『しあわせな王子』

ある病院に、ひとりの少年が入院していました。
少年は重い病気にかかり、外で遊ぶことも出来ずに孤独に眠っています。
目元には泣き腫らした痕が残っており、可哀想な少年を誰もが哀れんでいました。

ある日、そんな少年のもとに不思議な人物が現れて、こう言いました。
「わたしは魔法使いだ。きみのその病気を治してあげよう」

少年が不気味に思っていると、その魔法使いは少年の手を握りました。
すると不思議なことに、少年の病気はあっという間に治ってしまいました。

「魔法使いさん、ありがとう!」
少年がお礼を言うと、魔法使いは静かに微笑み、姿を消しました。


ある病院に、ひとりの少女が入院していました。
少女はある日事故に遭い、目が見えなくなってしまいました。
その目は悲しげに閉じられており、可哀想な少女を誰もが哀れんでいました。

ある日、そんな少女のもとに不思議な人物が現れて、こう言いました。
「わたしは魔法使いだ。きみのその目を治してあげよう」

少女が不気味に思っていると、その魔法使いは少女の手を握りました。
すると不思議なことに、少女の目は視力を取り戻し、閉じられていた目には光が戻りました。

「魔法使いさん、ありがとう!」
少女がお礼を言うと、魔法使いは目を閉じて微笑み、姿を消しました。


ある病院に、ひとりの青年が入院していました。
青年は心臓の病気で、何年も病室から出られませんでした。
いつ尽きるかもわからない命に恐怖し、可哀想な青年を誰もが哀れんでいました。

ある日、そんな青年のもとに不思議な人物が現れて、こう言いました。
「わたしは魔法使いだ。きみのその心臓を治してあげよう」

青年が不気味に思っていると、その魔法使いは青年の手を握りました。
すると不思議なことに、青年の心臓はあっという間に健康になり、元気な鼓動を刻み始めました。

「魔法使いさん、ありがとう!」
青年はお礼を言いましたが、魔法使いの姿はどこにもありません。


魔法使いはたったひとりで、ほかには誰もいない場所にいました。
魔法使いは眠っています。
魔法使いはとてもしあわせな気持ちで眠っています。
いつまでも、いつまでも。

『しあわせな王子』

究極の自己犠牲。
王子はしあわせに生きたのでしょう。

『しあわせな王子』

グリム童話の恐ろしさ

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-08-13

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