エネルギーのへんか

エネルギーのへんか

メクル「僕はペイン・メタリクルです」

ぷろろーぐ

ある国、グラペイン国には危機が迫っていた。

いや、危機というよりはいつか起こるはずだったものが早目に起こってしまっただけか。

反逆者のアナトリア人は国の政治に対し何度も粛清を望む声をあげていた。

しかし国はこの声を無視し続け、何の対策もしなかった。

その為後に、反逆戦争と呼ばれる闘争が起こってしまったのだろう。

たくさんの犠牲者が出た。一口にそう言ってしまえば簡単だが被害を受けたのは主に国家関連の人間に偏っていた。

しかし、これに乗じて窃盗などに走る人間もいた。

その為国は人の叫び、怒り、嘆きで溢れかえっていた。

そして、国の王子、王女までもが犠牲になった。

第二王子の僕も、また被害を受けた。のちの価値観を決定するくらいに。

僕は当時まだ10歳の子供だった。しかし、平均的ではない生活を送ってきたため、普通より大人びていた。

また、妹は3歳という本当に幼いころであった。

町は血で溢れている。誰がこんなことを始めたのかはもう誰にもわからないくらいに。いやすでにそんなことは関係ないのだろう。外ではどんな音が、景色があるのだろう、と子供のまだ幼い想像力を駆使して考えにふけていた。

僕が眺める景色はいつしか変わってしまった。多分ゴミだろうものが庭に散乱し、城壁には

『グラペインは滅びよ!』
『消えろ!呪われたくにめ』
この言葉には子供ながらに絶句したが。

誰かがドアを開く音がしたのでさっと振り返る。

万が一敵襲だったら困る。

しかし、その相手は万が一の者では無く、白を基調にしたお似合いのドレスを着たお母様だった。

お母様は僕の襟と蝶ネクタイを整えながら、
「ほら、どこを見ているの?」
お母様の優しいがいつもより険のある声にでいう。

その眼は外を見るんじゃありません。と言わんばかりのものだ。

僕ははつまらないなと思いながら
「はーい、分かりましたー」
と不満を露わにし、抗議するかのように言った。

お母様はカーテンを閉じるように目配りする。

使用人たちがせかせかと窓のカーテンを閉じに来る。

その様子を眺めるのだけではやはりつまらない。

なにせ、想像しかできないからだ。要人暗殺防止訓練を受けていても、戦争のことを学んでも、死というのを身近に感じれないからだろう。

血の色が見えなくなった明るい部屋は今は現実とかけ離れているように感じた。

そんなことを考えていると、突然
「さ、そろそろ時間ね」
とお母様が壁にある豪華な掛け時計を見て言った。

僕は何のことだかさっぱりわからなかったが、使用人達、お母様ともに準備を始めたので聞ける相手がいなかった。

お母様は荷物を指示しながら、
「ほら、あなたも準備して」

と促してきたので
「え、準備って何の準備ですか?」
と僕は尋ねた。

「あれ、伝えてなかったかしら、ごめんなさいね」
少し顔を曇らせた。

「あなた、いいえ、第二王子、ペイン・メタリクルは国王命令である施設に行ってもらうことになったの」
言い終わらぬうちに少年は噛みついた。
「どういうことですか!」

ある施設って何だ、命令?どういうことだ。とぐるぐる回る。

「うん、不満なのは分かるわ。でも王族の中で名を知られてない者はみなそのような命令が出ているの。だから娘のトラームもそうよ」

なぜだ、という考えが頭を巡り混乱してくる。

いや、しかし…。
「この王宮が一番安全だっていつもじいやが!」
もう、自分でも分かっていたが噛みつかずにはいられない。

そう、この王宮がすぐに一番危険な場所に変わるということ。

「あなたたちは敵に存在を知られてないの、私や、国王、ほかの継承者が亡くなったらこの国は滅びてしまう。だからあなた達には生き残ってもらわなきゃ。大丈夫、私はそう簡単には死なないわ。だから絶対に戦争が終わったら迎えに行く。それまで待っていて?」
お母様はかなり緊迫した顔つきで、しかし優しい声でわがままな子供をあやすように言った。

その時の僕は疑わずに肯定の意を示した。

疑うことを諦めた、というのが正しいだろう。

これ以上お母様を困らせるわけにはいかない。
そう思ったからだ。

僕は知らなかったがその言葉には他にも条件があったのだった。



僕はボロボロの服を着せられ外へ連れられる。

王族の者たちが一生着ないであろうものだ。しかし最近の庶民が身に着けているものそのものだ。

同じような服を着た、警備の人も一緒に来た。

そこで見たものは窓から見たものとはまた違うように見えた。

が、よく見る間もなくいつもとは違う固い椅子の車に乗せられる。これはお尻が痛くなりそうだ、とか、固いな、と思う暇もなく急発進。

どこへ向かうか分からない不安とともにやはり少年も子供であるのだろう、訳のわからない好奇心があった。

窓はもちろん締め切っていたが、外の音に耳を傾ければ普段は想像でしかなかった、飛び散り、叫び、嘆く声が伝わってきた。しかしやはり死を見ることはなかった。

むしろこの年で死を経験する人間のほうが少ないのでは、とすら思う。

そして僕は訝る。なぜ、誰が何の為にこんなことを始めたのか。


その疑問は僕の人生を大きく変えることになる。

はじまりの子

文字が傾いた看板は無くなっている文字すらあり、WELCOME のていをなしていない。

だが、それ自体が村の状況を代弁したかのように道は物乞いに溢れ、市場にも活気はなく聞こえるのは盗人とそれを捕まえんとする店主たちの活気に欠けた声だけだ。

崩れかけた家の近くにあった瓦礫に腰掛け、水筒に口をつける。

「ここがアルミナ村か」

僕は感慨深げでない面持ちで呟く。

王都で集めた噂通りの村だ。

まさに荒廃しきっているといったところだ。

僕は噂のメモに目を落とす。

ここはアルミナ村、昔は採掘場としてまあまあ有名だったらしい。しかし戦争の際に資源を使い切ってしまったようだ。

そのうえ、男たちが次々と軍に持ってかれてしまったという。

つまり戦争に村の力を吸い取られたという表現が適切な哀れな村といったところだろう。

「ノリで出てきちゃったけどこりゃ、初めての旅には向かないっていうか、上級者でもモノ盗まれるって、ほんと」

僕はへらへらと言うが全く笑えない。盗もうとしています。と言わんばかりの視線がこちらに集中している。

そんな中物乞いの一人があ!と言い瓦礫を手に取った。それはかなり大きいものだった。

するとそれまでだらだらとしていた物乞いたちが一斉に石を投げる。

どうしたものか、と見ていると10代前半くらいの傷だらけの少女に石が当たる。

いやあてられている。

というか、どう考えてもこの子の傷はこいつらの、投げた石によってのものだ。

え、なにそれ。と思い、反射的に止めに入る。

「風エネルギー、操作」

エネルギー操作と言われる技を使い、元の投げた主に帰るようにする。

まあ、制裁と言ったものだな。

いでえ!何するんだ、余所もんめが粋がりやがって!と文句が聞こえるが無視。

「大丈夫?お嬢さん?」
なるべく優しく問うと

「あ、ありがとうございます!」
と、顔を赤く染め走って行ってしまった。

何か事情があるのかな、世話焼きが発動する。

そしてその辺の人にあの少女について尋ねた。

「あの子は一体?」

それだけ言うと普通の人は言いたがらず道路の人たちは一斉に悪口らしきものを叫び散らした。

顔を隠した男が近づいてきた。僕は怪しい風貌なので警戒した。

警戒している僕のことを気にもせず彼は逆に僕に尋ねてきた。

「あんたはエネジニアなの?」

こいつ、顔を隠して質問だなんて無礼だなと思った。

しかし、こんなに荒廃したところにエネジニア知ってる人いるんだな、と感心したので言ってあげた。

「そうだよ、僕はエネジニアさ」
と言い、僕はまた尋ねる。

「彼女は一体何をしたっていうんだ」

すると彼は顔を隠したものをとって少し困った顔をした。

こいつはもしや、と推測したとりのことを彼は言った。

「メクル、俺はね、その子を捕まえるって任務でここに来たんだ。いや、国で保護するって感じかな?」

僕は推測通りだったことに驚き、素っ頓狂な声を上げた。

彼は僕の唯一の親友のトイフェル・ブルタール、通称タールだ。

「お、おい!タールじゃないか。なんで顔なんか隠してるんだよ?」

動揺しているのがばれてしまうような声で僕は詰め寄った。

「あはは、ごめんね?本当にメクルか分からなかったからさ」

からっとした笑顔、昔と変わらない。やっぱりこいつはタールだ、と判断すると嬉しかった。

「そういえば、なんでメクルもあの子のこと気にかけていたの?」

タールは、今思い出したかのように尋ねてきた。

「えーと、お節介したくなった…のかな」

返答に困ったが何かやましい事をしていた訳でも無いので考えながら答える。

タールもあの少女のこと探してるならと思い、提案した。

「タールもあの子のこと探してるんだろ?だったら一緒に探さないか?」

2人で探せば効率もいいだろうし、あの子も…あれ?男二人で来た方が怖いだろうか。
そんな考えをめぐらせていると

「いいよ。一緒に探そう。抜け駆けは無しだよ」

いたずらそうな笑みを返してきた。持つべきものは親友だな、と僕は彼の肩を叩いた。

タールは鞄から書類を取り出すと何か言い出した。

「あの子はこのアルミナ村の忌子ってやつらしい。名前はパークス・メリーヌっていうらしい」

パークス・メリーヌ…あれ、聞いたことあったような?知り合いではないぞ。と一蹴した。

「忌子ってなに?」
僕はまず純粋な疑問をぶつけた。

「うーん、この子は寝れないらしいんだよ。不眠症ではないんだよ?こんな風に現代の医学では表せない症状をもった人間がこの国の村一つに付き一人いるらしいんだ。その子達は差別の対象になりやすいから、国から保護するように言われたんだ」

差別か…どこでもありそうだがなぜこの場合だけ保護なんて言い出したのだろう。あの男がそんな良い政策を行うはずがない。怪しいな。

「差別なんて…これ以上あの子がつらい思いをしないように保護してあげよう」

僕は疑いの気持ちを出さないように努めて言った。

そんな僕の葛藤など気にもかけずに、
「そうだね、がんばろー」

のんびりとした口調で言った。



ちょっと時代は遡って10年前。

その施設は特別児童保護教育センターという何とも長ったらしい名前だった。

白くて何か怖いものに見えてとても不安だった。

僕はその施設に入れられた。お母様の迎えに行くという言葉を信じて。

その1年後戦争はグラペインの勝利で幕を閉じた。

そのころ入所してきたのがタールだった。

タールは施設で孤立していた僕の友達になってくれた。

当時僕は王族であるという大きなプライドが邪魔をして誰ともつるもうとしなかった。

王族の僕がこんな庶民となんて……というプライドだ。

施設には僕が王族だと知る人はいなかったから、敬遠されたりしなかったのに、だ。

しかし、自分のことを迎えに来ない日々が続き焦り、プライドがズタズタになりとても孤独に感じていた。

僕は王族なのに、なぜ誰も…と考えていた自分は今から見ると傲慢過ぎて恥ずかしいくらいだ。

だから、タールの
「君は、何をするのが好き?」

と聞かれたときは嬉しすぎて、ずっと答えなかったものでタールを困らせた。僕とタールはすぐに仲良くなった。

タールは僕のことを理解してくれたので嬉しかった。

しかし、そのタールにも自分が王族だということは伏せておいた。

そんなある日僕はこんな噂を聞いた。

それは戦争を終わらせたのはある1人の少年の活躍だったということだ。その少年は僕よりいくつか年上だがたくさんの死を経験してるらしい。

何より、そんな少年が反逆者たちの住む村を消し去ったということに僕はとても興味を持ち、会いたいなと考えていた。

その話をタールにしてみると
「え、憧れてるの?人の死を知ることに?」
といつもとは違うかなり考える目をして、ため息をついた。

「メクル、それは僕のことだ。人の死は腐るほどみたさ、生きている人間以上にね」
過去を顧みるような目で言った。

よく見たら手が震えている。

このことはタールにとってのトラウマなのかもしれない。

悪いことを聞いたかもと思い
「ごめん、なんかへんなこといっちゃったな」

すると、彼は
「自分がやったことさ」

と、言葉とは裏腹に辛そうな顔をしている。

「だから、俺以外の人がさ、こんな苦しみを知らなくていいように俺だけやればいいから、こんな汚れ仕事…」

彼はいつもの冷静さを欠き、支離滅裂になっていた。

僕は驚いた。人の死を経験している人物が身近にいたこと、そしてあのタールでも取り乱すことがあることに。

「俺は国家代行者になる」

国家、代行者…それは反逆者や不穏分子を消していく仕事のことだ。

タールの唐突な発言に僕は戦きその意味に至った。

つまり、タールはこれからも人を殺し続けると言っているのだ。

「国家代行者…」

僕は何も言えなかった。今思えばあの時言っておけば何か変わったかもしれない。

だからと言って、やめてよとか言っても無駄だったのは明白だ。


そして月日がたち、施設を出ることにした。

「俺は国家代行者の試験を受けに」
タールの道は決まっている。もう誰にも曲げられないんだろう。

僕はそのチャンスをすでに逃している。

「お前はどうするの?メクル」

決意を確認するような質問をしてくる。

もちろん、僕だって決まっているさ。

「僕はエネジニアになる」

というのは建前で本当は旅をして戦争の理由、なぜここまでしなくてはいけなくなったのかをアナトリア人に聞く。

そして、妹、お母様の行方も……

タールは驚いた顔をした。

「へえ、もうだいぶ上手いのに?」

親友に嘘をつくのは気が引けるが致し方ない。

「うーん、まあそんな感じだけどさ、現実で通用するのかを試してみたいんだ」

と、いつかかち合ってしまっても問題ないようなことを言う。

本当のことがわかったら正直になるよ、だから今はごめん。と心の中で謝る。

でも国民に嘘をついている国を、ほっておくことはできない。

僕は知っている。戦争の原因はアナトリア人の声の無視だけでないことを。

最後は明るくしたい。だから言った。

「じゃあ、行こうか!」

僕たちは自分の道に向けて施設の門を踏み出したのだ。



そんな僕らは、また出会い同じ目的に向かって居るというこの感覚は久しぶりだがとても気持ちのいいものだった。

唐突にタールは僕を呼んだ。

「あの子じゃないか?」

タールのそっと指さした先にはあの女の子がいた。

建物と建物の間でポツンと蹲っている。

今行っていいのか?と聞こうとしたら、口に人差し指を近づけ、しーと言った。

するとこちらに気づいたらしい彼女は、手元にあった石を拾い、何やら尖った物に変えて、敵意をむき出しにしてきた。

少女が使ったのは錬金術だろうか。

僕は思わず
「え、嘘」
と呟いたが嘘ではないようだ。

その間にタールは少女のところへ飛んでいき、何やら葉っぱを鼻に近づけている。

僕は速っと驚きながらも、少女の様子に注目した。

よく見なくても少女は全く動いていない。どういうことだ、とタールに説明を求める。

「ああ、大丈夫。攻撃されそうだったから、眠り草だよ。ほら、脈あるでしょでしょ?」

と言い、タールは僕に少女の手首を触れさせる。

本当だ、生きてる……と安心した。

タールはどこかに電話をかけている。その横顔はまさに代行者と言ったものになっていた。

任務か、そういえば言っていたよな、そんなことを考えること3分。

電話を終えたタールが少女を抱え上げる。

「じゃあ、保護するね。メクル、本当にありがとう。おかげでサクサクっと終わったよ。また会ったら協力お願いします」
とニコニコしながら敬礼をしようとした。しかし両手がふさがっていて出来なかったので苦笑している。

「こちらこそ、タールにこんなところで会えるとは思って無かったから。また会えるといいね」
と言い、立ち去っていく親友に手をブンブン振った。


僕は当面の目標をアナトリア人の捜索と忌子についてを調べることにした。

このような忌子に対する保護という行為はあの王の性に合っていない。

僕はもう見えなくなった親友の背中を思い出し、呟く。

「また、会ったらどうなるのかな」

失踪と迷走

僕はアルミナ村の酒場などで情報を集めた。

本当に酔っ払いたちの相手は大変だったな、と思い出しながら、メモしてきた情報に目を通す。

・アナトリア人→ノルデン村
・忌子→王都に資料が?
・忌子→ノルデン村にいるかも
・願い事かなえたいな←どういう事?
・王性格悪くね?←同感

結構あるが余計なものも交じっている感は否めない。

確かに!と思ったことも書いたせいであろう。

まあ、急ぎの旅ではない。適当に旅するのはまずいがゆったりしていても誰も怒らないだろう?

とりあえず、ここを出たらノルデン村だな、と方針を定め地図に丸を付ける。

ふかふかとは言えないベッドに横になり、僕は目を閉じた。

久しぶりに会えた国家代行者になったタール。今はもうあいつのほうが身分は上と言っていいだろう。

僕は捨てられた王子なのだから。と考えているとやはり妬んでしまいそうなので毛布をかぶってさっさと寝る。



突然だが僕は結構生活のリズムは正しい方だ。これは数少ない自慢の一つなのだが、

「やばいやばい!もう汽車が行ってしまう」
と寝坊してしまった。

急いで駅へ向かうがもう発車しかけている。

仕方ない……
風エネルギーの操作で自分の飛距離を長くして、汽車の端にくっつく。

しかしスピードが速いため、剥がれそうになる。

というかもう片手だった。

「たーすーけーてー」
手がもげる、と思いながらも踏ん張り助けを要求する。

すると窓から紐が流れてくる。

藁にもすがる思いでそれをつかむと、
「放すなよー」
というのんきな声がする。

もちろんだよ、放したら死ぬよ。と心の中で返答をしている間に僕は汽車に引きずり込まれていた。

そこには紐を持った茶髪の少年がいた。

「お兄さん、大丈夫?さては寝坊でもしたのかもね」

憎まれ口を叩いてくるが助けられた身なので何も言えない。

「ああ、図星だよ。寝坊しました」
少し苛立ちを込めた声で言うと

「ふふふ、お兄さん面白いね。名前なんて言うの」

少年はにやにやしながら聞いてきた。

「僕はメタリクルだ。メクルでいいよ。さっきはありがとう」

まあ礼儀は大事だよな、と最低限のことはする。

「ふふ、どういたしまして。僕はエーデル・シュタイン。なんでフルネームじゃないかは突っ込まないでおくよ。まあ、シュタインでいいよ」

ニヤニヤが消え、何かを楽しんでいる顔をする。

そして何の前触れもなく

「僕はねー王都に行ってねー盗まれたものを取り返そうと思ってるんだー」

自分語り始めたぞ、と思ったがいい情報を持っているかもというのと、単なる興味でシュタインの話を聞いてやった。

シュタインは楽しそうにこう続けた。

「僕ってさ、まぁ少年だろ?見た目ね?本当に少年なんだけども、錬金術師なわけさ」

錬金術師、それは僕らエネジニアと逆の存在。

エネジニアは動かし破壊するもの、錬金術師は止め創造するものだ。

だからその話を聞いて驚いた。興味も持った。

「へえ、シュタインは錬金術師なんだ、僕はエネジニアだよ」

というとシュタインは驚きもなくこう言った。

「いやいや、そんなの知ってるよ。さっきやっていたじゃん」

へー、よく見ていたんだな……ん?待てよ
「おいおいおいおいおいおいおい!!ちょっとおかしいんじゃないの?見てたって言ったよね、ならさっさと助けろよーーー」

僕は顔を真っ赤にして叫んだ。

「ほらほらー、そんなに怒鳴ってると皆様の怒りの視線浴びちゃいますよー」

言われて周りを見ると、人の目人の目。

「それに、助けてあげたんですよ?感謝はされど憎まれる謂れはないですよ」

さらりと言ってのける。はい論破。とでも言い出しそうに得意げな顔だ。

いけないいけない。僕は大人だ、ちゃんとしなくては。

「それで、錬金に必要なもの、取られちゃったんです」
何事もなかったかのように話すので僕も

「へー、誰に?」
そういうとシュタインは難しそうな顔をして黙った。

僕は聞いちゃダメな感じのことをよく聞いてしまうなー、と意外とどうでもよさそうに考えた。

「ここだけの秘密ね」
と言った。

なぜ今日初めて会った人間にそんなことを教えるのかと、疑問に思った。

「国、国王に取られたの。国宝級のレアさだからかな」

本当にこいつは子供だからってそんなことを口外したら何が起こるか知っているはずだ。

「おい、僕が国に言ったらお前反逆罪で殺されてしまうんだぞ」

周りに聞こえないようにコソコソ言った。

「うーん、君からは国をどこか嫌っているような感じがしたし。僕は仮にも命の恩人だよ?そんな人を売り払うなんて有りえないでしょ?その証拠に君は小さい声で話している。周りを気にしながらね」

こいつ、言ってることが図星過ぎて少し引いてしまう。子供のくせして結構鋭いんだな。

「ねえ、僕話したから君も聞かせておくれよ。大丈夫。殺人したって言っても驚かないからさ」

さらりと言っている。この言葉には嘘はないだろう。目がそう言っていた。

しかし
「君が勝手に一人語りしていただけじゃないか。僕が話さなくてはいけないって訳分かんない」

子供っぽい言い草だと自分でも思った。

少年錬金術師は思いっきり顔に落胆の色を浮かばせ萎れている。子供のこういう表情には弱いものだ。

仕方がないから

「でも、話してたのを聞いてしまったんだ、それは僕にも責任がある。だから、嘘、偽りなく話すよ」

僕も今日はおかしい。唯一の親友にすら秘密にしていたことを話そうと思っているのだ。

もちろん僕が特別警戒心が薄いわけではない。

「僕は簡潔に言えば、この国に捨てられた王子なんだ。戦争の時に。だからその戦争はなぜ起こったのか知りたい。アナトリア人に事情が聴きたいんだ。あと関係ないかもなんだけど、僕の父、つまり国王は性格が良くないんだ。こう言ってしまうと子供っぽい表現なんだけど、人のことなんてどうでもいいって人なのさ。なのに忌子ってやつを守ろうとしてるんだよ。あいつの性に合わなすぎる。それにあいつの行動は何かしら自分の得になるようになっているんだだから忌子って者にもかなり興味がある。っと、簡潔じゃなかったね」

こんなに長ったらしく話したのはいつ振りだろうか。思い返すも心当たりは無い。

「へえ、驚きはしないけどもかなりハードなのか……まあ自分を捨てられた王子とか言っちゃうのは引くね」
なぜか分かったような顔で頷く。

何か余計なことがありましたね!!

「おい、後半は聞き捨てならない!」

一応文句を言っておく。そんな僕を無視して
「忌子のことをよく知っている知り合いいるからさ、王都寄る事有ったらここに来な」
と言い、紙を置いた。

そこには子供とは思えないような達筆な字で王都のどこかの住所が書かれていた。

「そんじゃ、またね!」

少年という表現が最も合う笑顔でいちいち振り向きながら汽車を降りて行った。

少年錬金術師が降りて静まり返った車内で1人ぼそりと呟いた。

「あいつ、またねって言ってたぞ……また会う機会があるのかな」

僕は一人になると呟く癖でもあるのだろうかと思いながらまどろんだ。



僕は走る。走り走り……走っていく。
王都に来たのは十年ぶりだからあんまり道覚えてないなあ。おっきい城は見えているのにな、行き方がさっぱりだ。

しかし、敵が国だろうと僕には関係無い。僕の持ち物を返してもらうだけだ。

考えながら走っていると、ようやく門が見えてきた。

門番は二人か……よし、突破だ。と剣を練成する。

手に冷たい温度を感じた瞬間に剣をとり、地面を蹴る。

兵士たちが気づいてこっちへ銃を向けてくる。

弾丸が僕に向かって飛んでくる。

あいにく僕はそれを避けられるほど速くはない。だから、地面を錬金して壁を作る。

そして相手の弾が切れると自分の作った壁を身軽に飛び越えて城に侵入する。

どうせなら城ごと壊したいがそんなことしたら僕の所有物が壊れてしまうだろう。

そんなことを考えていると鼻歌が聞こえてきた。

「出世街道~へーいたんって言うけれどー♪」

なんて言う歌だ、とドン引き。

よし、見なかったことにしよう。

それに見つからないようにするに越したことはないな。

無駄な戦いは避けた方が体力温存できるってもんだ。

「ふんふーん♪侵入者さん、今帰れば見逃してあげるよ」
鼻歌にまぎれて忠告の声がする。あいつは……

まずい、戦争時に村を一つ消したっていうあの、死神だ。

「あれれ?俺のこと知ってるのかな、顔が強張ってきている。でも、なるべく人は傷つけたくないんだよね。出て行ってくれたら何とか取り繕ってあげるよ」

へらへら言っているが実力は確かだし、全く隙がない。だからと言って出て行くわけには……

いつものニヤニヤ顔で僕は言う。

「へへ、君のことは聞いているよ。確かにとても強い。だけど僕だって引くに引けないんだ」

隙が無くても僕は負ける訳がない。この少年錬金術師様を舐められたら困る。

すると相手も楽しそうに言った。

「はぁ、忠告を無視するって言うのか。分かったよ。では俺も代行者として戦わせて頂くしかないね。殺すのは嫌だけど、戦うのはすきなもんでね」

僕が見せかけの武器として剣を構えると、相手はショートナイフを構えてニヤリと笑った。

「では楽しませてもらおうかな」



「お客さん。終点のノルデン村ですよ。起きてください」

車掌が僕を揺すっている。どうやら着いたようだ。

寝ていたからかもしれないがずいぶん早く着いたな。

「ありがとう」
そう告げて汽車を降りる。

北風が服の中に入り込んでくる。

うう、流石に北の村とだけあって少し寒いかな。

僕は王都育ちだからどうしても寒さには慣れていない。

「あの、そこのあんちゃん」

あんちゃんって何だろうと思う。

誰に呼びかけているのだろうか。と周りを見渡してみる。

あ、僕しかいないぞ。

「そう、そこのあんデス」

ちょっと片言だ。きっと外国人なのだろう。

英語も中華語もなんもつかえないよ。

しかし、反応しないのもどうかなと思い
「はい。なんでしょうか」

一応反応をする。すると少女は嬉しそうにほほ笑んだ。

「私は中華帝国から来たんでス。あ、遊びにではないですヨ。伝説の賢者っていうのを探しているんですが、心当たりないですカ?」

中華帝国から来たという少女は真剣に聞いてくる。

伝説の賢者、聞いたことないな……

「ごめんなさい。僕は聞いた事は無いよ。力になれなくてごめんね」

なぜか子供に対して話すような口調になっていた。

「うーん、そうですネ。でしたら忌子ってものは知っていますか?」

その言葉を聞き僕は目を見開いた。なぜこの国の者でないのにそのことを知っているんだ。

伝説の賢者ってやつは何か関係があるのか?

彼女は僕の反応を見て笑った。

「知ってると見えましタ。顔に気持ちが出て来すぎですネ」

うう、なんか見透かされているようで嫌だな……

「ああ、知っているよ。だから僕も聞きたい。伝説の賢者と忌子ってどんな関係があるんだ?」

何か手がかりが掴めると思って聞いてみた。

まあ、掴めなくても少年錬金術師の知り合いさんに尋ねればいいんだけども。

「うーん、わたしもあんまり知らないんですよネ」

彼女は苦笑している。

しかし思いだしたように言った。

「でも、一つだけ知ってまス。願いが叶うらしいですヨ」

願い……だと?唐突だな。

だが、それはどういうことだ。気になりすぎる。

「願いでス。なにがどうなれば叶うのかは分かりませんが、伝説の賢者と忌子と願い事が関係あるのは私の国の伝説になっていまスヨ」

中華帝国の伝説か、国単位で知られているのかよ。

今日はずいぶんと新事実が出てくる日だな。

しかし、この少女にいろいろ教えてもらったんだからこちらも何かしてあげなくてはだな。

「僕は君ほどそのことに詳しくないんだけど僕の知り合いの知り合いに詳しい人がいるらしいから、一緒に聞きにいかないか?」

これくらいのことしかできないかな。

僕は彼女の目を見て言った。

「え!いいんですカ!お言葉に甘えさせていただきまス。今から行くのですカ」

彼女は僕の手を握りながら言った。

「うーん、今すぐではないんだよね、僕はここでも調べ物がしたくってさ」

申し訳なさそうに言った。うまく誤魔化せているだろうか。

「分かりましタ。何かその調べ物で手伝えることは有りませんカ」

女の子に任せるのも気が引けるな……

僕は考えていた。

でも忌子の捜索なら彼女の求めているものと同じだからいいかも。

「じゃあ、忌子を探してほしいな。この村にいるっていう噂を聞いたからさ。わかったらここの酒場に来てくれ」

地図を書いて渡した。あまり丁寧に書いてはいないがそこにたどり着くのは容易だろう。

「はイ!分かりましタ。私はマオと言いまス。よろしくお願いしまス」

と協力の意向を見せてきた。このカラッとした笑顔は何とも言えない眩しさがある。

「僕はメタリクル、メクルって呼んでね。こちらこそよろしく」

手を伸ばして握手をした。



さあ、これで忌子のことを気にせず僕はアナトリア人の捜索に集中できる。

夜になってきたからだろうか、憲兵たちが増えてきたな。

早く見つけてしまいたいものだ、と僕は早足に歩いた。

「アナトリア人知りませんか?」
と聞いてまわった。しかしほとんどの人が知らないと突っぱねた。

しばらく続けていると

「あの、私アナトリア人です」
と言ってくる人がいた。

「本当ですか!僕は戦争の事実…」
と僕が急いで本題を切り出そうとすると憲兵たちがやってきて言った。

「そこの青年君!危ないからどいてくれたまえ」

しかし僕は動かなかった。

「あ、俺がやるよ。ほら、銃貸して」

聞き覚えのある声が夜の村に響く。まさかタール?

「おお、メクルかー、話しているところ申し訳ないけども命令なのでごめんね」

と言い終わらぬうちに彼は引き金を引いた。

倒れたアナトリア人を呆然と見つめることしか出来なかった。

「おっと、次の命令だ、じゃあ憲兵のみなさんとメクル、また今度ね」

タールは少し顔をしかめてからこう言って去って行った。

「やばいよ、あれが命令は絶対守るっていう国家代行者かよ……初めてみたわ」

と憲兵たちは口々に言ったが、僕は殆ど聞いていなかった。

マオと約束した酒場に向かいながら混乱する頭を整理する。

なぜタールはここにいたのか。アナトリア人を殺して回っているのか?

アナトリア人はみな反逆者ということか。それでは、事実を知るのがより難しくなってしまう。

「メクルさーん!そんなにトボトボとしてどうしたのですカ」

マオが走ってくる。
「うん、情報が得られなくてね。マオはどうだった?」

かなりショックを受けている僕を見て気遣いながら言った。

「それがここに忌子がいたのは確からしいのですが、10年前、に突然人の目に入ることはなくなったそうですヨ」

ここの忌子は保護済みといったところだろう。

「そっか、分かったよ。もうここには用は無い。明日にはここを出よう」

そう言って僕は酒場の上にある宿に入って行った。

「メクルさん大丈夫ですかネ」
マオはそのあとについて行った。


僕は部屋に入り、靴を脱がずにベッドへ飛び乗った。

タールのやつ、人を殺すのは嫌いなのでは無かったのか。

ほかの人にこの苦しみを……とか言っていたのに無感情に見えたのだが。

いや、殺した後顔をしかめていなかったか?気のせいだろうか。きっとそんな事は無い、あいつが根っこの部分が変わることを認めるはずはない。

そのようにして僕は白い天井を見ながら一晩中考えていた。



コンコンとドアをノックをする。マオは起きてこない。かといって中に入るのはいささかまずいかな。

「おーい、マオー起きろー」
とドア越しに呼びかける。

中でガサゴソ音がする。どうやら起きたらしい。

ドアがバタンと開き、僕の顔面に直撃する。

「メクルさん!ごめんなさイ!寝坊してしまいましタ。ってメクルさん大丈夫ですカ」

倒れている僕をみて心配そうにしている。

僕はゆらりと鼻血を垂らしながら立ち上がった。

「てめえ……痛いんだよ!ふざけんなよ」

痛みに全く慣れていない僕は思わず切れてしまった。

「え、ご、ごめんなさイ」

マオは怯えた顔をして謝った。

「あ、ごめん、あまりに痛かったもんで」

慌てて謝り返す。すると彼女は安心した顔をして
「ほんとにごめんなさイ」

ペコペコと頭を下げた。

その頭を見ていると何かに気づいた。

「大丈夫、なんだけど髪の毛はねてるよ」

ティッシュで鼻を拭いながら指摘してやった。

すると彼女は頭に手をやり
「な、直してきますから外で待っていてくださイ」
と恥ずかしそうに部屋に戻って行った。

鼻を押さえながら僕はマオを待った。

鼻血止まらないなと、手にたくさん持った赤いティッシュを見つめた。

「遅れましタ。ごめんなさイ。あれ、まだ止まってないんですカ」

僕の鼻を見て言う。おまえがやったんだろ、と怒りが再燃しかける。

「ふふ、私変化医療士なんでス。だからなおしますヨ」
と言い僕の鼻の前に手を掲げ何やら呟いた。

「大地に満ちたる命の躍動、汝の傷を癒せ」

なに遊んでいるんだろう。と思いながら鼻にティッシュを持って行った。

そのティッシュを見ると血がついていない。

驚いた。治癒できるのか。

「マオ、変化医療士って言ったな?それって資格いるよな」

念のため聞いてみた。変化医療士はドラクエで言う僧侶のようなものだ。

「いりますヨ。難しかったでス」

ああ、すごいな。

「すごいな。ちなみに僕はエネジニアをやっている」

一応自分の職も教える。

僕の周りには何故だか優秀な奴が多い。

最近は本当に驚いてばっかりだ。

「ふふ、面白いですネ。でもそろそろ汽車来ますヨ」

彼女が駅の方を指さす。

煙が見えるぞ、来てるよ。来てますよ!!

「は、走るぞ!」
と僕は風エネルギーの操作も使いスピードを上げた。


「何とか滑り込めましタ。よかっタ」

マオは額の汗を拭っている。

「なあ、なんで伝説の賢者と忌子について調べているんだ?」

僕は窓の外の景色を見ながら言った。

「うーん、まあいいカ。私は祖国で医師やっていたんです。何歳でも資格持ってればできますから。そこで私は人の死を見ました。それはとても理不尽でした。何も罪のない子供が死に、悪い事しかしない凶悪犯が生き延びるっていう。だから私は私の目の前で死ぬ人なんか作らない。って思い頑張りましたが蘇生技術がまだできていないので限界があります。ですから願い事で蘇生技術を手に入れたいのです」

本当に願い事が叶うかも分からないのにそれを追いかけることができるなんて素直に感心した。

「そっか、人のために願い事使うなんていいやつだな」

本音がぽろっと口からこぼれた。

「いや、なんかうれしいでス。初めて人に話したのデ」

今気づいたが、語りの中ではなまりが無くなっているような。

「ふふ、聞けて良かったよ。僕は疲れたからねる」
と言いさっさと寝てしまう。

「ちょ、私には話させて自分は話さないなんて最低でス!」

僕は目をつむりながら最低で結構。と思っていた。


「また、寝ちゃっているよ」

マオになんか言われていたときは僕は寝たふりをしていただけなんだけどな......

僕が本当に寝たと思ってすねちゃうとは思ったより子どもなんだな。

子どもか、僕も子どもに戻りたいな。王族ではなくて、普通の。

窓の外の景色は僕が子どもの頃見ていたものとは全く違い、穏やかだ。

この穏やかさも戦争あってのものなのだろうか。

僕らしくないな、こんな辛気くさいことを……

シュタインの知り合いってどんな人なのかな。と、強制的に考えることを変える。

僕が一人で悶々としていると、
「あれ、メクルさんいつの間に起きたんですカ」

マオはいつ起きたのだろうか、目を擦りながら言う。

どうやら、まだ眠いようだ。

「マオ、まだ着くまでには時間があるから寝ていていいよ」

眠そうな子どもを起こしておく趣味もないので寝るよう促す。

「でも、メクルさんの話も聞かないと、フェアじゃないですヨ!」

マオは寝る前以上に感情を表に出している。

だから、今は頬を膨らませて顔を赤く染めている。

おいぃ、かわいいな。だがしかしこの僕がそんな手で話すはず

「カクカクシカジカなんだ」

少年錬金術師に話したこととほぼ同じことを話した。

「マオ?おい!寝るなよ」
僕が話していたのに寝ているぞ。

「聞いてますが、あと一時間位で着きそうなのでよく寝とかなくてハ」

マオは申し訳なさそうの欠片も無いかおで言う。

「そっか。さっさとつかないかな」



タールは不機嫌そうに王宮の廊下を歩いていた。

「いくら王であってもこんな短期間に仕事詰め込みすぎなんだよねー」

大理石で出来ている床をブーツのかかとで打ち付け、大きな音を出して歩く。

「タールー!うるさいよ?また国家代理人の集まりだからってそんなに怒らないでよね」

マリナ・ミーレスという暗殺に特化した国家代理人だ。もっとも今はそんな素振りなど見せていないが。

「何してようと関係ないだろう?」
タールはかかとで大理石を削る勢いでグリグリやった。

「ああ、遅れてごめんね!」
と、声が聞こえてきた。

こいつはユウェンス•カルディアという名の国家代理人だ。

「おお!カルディアー!タール君が心の病気らしいから治してやってよ」

カルディアの肩をミーレスがバシバシ叩く。

「ちょ、そんなのじゃないから。ミーレスは余計なこと言わないでよ」

タールの慌てた手はミーレスの口を塞ぐ。ことなく宙を舞った。

「くくっ、私に触れるなんて一年早いわ!」

ミーレスは浮いたままのタールの手をはたき落とす。

「喧嘩はよして。召集かかってるんでしょ?」

カルディアは叩かれた肩をさすりながら二人を諭した。

「分かったよー」

メクルといるときとは違う雰囲気を放ちながら手を揉む。

「はいはい、行きましょうか」

ミーレスは不機嫌そうに二人の手を引いた。

カツカツ

ガンガン

トコトコ

様々な足音を立てながら会議室へ向かう。

「それにしても何の為の召集なのかしら」

ミーレスはカツカツ音を立てながら歩く。

「俺さ、王から聞いたことが有るんだけどそれかもしれないねー」

タールはガンガン足音を立てる。

「濁すってことは言えないのか」

カルディアは軽く顔に落胆の色を浮かべながらトコトコ歩く。

「まあね、違うかもしれないしー」

「あっついた」

カルディアは前を指差す。

「いつ見ても異質よね。この部屋」

ミーレスはドアにてをかけながら言う。

「あー、それは分かる。椅子もテーブルも質素だもんね」

タールは部屋に誰もいないことを確認しながら言う。質素な椅子を引きながら。

「まだ誰も来てないね」

カルディアはテーブルを叩いて言う。

「いや、もう来てるよ」

ミーレスは床にいたネズミを指す。

「使いか」

とカルディアとタールは同時に言う。

「ふう、皆様お揃いかな?」

アウルム将軍が盛り上がった筋肉を惜しげもなく?晒して言った。

「使いだらけなのか!」

タールは感心したようにうなずく。

「本日は王直々の命を伝えるため皆を召集した!」

そんな一言一言に魂でもこもっているような声だ。

もともと人間はタールたちと将軍しか居なかったので静かではあったのだが、その時よりも張りつめた空気になった。

「その、命というのは」

ミーレスが恐る恐る聞く。

「......」

将軍は黙った。

「アナトリア人の抹殺……ですか?」

タールは聞く。

「な、なぜそれを!......そうだ。これまでのとは違い、抵抗しない者も全て、だそうだ」

皆の表情が凍り付いた。この場合は二人だけだが。

タールは皆より前にその命を受け、そのあと向かった村でアナトリア人を殺したのだ。

しかし、タールが殺したのはもともと殺す対象だった、情報の漏洩する危険のあるものだった。

「ようはアナトリア人なら誰でも殺せ。そのような命令だ」

顔を歪めながら将軍は去っていった。

「この命令は......」

ミーレスがポツリ呟く。

「ああ、不可侵条約を破っているよ」

カルディアはため息をつく。

「もう、戦争は嫌だ」

タールは頭を抱えた。

「それはないはず。戦力差的にね」

ミーレスは周りの使いが居なくなったのに気づく。

「でも、やらなくてはならないね」

カルディアが軽く笑う。

「やらないと反逆者。そりゃ仕方ないさ」

タールは両手を上げる。お手上げのポーズだ。

「分かりましたよ。王」

ミーレスも強制的に納得させたらしい。
愛用しているショートナイフを取りだし口付けした。



「起きてくださいヨ?メクルさん」

先程と立場が逆転して嬉しそうなマオが僕の体を揺する。

「着いたか。早かったな」

僕は寝癖を直しながら、結構久し振りの王都、いや王城を見上げた。

よろよろと汽車から降りる。

「相変わらずでかいな」

僕は昔を思い出しながら呆れる。

「王都はじめてなんですヨ!」

マオは珍しそうに周りを見てはゲラゲラ笑っていた。

「ほら、王都煎餅。これ美味しいよ」

僕はさっさと煎餅を買ってきて差し出す。

マオは香ばしい匂いを漂わせる茶色の円盤を齧りながら
「で、その知り合いさんってどこにいるんですカ?」

僕も匂いにつられてマオが持っている煎餅をさらう。
「ここの道を左に曲がって、真っ直ぐ行って、……ここで左で着くね。ん!相変わらずうまいな」

マオは僕を少し睨んだような気がしたが、気のせいであろう。

しばらく歩くと地味に豪華な家が見えてきた。

「ここって書いてあるよ?地図では」

僕は地図を逆さまにしたり、太陽に透かしたりして確認した。

「では、入りましょうヨ!」

マオは走ってベルをならしにいく。

ちりんと澄んだ音が響く。

「ん?あなたたちは何のようですか」

と僕より少し小さい青年が顔を出す。
その顔を見て青年と僕は同時に声をあげた。

「お兄様!」「クリプス!」

マオは戸惑いながら尋ねる。

「二人は知り合いなのですカ?」

「ああ、そうだ。こいつは弟のペイン・クリプスだ」

僕はにこやかに紹介する。

「クリプスって呼んでね」

「私はマオでス!」

クリプスとマオは握手している。

「お兄様達がなぜ来たかは分からないけど、まあ、中に入ってよ」
と言い、地味に豪華な家の中に案内しようとした。

「お邪魔しまス」
「お邪魔しますー」

僕とマオは挨拶をして家に入った。


「はーい。お茶だよ」

クリプスはよく磨かれている銀のトレーに紅茶をのせて持ってきた。

「それで、何でここに来たの?」
クリプスはカップを口に近づけながら尋ねる。

マオは紅茶をゴクゴク飲んでいる。

僕は申し訳程度に紅茶を飲み言った。

「忌子のことだ。シュタインにその事を知りたいならここへ行けって言われたんでね」

クリプスはシュタインの名を聞いた瞬間困った顔をした。

「シュタインね。いや、あいつ最近全然連絡無いんだよね……」

「あ、こっちの話。」

クリプスは手を降る。

「伝説の賢者ってのがいるのは知ってる?」

気を取り直してクリプスが説明を始める。

「ああ、知ってる」

僕は肯定する。

「伝説の賢者は忌子を7人集めるとそれの魂を使って願いを叶えてくれるんだ。この国には6つしか村はないはずなんだけどね。そこはよく分からないけど」

それを聞いて僕は大事そうな事を思い出す。

「は!そう言えば国が忌子を集めていたぞ!」

クリプスは顔を歪めた。

「それは不味い。お父様はそれを使って願いを叶えようとしている」

「その、願いとハ?」

マオが不安げな顔をして先を促す。

「分からない」

クリプスは頭を降る。

「くそ、駄目だな」

僕はテーブルをガンッと叩き、城へ行くため走り出す。

「メクルさん!?どこいくんですカ!」

マオは僕を引いて聞く。

「王城だ。直接願いを聞く。それが忌子達の命を犠牲にしてまで叶えなくてはいけないものなのかを」

僕は早口に言い、急ぐ。

「お兄様!」

クリプスは唇を噛む。

「追っても無駄そうですネ」

マオはやれやれといった様子だ。

「僕が話してしまったから……」

クリプスはとても後悔している様子だ。

「何か、有るんですカ?」

「今王城へ行ったらお兄様は確実に拘束される。お父様が何故か王子、王女を探しているんだ」

クリプスは嫌なことを思い出すような顔をした。

「でも、クリプスさんも王子だったんですよネ」


「僕も捕まったよ。でも何かの適性が無いってまた捨てられたよ」


「お前は何者だ!」

門番の1人が尋ねる。

僕は様々な気持ちを込めていう。

「第二王子、ペイン・メタリクルだ!」

白昼夢の終わり

っつ、ここはどこだ?僕は......
そうか、ここは城の中だろうか。
誰かに眠らされたんだっけ。


「第二王子、ペイン・メタリクルだ!」

僕は捨て身の発言をする。

「え!メクルって第二王子様だったの!」

もう1人の門番がその装備をといて近づく。

「まさか、タール!?」

気付いたらタールがすぐ近くにいて、眠り草を僕の顔に近づけて言った。

「ごめんね、メクル。でも王族がきたら問答無用で王の前に出せっていう命令なんだ」

思わずその甘い不思議な匂いを嗅いでしまった。
僕はそこから記憶が無かった。


僕の意識が覚醒してくる。

そして体を見回す。

僕は椅子にくくり付けられていた。
その目の前には王の姿。
僕の左右にはタールと女の国家代理人だと思われる人物がいた。

「第二王子様、失礼を詫びさせていただきます」

タールの声だ。

謝罪は要らない。その代わりにこの口を塞ぐ物を取り除いて欲しい。

「久し振りだな、我が息子よ」

突然上から声が降ってくる。

抑揚のない無感情な声だ。僕はこの声が嫌いだ。

僕が王を睨むべく顔を上げようとしたら、タールが押さえ付けてきた。

「メクルだからって、王の許可無しに御尊顔を拝せるなんて思っちゃ駄目だよ」

口調はそのままだが、心が感じられない。

仕方無しに僕はしたの赤い絨毯を見つめる。

「ふふふ、儂がしらない間に随分と嗅ぎ回ってくれたようだな。まあ、何か分かったところで何も出来やしないのだ」

お見通しというわけだろうか?

「儂も子どもは可愛いし、殺したくないのだ。だから余計なことはしようとか思うで無いぞ」

何かする......僕が知ったら邪魔をしにくるようなことを企んでいるのか。

「どうだ?適性は有るか?」

隣のタールでない方の国家代理人が驚きながら言った。

「適性最高です」

王は感心したような声で、

「ほう、ここの兄妹は凄い。どちらを使うかな?」

王は妹のことをいった。

妹は生きていたのか!

しかし使うとはどういうことだ?

「まあ、一応牢に繋いでおけ」

王はどうでも良さそうに言った。

タールと女の国家代理人は
「御意に!」
と言った。

僕は身をよじり逃げようとしたが、どうしたことか、エネルギー操作が使えない。

王の間から出てタールはいった。

「ごめんね、王子様」

その隣の女の国家代理人は笑った。

「私は、ミーレスって言うの。え?なぜ教えるかって?王族にはなるべく名前を知っておいてもらいたいのでね」

ミーレスとタールは椅子の紐をほどき、目隠しを施した。

そしてどこか、臭い的に地下の牢屋だろう。

ガシャンという音がして、そのあと何の気配もなくなった。

「ぶはっ!」

やっと呼吸がやり易くなった。

はあはあ言っていると隣から声が聞こえた。

「お前、もしかしてメクルか?」

なにやら聞き覚えのある声だ。

「はい、メクルですが?」

思い出せないな。

「そっか、おい、シュタインだぞ」

シュタイン!?
クリプスがしばらく見ていないと言っていたのはこの為か。

「そいえばクリプスはお前の弟だったね」

いかにもニヤニヤしていそうな声で続ける。

「この城に返してもらおうと思って侵入したら返り討ちに合ったよ。ははは」

自嘲の色と乾いた笑いが僕の胸に響く。

「僕もおんなじ感じだな」

「そこでなんだけど、君の望むことをしてあげるから、反逆者になってくれないか?つまり、脱獄の手伝いしてくれない?」

真剣そうな響きが伝わってくる。
なんでも望むことをしてあげる。

「僕の仲間になって欲しい」

僕はポツリと言った。

シュタインが笑いを堪えたように言う。

「ふふっ、もう仲間だと思っていたのは僕だけか。いいよ、その代わり脱獄だ」

その声に僕は少しだけ寂しさを感じ取った。

「で、どうするの?」

「夜まで、門番が1人になるまで普通にしていろ」

シュタインの真面目モードの声が聞こえる。

「分かった」

僕も真面目に答える。



「タールくんよー?第二王子様にあんな事してよかったの?」

ミーレスはタールの胸をえぐるようにからかった。

「からかわないでよ。メクルは僕にそんなに大事なことを秘密にしていたんだ」

また大理石をかかとで踏みしめる。
ガツンという大理石とかかとがたてる音すら鬱陶しかった。

「だから、メクルには反省してもらいたいね」

タールは彼らしからぬ行動をそのあとしまくった。

タールは自室へ戻り机を殴って壊した。
しかしそんなことをしても残るのは拳の痛みと胸のしこりだけだった。

そのタールの元にまた仕事が入る。



「夜だよ、メクル」

僕が昼からずっと待っていた声がする。

シュタイン曰く、錬金術で破壊出来そうなのは左右の壁くらいらしい。

隣の牢屋が少し光って僕とシュタインの間に立っていた壁が消える。

まるで大部屋のようだ。

「僕が遮音性の高い壁をその辺に作るから、心置き無くエネルギー操作で破壊してよ、その鉄柱を」

久し振りのシュタインの顔は少しやつれていたが、生き生きしていた。

僕は柱をひとつふたつたたき、音を確認する。

「何して......あ!固有振動数」

シュタインが怪訝な顔をして気づく。

「この柱には、音エネルギー操作!」

よく見るとシュタインは耳栓を着けている。僕はいちいち着けたり外したりしていた。

すごい音がした。

そのあとバリッという音と共に割れる。

「共振させて割っているのか?」

シュタインは笑って聞く。

「防音してるって聞いたから、実験したくなったのさ。それに、破壊する系のエネルギーだと、防音の壁も壊れてしまう」

僕は2本ほど割ると牢屋からでる。

防音の壁もあるので、
「僕の少年錬金術師の技を見よ!」
シュタインが石に変えた。

「脱獄っ!だけども長い廊下だな」

僕は出口に向かいながら言った。

「僕、なんか嫌な予感を感知しているのだが」

シュタインは少し震えていった。

しかしそんな心配は必要なく、十数人の兵士などは出てきたが、シュタインの圧倒的な力で、ばんばん潰した。そして、門の前までやって来た。

「はあはあ、疲れた」

僕は胸を押さえていった。

「まあ、何もないのに越したことはないか?」

シュタインも安堵している。

すると門番の1人がポツリと言った。

「誰がここを出て良いって言った」

「そこの錬金術師と王子様。いま戻ったら俺の錬金術で直して、見なかったことにしてあげる。最終通告だよ」

怒りを押さえているようだが、僕らにその怒りは筒抜けだった。

「タール。僕らはもう昔に戻れないのかな」

僕は分かりきっている事を聞く。

「そうだね。メクル。僕も決心した」

タールは僕の事をキッと見た。

「死神さん、またあったね。前はスピードで負けたけど、僕の本職の錬金術なら負けるわけないよ」

軽い口調に真面目な顔がよく似合うシュタインだ。

「そうだね。俺はメインで使う技、つまりは極めている技はない。でもね?何が起こっても絶対に人1人は殺せるっていう呪術を知っている。ふふっ」

怒りより楽しさが来ているらしい。

「大丈夫だよ。俺はその技は死にそうでも死んでも使わない。人を殺すのは嫌いだから。でも、切り札として持っていることを覚えていてねってだけ」

僕は分かる。タールはその切り札は使わない。絶対に。

「それは切り札無しでも僕らに勝てるという自信かな?」

シュタインが少し苛立って言う。

「そんなこと言ってないけどま、いいか。そんなの戦いで分かることさ」

タールは冷たい笑いを浮かべ、ショートナイフを掲げた。

僕はタールの自分以外に辛い思いをさせたくないという部分は変わってないことを信じて閃光弾を投げた。

それを先にガードしていたシュタインが目の眩んだ僕を引っ張り逃げた。


「国家代理人とあろうものが、こんな姑息な手に引っ掛かるなんて......」

タールは追おうともせず部屋へ帰ろうとする。

「わざと引っ掛かるなんて、タールは友達には容赦してあげるのかー」

ずっと隠れていたカルディアはタールの目の様子を確認して苦笑した。

「いいよ、君の珍しい所見れたし。誰にも言わないよ」

「恩に着るよ。でも、次会ったときは反逆者だ」

タールは青い顔をして言う。

「そうだね、脱走者捕獲は僕らの任務ではないけど、反逆者の抹殺は僕らの任務だ」

カルディアは肩を叩く。

「見逃すのはダメだけど、彼らが行きそうな所の捜索を遅らすことは可能だろ」

タールはああ!という顔である。

「君は悪ぶるのは似合わないと思うよ」
というありがたいアドバイスをくれた。

「悪ぶってないさ。戦いが好きなのは本当だけどなー」
と呟き、自室へ帰った。



僕らは何とか逃げ切った。

「これからは王子ではなく、反逆者かぁ」

僕は未来など考えずに言った。

「そうだ。でも、なぜ君は王城へ行ったんだ?」

シュタインは髪の毛を弄りながら言った。

「まあ、忌子のことを考えたのだろうね。タール......だっけ?その人も同じようなことをしそうだ」

エネルギーのへんか

エネルギーのへんか

国と対峙する、唯一の親友と対峙する。 そんなまだまだ青い元王子様と忌子たちと少年錬金術師が繰り広げる シリアス…ではないけどダークなファンタジー ショートショートならぬダークダーク目指す!!!

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 冒険
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-08-10

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted
  1. ぷろろーぐ
  2. はじまりの子
  3. 失踪と迷走
  4. 白昼夢の終わり