのに、いつもそっぽを向いてばっかりじゃない。毎日遅くまで飲んでるし、休みの日はどっか遊びに行っちゃうし、検診だって一度も付き合ってくれないし。もうすぐ生まれるんだよ。あなた、父親になるんだよ。あなたと私の子供なのよ、愛し合った結晶なのよ。私はあなたしか頼る人がいないのよ。お願い私を見てよ」
 言いたい事を言った私は、マサオさんに抱きついておいおい泣きだした。
「だって、お前ちっとも俺にかまってくれなかったじゃないか。俺も寂しかったんだよ。ごめん、お前がそんなに思いつめていたなんて知らなかったんだよ。俺は忘れていたんだ、欲しかった父親になってなりたかった自分を作るって夢を、子供の頃に抱いた夢なんだ。これから頑張るよ」
 マサオさんは優しく私を抱きしめてくれた。私も負けじと全力で抱きしめ返す。ああ、温かいな。
――お腹が張ってきた……凄く痛くなってきた、これってもしかして陣痛かも。私はしゃがみ込んでお腹を押さえて呻いた。「う~痛い、生まれるかも」
 マサオさんは一瞬驚いた顔をしてから、すぐに私が惚れたあの凛々しい顔に戻り「よし、病院に行こう、俺がいてよかった」と言ってくれた。

 マサオさんの運転する車で病院に直行。陣痛ってこんなに痛いんだあ、でも、もうすぐべビちゃんに会えるんだ。その喜びと裏腹、私は陣痛室でひたすら陣痛に耐えながら呻き声をあげるのだった。「痛いよお」
「大丈夫かい? そんなに痛いのかい」
 マサオさんは陣痛に苦しむ私を見て、ひたすらおろおろしている。でも、傍にいてくれて嬉しい。あああ痛いよ、痛いよ、お腹をかかえて七転八倒する私。
「そんなに痛いのかい、頑張って頑張って」
 震える手で私を優しく抱きしめるマサオさん、その手を思いっきり握り締めて痛みに耐えよう、渾身の力で!
「いてっ! まじいてーよ。お前凄い握力」
「私はもっともっと痛いの!」
「そ、そうか、じゃ一緒に頑張ろう」
 二人熱く見つめ合っていると、申し訳なさそうに助産士さんが来た。
「あ、子宮の口の開き具合を確認しますので、旦那さんはちょっと離れていてください……あ、もう充分開いていますね。もうすぐ生まれそうですよ。分娩室に移動しましょうね」
 ついにその時がきたみたい。


 母を泣かせる父の横暴にはもはや我慢ならん、言いたいことを言わずに一人背負いこむ母も母だ。相互理解の努力を惜しむようではこれからいかにして僕を育んでいくというのか。ひたすら抗議のキックだ。否、キックだけでは足りぬ。言ってやる、ここから出て言ってやる。もう機は熟した、今こそ我が誕生の時だ。頭蓋骨の縫合を緩めて産道に突っ込み捻り、旋回しながら出口を目指す。
――狭い、狭いぞ。なんて狭さだ。母が食べ過ぎたせいで太って脂肪で産道が狭くなっているじゃないか。
言ってやる、ここから出たら速攻で言ってやる。親の自覚を持てと言ってやる。仲良くしろと言ってやる。
 永遠に続くかと思われた長いトンネル行、ついに頭上に光を感じてきた。最後のひと踏ん張りでついに脱出。速やかに肺呼吸に切り替えて我が渾身の声で意見してやる。
 さあ聞け!


 助産士さんに導かれて分娩台に乗って股を開いた。傍らには痛そうに手を押さえているマサオさんがいる。
「もうすぐ生まれそうだから先生呼んできますね」助産士さんはそう言って、隣の部屋に行き先生を伴って戻ってきた。うげ、先生ってゴリラじゃんか。
 ゴリラは開いた私の股の正面に行くと、にやっと笑ってこっちを見た。
「ちょっと、もう頭が半分出てきてるよ。いい子だね、お母さんを苦しませないためにちょっとでも早く出てこようと頑張っているよ。はい、ちょっといきんでいきんで」
 私は、ためらいがちに差しのべられたマサオさんの手を全力で強く握って、ここぞとばかりにいきんだ「ひーひーふー!」ぼきぼきぼき。

 おぎゃあ、おぎゃあ、おぎゃあ!

 生まれた! ついに生まれたんだ、私達のべビちゃんだあ。ゴリラに抱きあげられたべビちゃんは物凄い泣き声をあげている。赤くてしわくちゃで、世界で一番ラブリーな私達のべビちゃん。きっと私達に会えて喜んでいるんだね。さあカンガルー抱っこだ。べビちゃんを胸に抱くとより一層激しい声で泣いている。嬉しいんだね。マサオさんが、私とべビちゃんをまとめて抱きしめてきた、その目は涙に濡れていて、その手は紫色になっていた。「よく頑張ったね。お前、よく頑張ったね。俺もこれから頑張るよ。今日の、痛みに耐えて頑張ったお前を忘れない……手が痛いけど頑張るよ」
 マサオさんの言葉を聞いて、私の目も濡れてきた。
 気が付いたら、べビちゃんの泣き声が穏やかになった気がする。きっと私達の心が通じたんだね。これから三人で頑張っていこうね。

BIRTH

BIRTH

生まれてくる全ての子供に祝福を……と思い、ギャグ風味に書きました。 自己評価☆☆☆☆☆

  • 小説
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-08-15

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

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