恋愛未満の勘違い
恋愛未満の勘違い
この気持ちは愛よりも浅く、恋よりも苦い。
六時二十六分。青い空と、この街では珍しい砂の敷き詰められた公園は、さまざまな遊具と共に橙と黒に染め上げられる。
既に子供のはしゃぐ声も聞こえない、この時間帯。ブランコに座る高校生男子が一人、ギィギィと錆ついた音を鎖で奏でる。
そんな彼の顔は、眉を寄せ、目を細めるという一見すると、怒っているような表情にも見える。
しかし、彼の心中を占めるのは、一つの悩み事だけだ。
「なっちんも好きだし、しーちゃんも好きだし、かえたんも好きだし、ねーやんも好きだし、って数えたらキリがないんだけど……」
そう言って、彼は頭を抱えて項垂れる。これを、かれこれ三十分は続けている。何ともシュールな光景だ。
そして、彼は頭を抱えて項垂れる度に、何事か呟いている。しかし、それは全てこの「悩み事」に費やされていた。無駄に変質者的な行動をとっている訳ではない。
さて、セリフだけ取ると、彼は最低四股をしている浮気性な男に聞こえる。しかし、これは全て彼の友人のあだ名だ。中には男も混じっているが、彼は女のようなあだ名でも気にしていない。
補足だが、彼が気にしていないだけで、あだ名をつけられた友人約一名は、非常にそのあだ名で呼ばれるのを嫌がっている。呼んだ瞬間、腹にパンチをかますくらいには嫌がっている。
そして、先程呟いたのは、「友人のあだ名」であり、決して「恋人のあだ名」ではない。ならばなぜ彼は「好き」だと言ったのか?
「どうしよう、これライクなのかラブなのかわかんないよどうしよう……」
そう、彼は仲が特によい友人、仮に先程の四人としよう、に対しての「好意」が、ライクなのか、ラブなのか、判断がつかなくなっていたのだ。
思春期にありがち、と聞いたことはあるが、彼のように複数人の場合は、あまり聞いたことがない。
そのため、普段あまり悩まない彼もさすがに人に相談できず、こうして人気のない公園で日々悩んでいた。
そもそも、このありがちな現象はドキドキするを、勘違いしている場合が多い。中には本当に好きな人もいるだろうが、彼の場合は「女性が恋愛対象」という男性によくある恋愛対象だ。ゆえに悩んでいた。
「やばい、俺いつから両刀属性付属したよ……?」
彼は両手で顔を覆いながら、冷や汗ダラダラだ。もういっそ相談すればいいと思うが、彼は果たして相談できるのか。疑問である。
そうして彼の悩みは今日も解決せず、普段は使わない脳をフル回転して悩んでも、答えは出なかった。
恋愛未満の勘違い
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