お隣さんは魔王!

 短編小説3作目です。
平凡な大学生の日常が醤油1つで変わる話しです。
よろしくお願いします。

 じりじりと陽射しがアスファルトを照り付ける夏。
 夏休みに突入し、課題をこなしつつ、平凡で平和な日常を謳歌している。
 俺は平岡健太。この春、大学生となり、早3ヶ月が経過した。
 親元から離れ、初めての一人暮らし。
 安アパートの2階の一室を借りている。
 当初は悪戦苦闘したものの、今で慣れ、家事や料理が上達した。
 1LDKだが、住めば都だ。
 実に平穏な生活を送る。

 とある日の夕食時。
 鼻唄をしながら、夕食の準備をする。
 中心に流し台、左にコンロ、右に食器棚、流し台の下に戸棚がある。
 フンフフーン フンフフーン
 実に機嫌が良い。
 台所で作った夕食を盆に乗せ、ちゃぶ台の上に置き、畳の上に座る。
 今日の献立はこれだ。
 左にほかほかのご飯。
 右に湯気が立ち昇るナスの味噌汁。
 今日のメインディッシュ。俺の大好きな湯豆腐。でででーん。
 白い肌にプルプルとした姿、なんて愛らしいのだ。(注:湯豆腐です)
 食べるのが勿体ない程だ。神聖な中心上部に配置。
 ミネラルウォーターを入れたコップは湯豆腐の右斜め上に配置。
 中身がみえない醤油入れを湯豆腐の右に配置。
 準備万端。
 両手を合わせ、食材に感謝する。
 「いただきます!」
 醤油入れに右手を伸ばし、取る。
 左に垂直に傾け、湯豆腐に醤油をかけ―――。
 出てこない。
 上下に振る。出ない。
 右手を真下にひねり、逆さにする。出ない。
 そのまま上下に振る。出ない。
 右手を元に戻し、醤油口を凝視。
 小さくて暗くて、入ってるか確認できず。
 目を離し、醤油入れを盆の元にあった位置に戻す。
 落ち着け、俺。冷静になれ。神秘の戸棚にあるはずだ。
 立ち上がり、台所へ。
 しゃがみ、醤油の在庫がある神秘の戸棚を開ける。
 無言。
 なぁあああああいぃぃぃぃぃ。
 何て事だ。俺とした事が。
 湯豆腐には必要不可欠だというのに。
 戸棚内をくまなく探す。ない。
 上に貼り付いて、・・・・・・ない。
 奥にしまい込んで、・・・・・・ない。
 右、左、どこにもない。
 神秘の戸棚が絶望の戸棚と化した。
 失意の底に沈み、戸棚を力なく閉める。
 右手を握りしめ、顎の下に据え、考えるポーズをする。
 考えろ、俺。まだあきらめるな、俺。Never give upだ、俺。
 コンビニに買いに行く、・・・・・・駄目だ。
 近くにコンビニはない。
 最短のコンビニは駅の近くにあるが、チャリで飛ばしても30分はかかる。
 その間に、俺の大切な湯豆腐様が、病んでしまう。(注:冷たくなる)
 スーパーは論外だ。
 踏切の向こう側で、なにより、コンビニより遠い。
 万事休すか。いや、考えろ、俺。
 まだ手はあるはずだ。
 突如、閃き、声が出る。
 「あっ!」
 俺は天才だ。こんな時のお隣さんじゃないか。
 まさか、俺と同じで醤油が切れている訳はない。
 それに俺には時間がない。
 今は湯気が立ち昇る湯豆腐様だが、長らく放っておくとすねてしまう。(注:冷たくなる)
 醤油を手に入れる。ご近所交流も出来る、一石二鳥の作戦の開始だ。
 すぐ様、行動に移る。
 立ち上がり、盆の上にある醤油入れを右手で取る。
 そのまま玄関へ直行。
 玄関横の棚の上にある鍵をジーンズのポケットに押し込む。
 左手でドアノブをひねり、玄関を開け、外へ。
 ドアを閉める。右隣は空室なので無視。
 左隣へGO!

 数秒で着く左隣さん。玄関前。
 格子から光が漏れている為、生存確認。
 運命の瞬間。
 右手の人差し指で、呼び鈴を鳴らす。
 ピンポーン
 玄関への足音が聞こえる。
 軋む音が聞こえ、玄関が開く。
 ギ―――ッ
 ビジュアル系の男性が出てきた。
 髪と瞳は赤紫。染めた上にカラコンか。
 髪は背中の中程まである長さ。
 顔は西洋人形のように整ってる。言葉通じるだろうか。
 服も異様だ。
 胸元がVの字に開いた黒衣を纏う。
 こういう人に限って、根は優しい人のはずだ。
 ひるむな、俺。家で待ってる彼女の為だ。(注:湯豆腐です)
 醤油を借りるのだ。
 「お・・・、私、右隣に住む平岡健太と申します。夜分遅くに申し訳ない。醤油を切らしてしまいまして、お借りしたいのですが、よろしいでしょうか」
 言い切ったぞ、俺。
 ビジュアル系のお隣さんの返事。
 「余は魔王だ。”ショウユ”か。供の者に取りに行かす故、しばし待たれよ」
 無言。今、何つった!魔王って言ったぞ、こいつ。電波か。
 いやいやいやいや、これから醤油を借りる人に失礼だよな。
 こ・・・心の中でひっそり引いておこう。
 供の者って?結局は自分で行ったりするんだよな、一人二役的な。
 彼が気を悪くしないよう生温かい目で見守ろう。
 なんと、自称・魔王さんが、供の者を呼ぶ。
 「アリカ、アリカはいないか」
 アリカさんを呼んだ瞬間、何もない空間からコスプレ少女出現。
 お供の者キタア―――((゜□゜;)) ―――!!
 口が半開きのまま、停止。
 手品とかじゃなくて、いきなり出てきた。
 アリカさんも自称・魔王さんと同じく奇抜だ。
 ショートカットの黒髪。黒の瞳。
 しかし、頭の左右から同じ角が生えてる。
 あれ、飾りだよな?誰か飾りといってくれ。
 服は、ゴスロリをアレンジした服のようだ。
 白黒を基調とした長袖のジャケット、白フリルのブラウス、黒のミニスカ。
 太腿まである黒ソックスと黒紐ブーツ。
 原宿にいそうだ。角さえなければ。
 凝視してたら、アリカさんに睨まれた。
 口を閉じ、”すいません”という思いを込め、ペコペコと頭を下げる。
 アリカさん、何事もなかったかのように、自称・魔王さんに跪く。
 リアルに見た。
 「魔王様、お呼びでしょうか」
 魔王って言ってるよ。
 自称・魔王さん、俺を指差しながら、命令を下す。
 今日は暑いけど、違う汗が背中を流れ落ちる。
 「この者が・・・、ヒラオカがな、”ショウユ”とやらを欲しいそうじゃ。持って参れ」
 蛇が獲物を飲み込むような目でアリカさんが俺を見る。
 いたたまれない。
 自称・魔王さんの命令を拒めないのか、しぶしぶ受ける。
 「御意」
 また消えるのかと思いきや、奥にスタスタと歩いていく。
 拍子抜けだ。
 自称・魔王さんが左に移動したので、奥がはっきりと見えてしまった。
 何だ、あれっ!?奥には黒翼の人、透けた一反木綿、などなど。
 狭い空間に変なのがうじゃうじゃいる。異様な光景だ。
 玄関の前で二人して黙る。何か、話しをしなければ。居心地悪すぎる。
 「ま・・・魔王さんは何の用でこちらに?」
 無難な話題だ。笑顔が返ってくる
 「ふむ。人間界の様子を見にな。人間は面白くての。見て飽きない、話しても飽きない。アハハ」
 自称じゃなくて、本物だ。
 顔を引きつらせながら、無理矢理に笑顔を作る。渇いた笑いが漏れる。
 「アハハ・・・、魔王さんにそう言って頂けるとは光栄の極みですな」
 「ふむ。本当に良い奴じゃの。余の人間友人1号に任命する。励めよ」
 友達になっちゃったよ。何を励むんだよ。
 その折り、アリカさんが醤油ペットボトルを持って帰ってきた。
 似合わない図だ。
 魔王さんがアリカさんから受け取り、俺に渡す。
 有り難く両手で受け取る。
 笑顔で魔王さんが手をひらひら。アリカさんがドアを閉める。
 玄関の前で立ち尽くす俺。
 はっと気付き、家へと戻る。
 力なく玄関を開け、ドアノブをひねり、閉める。
 湯豆腐は冷たくなっていた。横に借りた醤油ペットボトルをを置く。
 数分の出来事だったはずだが、何時間何日と経過したかに思えた。
 衝撃的な出来事だったからだろう。

 ご近所交流ならぬ、異世界交流をしてしまった。

お隣さんは魔王!

読んで頂き有り難うございました。
如何だったでしょうか。
今回、ギャグだったので、少しでも笑えてたら、幸いです。
私は豆腐にはポン酢派ですが、皆さんは何派でしょうか。
次の作品でまたお会いしましょう。

お隣さんは魔王!

平凡な大学生の日常が醤油1つで変わるギャグ。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-01-04

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