罪悪人 鏡

2xxx年人権擁護の声に負け日本は死刑制度の廃止を決定した。それから数年、凶悪犯罪は増加、遺族の無念が司法に届くことは無くなった。
家族を殺され天涯孤独になった男は誓う。「法で裁けないなら俺が裁いてやる。」
あなたはどう思う?この男は悪か?正義か?それともどちらでもないのか。答えはこの物語の終わりに私なりの答えをだしておいた。
。それではまた物語の最後に……

「罪悪人、鏡」

「頼む!見逃してくれ。ほら!金ならある。だから命だけは…」 「村井信二。」 「え……」 「とある一家に強盗に入り。家にいた幼い子供二人とその母、祖母を殺した。出所以降は
ベンチャー企業で成功。地位、名誉、金を手に入れ今では妻と二人の子供と幸せに暮らしている。それが許せない。自分は妻、母、子供を殺された。それなのに何故村井は人並み
以上の幸せを手に入れている?許せないあいつを殺してくれあいつを裁いてくれ…、以上依頼内容。依頼主はとある一家の父。これより実行する。」
「ふ…ふざけるな!!俺を裁くだと?刑罰ならとっくに受けている。出所後俺がどれだけ苦労して今の地位を手に入れたかわかるか?ああそうだ死刑制度が有効なら俺は死刑でも
おかしく無い。そんな俺が出所した所で世間は受け入れてくれるはずもない。死に物狂いで働き、数えきれないほど頭を下げここまできた。前科者の俺でも愛していると妻は言ってくれた
やっと手にいれた幸せと未来をなぜ奪われなければならない?」 「同じことを゛とある一家の父゛も思っただろうな」 「え……?」 「あんたは自分の都合で人の幸せと未来を奪った。それと同じことが
自分にもおこる。今の俺はかつてのあんたなんだぜ?許せないだろう?理不尽だろう?さらに俺が人並み以上に幸せなら尚更だ。」
「ああ…!許せないな!とある一家の父?ふざけるな!!そいつは自分の手も汚さず俺を殺そうとしてる。俺以上の悪だ!!そして正義の味方気取ってるお前もな!!」
ドスン!!
「え……?ひいいいいいいい!?こ…これ?!」 そこには人間の首が転がっていた。 「俺が依頼を受ける条件は依頼主の命。それも前払いだそれほど依頼主はあんたに死んで欲しいって
ことだ。だからあんたがこの場を逃れても俺はあんたを殺すたとえ何年かかってもな。それと俺は正義の味方を気取っているわけじゃない。俺は悪だあんたとは比べ物にならないほどのな。
仮に俺が捕まっても死刑にはならない。あんたと同じで人並み以上の幸せを手にいられるかもな?」懐から拳銃を取り出し村井の頭に狙いをつける。壁を背にした村井はどこにも逃げ場はない。
「待て待ってくれ!……嫌だ嫌だ!!妻が、子供がいるんだ。だから助けっ!」バン!「あっ…あっ…この…悪魔が」銃声とほぼ同時に崩れ落ちる村井。「悪魔か…そう見えたんならかつてのあんたも
間違いなく悪魔だ。なぜなら俺は鏡なんだから、悪魔にしか見えないな……。」

「先生!鏡先生!!起きてください朝ですよ!」「…うーん…おはよう。明智君」俺は鏡真。一応小説家だ。趣味をそのまま仕事にしたようなもんだからもっと楽しいもんだと思ってたら以外にこれが大変で
締め切りに追われる日々で全然自由なんてありゃしない。「この世から締め切りが無くなれば良いのに…」「何を言ってるんですか。鏡先生!締め切り明日ですよ。」
「…ついでに担当も。」「えっ?なんです?」「なんでも無いっす。」明智美羽。3年位前から俺の担当してる。出版社の中では出来る女と評判らしい。
「先生、原稿の方は進んでますか?」全く進んでない。「もちろん。明日にはあげるよ。」「全く進んでない?何をやってるんですかもう…」あれ?…「エスパー?」
「誰がエスパーですか。締め切りが無くなれば良いのになんて呟く人が順調なわけないでしょう?」ごもっとも…。「まあなんだかんだで原稿を毎回上げてくれますけど。
いいですか先生締め切りは明日ですからね。お願いしますよ。」「あいよ」「それでは失礼します。」全く゛姉妹゛そろって愛想がないな


「丸井 宗助。十数名の女性を強姦、殺害。出所後は飲食店を経営。しかし裏では買春、売春を斡旋するグループのリーダー。このままでは被害者が浮かばれない安穏と
生きている。丸井が許せない。あいつを殺してくれ、裁いてくれ。以上依頼内容。依頼主は被害者遺族A氏。これより行動を開始する。」
 凛とした声が響く長い黒髪にその美しい容姿は幻想的と言って良い。しかしその瞳はどこまでも冷たく、人を人とも思わない悪のそれだ。
「鏡。出番よ。」声の主が俺に向き直る。「ああ。わかってる。」明智涼香。俺の相棒であり俺にこの仕事を持ちかけた張本人だ。そして俺の担当の明智美羽のじつの姉でもある。
「なあ涼香…」「何よ。鏡?」「いつまでこんなことを続ける?」「前にも言ったはずよ。私たち二人が死ぬまで終わりなんてないわ。」俺たちがこの仕事をやる際に誓った信念の
ようなものがある。遺族の無念を晴らすなどと正義の味方は気取らない。理由はどうあれ、ターゲットと依頼主、両方殺すのだからあくまで殺し屋として生きる。自分の都合で
人を殺める悪魔として生きる。悪魔を討つのは悪魔。だから俺たちも悪魔に討たれる覚悟を決める。巨大な悪魔も討てるように圧倒的な暴力を身につける。そして……
お互いの命に関わらない。
「あなたが辞めたいと言うのなら好きにすれば良いわ。私一人でもやる。私は何の覚悟もなく暴力を振るって人を傷つけ、殺め、法に許され何事もなかったように
生きている人間が死ぬほど嫌いなの。だから殺すの。この命が尽きるまでこの仕事を続けるわ。」なんの迷いもない。純粋な悪意と殺意。一体どれほど人を殺めればこんな
目になるんだろう。自分と同じ目をしている人間がこれほど身近にいる。単純に恐怖を覚える。どれ位前のことだったか…


「おとーさん、おかーさん。起きて起きて。ねえ?ねえ?」当時の俺は人の死がどういうことなのかもまだ解らない程幼かった。
当時巷を騒がせていた連続殺人事件。事件発生から数年犯人は捕まらず警察も手を焼いていた頃に死刑制度の廃止が決定した。
その日を境に捕まっていない凶悪犯が次々と出頭。もちろん連続殺人犯もその一人だった。それからはひどいもんだった。
軽すぎる刑罰、泣き崩れる遺族をあざ笑う被疑者。そいつらを擁護するヒューマニズム。遺族の声はまるで届かず、代わりに人権擁護を得意げに語る奴らが現れた。
何だこれは…何だこれは!!何故大事な人を奪われた人々には救いがなく何故奪った奴らには救いの手が届く?新たな道が用意される?
汗水流して得た賃金は奴らを更正する糧として搾取される。これからも…永遠にだ。何故…何故…何故!!どれだけ無念を叫んでも司法ではもう奴らを裁くのは無理だ。
ならば「法で裁けないのなら俺が裁いてやる。許すものか絶対に!!」

「たっ頼む勘弁してくれ!!罪ならもう十分に償っただろう?なっなんで俺が殺されなきゃならない!?」見苦しい…やっと見つけた親の仇。確実に殺せるようにこの数年準備に準備を
重ねてきた。だがこんなにもあっけなく事が運ぶとは思わなかった。曲がりなりにも人を数十人殺めてきた男だ。どれほど危険かと思えば何てことはない。無抵抗な人間をあざ笑うかの
ように殺してきただけだまるでゲームを楽しむかのように。銃を向ける。両手両足はすでに折っている万が一にも仕留めそこなうことはない。「終わりだ。」
「やめろ…誰か!誰か助けて人殺し人殺しだ!!誰か!」「死ね」銃声が響く弾丸が肉体を貫き鮮血と同時に俺は銃を地面に落した。
「ぐっ!誰だ!!邪魔をするな!!!」銃声のした方に叫ぶそこから現れたのは長い黒髪に凛とした佇まいの美しい女だった。
「急所は外したわ。おとなしくしなさい。」「ぐっう」撃ち抜かれた肩に激痛がはしるマズイこの女刑事か?組み伏せることも逃げることも出来そうにない。女が近付いてくる。
「ひっひっひゃははははははは!!ざまあみろこの人殺しが!!正義は勝つんだよ!!女刑事さん早くあの殺人鬼を捕まえ…えっ?」その女は銃を構えた俺ではなく
この男に向けて。「なっ何の冗談だ?刑事さん早くあいつをつかまえ…」銃声が三発。両胸、眉間を正確に撃ち抜いた。男は悲鳴を上げる暇もなくその場で絶命した。
「私は刑事なんかじゃないわ。ただ親の仇であるあんたを殺しに来ただけ。」「あんた一体?」「ごめんなさいね。こいつだけは私の手で殺したかったの。」
「それは俺も同じだ…ぐうっ!」「そうよね…あんたもあいつを殺したくてしかたなかったわよね。お詫びにというのも変だけど私と組まない?」

罪悪人 鏡

罪悪人 鏡

  • 小説
  • 掌編
  • サスペンス
  • ミステリー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-01-03

Copyrighted
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