不意打ちの告白
ときめきメモリアルGS2の二次創作です。
お相手は佐伯瑛くん。
ヒロインの名前は森田夏海とさせて頂きました。
名前変換はありませんが、気分だけでも夢小説として読んで頂けたら嬉しいです。
.
誰にでもいい顔して、ただ問題を起こさないようにって過ごして来たから。
誰かが本気で俺に気持ちをぶつけて来た事なんてなくて。
イヤ、そんな素振りが見えようもんなら、うまくそうならないようにって逃げてたのに。
不意打ちの告白に、ドキドキと高鳴る鼓動がおまえに聞こえそうで恥ずかしい程だったんだ。
「あーっ、無理無理無理!」
「だーっ、もう!三回も言わなくても分かるっつの!」
誰だよ?
うるさいなぁ。
気持ちよくうたた寝してた俺を覚醒させた声に顔をしかめる。
声の主は確かめなくても分かる。
おまえと針谷だって。
少し大きめの木の幹に寄り掛かって、知らずうたた寝してた俺は、ふと腕時計で時間を確認した。
店を手伝う約束だったから、もう戻らなきゃならない時間だ。
そうして、立ち上がろうとしたその時。
「だって、出来ないよ。好き過ぎるんだもん、瑛くんの事」
と言う夏海の一言に固まった。
今、好き過ぎる…とかなんとか聞こえた気がするんだけど…。
ドクンと夏海のその言葉に応えるみたいに鼓動が高鳴る。
「だから告白してスッキリしちまえって言ってんだろぅが!」
「もう、ハリーったら人ごとだからってヒドイ」
告白って、俺に?
スッキリって、それは俺に何を求めてるんだ?
寝起きでただでさえも思考回路がうまく回らないのに加えて。
予想外の告白に幹に寄り掛かったままテンパってる俺。
だってさ、昨日も店で一緒だったんだ。
なのにアイツ、いつもと変わんなくて。
普通に仕事して、俺に怒られて。
チョップした事に抗議の声をあげたりしてさ。
バイトの後も二人でコーヒー飲んで他愛のない事話して。
そうして今日を迎えたのに。
どこで何がどうなって、告白って事になってるんだ?
イヤ、そもそも好き過ぎるって、何でなんでだ?
つーか、コレじゃコイツらが居なくなるまで、俺帰れないんじゃないか?
そう思い一応時計を見てみるものの、もう動揺してて、時間なんて分かっちゃいない。
「ホントに人ごとだろうが?毎日”ハリーどうしよう?瑛くんの半径25メートル以内に入るとドキドキして死んじゃいそうだよ”とか聞かされてるオレ様の身にもなれっつの」
はぁ…とわざとらしくため息をつく針谷に。
「ギャーッ!ヤダ!私、そんな恥ずかしい事言ってないってば」
と焦る夏海。
「言ってるっつの!四六時中言ってるだろうが?オマエ、自覚ねぇのかよ」
今度は呆れたように返す。
イヤイヤ、それはないだろ?
俺に対してのあの態度のどの辺が半径25メートル以内に入るとドキドキして死んじゃいそうなんだよ?
サッパリ言ってる事とやってる事違うだろう、おまえ。
と、俺は俺で太い木の幹を挟んだ反対側でやっぱ呆れてしまう。
ホントに夏海は面白い。
くるくる変わる表情とか。
子供みたいに危なっかしいかと思えば、時折ヒドク大人びて感じる事もあるし。
その癖どうしようもないくらい鈍い。
つーか、そんな俺の事好きなら、俺の気持ちに気付いててもおかしくないだろ?
そんな好き好き言っといて、俺の気持ちに気付かないって、どうかしてるぞ、おまえ?
「あーっ、どうしよう!ハリー、何とかしてよ」
イヤ、そればかりは針谷に頼んでもどうにもならないと思うけど。
「何で今日に限ってそんな大騒ぎしてんだっつの。いつもの事だろうが」
「だって…昨日ね…断られたの…」
その一言に思いだしたんだ。
今度の日曜日に遊園地に行きたいって言われた事を。
別に特に外せない用事があったとかじゃないんだ。
ただ、隣りの席の女子が遊園地の招待券があるからとか何とか言ってさ。
俺の事誘って来たんだ。
でもそんなの面倒だからと断ったら、別な男が立候補して。
なんだかクラスの大勢が一緒に遊園地に行くとか盛り上がっててさ。
そんな所に夏海と行ってみろ?
折角の休みだって言うのに、見つかんないようにってドキドキしなきゃなんないし。
一緒に行動する事になったら、日曜日なのに王子演じなきゃなんないし。
第一、 夏海が心配なんだ。
他の女子に何か言われたらってさ。
「そうじゃないんだ」
って今すぐそう言ってここを出ればいいのに。
バツが悪くて出られやしない。
でも居ても立っても居られない俺は思わず手にしていたスクールバッグを落としてしまう。
ガサ。
落としたバッグが立てる音が小さく響く。
「ん?なんか居るのかな?」
その音にすかさず反応したのは夏海だった。
普段はこっちが迷惑する程鈍感な癖に。
どうしてこんな時に限って勘が鋭いんだ。
「にゃ…にゃー」
とりあえず誤魔化すしかない!
そう思った俺は出来る限り可愛い声を出し、猫の鳴きまねをしてみる。
あーっ、何で俺がこんな事しなきゃなんないんだよ。
「なんだ、猫ちゃんか」
セーフ!
良かった。
夏海の声にホッと胸を撫で下ろす。
ため息をつきつつバッグを拾おうと僅かに身を乗り出すと、間の悪いことにしっかりと針谷と目があった。
この状況に針谷が大人しく俺を見逃すハズもなく、イタズラに微笑んだかと思ったら。
「なぁ、夏海」
「ん?なに?」
「猫…みたいだな、さっきの」
「そうだね」
「だったらさ、その猫に向かって告白の練習してみりゃいいんじゃねぇか?」
ばっ…バカ!
針谷のヤツ何考えてるんだ?
俺はただでさえもここから出られなくて困ってて。
挙句下手な猫の鳴きまねまでしてるんだぞ?
そんな哀れな俺に、更に追い打ちを掛けようって言うのか?
「あっ、そうか?なるほど!」
ナイスアイディアとばかりに嬉しそうにそう言う夏海はけど続けたんだ。
「うーん、でもなんて言えばいいのかな?」
って。
「んな事自分で考えろっつの!」
「じゃ…じゃあ、猫ちゃん、瑛くんの代わりに聞いててね?」
だなんて言う夏海の言葉に。
実は夏海も俺の存在に気付いてるのかって焦っちゃって。
心臓は忙しなく音を立てる。
「えっと………好き」
それはとても小さく紡がれた愛の言葉で。
ともすると聞き逃しちゃいそうなものだったけど。
飾りっけのないその一言に、俺はノックアウトされた。
「だとよ、佐伯!どうなんだよ?おまえは」
「えっ?瑛くん?居るの?どこ?」
針谷の言葉にキョロキョロと回りを窺う夏海。
もう、ここに居る事をバラされちゃったんだ。
今さら隠れても意味はない。
「にゃー」
バツが悪くて、さっきの下手な鳴きまねして姿を現した俺に。
「えっ?何で猫が瑛くんに?」
だから、最初から俺なんですけど…。
期待を裏切らないおまえのおかしなリアクションのお陰で変に強張ってたその力が抜けて行く。
いつだっておまえはホント凄い。
ちょっと落ち込んでる時には元気をくれて。
ちょっと苛立ってても、そんなイライラすぐ消してくれるし。
こうして強張ってる時も、そのおかしなリアクションで緊張を解きほぐしちゃうんだから。
「なぁ、夏海。その…良かったら一緒に帰らないか?これから…毎日」
段々と尻すぼみになる声が情けないけど。
好きって言えない俺の精一杯の告白。
「うん、いいよ。あっ、でもソレって…もしかして…」
珍しく察しのいいリアクションに思わず夏海を見つめたけど。
「毎日買い出しの手伝いして、荷物持ちしろって意味?」
って続いたしの言葉にゲンナリと肩を落とす。
やっぱコイツは驚く程鈍いらしい。
今、告白の練習しといて、気付かないなんて鈍すぎる。
しかも俺のイメージってそんなかよ!
「はぁ、だから…そう言う意味じゃなくて!」
「ん?」
あーっ、何で気持ちよくうたた寝してただけの俺が、予定外の告白しなきゃなんないんだよ。
そう思いつつも、心の片隅では思ってるんだ。
これはチャンスかも知れないって。
これを逃したら、次はいつこの気持ちを伝えられるか分からないんだから。
「まぁ、佐伯、頑張れよ!」
「はっ?イヤ、頑張るの夏海の方じゃないのか?」
そんな俺の言葉にヒラヒラと手を振りながら先に帰ってしまう針谷。
アイツはアイツなりに、気を遣ってくれたのかも知れない。
「えっと…だからさ、その…好きです。付き合って下さい」
小さい声でぼそぼそと言った俺の言葉に。
「えっ?えーーーー!」
と大きな目を更に見開いて驚く夏海は、一旦深呼吸して見せたかと思ったら。
「あの…少し考えさせて下さい」
って応えたんだ。
「はぁ?」
思わず言っちゃったそれは間違ってないと思う。
だってさ、今しがた告白の練習してたんだぞ、夏海は。
しかもあんなに針谷に俺の事が好きだと騒ぎ立ててたんだぞ?
それをさっきまでこの木の向こう側で聞いてたんだ、俺は!
途方に暮れる俺を残して、ゆっくりとした動作で俺に背を向け歩きだす夏海。
何で俺告白させられてるんだ?
何で俺返事保留にされてるんだ?
考えても考えても解らなくて。
頭の中を?マークが駆け廻る。
「オイ、バカ!待て!」
それでも何をどう考えてもこの一連の出来事に納得行かなくて。
咄嗟に夏海の肩を掴んで振り向かせる。
「へっ?」
「へっ…じゃいぞ、バカ!付き合うのか、付き合わないのか、どっちなんだよ?」
苛立たしげに訊ねる俺に。
「だっ…だから…」
「応えないならこうしてやる!」
って、そのままもう片方の手で顎を掴んでキスをした。
「…っ、瑛くん?」
「なんだよ?」
「今…キス…」
「したよ。なんか文句あんのか?つーか、返事!」
「あっ、はい!」
キスに驚いて酸欠の金魚みたいに口をパクパクしてるおまえに。
強い口調で訊ねたから。
驚いたように即答したそれがおかしくてクスリと笑う。
「ハハっ、なんだよ、その顔」
照れ隠しに驚いた顔のままの夏海の鼻をつまんでやる。
「ちょっと…痛いよ、瑛くん!」
「ほら、帰るぞ」
そんな抗議の声には耳を貸さず、手を繋いで歩きだす。
「ねぇ、さっきのアレさ」
「なんだよ?ウルサイなぁ」
「キス…したよね?」
「だったらどうだって言うんだよ?」
恥ずかしくて顔も見ないでそう返す俺に。
「あのね…ビックリして良く覚えてないから…出来ればもう一回お願いします」
だなんて、可愛い事言うから照れちゃって。
「甘いんだよ!バーカ!」
そう言ってチョップしてやると途端に目を閉じるおまえに。
すかさずキスをしてまた歩きだす。
「あーっ、瑛くん、ズルイよ」
「何がだよ?」
「また、不意打ち!心の準備が…」
不意打ちはおまえの方だろ?
さっきの”好き”の一言に、どれだけの衝撃を受けたと思ってるんだよ、全く。
「ウルサイ!おまえがもう一回って言ったから、してやったんだろ?いちいち文句言うな!」
こんな風にじゃれるみたいに手を繋いで帰る帰り道。
明日も明後日も、こうして歩けるんだと思ったら嬉しくて。
繋いだ手も、そして心もじわっと温かくなったんだ。
.
不意打ちの告白
閲覧頂きありがとうございました。
また別な作品でお目にかかれましたら幸いです。